絶剣の軌跡   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


閃I編
プライバシーゼロ


―――七耀歴1204年4月5日

 

ゼムリア大陸の西部に存在する軍事国家、エレポニア帝国。その首都である帝都ヘイムダルに存在する歓楽街のとある喫茶店にて。

 

「あー、今日もコーヒーが旨いなー……」

 

白い髪を短く切り揃え、黒のスラックスに灰のワイシャツ、青のネクタイを若干崩して身に着けている二十代前半の碧眼の青年はコーヒーを飲みながら、一週間前に渡された戦術オーブメントを手で弄びながら眺めていた。近くには一・七アージュ程ある黒のトランクケースが置かれてある。

 

エプスタイン財団とラインフォルト社が共同開発した第五世代戦術オーブメント、通称《ARCUS(アークス)》。今までの戦術オーブメント同様、結晶回路(クォーツ)をセットすることで魔法(アーツ)が使えるようになるだけでなく、《マスタークォーツ》と呼ばれる、通常のクォーツより性能が高く、セットした状態で戦闘を繰り返すと機能が成長するという特別なクォーツが一つだけセットすることができる。他にも導力通信機能と、“戦術リンク”と呼ばれる、対象との高度な連携が容易に可能となる機能が搭載されている最新の戦術オーブメントである。

 

フリーの記者である青年がこの新型オーブメントを持っている理由は、二年程前にリベール王国で友好を持った()()()()()()()()()()()()がプレゼントしたものだからである。すぐ傍にいた護衛の軍人は頭痛を堪えるように仏頂面となっていたが。

 

ピリリ、ピリリリリ!ピリリ、ピリリリリ!

 

「……ん?誰からだ?」

 

そんな先日の出来事を思い出していると、ARCUSから着信音が鳴ったので青年は一体誰からの電話なのかと思いつつ、まだ少々ぎこちない操作でARCUSを操作し、電話相手に話しかける。

 

「はい、もしもし」

『―――どうもお久しぶりです。ルーク』

「おい待て。マジで待て。何でお前がこれの番号を知っているんだ?」

 

少ししてARCUSから聞こえてきた旧知の声に、青年―――ルーク・バーテルはまだ貰ってから一週間しか経ってないこれの番号を知っていることにわりと本気で問い質した。

 

『レクターさんが番号と日時だけ教えました。それで試しにかけてみたら貴方だっただけです』

「あんのかかしぃ……」

 

一度だけ会った赤い髪の青年のヘラヘラした表情を脳裏に思い浮かべ、ルークは怨嗟の籠った声を洩らす。まさか、今もマークされているんじゃないかと、思わず周囲をキョロキョロと見回す。しかし、すぐに無駄だと諦めたように溜め息を吐き、改めて電話ごしに学生時代の友人に話しかけた。

 

「まぁ、確かに久しぶりだが、大丈夫なのかよ?お前、仕事中じゃないのか?」

『問題ありません。今は休憩中ですし、これもプライベートチャンネルでの通話なので』

「本当に抜かりないな。というか、もう使いこなしているのかよ……まぁ、久々の友人との会話は嬉しいけどな」

 

向こうもARCUSを持っていることに関しての疑問は一切ない。()()の所属している部隊は最精鋭と名高い部隊だ。試験的に導入されていても何らおかしくはない。

 

『私にとっては腐れ縁ですけどね』

「腐れ縁って……」

『腐れ縁で十分ですよ。学生時代、何度貴方に辱しめを受けたことか……』

「全部事故と不可抗力だろ!?」

 

ルークは思わず彼女の言葉に反論の声を上げるも。

 

『だとしてもです』

 

有無を言わさぬ物言いでばっさりと切られた。正直、これに関してはルークは強く出られない。何故なら―――

 

『―――え?』

『……えーと…………』

 

ある時は生徒会の仕事を手伝っていた最中、階段で学友に背中を叩かれてバランスを崩し、近くにいた彼女を巻き込んでしまい、結果、彼女の下敷きとなってパフパフ。

 

『次は大物が釣れるといいなっと!』

『きゃ!?』

『あれ?何に引っか―――』

『『…………』』

 

ある時は自由行動日に釣りをしていた際、釣り針が彼女のスカートに引っ掛かってご開帳。

 

『……ん?何か妙に柔らか―――』

『…………』(フルフル)

『―――』

 

ある時は教室で昼寝していた結果、寝惚けて彼女の左側の果実をがっしりと鷲掴み。しかも思考が追いつかずに思わず揉むというおまけ付きで。

 

上げれば本当にキリがないくらい、ルークは彼女に対して本当にやらかしてしまっている。それも一度や二度ではない。覚えている限り、二十は軽く越えていた筈だ。その都度、頬に紅葉が咲いたり、非殺傷モードの導力銃で身体や頭を何度も撃たれたり、上位アーツをこれでもかと言うくらい叩き込まれたりと、やらかした度に制裁され、記憶を何度も()()()に抹消されていたが、普通なら嫌われても何らおかしくはない。それでもこうして普通に会話できる辺り、まさに向こうの言う通り“腐れ縁”が一番適切なんだろうが……

 

