絶剣の軌跡   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


閃II編
ユミルでの再会


―――七耀歴1204年11月29日

 

帝国は現在、内乱の真っ只中にあった。貴族連合が極秘で完成させた人型有人兵器《機甲兵》の存在により正規軍は苦戦を強いられ、帝都を含む帝国の主要の都市も貴族連合の手によって占領された。

 

同じくトリスタと《トールズ士官学院》も貴族連合によって完全に占拠された。調べた限りでは結構な数の学院関係者が行方不明となり、《紅い翼》―――カレイジャス号もトリスタに現れたそうだ。そして、その防衛戦で二体の巨大な騎士人形が争ったそうだが、真偽は定かではない。……ルーク個人の見解では“事実”と睨んでいるが。

 

もう一つ、帝都のバルフレイム宮にいた皇帝陛下やセドリック皇太子は貴族連合に“保護”され、オリヴァルトは行方不明となっている。

 

そして、アルフィン皇女殿下は―――

 

「目的の場所はまだですか?」

「もう少しだな。皇女殿下にエリゼさん」

「……本当にそこに兄様がいるのでしょうか?」

「それを確かめる為にここに来ているんだろ?まぁ、気持ちは分かるけど」

 

ノルティア州の北方、アイゼンガルド連峰・峡谷地帯の山道をエリゼ、トヴァル、ルークと一緒に歩いていた。

 

貴族連合が帝都を占領したあの日、ルークとトヴァルはオリヴァルトからの緊急の連絡で聖アストライア女学院にいるアルフィン皇女とエリゼを安全な場所まで護衛して欲しいと頼まれたからだ。

 

そうして、アルフィン皇女とエリゼを連れてルークとトヴァルは貴族連合の捜索をかわして帝都から脱出し、十日ほどかけてエリゼの故郷であるユミルへと辿り着いたのだ。ソフィーヤ製の導力バイクは人数の都合とあまりにも目立つことから帝都に置いていった。

 

そしてルーク達が今ここにいる理由は、昨日トヴァルのARCUSに謎の通信が届いたからだ。その相手は名乗りもせずにリィンの居場所を事細かに教えた後、一方的に通信を切ったのだ。

 

罠の可能性も考慮し、最初はトヴァル一人でその場所へと向かうつもりだったのだが、リィンの行方が分からずにずっと心配していたエリゼとアルフィン皇女が一緒に行くと駄々を捏ねたので、仕方なくルークを交えた四人でその場所へと向かうことにしたのだ。

 

ちなみに、ユミルに向かう道中でトヴァルがオリヴァルトから預かっていた予備のARCUSを二人に渡して指南したことで、戦力としても申し分なくなっているのも同行を許した理由の一つである。

 

その道中で地響きが一同の耳に届いた。

 

「この音は……?」

「……向こうからだな」

「急いだ方がいいかもしれないな。ペースを上げますが宜しいですか?」

「ええ。もし、リィンさんが本当に居るのでしたら、急いで保護しませんといけませんしね」

 

地響きを聞いたことでルーク達はペースを上げて山道を登っていき、やがて見渡せる場所へと躍り出る。

 

そこで視界に入った少し拓けた場所には、《機甲兵》や人形兵器とは違う、古代の遺物だと想像に難くない巨大な人型のゴーレムと―――エリゼの義兄であるリィンが居た。

 

本当に居たことに驚くよりも、そのリィンが太刀を片手に膝をついて満身創痍の状態であり、彼が対峙していたであろう巨大なゴーレムがその手に持つ剣を振り上げてリィンに振り下ろそうとしていることに焦りを覚える。

 

「させるか!」

 

ルークは片手半剣(バスタードソード)を素早く抜いて振りかぶり、膨大なエネルギーを刀身に宿していく。

その一撃は夏至祭の時、地下の大広間から脱出する際に放った必殺の一撃だ。

 

「―――叢愾剣!!」

 

