絶剣の軌跡   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


二人の関係

―――夕方

 

調書も無事に終わったリィン達はクレアと意識を取り戻したルークと共に、オットーから今回の事件を解決したお礼の言葉を受けていた。

 

「いや、お前さん達には本当に世話になってしまったな。何とお礼を言ったらいいものやら」

「いえ……お力になれて良かったです」

「それに、私達だけじゃ無事に解決出来なかったと思います」

「うん。記者さんと鉄道憲兵隊の方々がいなかったら僕達も無事でいられなかったと思います」

 

リィン達は感謝の意を込めてルークとクレアの二人に視線を送る。

 

ちなみに―――

 

『リーヴェルト大尉。そこの彼―――』

『彼は()()()()()()()を喰らって気絶してしまっただけです。―――ですよね?皆さん』

 

鉄道憲兵隊員の質問にクレアはごく自然に嘘をつき、同意を求めた笑顔が背筋が凍る程怖かった為、リィン達は無言で頷いて同意した。

 

『……そうですか』

 

その隊員もルークの顔の紅葉で何となく察し、そういう事にした。

 

目を覚ましたルークも魔獣の不意討ちで気絶したという説明に文句を言わずに同意した辺り、自身が悪いのだと理解しているのだろう。

 

ついでに言えば、調書を取る時、ルークだけは正座の上にお小言をきっちりと貰っていた。

 

「いえ、私達はあくまで最後の手伝いをしただけです」

「犯人達が逃げていたら、鉄道憲兵隊は介入すら出来なかっただろうからそこは誇っていいぞ」

 

個人的な説教を受けていたことを知らないリィン達に、クレアとルークは事も無げに賛辞の言葉を送る。

 

「う、うーん……ちょっと面映ゆいですけど」

「……まあ、素直に受け取っておくとしよう」

 

橙色の少年―――エリオットの照れくさそうな呟きにラウラは賛辞の言葉を素直に受け取った後、改めてルークに向き直った。

 

「それで、そなたは何者なのだ?記者と名乗ったわりには相当剣の腕が立つようだが」

「そう言われても、フリーの記者以外に説明出来ないんだが……そもそも、剣も我流で見る人が見れば眉をしかめるものだし」

 

ラウラの質問にルークは困ったように言葉を濁す。二年前の取材調査の時にリベールに訪れた際、クーデターを企てていた連中の残党が極秘裏で開発していた戦車を行動不能にした事を皮切りに、事件に見事に巻き込まれた話はあまり言うものではないからだ。

 

クレアはルークのその態度に呆れたように溜め息を吐いたが、すぐに意識を切り替えてモットーに顔を向ける。

 

「今後しばらくの間、何かあれば即座に対応できるよう憲兵隊の人間を常駐させますがよろしいでしょうか?」

「助かるよ大尉殿。わしとしては、同じ帝国の軍人さんである領邦軍とはあまりいがみ合わぬようにお願いしたいものじゃが」

「……配慮します」

 

クレアはそうは言うが、実際は難しいだろうな、とルークは考える。

 

現在、四大名門と呼ばれるアルバレア家、カイエン家、ログナー家、ハイアームズ家を筆頭とした『貴族派』と《鉄血宰相》率いる『革新派』は露骨に対立しているのだ。鉄道憲兵隊は帝国政府直属の部隊であり、領邦軍も貴族の意向が基本的には第一なのでいがみ合いは不可避だろう。

 

そんな事を考えていると、クレアは改めてリィン達に向き直っていた。

 

「調書への協力、ありがとうございました。皆さんのお時間を取らせてしまって申し訳ありません」

「い、いえ……気にしないでください」

「わ、私達の方こそ危ない所を助けていただいてもらいましたし」

「そ、そうですよ!繰り返しになりますけど、記者さんと大尉さん達がいなければ本当に危なかったですから!」

「そちらも気にしないでください。こういった事も大人の仕事ですから」

「あ~ら?随分と謙虚な態度でいらっしゃるわねぇ?」

 

クレアが微笑みながら気遣った直後、どこか嫌味を含んだ女性の声が聞こえてきた。

 

「サ、サラ教官!?」

「やれやれ……」

 

ワインレッドの女性―――サラの登場にリィン達が何故か呆れる中、サラはクレアの下に歩み寄った。

 

「……どうもお久しぶりです。サラさん」

「ええ。半年ぶりくらいかしら。それにしても、まさかアンタがここに出張ってくるとはね。……ひょっとして全部お見通しだったのかしら?」

 

先程と同じどこか嫌味を含んだサラの言葉に、クレアは涼しげな態度で答えていく。

 

「それは買いかぶりですよ。とある筋からの連絡と、どこかの誰かさんの通報を受けただけです」

「ああ、おたくの兄弟筋ね。随分と抜かりなく立ち回ってらっしゃること。そっちの記者さんのことも含めてね」

 

サラはそう言ってジットリとした視線をルークに向ける。また勘違いされている事にルークは何とも言えない表情をしていると、クレアは先ほどと変わらない態度で再び口を開いた。

 

「あくまで状況に対応するために動いているだけですよ。後、誤解しているようですが彼はサラさんが想像しているような人物ではありません」

「どうかしら~?ARCUSまで持っているみたいだしぃ?」

「あー、これはそこの学生さん達のクラスの()()()から貰ったもんだよ。お付きの人はすんごい仏頂面になってたけどよ」

「……はぁ、そういうことね。あんたがあの……」

 

おそらく話くらいは聞いていたであろうサラは、ルークの言葉に一応納得の意を示した。

 

