絶剣の軌跡   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


実力と不可抗力

―――七耀歴1204年4月23日

 

サザーラント州にある《アグリア旧道》。そのとある高台にて。

 

「…………」

 

ルークは持ってきていた花束を頑丈に封鎖されたゲートの前に添え、静かに黙祷していた。

 

本当ならこの先にある慰霊碑に花束を捧げたいのだが、ここから先はサザーラント州の最高責任者二名―――ドレックノール要塞司令とサザーラント州統括者のハイアームズ侯―――の許可がなければ正式に入れない為、ルークはこの場所に花束を添えるのが今の限界であった。

 

もっとも、学生時代に無断で侵入して花を添え、二年前に自分の分も含めて二人の男女が花と形見を添えてくれたのだが。

 

「……絶対に“あの日”の全ての真実を掴んでみせる」

 

二年前に更なる事実を知ったが、まるで魚の骨が喉に引っ掛かったような違和感を未だに感じる為、今も調べ続けている。

 

公表の為ではなく自身の“けじめ”の為に。

 

ルークは決然と告げて立ち上がり、踵を返してその場を後にするのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――七耀歴1204年4月25日

 

「……まったく、どういう偶然なのやら」

 

ケルディックの宿の一室で、ルークは椅子に座ってどこか疲れたように溜め息を吐く。

 

ルナリア自然公園の取材の為にルークはこのケルディックに昨日から訪れていたのだが、そのルナリア自然公園は現在立ち入り禁止となっており、門の前にいた二人の管理人曰く“工事中”とのことであった。

 

どんな工事なのか、何れくらい工事の期間がかかるのか聞いてみたのだが、管理人二人は苛立ちを露にした横暴な態度で追い払いにかかってきたのだ。なので余計ないざこざを避ける為にルークはあっさりと折れ、その場を後にした。

 

その道中で出会った()()()()()()()《トールズ士官学院》の男女の生徒四人に頑張るように言葉を送ってからケルディックに戻り、ケルディックの大市の元締めであるオットーにルナリア自然公園の状況を聞くついでに現在のケルディックについても聞いてみた。何でも、売上げ税が大幅に上げられ、オットーがその増税を止めてもらうよう陳情しているのだが、門前払いされている上にそれ以降から《クロイツェン領邦軍》は大市のトラブルに干渉しなくなったそうだ。

 

色々と思うところはあるが、これは商人の問題だから気にしないで欲しいとオットーに言われたので、ルークはそれ以上の詮索は止め、改めて自然公園について聞いたのだがオットーは詳しくは知らないそうだ。

 

それで前の管理人を探して見つけたのだが、その前の管理人であるジョンソンは見事に酒に溺れており、彼曰くいきなりクロイツェン州の役人に解雇を言い渡されたのだそうだ。

 

そして、明らかに絡み酒で酒を勧めてくるジョンソンを適当にあしらったルークはそのまま宿で一泊したのだが、その翌日の早朝から大騒ぎが起きたのだ。聞けば、二人の商人の屋台が破壊され、商品まで盗まれたというのだ。さらに聞けば、この二人は昨日、店の場所取りでも揉めていたというのだ。その騒ぎは領邦軍が強引に治めていったが。

 

「昨日のトラブルと、冷めない内の新たなトラブル。不干渉を貫いていた領邦軍のいきなりの介入……こりゃ黒だな」

 

宿の一室で椅子に背中を預けているルークは天井を見上げて呟く。

 

今回の事件の黒幕はクロイツェン領邦軍。動機は“増税取り止めの陳情の取り下げ”。実行犯は現在のルナリア自然公園の管理人の可能性が高い。あそこであれば盗んだ商品を隠しておけるからだ。

 

「それを()()()が調べてはいるが……どう動くべきか」

 

一応、立ち上げた人物の思惑は知っているのであんまり手を出しすぎるのも過保護と言うものだろう。だが、このまま無視というのもすわりが悪い。

 

「……最低限のフォローだけはしてやるか」

 

ルークは頭を掻きながら立ち上がり、黒のトランクケースをおもむろに開ける。トランクケースの中に入っていたのは鞘に納まった一振りの剣―――片手半剣(バスタードソード)に分類される十字の柄の剣だ。

 

「こっちは念のために持っていくとして……“保険”もちゃんと用意しておくか」

 

ルークはそう言ってARCUSを操作し、とある場所に通報するのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

通報を終わらせたルークは己の得物を手に、昨日訪れたルナリア自然公園の門前に来ていた。

 

「鍵を破壊して中に入ったということは……ここが当たりの可能性が高いと判断したんだろうな」

 

ルークは門前に転がっている壊れた南京錠を見て呟き、片手半剣(バスタードソード)の鞘を持つ手に力を入れ、ゲートを潜って中へと入っていく。

 

道中、魔獣が襲いかかってくるも―――

 

「―――ふっ」

 

一閃。

 

ルークは苦もなく襲いかかってきた魔獣を片手半剣(バスタードソード)で瞬時に両断し、倒した魔獣を気に止めることなく奥を目指して進んでいく。

 

そうして―――

 

「ビンゴだな。ついでに問題なく終わっていたか」

 

奥に盗難品であろう幾つもの木箱が鎮座している広場の手前に辿り着いたルークは、昨日の学生四人と制圧された偽物の管理人四人の姿を見て、戦闘面でのフォローは無用だったかと判断した。

 

その直後であった。

 

ゴァアアアアアアアアアアア!!

