絶剣の軌跡   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


導力ヘリ

―――七耀歴1204年9月25日

 

ルーレ市ラインフォルト社ビルのエレベーター内にて。

 

『件名:導力マシンのテスト

依頼者:ソフィーヤ・ハントエルガー

私が作った導力マシンのデータ収集の為のテストプレイヤーを依頼します。

 

ルーレ下層エリアにある《ハントエルガー工房》で待ってます!

―――ソフィーヤ』

 

今月の特別実習でルーレ市に訪れていたリィン達は、常任理事でありRF(ラインフォルト)社の会長でもあるイリーナから手渡された特別実習の依頼書に目を通していたのだが、その内の一枚に目を通したアリサが露骨に嫌そうな顔をした。

 

「これは絶対に無視しましょう」

「?どうしてなんだ?」

「絶対に関わりたくないからよ」

 

リィンの質問にアリサは強い口調できっぱりと言い切る。さっきまでは全部終わらせてやろうと意気込んでいたにも関わらずだ。

 

「?どうしてそんなに関わりたくないんだ?」

 

マキアスからも上がった当然の疑問に、アリサはどこか疲れたように息を吐いて呟いた。

 

「……ルーレの危険人物だからよ」

「「「「「危険人物?」」」」」

 

アリサの言葉に、リィン、マキアス、エリオット、フィー、先月から不足単位の取得の為にVII組に参加したクロウが揃って首を傾げる。アリサは力なく頷きながら言葉を続けていく。

 

「そうよ。真面目に技術者やっているのが哀しくなるくらいの危険人物。廃棄された機械を勝手に回収したり、基本は好きなことしかしないのよ。加えてその人の技術力はあのシュミット博士に迫るとまで言われてるから余計に質が悪いのよ」

「ええ!?」

「あのエプスタイン博士の弟子である生きた伝説に迫るほどだと……!?」

「そこだけ聞くと凄そう」

「一体どんな人なんだ……?」

 

アリサが告げた言葉にリィン達がその人物に対して疑問に感じていると、クロウがどこか引き攣ったような表情で口を開いた。

 

「……まさか、『技術棟の悪魔』か?」

「正解」

「そういやあ、ジョルジュのやつがソイツはルーレが地元だって言ってやがったな……」

 

クロウは何かを察したように分かりやすく肩を落とす。そこで漸くリィンも気付いた。

 

「……まさか、学院の語り草の人なのか?」

 

リィンの言葉にアリサとクロウは無言で頷く。それで残りのメンバーも漸く気付いたように微妙な顔となった。

 

「あの語り草の人なんだ……」

「聞けば、戦闘向けの導力車を一人で作り上げたり、学院の備品である機械を無断で分解したりと、色々と好き勝手していた人物だとか……」

「ん。学院の倉庫にはその人の作ったものが今も散乱しているみたい。無駄に高性能だとか」

 

散々な言われようである。当人がいても笑って受け流されるが。

 

「……受ける受けないは別にして話だけは聞いてもいいんじゃないか?一応、依頼として出てるんだし」

「ええー……」

「でも、リィンの言う通りだよね」

「そうだな。依頼を選り好みするのは良くないだろうからな」

「……確かに」

「真面目だねぇ。だが、一回会ってみたい気もするし、聞くだけならタダだからな」

「……どうなっても知らないわよ」

 

そんな訳で他の依頼を済ませてからリィン達(約一名は渋々ながら)は件の工房前に到着したのだが……

 

「……普通だな」

「……普通ですね」

「ん。普通」

「案外普通だね」

「どんなキテレツな外装なのかと期待したが……本当に普通だな」

 

周りより少しスペースが広いのと隣接されているガレージらしき建物を除けば、何処にでもある店の外装にリィン達はどこか拍子抜けしたような気分になる。

 

「……そうね。()()()()()()()()()()()

「……?」

 

半目で店を見つめるアリサの言葉に何か妙な引っ掛かりにリィンは首を傾げる。その理由はすぐにわかった。

 

「お?あっちにも扉があるのか。耳を澄ませたら作業音らしき音も聞こえてるし、あっちから行こうぜ?」

 

クロウは軽い感じでそう言って、店の入り口ではなく店のすぐ横の奥にあるガレージらしき建物の扉に向かって足を進めていく。そのまま店の横を通り過ぎようとした―――その瞬間。

 

シャコンッ!ガチャンッ!

 

店の壁の一部がスライドし、そこからゴツい見た目のスライド式の砲身が姿を現した。その凶悪な砲口をクロウに向けて。

 

「へ?」

 

突然の物騒極まりない、まるで列車砲を彷彿とさせる存在の登場にクロウは理解が追いつかずに目が点になっていると―――

 

スドゴォオオオオオンッ!!!