ちなみに、この光景によって周りから「スケベ大魔王」「エロ剣士」「ラッキースケベに愛された男」「一番の被害者」「氷の女王」「ペットと飼い主」「夫婦」等、様々な呼び名が飛び交っていたのは在籍していた学院での語り草となっている。

 

……現在、その語り草ゆえにとある男子生徒が“再来”ではないかと噂されてしまっている。もちろん、ラッキースケベを炸裂させた男子生徒の自業自得ではあるが。

 

「せめて友人扱いしてくれよ……」

『お断りします。レポートと勉強のヘルプを毎回求め、胸やお尻に顔を沈めたり、揉んだりする人物は腐れ縁で十分です』

「前半はともかく、後半は本当にすいませんでした!!」

 

ルークは思わず頭を下げ、電話ごしに彼女に謝る。こういった経緯もあって、基本的にはさん付けする彼女は彼に対しては呼び捨てにし、遠慮がないのだ。

 

当初は目の敵に近い状態ではあったが、紆余曲折を経て、今の関係に落ち着いたのである。

 

『では、そろそろ失礼しますね。ルーク』

「おう。……そうだ。お前が非番の時、一緒に飯とかどうだ?積る話もあるだろうしな」

『……どうせなら、あなたのお手製のサンドイッチとプディングのセットでお願いします』

「普通は店の指定だと思うんだが……」

 

手料理を要求されたルークは何とも微妙な表情で言葉を返すも、彼女は平然と告げる。

 

『別にいいではないですか。あなたの作る料理は不本意ながら美味しいんですから』

「……はぁ、わかったよ。―――じゃあな、()()()

 

ルークは仕方ないといった感じで肩を竦め、通話を終了した。

 

「……あ。アイツの非番の日を聞くのを忘れてた」

 

こちらからかけ直そうにも番号を知らないので、次会話する時は小言から入るなと、ルークは肩を落とすのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……はぁ、まったく」

 

通信を終えた灰色の軍服に身を包んだ水色の髪の女性将校―――クレア・リーヴェルト憲兵大尉は呆れたように深い溜め息を吐く。もちろん、食事に誘っておきながら具体的な段取りをせずに通話を終えたルークに対する呆れからである。

 

相変わらず、肝心なところでは鋭く抜け目がないわりに普段はどこか抜けているルークに呆れていると、ARCUSから着信音が響き渡り、クレアはすぐに応答した。

 

『よぉ』

「……レクターさんですか。何か問題が起きたのでしょうか?」

 

連絡してきた相手は情報局所属のレクター・アランドール特務大尉。自分と同じ、《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンの腹心のメンバー―――《鉄血の子供たち(アイアンブリード)》の一人である。

 

クレアとしては、妙な勘違いをしているであろうレクターに一言もの申したい気分ではあるのだが、私情は一旦放棄して連絡を入れた理由を問い質した。

 

『いや別に?すんげぇ面白いもんを聞かせてもらったから思わず連絡しちまっただけさ』

「―――え?」

 

だが、レクターの返答は全く予想だにしていなかったもので、当然、クレアは思わず疑問の声を上げる。その声が可笑しかったのか、レクターはクックッと笑いながら言葉を続けていく。

 

『いやー、お前があの《絶剣》からそんな目に合っていたとは驚きだったぜ。まさに甘酸っぱい青春だな!』

『うんうん!まさかクレアがそんな目に合っていたなんてねー。ボクも驚きだよ!』

 

向こうはスピーカーモードにしていたのか、まだ幼さが残る声色の少女の声も聞こえてくる。だが、今のクレアにはそれは些細なことであった。

 

「……レクターさん、ミリアムちゃん」

 

通信を傍受して会話を盗聴していた事実以上に、自身の学生時代の恥ずかしい出来事を知られたクレアはいやに迫力を感じる声色で要求を口にした。

 

「その会話はすぐに忘れてください。もし録音されているのでしたら即刻、消去してください」

『ははっ、そんなケチケチするなよ?』

『えー?こんな面白い話を忘れて消すだなんて、さすがにでき―――』

わ す れ て く だ さ い。録音もしっかりと、しょ う きょ してください。い い で す ね?

 

この時、クレアの表情は笑ってこそいたが、その笑顔は氷を連想させ、背筋が凍るほどの笑みであり、逆らう気力を失わせる迫力があった。

 

『お、おう……』

『わ、わかったよー……』

 

電話の向こう側にいるレクターと水色の髪の十代前半の少女―――ミリアム・オライオンはそんなクレアの姿を幻視し、若干冷や汗をかいて大人しく従った。

 

「もし、隠し持っていたら、記憶とともに()()()()抹消しますので、くれぐれもよ ろ し く お願いしますね?」

『……オーケー』

『はーい……』

 

クレアのらしくない、一部を強調した物騒な宣告に、レクターとミリアムは素直に頷いた。声だけでも、彼女は本気だと悟ったからだ。

 

氷の乙女(アイス・メイデン)》―――本来の由来とは別の意味で、レクターとミリアムは彼女の二つ名を思い出すのであった。

 

『あ、ちなみにデートの日は―――』

レ ク タ ァ さ ん?

『いえ、何でもないです。はい』

『あははー……』

 

 

 




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