絶剣の軌跡   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


語り草の人達

―――七耀歴1204年5月12日

 

夕日が照らすトールズ士官学院。その敷地内にある技術棟の一室にて。

 

「ん?……おいジョルジュ。このレポートというか、設計図みたいなものはなんだ?」

「それは一人、よくて二人乗りサイズの導力四輪車のデータだよ。ルーレにいる危険人物から導力バイクの設計図とデータの交換で手に入れたものだよ」

 

太った青年―――ジョルジュは苦笑いしながらバンダナの青年―――クロウの疑問に答える。

 

「ある意味導力バイクの元となったマシンといったところかな?」

「その通りだよアン。……最初は導力バイクを分解して調べたいから代わりに寄越すよう言ってきたんだけどね」

 

黒いツナギを来た女性―――アンゼリカの指摘にジョルジュは少し遠い目をして答えた。

 

「お、俺達の結晶を分解の為に寄越せとか……」

「ふふ、相当クセが強い人のようだね?」

 

クロウは頬を若干引き攣らせ、アンゼリカは興味が湧いたように笑みを浮かべる。対してジョルジュは何とも微妙な表情で頬を掻いて話を続けていく。

 

「うん。その人は昔、ルーレ工科大学から入学拒否されて、それでトールズに入学した曰く付きの人物なんだよ」

「入学拒否だと……?一体何をやらかしたらそうなんだよ?」

「その人の技術力は目が飛び出るくらい凄かったそうだけど……アンの言う通り、それ以上に相当クセが強かったそうでね。作りたいものしか作らない。興味のある機械は徹底的に分解調査。しかも分解した機械は直さずに放置。廃棄予定の機械を無断で回収。挙げ句の果てには勝手に改造……ある意味あの人以上だよ。ルーレはその人の地元だから余計にその話が飛び交って……ね」

 

その好き勝手さ故に、ルーレ工科大学は危険を感じてその人物の入学を拒否したのだ。代わりにトールズの推薦状を送ったのは正解か失敗だったかは……女神のみぞ知るだろう。

 

「その……なんつうか……強烈なやつだな」

「うん。当時の技術部も一時期魔窟と化したようだし、一番衝撃だったのは戦術オーブメントを徹底的に分解したことかな。しかも、それで後に複数のアーツの並列同時駆動やストックといった改造を施したそうだからね。ちなみに最近の噂では人工知能を独自に作り上げたとか」

「マジで何者だそいつ」

「一言で言えば……天災だね。多分、半月でジャンクパーツから導力バイクを一台作り上げるくらいの」

「……冗談だろ?」

「でも、確かにそれだけの技術力を持っているとうのは頷けるね。この資料を見る限り、アクセルを入れるだけで速度を自由に変えられるようだからね」

「そうなんだよ。資料を見た限り、燃費が悪かったりブレーキをかけないと勝手に前進するというデメリットはあるけど、“扱い易さ”という点においては称賛に値する出来映えなんだよ」

「それでいてここの卒業生とか……何の冗談だっつーの」

 

クロウが呆れた直後、入口の扉が力強く開いた。

 

「ようやく見つけたよクロウ君!!」

「お?トワか。どうしたんだよ?そんなに怒って」

「どうしたんだよ?じゃないよ!生徒会の資料にこれを紛れ込ませたの、絶対にクロウ君でしょ!?」

 

小柄な少女―――彼らと同学年であり生徒会長であるトワは顔を真っ赤に一枚の用紙をつき出す。それは一見すれば生徒会の資料のようにも見えるが、実際は卑猥な小説の痴情場面の文章を書き写したものだ。

 

「これは……ドロテ君の小説だね?これが可愛い娘ちゃん達の刺激的なものだったら良かったのに……」

「ははっ、バレたか。結構苦心したんだけどな……別の意味で」

「クロウ君!!」

 

悪戯の為に、ある意味多大なダメージを負ったクロウは特に悪びれた様子もなく軽く流そうとするも、トワの“怒ってます!!”の剣幕に、早々に折れた。

 

「ハイハイ。悪かったよ」

「~~~ッ。……そういえば何か話していたようだけど、導力バイクについて意見を出しあっていたの?」

 

一先ずは怒りを収めたトワが問い質すと、ジョルジュが苦笑いしながら答えた。

 