 

「―――どわぁああああああああああああ!?」

 

轟音と共に爆炎と白煙が上がり、クロウは情けなく吹き飛ばされる。そして、そのまま顔面から地面に打ち付けられた。

 

「「「「…………」」」」

 

シャコンッ

 

リィン達がその光景に言葉を失っていると、役目を終えたのか、物騒な砲身は壁の中に消えていった。

 

「アリサ、今のは……」

 

リィンが困惑しながらアリサに問い掛けると、アリサは疲れたように答えた。

 

「あの店の侵入者対策よ。センサー内に踏み込んだら問答無用で迎撃するタイプ。今の導力砲の他にもガトリングガンや機関銃、火炎放射器に高圧のウォーターカッター、レーザーライフルや刃物の投擲まであるわ」

「うわあ……」

「……見た目に反して要塞クラスの警備だった」

「過激過ぎるだろ……」

 

物騒極まりない侵入者対策にリィン達は何とも言えない表情となりつつも、倒れているクロウを復活させてから店の扉から中に入った。

 

「内装も普通だな」

「確かに普通……今のところは」

「カウンターに置かれている奇妙な端末以外はね」

「誰もいないのか?」

「取り敢えず大声で呼ぶか」

 

クロウが頭を掻きながらそう提案した瞬間、変化が現れた。

 

『イラッシャイマセ。ゴ用件ハ何デショウカ?』

 

カウンターに置かれていた分厚いトランクケースのような情報操作端末装置から機械的な音声が響き、同時にモニター部分から[(>∀<)]という記号が表示される。

 

「うわっ!?」

「しゃ、喋った!?」

『ドウカ落チツイテ下サイ。ソレデハオ話ガデキマセンヨ?』

 

機械に宥められるというある意味貴重な経験にリィン達は何とも言えない気分となりつつも、リィンが代表して来訪目的を告げた。

 

「俺達は士官学院の者です。依頼の詳しい内容を聞きにきたのですが……」

『ソウデシタカ。スグニマイスターヲオ呼ビシマス』

 

端末装置からの音声がそう告げて数秒後、カウンターの奥にある扉が開く。そこから少し汚れた白衣を羽織ったツナギ姿の深紅の髪の女性が現れた。

 

「いらっしゃ~い、トールズのVII組の皆。ここに来てくれたという事は依頼を受けてくれるのかな?」

「……正直、私は来たくなかったんですけどね。ソフィーヤさん」

 

深紅の髪の女性―――ソフィーヤの挨拶にアリサは嫌々感たっぷりで言葉を返した。どうやら知り合いのようである。

 

「それとあの導力砲。以前より威力が上がってませんか?」

「?勿論上げてるけど?もしかしてさっき防衛装置が起動したのは君達が原因かな?」

「「「「「………………」」」」」

 

さも当たり前のように告げたソフィーヤにリィン達は言葉を失う。そんな全く悪びれた様子のないソフィーヤにアリサが唯一反論する。

 

「あれは過剰防衛です。以前、間違って足を踏み入れた人まで痛い目に合ったんですから」

「そう?店の入口からじゃなく工房の入口から入ろうとする人は普通はいないよね?そんな人達は大抵何か黒い考えがあるのが相場だよ」

「だからって弾丸並みにナイフを弾幕の如く発射したり、幾条ものレーザーカッターを飛ばしたりするのはやり過ぎですよ!!それで領邦軍が怒ってどれだけ面倒になったことか……!」

 

アリサの話からして、領邦軍はこの店で痛い目に合ったようだ。

 

「あれだけで済んだのは幸いだったかもな……」

 

被害を受けたクロウは導力砲一発で済んだことに微妙な気分で安堵していた。そんな中で、リィンが話題を変える意味合いも兼ねてさっきの端末装置について聞くことにした。

 

「あの、ソフィーヤさん……さっきのは……」

「私が開発した人工知能『アステル』。最初は部屋半分を占拠する大きさだったけど、性能を落とさず、逆に向上させてこのトランクケースサイズにまで落としこんだ私の自慢の発明だよ」

「―――へ?」

 

さらりと言ってのけたソフィーヤに、一同は一瞬ポカンとなりつつもすぐに驚愕に包まれた。

 

「えええ!?」

「人工知能!?」

「つまり、機械が自分で考えるんですか!?」

「そうだよ」

「マジで作ってやがったのかよ……」

「会話以外に何が出来るの?」

「データ処理やシュミレーション、後は店番かな。最終的には何かしらの機械にインストールするつもりだし。……と、話が脱線しちゃったね。取り敢えず一緒に奥に来て」

 

そうしてリィン達はソフィーヤの後ろを付いて奥の工房に入ると、工房部屋の中央には見たことがない乗り物が鎮座していた。

 