 

そんな雄叫びと共に地面が鳴り、奥から巨大なヒヒの魔獣―――グルノージャが広場に現れたのは。

 

「このタイミングで大型の魔獣か……」

 

妙なタイミングで現れたグルノージャにルークは訝しみつつも、あまりよろしくない事態に顔を顰める。何故なら―――

 

「そ、そんな……!?」

「巨大なヒヒがもう一体……!?」

 

奥からグルノージャが更にもう一体現れ、二体揃って学生達と犯人達の前に対峙するという状況なのだ。軍人の卵である学生四人で犯人達を庇いながら二体のグルノージャと対峙するのは一見最悪と言える状況であった。

 

―――ルークがこの場にいなかったらだが。

 

「流石にこれ程の相手が二体同時とは……!」

「くっ、こうなったら―――」

「大丈夫だ」

 

青い髪をポニーテールで纏めた大剣を構える少女と、東方の武器“太刀”を構えている黒髪の少年の焦りにルークは彼等に聞こえるように告げ、片手半剣(バスタードソード)を手にグルノージャの一体に瞬く間に近づいていく。

 

「―――斬ッ!!」

 

ルークはグルノージャの目と鼻の先で飛び上がり、急降下と共に両手で柄を握った片手半剣(バスタードソード)を容赦なく振り下ろした。

 

ドォオオオオン!!!

 

そんな轟音が響くと共に地面にクレーターが出来上がり、同時にグルノージャを真っ二つに両断した。

 

「「「「「「「「…………え?」」」」」」」」

 

その場にいた全員から抜けた声が洩れる。グルノージャの一体を倒したこと自体はいい。問題は一撃で巨大なクレーターを作ると共に真っ二つにしたことである。

 

「えええ!?」

「あれほどの獣を一撃とは……!」

「で、でたらめ過ぎるんですけど!?」

「あの人は昨日の……!」

 

橙髪の少年は乾いた笑みを、青髪の少女は感嘆の呟きを、金髪の少女は頬を引き攣らせ、黒髪の少年は昨日出会った人物だと思い出していた。

 

「ボーッとするな学生達!まだ終わってないぞ!!」

「「「「!」」」」

 

ルークの叱責に学生達は思い出したようにグルノージャに向き直り、それぞれの得物を構えていく。

 

「一応、俺ならすぐに魔獣を始末できるがどうする?」

「……いえ、この魔獣は俺達でやらせて下さい」

「……リィン?」

 

黒髪の少年―――リィンの返答に、金髪の少女は疑問の表情を浮かべてリィンを見やる。リィンはまっすぐにグルノージャを見据えてその理由を告げた。

 

「俺の勝手ではありますが、これを今回の特別実習の総仕上げにしたいんです。すいませんがそこの彼らを見張っててくれませんか?」

「……成る程。確かに仕上げとしてはちょうどいいかもしれぬな」

「ラウラまで!?」

「ああもう!仕方ないわね!」

 

リィンの言葉に同意した青髪の少女―――ラウラに橙色の髪の少年が驚きを露にし、金髪の少女は諦めたように少々変わった形状の弓を構える。それを見て橙色の髪の少年も諦めたように妙な杖を手にグルノージャと対峙した。

 

「向上心旺盛な学生さん達だな。―――ヤバかったらアーツでフォローしてやるからおもいっきりやってこい!」

「ありがとうございます!―――トールズ士官学院《VII組》A班!これより目標を撃破する!」

 

そうして学生達はグルノージャへと勇ましく立ち向かっていく。ルークは犯人達を見張りながらいつでもアーツが放てるようにしておく。

 

(……にしても、ラウラと呼ばれた少女の流派は《アルゼイド流》。リィンと呼ばれた少年は《八葉一刀流》か)

 

リィンとラウラの得物と動きから彼等が修めている流派を見抜き、中々に濃そうなメンバーが演奏家様が発案したクラスに選ばれたと思いつつ、本当に不味い場面でのみアーツによるフォローをしていく。

 

そして―――

 

「―――斬ッ!!」

 

最後にリィンが焔を宿した太刀でグルノージャを切り裂き、見事に撃退してのけた。

 

そうして、リィン達が互いの健闘を称えあう中……

 

「あ、あわわ……」

「こ、こいつらもとんでもねぇが……」

「そ、それよりこんな化物が出てくるなんて……」

「あの野郎の話に乗るんじゃなかった……」

 

ルークに見張られている、犯人である四人組は見事に腰を抜かしており、縮こまってガタガタと震えていた。犯人達は自分達を制圧・無力化した学生達よりもグルノージャを一瞬で始末したルークの方がよっぽど怖いようである。

 

「遅くなりましたが、助けて頂きありがとうございました」

「ん?気にするなと言いたいところだが、礼は受け取っておくさ」

「しかし、どうして記者どのがこちらに―――」

 

ピィイイイイイイイイイイ!!!