「どちらかと言うと、ここの卒業生の話かな?わりと有名な方の」

「それって、あれかな?語り草となっている人達の」

「その通りだよトワ。その内の一人について話題が上がっていたんだよ」

「語り草?そんなのあったか?」

 

トワとジョルジュの会話にクロウは首を傾げて頭を捻っていると、アンゼリカがその『語り草』について一番有名な話を上げた。

 

「君も知っている話だよ。その内の一番有名な話で君は血涙を流していたじゃないか。かくいう私も何て羨ましい話だと思ったことか」

「……ああ、『スケベ大魔王』の話か。確かに男としては羨ましい話だったな。……今は『二代目』の話題で持ちきりだが」

「…………」

「そんな冷めた目で見つめないでくれよ、トワ」

「フフ……そんな目を向けるトワもまた魅力的だよ」

「アン。少しは自重しなさい」

 

トワの冷めた眼差しにクロウは困ったように溜め息を吐き、アンゼリカはニヒルな笑みを浮かべ、ジョルジュはアンゼリカに呆れたように告げる。

 

実に何時もの光景であった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――同時刻。ルーレ市にあるとある工房の一室にて。

 

「……う~ん。やっぱり処理能力にまだ問題があるわね。これじゃ処理速度が追いつかずにオーバーフロー確定ね」

『ゴ迷惑オ掛ケシマス。マイスター』

「気にしない気にしない。これくらい、天才かつ生みの親たる私からすれば想定の範囲内だから♪」

 

部屋の四分の一を占拠している真っ黒な筐に取り付けられている[(×△×)]が表示されているモニターに、腰まで伸ばした深紅の髪をうなじ辺りで纏めた、青の作業服に汚れが多い白衣を羽織った女性は茶目っ気たっぷりにウインクする。

 

その女性の近くの机には写真が入れられた写真立てが置かれており、その写真に写っている四人は緑色の制服を着ている。中央には満面の笑みを浮かべ、緑色の制服の上に少し汚れた白衣を羽織った深紅の髪の少女が、少し困ったように笑っている水色の髪の少女の顔に頬をくっ付けて抱きついており、その水色の髪の少女の隣には少し笑みを浮かべた白髪の少年が、深紅の髪の少女の隣には人の良さそうな笑みを浮かべたオールバックの茶髪の少年が並んで写っていた。

 

「最終的には持ち運び出来るサイズにまで落とし込みたいんだけど、まだまだ無駄が多いかなぁ?」

『ヤハリ、会話機能ヲオミットスルノガヨロシイノデショウカ?』

「しないよ!目標は自らの意思で行動する機械なんだから、意思疏通が図れないのは本末転倒だよ!!」

『ソウデショウカ……?』

 

機械的な音声が分かりやすく困惑していると、チリンチリンと店の呼鈴が鳴り響いた。

 

『マイスター、オ客様ノヨウデス』

「この時間に誰だろ?まだジジイが来る時間じゃないのに」

 

深紅の髪の女性は疑問を浮かべながら奥の作業室からカウンターの前に出ると、ライディングブーツにショートジャケット、タイトスカート姿の水色の髪の女性―――私服姿のクレアがカウンターの向かいで待っていた。

 

「クレアじゃない。どうしてこっちに?」

『マイスター。オ知リ合イナノデスカ?』

 

備え付けのモニターに[(・_・)?]が表示され、機械的な合成音声が響き渡る。

 

「あの、ソフィさん……それは一体何なのでしょうか?」

 

クレアがそれに分かりやすく困惑していると、深紅の髪の女性―――ソフィーヤ・ハントエルガーはよくぞ聞いてくれた!!と言わんばかりに瞳を輝かせた。

 

「私が開発した人工知能『アステル』だよ!カメラとスピーカーを使えばこうして意思疏通が出来る私の自慢の作品だよ!まだ完成してないけど凄いでしょ!?」

 

ソフィーヤはカウンターから身を乗り出し、ズイッとクレアに顔を近づける。

 

「落ち着いてくださいソフィさん。顔が近いですよ」

「あはは、ごめんごめん」

 

困った表情をするクレアの言い分に、ソフィーヤは素直に謝ってクレアから顔を離していく。

 

『ソウデシタカ。申シ遅レマシタガ、私ハアステルト言イマス。以後、宜シクオ願イシマス。クレア様』

 

アステルの合成音声が壁に取り付けられたスピーカーから響き、同じく壁に埋め込まれたモニターから[(^∀^)ゞ]という記号が表示される。

 