袈裟で振り抜いた剣から圧倒的な剣圧が放たれる。その剣圧はゴーレムの右肩に直撃し、装甲を粉砕すると共に後ろへとよろめかせた。

 

「くらいな―――エクス・クルセイド!!」

 

更にトヴァルがだめ押しと言わんばかりに空属性の高位アーツを放ち、マトモに喰らって膝をついたゴーレムは足場が崩れ落ちると共に崖の下へと落ちていった。

 

「兄様!」

「リィンさん!」

 

エリゼとアルフィン皇女が安心したようにリィンの名前を呼ぶ。そこでリィンはこちらの存在に気付いたように顔を向けた。

 

「ふうっ……何とか間に合ったみたいだな」

「あれは何なのか気になるところだが……無事で良かったよ。地響きを聞いて急いだ甲斐があったというもんだ」

「ええ、本当に……!」

 

ルークの言葉にアルフィン皇女が頷いて同意していると、エリゼはいてもたってもいなれなかったのか、駆け足で山道を下り、リィンの下に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか、兄様!?憔悴しきった様子ですが、どこかお怪我はありませんか!?」

 

心配そうにリィンを見つけるエリゼに、リィンは逆に安堵したような表情となる。

 

「……エリゼ……まさか、こんなところで会えるなんて……よかった……本当に……」

 

そして、リィンは緊張の糸が切れたのか、そのまま力尽きたかのように地面に倒れ込んだ。

 

「兄様!?しっかりしてください、兄様!!」

 

そのタイミングで降り立ったルーク達も駆け寄り、トヴァルがリィンの容態を確認していく。

 

「……大丈夫だ。どうやら疲労で気絶しただけのようだ。怪我も多少負っちゃいるが深刻なもんじゃない」

「そうですか……良かった」

 

トヴァルの診察にエリゼが安堵していると、リィンのすぐ傍で蹲っていた深い紫の毛並みの猫から常識外れなことが起きた。

 

「まぁ、目覚めて歩けるようになったのはついさっきだからね。その後で魔煌兵と戦ったのだから当然よ」

 

明らかに猫が人の言葉を喋っていることに、ルーク以外は驚きを露にする。

 

「ええ!?」

「まあ……!」

「猫が喋っただと……!?」

 

三者三様の反応をする中、ルークだけは胡散臭そうな目を猫に向ける。常識は二年前のリベールの一件で破壊されているので猫が喋ることに驚くのも馬鹿らしいからである。

 

もっと言えば、リベールで人の言葉を喋る古竜に出会っているので、今更猫が喋っても“普通じゃない”と感じる程度だ。

 

「……どうやら色々と知っているようだな。悪いが移動がてらで知っていることは全部話して貰うぞ」

「そのくらいは構わないわよ」

 

そうしてルークがリィンを背中に担ぎ、猫はエリゼが抱えてユミルへと戻りながら話を聞いていく。

 

猫―――セリーヌは《魔女》―――《魔女の眷属(ヘクセンブリード)》をサポートし、使命の手助けをする“使い魔”であり、新米《魔女》であるエマのお目付け役として一緒にトリスタに来たこと。

 

トリスタ―――《トールズ士官学院》に入学したのもその“使命”の為であったこと。

 

リィンは旧校舎に眠っていた帝国の古より伝わる“巨いなる力”の一端、《灰の騎神》ヴァリマールの起動者(ライザー)に選ばれたこと。

 

先のゴーレムは《魔煌兵(まこうへい)》と呼ばれる中世の魔導士達が作り上げた対騎神用の兵器であること。

 

トリスタでの《蒼の騎神》との戦闘で追い詰められたリィンを、ヴァリマールに離脱を指示してその場から逃げ延びたこと。

 

そして―――初めての騎神との“同期”と戦闘でリィンが命に関わる程に消耗し、“(ケルン)”に傷を負ったヴァリマールがリィンの回復を優先して一月で歩けるまでに回復させたことを話した。

