絶剣の軌跡   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


内戦

―――七耀歴1204年10月28日

 

夜に包まれた帝都ヘイムダル。そのとあるバーにて。

 

「…………」

 

カウンター席に座り、グラスに注がれている酒を堪能しながらルークはとある人物を待っていた。

 

現在、帝国全土はクロスベル自治州の独立とガレリア要塞が謎の攻撃によって巨大な球状にくり貫かれて“消滅”したことでかつてない緊張に晒されている。その為、店内にはルークしか客がいなかった。

 

「……お待たせしました」

 

後ろから声をかけられたことでルークは後ろへと振り返る。そこにはクレアが佇んでおり、それを確認したルークはグラスを片手に席を立ってテーブル席へと移動し、同じくテーブル席に付いたクレアもカクテルを頼み、少しばかり酒を楽しんでいく。

 

「それで、頼んだ調べものはどうなりましたか?」

「……一応、候補者の素性は全員調べ上げた。それ以上は流石に無理だったが」

 

クレアの切り出しにルークはそう告げると共に茶色の封筒に閉じた調査資料を手渡す。クレアは封を切ってその調査資料に目を通していく。そして、その内の一枚に目が止まった。

 

「…………」

「その資料に書いてある通り、()()()の書類上の出身地は偽装だった。巧妙に出来上がっていたから結構手間取っちまったが。……そいつの本当の出身地もな」

「……家族構成も含めて、()には明確な動機がありますね」

 

ルークの調査結果にクレアは感嘆の息を洩らす。こちらは偽装で撹乱されたとはいえ、ルークは個人でここまで調べ上げたのだ。情報局顔負けの調査力である。

 

もっとも、ルークはあの事件の首謀者達を()()()()()()()()調べ上げたのだから当然と言えば当然と言えるのだが。

 

「ああ。個人の見解としては、そいつが例の奴なら最大の目的は“仇討ち”だろうな」

「…………」

 

ルークの推測にクレアは哀しげな表情で俯く。方法は褒められたものではないとはいえ、その背景を考えれば、お門違いだと分かっていても同情を感じずにはいられないのだろう。

 

「ガレリア要塞もザクセン鉄鉱山も自動操縦と録音を使えば幾らでも誤魔化せるし、本当の狙いがマークから外れることなら十分に成功しているな。……これからどうするつもりだ?」

「……外部からの情報ですから裏付けを取る必要があります。本当ならすぐに動きたいところですが」

 

ルークの質問にどこかもどかしそうにクレアは呟く。軍からではなく完全に個人のツテで得た情報である故に、対外的に情報が正しいかを精査する必要があるからだ。

 

そもそもこの頼みごと自体、クレアの独断によるものなのだ。現にミハイルはこの事をクレアから聞いて本気で怒ったのだから。

 

「そこは仕方がないと割り切るんだな。最低でも注視と警戒が出来るんだからな」

「……そうですね。悲観している場合ではありませんね」

「俺は数日は帝都に居座るつもりだ。何かあれば勝手に動くからそのつもりで」

「分かりました。その時は可能であれば連絡を入れてください」

 

その後、何事もなく二人はわかれていった。

 

((良かった。何事もなくて……))

 

内心で同じことを思いながら……

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――七燿歴1204年10月30日

 

ドライケルス広場が一瞥できるとある建物の屋上にて。

 

(……ここまで長かったぜ)

 

仮面の人物―――先月のザクセン鉄鉱山で飛行艇の突然の爆発により死亡したと判断されていた《帝国解放戦線》のリーダー《C》が超長距離狙撃用の対物導力ライフルをドライケルス広場に向けて構えていた。

 

あの爆発は《C》によるアリバイ工作の為の偽装。八月のガレリア要塞の襲撃の時と同じ、連中の目を欺く為の仕込みだったのだ。

 

