ベル君が痛みを快感に感じてしまうのは間違っているだろうか 作:horusutain
後ろは行き止まり。目の前には弱者の僕では叶わないであろう
常人なら恐怖に耐えれず失禁し、泣き喚くだろうか。
目の前のミノタウロスは人間に息を荒げ僕を追い詰めたと知って慈悲でも掛けたつもりだろうか、動きが緩かになり嘲笑うかのように一歩一歩ゆっくり進んできた。
だが何処か目の前の人間は何時も泣き喚き懺悔する冒険者とはどこか違う、違和感をミノタウロスは感じていた。
一歩進むと少年は顔を上げた。
「ふふふ..僕、今、どんな表情してます?、もっともっと僕を追い詰めて、痛み付けて恐怖に歪ませて下さいよ、先輩?.」
頰を赤らめ嗤いながらそう告げる人間にミノタウロスは一瞬だけこの人間に言い様のない恐怖を感じる。
だがそれでも自分が優勢である事は変わらず、人間に惑わされる前に終わらせてやろうとその巨きな拳を咆哮しながら人間に向けて振り下ろす。
「ヴヴォォォォォォォオ!!!!」
「いいですね!それ!食らったら痛そう..あははははっ!」
この人間は恐怖で頭が可笑しくなっているだけ、そう自分で結論付かせ迷いなく確実に当たるように振り下ろした、筈だった。
「ヴォ?」
間抜けな声が出た。自分の左腕が切断された事に気付くのは死んでからだろうか。
刹那、ミノタウロスの胴体に一閃。痛みに悶える時間も与えず頭部が目の前にボトッと落ちた。
ミノタウロスの胴体からスプリンクラーの様に血が噴き出す。
血は僕に掛かり全身血塗れになってしまっていた。
牛の怪物に代わって現れたのは、女神様と見紛う様な..否、僕を邪魔した忌々しい女が其処にはいた。
彼女が誰かは、冒険者をやっていれば誰でも分かるエンプレム入りの銀の胸当てで確信した。
「大丈夫ですか?」
大丈夫な訳ないだろ。僕の玩具をこんな無残な姿にしちゃってさ。謝って欲しいくらいだね。
「はぁ..剣姫ですよね?ロキファミリアの。でももう大丈夫なんで帰ってもらえます?」
「..?」
そう伝えると彼女は小首を傾げ見つめてきた。
まぁ、そっか。命を救った人間にそんな対応されたら不思議にも思うよな。
(あ..でもよく見たらちょっと可愛いかも..って違う違う、早く話を切り上げないと。)
「えぇと..じゃあ、御免なさい。実はあのミノタウロスは私達が見逃したものだから、謝っておくね。」
「あぁ、そうですか。獲物の横取りは禁止ですもんね。それじゃあ僕はこれで..さようならっ!」
それだけ伝えると僕は彼女に背を向け走り出す。
一応助けてもらったんだから礼くらい言えよとか思われるかもしれないが、僕はこの姿を彼女の仲間に見られて酒の肴にされたい訳じゃない。
「..いっちゃった..」
まだダンジョンに潜り続けているつもりだったのだが一先ず今日はおさらばする事にした。
(それにしても、興が冷めた気分だなぁ)
無表情で街に戻り、途中一般人や冒険者に多分(ほぼ100%)変な目で見られていた気がした。歩いている際、親が子供の目を手で覆って隠している。それはそうだ、自分の姿は子供に見せるには、冒涜的というか、刺激が強過ぎるからだろう。
まぁ、流石にあれなので、走ってギルドに向かうことにした。
ギルドの中に入ると先ず真っ先に向かうのは僕の担当..エイナ・チュールさんの元。
昼間の為冒険者はダンジョンに潜り入り浸っていたせいか職員達は眠そうな表情で欠伸をしながら書類を片付けている。
相変わらず此処は昼は暇なんだろうな。
というか、珈琲飲んで駄弁ってる人もいるし、その代わり夜は忙しいんだろうな。その他にも緊急事態が起きた時とか。