 

「ま、私も彼の回復の手助けをしたけどね」

「そうでしたか……ありがとうございますセリーヌさん。兄様を守っていただいて……」

「べ、別に礼なんかいらないわよ。それにあんたには借りもあるしね」

「借り……?」

 

セリーヌの“借り”の言葉にエリゼは意味が分からずに首を傾げる。そこでセリーヌは少し口を滑らせたと気づき、焦って口を開いた。

 

「な、何でもないわよ!私も少し疲れたからね―――」

「……そういえば、ユミルに向かう道すがらでエリゼ嬢達から聞いた話だと、“猫”を追いかけてトールズの旧校舎に迷いこんだそうだな。まさか……」

「……そういえば、セリーヌさんはあの時の猫に似ているような……」

「「「「…………」」」」

 

四人の無言の圧力の視線がセリーヌに突き刺さる。針の躯の状態となったセリーヌは大慌てで弁明の声を上げていく。

 

「ち、違うわよ!危害を加えようとして連れ込んだわけじゃなくて!彼が“試しの扉”に中途半端に反応してたからじれったくて……」

「……だからダシにしたと?」

 

目を細めたルークの言葉に、セリーヌは若干気圧されながらも反論を続けていく。

 

「そ、それにあのガーディアンは本来、関係ない人間は襲わないわよ!彼が来てすぐに剣を振り下ろそうとしたのは予想外だったけど……」

「「「「…………」」」」

 

全員のセリーヌを見る目が完全に責めるものになる。悪意があってやったわけでないことは理解できるが、完全にやってはいけないことをこのセリーヌはやらかしたのだから。

 

「……悪かったわよ。エマにも散々怒られたし……」

「ここはごめんなさい、だ」

「……ごめんなさい」

 

周りの反応にセリーヌはバツが悪そうに謝るも、ルークに指摘されたことで言い直して改めて謝った。

 

「もう済んだことですし、兄様を助けて頂いたので水に流して差し上げます。後、兄様が目覚めたらちゃんと謝ってくださいね」

 

セリーヌの謝罪を受けたエリゼは快く許した。リィンにもちゃんと謝るように伝えると、セリーヌも素直に頷いた。

 

「……この場合はありがとう、かしら?エマにも言われたけど、人間の気持ちとか機微なんてのは今一つ分からないから」

「それでしたら、私が一から教えて差し上げましょうか?」

「い、いいわよ別に!というか、そこの白髪男のあんたは一体何者なの!?魔煌兵に一部とはいえ明確なダメージを与えるわ、私への反応が薄かったというか!」

 

アルフィン皇女の申し出をどこか慌てたように辞退したセリーヌは誤魔化すようにルークに疑問をぶつける。対するルークは微妙な表情だ。

 

「何者かって聞かれても……常識を破壊する修羅場を潜り抜けた記者としか言えないんだが」

 

具体的にはクーデターの残党が開発した新型戦車を戦闘不能にしたり、空飛ぶ喋る古の竜に出会したり、死んだと思っていた()()()()()()に再会したり、導力器が全く使えなくなったり、空に浮く巨大な建造物に乗り込んだり、古代の人形兵器を再現した兵器と戦ったり、《至宝》を取り込んだ腐れ外道を立役者と一緒にぶちのめしたり、古代遺産の指輪で悶着があったり、閉じ込められた現実と夢の狭間の世界でコピーされた竜と戦ったりと、端から見れば中々に濃い経験をしている。

 

そのことをルークはオブラートに包んで伝えるも……

 

「…………」

「フフ、流石お兄様と一緒にリベールの事件を解決した方ですわね」

「……何度聞いても凄まじいな」

「……本当にあんたは何者なのよ」

 

エリゼは絶句、アルフィン皇女は笑みを浮かべ、トヴァルとセリーヌは疲れたように溜め息を吐くのだった。

 

 

 




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