「えっと、これがテストしてほしいマシンですか……?」

「うん。この一人乗りの空飛ぶ乗り物のデータを取るために協力してほしいんだ」

 

ソフィーヤ、再び爆弾投下。

 

来てから色々な意味で疲れていたリィン達は、乾いた笑みを浮かべながら件のマシンについて詳細を聞くことにした。

 

「……これで飛行できるんですか?」

「そ。前後左右にある四つのプロペラを駆使して空を翔る乗り物。今は一時間半は飛行できるんだけど速度が微妙なんだよね。最速が導力車の通常速度くらいだし」

「一時間半飛行できる一人乗りの乗り物……」

「サイズ的にも街中で動かせますね……」

「導力バイクが玩具のように感じるぜ……」

「導力バイク?ああ、ジジイの弟子が作っていたヤツね。先月、私が作ったサイドカーのデータを渡して、あの面白そうな機械を一つ掻っぱ……貰ったんだよね」

 

ソフィーヤがまたしても爆弾投下。まだ依頼を受けていないにも関わらず、リィン達の気力は大分削られていた。確かにアリサの言う通り、積極的に関わりたくない人物だ。

 

「……もうツッコミませんよ」

「……先月、ジョルジュのヤツがどこか元気がなかったのはそういう事だったのか……」

「……同じくトワ会長が涙目だったのはその後始末に奔走したからなんですね……」

「まぁ、これは私が何回か試乗してたんだけど、そろそろ第三者の意見が欲しかったんだよね。だから、ちょうどよかったから依頼を出させてもらったよ」

 

いい笑顔で告げるソフィーヤにリィン達は死んだ魚のような目になるも、リィンは部屋の机に飾られている写真に気がついて、思わず注視してしまった。

 

(あ……)

 

その写真には今目の前にいるソフィーヤだけでなく、クレアにルーク、茶髪の少年が笑って写っている。全員、士官学院の制服を来ていた。

 

「ん?この写真が気になるの?」

 

リィンのその視線に気づいたソフィーヤがその写真を手ににこやかに問い掛ける。それでアリサ達もその写真に気づき、同時に写っている人達にも気がついた。

 

「この写真に写っているのって……」

「クレア大尉とルークさん……?」

「そうだよ。実は君達のことは先週、私が作った導力バイクのデータ引き渡しの時にルークから少しだけ聞いていたんだよ。五月にレグラムに全員集まって楽しく談笑してたんだよ。()()()もあったけどね」

 

そのルークは現在、クレアから再び依頼を受けて調べものをしている最中ではあるが。

 

それはともかく、ソフィーヤの()()()の言葉の意味を察したアリサとフィーがジト目でリィンを睨む。八月の水泳の不可抗力と、今月やらかした金髪少女の胸の鷲掴みの罪は深いようである。ちなみに訓練中に教官の下着を見てしまった罪も。

 

「そっちも色々と大変みたいだね?取り敢えず、時間も有限だから早く始めようか」

 

その視線の意味をソフィーヤは察しつつも深く言及せず、防衛装置を切ってから件の乗り物―――導力ヘリを外へと出し―――

 

「正面のレバーで移動方向が決められるよ。左のアクセルレバーでプロペラの出力を上げて上昇したり、移動速度を上げられるよ。後、今回は安全も考慮して市外の街道を三十分飛行してきてね」

 

「……了解しました」

 

導力ヘリの操作方法を説明し、結局依頼を受けることにしたリィンがルーレ市外の街道を飛行するのであった。……断じて皆から一度離れたかったからではない。

 

ちなみに導力ヘリの感想は、リィンの次に試運転したマキアス共々「かなり新鮮で楽しかった」とのことだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――同日の夜。

 

「ルーレ駅、鉄道憲兵隊の―――」

 

バァンッ!!

 

「!?」

「やっぱりいたねー、クレア!!」

「ソ、ソフィさん!?今日は工房に篭りきりの筈では……!?」

「フッフーン!私の第六感がクレアがここに来ていると伝えたんだよ!!さぁ、今日は久々におもいっきり飲むよー!!マスター!!いつものワイン十本、果実酒五本、ウォッカ二本、バーボン三つ持ってきて!!」

「……かしこまりました」

「リ、リィンさん!フィーさん!急いで逃げて下さい!!ここにいたら無理矢理飲ませられてしまいます!!」

「心外だなー。未成年にお酒は飲ませないよー」

「限界を越えて飲ませようとした貴女が言っても説得力がありません!!」

「ク、クレア大尉があんなに慌てるなんて……」

「……本気で焦ってる」

 

ダイニングバー《F》に情報交換で来ていた女性は、蟒蛇によって覚束ない足取りで帰る羽目となり、帰ってから例の薬を服用する事になるのであった。

 

 

 




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