(……しかし、あそこまでやったのに鉄道憲兵隊の連中がさりげなく()の動向に目を光らせていた……念のための反則技がなかったら少しやばかったな)

 

《C》は()()()()()()を使って鉄道憲兵隊の目を掻い潜り、偽装工作で飛行艇を狙撃したものよりも更に高性能な()()()()()の対物導力ライフルを使うことで、連中が把握しているであろう狙撃範囲から外れた場所の屋上で狙撃を行おうとしている。

 

全ては―――ドライケルス広場で高々と声明を発表しているギリアス・オズボーンの首をここで獲るために。

 

『―――このギリアス・オズボーン、帝国政府を代表し、陛下の許しを得て、今ここに宣言させていただこう!!正規軍、領邦軍を問わず、帝国全ての“力”を結集し、クロスベルの“悪”を正し、東からの脅威に備えんことを―――』

「―――言わせるかよ」

 

足下に置かれたラジオから聞こえる仇敵に対して《C》はボイスチェンジャーで加工されていない素の声で呟き、スコープの先にいるオズボーン宰相を見据え、対物導力ライフルの引き金に力を入れる。

 

同時に屋上の扉が開き、そこから現れたクレアが拳銃を構え、《C》に銃口を向けて引き金を引く。

 

―――その瞬間、二つの銃声が屋上に響いた。

 

「…………」

 

クレアの銃撃を受けた《C》の仮面にヒビが入り、二つに砕けてその下の素顔を露になる。仮面の下に隠れていたその顔はグレーの髪に白のバンダナを額に巻いた男性の顔だった。

 

「手を上げなさい!帝国解放戦線リーダー《C》―――いいえ、旧《ジュライ市国》出身、その市長の孫、クロウ・アームブラスト!」

 

クレアが怒りを露に告げたその言葉に、《C》―――クロウはどこか呆れたような表情で立ち上がって両手を上げた。

 

「やれやれ、その辺りは完璧に偽装できたつもりだったんだがな。アランドール……いや、お前個人のツテである《絶剣》の野郎に調べ上げられちまったか?」

「……裏付けが取れたのは先ほどです。偽装で攪乱されていなければもっと早くに……」

 

クレアは悔しさを滲ませて呟く。クレアはルークに依頼した《C》の上位候補者の調査結果により、その内の一人であり情報局の有力()()()プロファイリングにも該当していたクロウの出身地が偽装であったこと。更にその本当の出身地が八年前に帝国に併合された《ジュライ経済特区》。そして、クロウは経済特区となる前の《ジュライ市国》、最後の市長の孫であったことがルークの調査で明らかとなったのだ。

 

その為、裏付けが情報局で取れるまでは対象の動向に目を光らせ、鉱山で押収した対物導力ライフルの射程範囲から有効な狙撃ポイントも割り出し、裏付けが取れ次第、すぐに確保できるようにクレアは配下の隊員達を配備していた。

 

だが、クロウを見失い、割り出した狙撃ポイントにも居ないという隊員達の報告にクレアが頭を働かせていると、自分達が把握していたポイントより更に距離がある場所で、対物導力ライフルを構えたクロウの姿を発見したという報告が届いたのだ。同時に情報局の裏付けが取れたことも。

 

故にクレアは急いでその建物に向かい、屋上に入ってすぐに攻撃したのだが、クロウの足下にあるラジオからはオズボーン宰相の声は聞こえてこず、遠くにあるドライケルス広場では大騒ぎになっているのが一目で分かることから理解してしまったのだ―――自分は間に合わなかったのだと。

 

「っ……よくも、よくも閣下を!」

「ま、そこは八年前にジュライが帝国に併合された時と同じ、アンタの親玉が好き()()()、気を抜いた方が負けの“ゲーム”だ。……しっかし、《絶剣》は実力も含めて本当に厄介な野郎だな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「!!」

 

クロウが揶揄するように告げた最後の言葉にクレアは驚きを露に目を見開く。そんなクレアにクロウは言葉を続けていく。

 