三人の大人の周りの空気が微妙になっていく中、リィンは思い切って気になっていたことをクレアに問い掛けた。

 

「あの、クレア大尉。この記者さんとは一体どういう関係なのでしょうか?」

「……彼―――ルークは私の同窓生で腐れ縁です」

「腐れ縁って……せめてあいつらと同じ友人だと言ってくれよ……」

「貴方に対しては腐れ縁で十分です。貴方には散々な目にも合わされたのですから」

 

クレアはそう言ってジト目をルークに送り、頬を若干赤めてルークからすぐに視線を外す。

 

「大半……というか、全部事故と不可抗力だろ。その埋め合わせもきっちりしただろ」

「確かにお詫びとして食事を奢ってもらったりしましたが、それとこれとは別問題です。もうわざとかと思えるくらいですよ」

「わざとであんな事を毎回起こすか。全面的に俺が悪いのは認めるが、本当にキツかったんだぞ」

 

散々な目、事故と不可抗力、全面的にルークが悪い。そして、自然公園での出来事。

 

それだけで、サラ以外はクレアの散々な目を察することが出来た。出来てしまった。そして、あれは初犯ではないことも。

 

「「…………」」

「あはは……」

「……本当に俺が悪かった」

 

ラウラの冷めた視線がルークに、アリサのジットリとした視線がリィンに突き刺さり、リィンは困ったような表情で改めて金髪の少女―――アリサに謝罪し、エリオットは曖昧に笑っていた。ちなみにオットーは暖かい眼差しで見守っている。

 

「……あの、クレア大尉」

「なんでしょうか?」

「失礼を承知で伺いますが、散々な目の対処法を教えて頂けないでしょうか?念のために」

 

アリサの真剣な表情と眼差しに、クレアは()()被害者だと察した。

 

「では、あちらで二人でお話しましょう」

「はい」

 

クレアに移動を促されたアリサは素直に着いていき、ルーク達から少し離れた場所でクレアは真剣な眼差しでアリサの質問に答え始めた。

 

「まずは周囲、特に足下に気をつけるべきですね。それに足を取られて……が多かったですから」

「なるほど」

「その相手が釣りをしている時も注意してください。特に釣竿を振りかぶっている時は」

「ふむふむ」

「荷物を持って階段を移動する時も気をつけてください。何故か様々な原因でバランスを崩して……もありましたから」

「はい」

「それでも散々な目にあった時は、物理的に記憶を抹消することをお薦めします。向こうが悪いのですから遠慮は必要ありません」

「了解しました」

「以上が私からのアドバイスです。参考になったでしょうか?」

「ものすごく参考になりました。ありがとうございました。クレア大尉」

「いえ。お役に立てて何よりです」

 

お辞儀をして礼を述べるアリサに、クレアは微笑みながら敬礼する。一方……

 

「…………」

「頑張れよ、少年」

 

何となく嫌な予感を察して肩を落としたリィンに、同じく察したルークは肩に手を置いてエールを送るのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――夕日が沈み、夜となったケルディック。その宿の一室にて。

 

「今日は色々とお疲れだったな」

 

調書の際、プライベートの番号を教えられていたルークは、早速クレアに通信を繋げて会話していた。

 

『通報を受けた時は思わず呆れましたよ。後、今日のあれは早々に記憶から抹消してください。い い で す ね?

「……はい」

 

クレアの念押しにルークは素直に頷く。ルークが掛けた“保険”は帝国軍への通報であり、通報を受ければ間違いなく鉄道憲兵隊が出動すると踏んでいた。クレアが出張ってきたのは予想外ではあったが。

 

「まー、それより先日の話の段取りをしようか。その為に番号を教えたんだろ?」

『本当に学生の時から中身が変わっていないですね。少しはしゃんとして欲しいものです』

 

クレアから見事に呆れられるも、ルークは少し反論気味に言葉を返す。

 

「それを言ったらソフィーヤのやつも変わってないだろ。二ヶ月前にルーレに寄った時、相変わらず好き勝手していたようだし」

『あのソフィさんがそう変わるわけないですよ。去年再会したヴァンさんは大分大人びていましたが』

「……俺が言うのもなんだが、相当濃い面子だったよな。考古学者志望のアルテリアからの留学生に、ルーレ工科大から入学拒否された自称天才、導力演算器並みの頭脳を持つ学年トップが集っていたからな」

『……当時の戦術教官を入学からたった三ヶ月で下せるようになったルークも十分に濃い人物です』

「ごもっともな意見、ありがとうございます。……せっかくだから二人も誘って四人でどうだ?」

『……ソフィさんはともかく、ヴァンさんは連絡手段がありませんから難しいと思いますよ?』

「ヴァンは二週間ほど前に一回会っている。行き先も聞いていたから、今はオルディスにいる筈だ」

『彼処の近くには遺跡がありますから、運が良ければルークが接触出来ますね』

 

意外にも四人で会うことに乗り気なクレアに、ルークは苦笑しながら段取りを決めていく。

 

「明日の取材が終わったら、速攻でオルディスに向かってヴァンを探してみるさ」

『ソフィさんはヴァンさんを掴まえてからですね。彼女のことですから二つ返事で了承するでしょうね……多分』

「まあ……機械が友達と豪語するソフィーヤだからな」

『ええ……あのソフィさんですからね』

 

あの中で一番性格が強烈だったソフィーヤにルークは遠い目となって窓の外を見つめる。クレアも声からして同じ心境だろう。

 

その後、クレアと二、三話してからルークは通信を終え、四人で集まれればいいなと思いつつ、眠りにつくのであった。

 

 

 




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