「エイナさん?」
声を掛けると彼女は声で僕だと分かったのだろうか。
安堵した様な表情を此方に向け僕の安否を確認して頰を緩ませている。眼鏡を掛け直し声のする方向に振り向くと、
「ん?」
彼女は僕を見ると表情を恐怖に歪ませ
「うわああああああああああ!?」
「エイナさん!?」
「いいからとっととシャワー浴びてきてよ!」
♦︎♦︎
「ベル君..キミねぇ、返り血浴びたならシャワーくらい浴びて来なさいよ。」
「すいません..」
今更ながら反省している。誰だって目の前に血だらけの男が現れたら悲鳴も上げるだろう。
今はギルド本部のロビーに設けられた一室で、お互い椅子につきテーブルを挟む形で向かい合っている。
彼女は溜息をつき、
「あんな生臭い格好のまま、ダンジョンから街を歩いて来るなんて私ちょっとキミの神経疑っちゃうなぁ。」
「..あう、嬉しいです。」
「何喜んでるのよ。、はぁ、で何階層まで行ったの?」
あ、これ説教だ。
いくら罵られるのが好きな僕でも説教だけは好きじゃない。
上手くいって誤魔化せないだろうか。
「え、えぇとですねぇ、五階s「五階層ぅ!?」..話はまだあるんですって、ちょっと落ち着いて下さい。」
僕は全てを語った。ミノタウロスに遭遇した事。剣姫に助けられた事も全て包み隠さず伝えた。
予想外の出来事だから許してもらえるかと思い表情を覗き込むと、語っていく内に段々と表情を険しくしていく彼女。
「もう!キミはどうして私の言いつけを守らないの!不用意に下層にいっちゃあ駄目!冒険者は冒険しちゃいけないって口酸っぱくいつも言ってるでしょう!?」
「..ご、ごめんなさいぃ!」
そんなこんなで説教が数分続いた。
窶れ切った僕を見て彼女はやっと勘弁してくれたのだろうか、話が終わった。
と思ったが全く帰してくれる気配はなく話し始めた。
「はぁ..それで、キミはさっきこう言ったよね?剣姫に助けられたって、助けてもらったんでしょ?好きになっちゃったりしなかったの?」
そんな訳でないだろう。剣姫は自分の邪魔をした、この人は何を言っているのだろう。
「..はぁ。そんな訳ないでしょ?僕の玩具を奪ったんだ、彼女は許せない、までは行かなくても好きではないですよ、それに服も、ほら。」
「あれを玩具と言えるキミは凄いと思う..じゃない!、次からは間違っても無理しない事!、"その力"を鵜呑みにし過ぎじゃないかな?キミは。」
彼女は心底理解できないような視線を向けた後、僕が無理をしたことに再び頰を膨らませる。
「でも生きてて良かった..本当に気をつけてね?」
彼女は僕の鼻をちょんと指で押さえると微笑んでくれた。
彼女は本当に僕の事を心配してくれているのだろう。
そういう意味では、僕は彼女の事を信用しているし、姉だと思って接している、彼女が僕の事を弟だと思ってくれているのかは分からないが、そう思われているのであれば嬉しいとは思う。
「..さて、私も仕事があるから。今日の所はこれでおしまい、換金所は一人で行けるよね?」
説教されたはいえ、彼女は僕が死なない様に時間を割いてもらったのだ、それに関して「説教なんかいらない」なんていう文句は吐かない
しっかり申し訳ないと思っている。
「あ、はい、大丈夫です。じゃあ僕も今日の所は帰ります。それじゃあさようなら。」
綺麗にお辞儀し扉を開ける。ファミリアにいる神様の元へと帰る為、寄り道は無しで今度は清潔な服のまま街を歩き出した。
原作との相違点
・ベル君がアイズさんに恋をしない。
・エイナさんにアイズさんの情報を教えてもらわない。