「少し調べたらあっさり出てきたし、知っている奴もいたからな。……黙りを決め込んだ割には中々に面倒な記者さんだ」

「……だとしたら知っているでしょう?()()を誰が引き起こしたのかも」

「ああ。だが、それがどうした?仇討ちを諦めている負け犬に変わりはないだろ?」

「―――黙りなさい!上辺しか知らない貴方が彼を語らないで下さい!!」

 

クロウのルークを侮辱する発言に、クレアは声を荒げて反論する。ルークの過去は自分よりも遥かに重く、一番許せなかったのはルーク自身だと知っている故に。

 

「とにかく腹ばいになりなさい!これだけの仕込み、必ず背景を喋ってもらいます!」

「ああ、それは無理だな。今から最後の仕上げが始まるんだからな」

「え―――!?」

 

クレアが何かに気づいて上空を見上げると、帝都の上空に二百アージュ以上はある、白亜の巨大な飛行戦艦が現れ、その戦艦の船底から何かが降ろされていく。その何かは、鋼鉄で造られた、巨大な人型の人形だった。

 

地上に降り立った鋼鉄の人形は高い機動性で地上を駆け抜け、その手に持つ槍や鈍器のような武器で正規軍の装甲車はおろか、主力戦車(アハツェン)をも次々と破壊し、帝都を制圧し始めていく。

 

「あ、あの兵器は……」

 

見たこともない兵器にクレアが困惑していると、クロウが何てことのないように蹂躙を続けている兵器について語り始める。

 

「《機甲兵(パンツァーゾルダ)》。貴族連合に取り込まれた『ラインフォルト第五開発部』が古の機体を元に大量の鋼鉄から組み上げ、完成させた人型有人兵器だ。―――制御システムは外部から手に入れたプログラムデータをベースにしているがな」

「外部から…………まさか!」

「ああ、そのまさかだ。お前さんの知り合いが作ったオーバルギアの制御プログラムを参考にして、制御システムを完成させたそうだ」

 

つまり、あの兵器は五月頃、否、それ以前から開発されていたのだ。そして、その兵器の開発にシュミット博士が関わっていたことにも気づいた。同時にクレアは場違いと自覚しつつもこう思ってしまった。

 

(……ソフィさんが直接関わってなくて良かったです。関わっていたら、あれはもっと凶悪なものになってました……)

 

具体的には機体そのものに導力式のレーザーが内蔵されるくらいには。

 

「クク、結構堪えたか?お前さんの知り合いがあれの完成に知らずに手を貸したことを」

 

クレアがそんな場違いなことを思っているとは知らず、クロウは的外れな挑発をして―――屋上から飛び降りた。

 

「しまった……!」

 

クレアが急いで下を覗き込むと―――そこから機甲兵とは見た目も雰囲気も全く違う、背後に翼を連想させるものを有した蒼い人型の人形がゆっくりと上昇していた。

 

「あ―――」

『じゃあな。《氷の乙女(アイスメイデン)》殿』

 

クロウはそう言葉を残し、トリスタ方面に向かって飛び去っていった。

 

その直後、クレアのARCUSから着信音が鳴り響いた。

 

「!?―――もしもし―――」

 

クレアは突然の着信音に驚きつつも、すぐに通信に応じて出ると―――

 

『オリヴァルト殿下の依頼で俺はアルフィン殿下とその友人を連れ、トヴァルと一緒に帝都から離脱する!!以上!』

 

挨拶もへったくれもないルークの説明に、クレアは一瞬ポカンとなりかけるもすぐに我に返る。

 

「分かりました。どうか皇女殿下とエリゼさんをお願いします!―――どうか女神の加護を」

『ああ!お互いにな!!』

 

それを最後に通信が終わる。

 

―――これが後に《十月戦役》と呼ばれる帝国の内戦の始まりであった。

 

 

 




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