 

「え……っ!?」

「こ、これって……」

「……面倒な者たちが駆けつけて来たようだな」

(……一応、“保険”はあるけど間に合うか?)

 

ラウラの疑問を遮るように響いた汽笛の音に、ルークは汽笛が聞こえてきた方角を流し見ながら“保険”の存在の到着について考える。

 

「いたぞ……!」

「連中も一緒だ!」

 

汽笛が聞こえてきた方向からクロイツェン領邦軍の兵士達が現れ、彼等はあっという間に学生達とルークを取り囲んでいったのだが……

 

「俺達が犯人です!!ですから早くこの場から連れ去って下さい!!」

「あんな化物から一秒でも早く離れたいんです!!だから俺達を逮捕して下さい!!」

「お願いですからすぐに俺達を拘束して連れていって下さい!!」

 

犯人自白。というか、恐怖で本当に早くこの場から逃げ出したいようである。

 

「……そこの者達が犯行を自白しているのだが?」

「ふん。見た限り、それなりに争った後があるようだな。であれば、君達が“犯人”で犯行を彼らに脅しで擦り付けた可能性もあるのではないのかね?」

 

ラウラの指摘に領邦軍の隊長の男は臆面もなくそう言い切る。それに対して、ルークは淡々と告げた。

 

「こちらのせいにするつもりなら、止めておいた方がいいぞ?確実に、領邦軍(あんたら)が不利になるだけだからな」

「……弁えろよ、唯の記者風情が。ここはアルバレア公爵家の治めるクロイツェン州だぞ?その意味も判らないほど、貴様は阿呆なのか?」

 

この場でまかり通るのは自分達だと隊長の男は苛立ちながら侮蔑と共に伝えるも、ルークの表情は全く変わらない。むしろ、呆れたような眼差しを向けている始末である。

 

「……なぁ、隊長さん。忘れてないか?ケルディック(ここ)()()()()()()()()だということを」

「っ!?」

 

ルークのその指摘に、隊長の男は今までの余裕そうな表情から一変して、目を見開いて驚きを露にする。

その直後。

 

「―――その通りです。この場は我々、鉄道憲兵隊が預かります」

 

涼しげな声と共に澄ました表情―――少し呆れたようにも見える―――をしたクレアが、数人の部下と共にこちらへと近づいて来ていた。

何とも狙ったようなタイミングで現れたクレアにルーク内心で苦笑していると、隊長の男が憎々しげにルークを睨んでいた。

 

「記者風情……貴様も鉄血の―――」

「あー、違うから」

 

隊長の男が見当違いな言葉を吐こうとしていたので、ルークは言い終わらせる前にあっさりと否定する。

 

「はい。彼はあくまで()()()の知り合いです。閣下とはそのような繋がりはありません」

「…………」

 

クレアがルークの言葉を肯定したことで、隊長の男は最後に睨み付けた後、部下を率いてその場を後にしていった。

 

「鉄血の狗が……」

 

……クレアにそんな捨て台詞を残して。

 

そして、犯人達も鉄道憲兵隊員によって連れていかれたので、これで解決……

 

「待ってください。貴方にも調書に付き合ってもらう必要があります。後、個人的な説教にも」

 

……したのでこっそりその場を後にしようとしたルークを、微笑を浮かべたクレアが肩を掴んで引き留めた。

 

「……調書はともかく、個人的な説教は勘弁して貰いたいんだが」

「勿論、状況は理解しています。ですが、地面にこれほど大きなクレーターを作ったのはやり過ぎです」

「一応、大型の魔獣が襲いか―――」

「だとしてもです」

「……へーい」

 

クレアの有無を言わさぬ圧力にルークは屈し、諦めたように肩を竦めた。

 

その、直後。

 

ガラッ

 

「―――へ?」

「―――え?」

 

その二人が佇んでいたクレーターの縁が嫌なタイミングで崩れ、二人は仲良く足を取られて転がってしまった。

 

「だ、大丈夫です……か……」

「どうしたのだリィン!二人に何……が……」

「…………え?」

「……えーと……」

 

リィン達は慌ててクレーターの内側に転がったルークとクレアの下に駆け寄ったのだが、ルークがクレアの下敷きとなり、その顔が彼女の胸に押し潰されていた光景を見て言葉を失った。

 

「「……………………」」

 

クレアとルークは揃って無言となり、クレアは無言のまま起き上がってルークから一歩離れる。ルークは何とも言えない表情で立ち上がり……

 

「……悪かった」

 

その瞬間、ルークの顔に乾いた音と共に紅葉が咲き、何発もの銃声が辺りに響き渡り、一目で強力とわかるアーツがルークに降り注いだ。

 

「「「「……………………」」」」

「では改めて、調書のためにご同行をお願いできますか?」

「「「「……はい」」」」

 

まるで何事もなかったかのように告げるクレアの姿に、リィン達A班は素直に頷くのだった。

 

そして、クレアの容赦のない制裁でのびたルークはクレアに首もとを掴まれて、ズルズルと引き摺られて連れて行かれるのであった。

 

 

 




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