「はい。宜しくお願いしますね」

「それにしてもどうしたの?何か用事があったけ?」

 

ソフィーヤが本気で首を傾げた姿に、クレアは呆れたように溜め息を吐いて此処に訪れた理由を力なく告げた。

 

「……先月、依頼しましたよね?」

「……あー、あれね!すっかり忘れてたよ!すぐに持ってくるからちょっと待っててね!」

 

ようやく思い出したソフィーヤはすぐに奥へと引っ込み、数秒もしない内に大きな黒のトランクケースを抱えてカウンターに戻って来た。

 

「はい、これ!」

 

ソフィーヤは満面の笑みでその黒のトランクケースをドンッ!とカウンターの上に置く。

 

「ちゃんと作ってくれていたんですね」

「心外だなぁ。依頼されたものはちゃんと作るのが私の信条だよ?」

「……学生時代、私の拳銃を勝手に分解して元通りに直さなかったのは誰でしたでしょうか?」

「そうだっけ~?ちゃんと直した筈だけどなぁ~?」

「あれは改造です」

 

クレアは学生時代のソフィーヤの所業を思い出しながら黒のトランクケースを開ける。中には少々変わった形状の長銃が納まっていた。

 

「これがご注文のオーバルレーザーライフルだよ。サイズは要望通り!威力も申し分無しの出来だよ!」

『オーバルレーザーライフルノ最大威力ハ、帝国正規軍ノ主力戦車ニ匹敵シマスノデゴ安心ヲ』

「まったく安心できません……」

 

ソフィーヤが嬉々として語り、モニターに[(>∀<)/]と表示したアステルの例を上げた解説に、クレアは疲れたような表情となる。

 

「ちなみに形態も変えられて長距離射撃も出来るから狙撃も可能だよ?数値上は主力戦車の装甲を完全貫通も不可能じゃないよ!」

「……完全に対物向けですよね?頼んだのは対人向けの筈ですが……」

「そう?威力は調節できるから十分に対人としても使えるよ?」

 

これがソフィーヤの悪癖。良くも悪くも、というか、八割は悪い方向で頼んだ以上の仕事をするのだ。学生時代に銃の整備を頼んだ際、ネジ一本まで分解した挙げ句、あろうことか勝手に威力が十倍になる改造を施したのだ。おかげで新しく買わなければならなくなった。

 

……もっとも、その改造された銃を物理的な記憶抹消という名の制裁に使いまくっていたが。

 

「せっかくだからオーブメントの調整もしない?身内価格で安くするよ!」

「結構です」

「ブーブー」

『駄目デスヨ、マイスター』

 

クレアが仁辺もなく断った事にソフィーヤは口を尖らせて文句を垂れ流し、アステルもモニターに[(-_-)]と表示して宥めようとしている。

 

「ふん。相変わらずのようだな小娘」

 

そんな不機嫌そうな声と共に扉が開き、如何にも頑固そうな老人―――G・シュミット博士が店内に入っていく。ソフィーヤは分かりやすい程に不機嫌な顔となってシュミット博士を睨み付けた。

 

「来たわね、ジジイ」

「睨む暇があったら、貴様が開発したプログラムの構想データをさっさと寄越すがいい」

「はいはい。ZCFとエプスタイン財団が共同開発している『オーバルギア』の制御プログラムでしょ。お金が足りなくて本体は作れてないから試作の域だけど……そっちでもオーバルギアを作ろうとしてるの?」

「似たようなものだ。分かったらさっさと渡すがいい。その見返りに貴様の要望通り、ARCUSと魔導杖(オーバルスタッフ)の試作品を先に譲渡してやったのだからな」

「分かってるわよ。……はい」

 

ソフィーヤは文句を言いながらも茶色い封筒を叩きつけるようにシュミット博士に渡す。シュミット博士は鼻を鳴らした後、封筒に入っていた書類を取り出し、軽く流し見た。

 

「……ふん。相変わらずの完成度だな。わざわざ儂自らが声を掛けてやって二つ返事で断ったわりにはな」

「ジジイは自分の研究したさに雑用全部押し付けるでしょ。私のやりたいことが出来なくなるから弟子入りを蹴ったのよ。その報復で私のルーレ工科大学の入学を拒否したでしょ」

「入学を拒否したのは儂ではない。在籍している教授達が決めたことだ。もう終わったことに目くじらを立てるな」

「ふーんだ。別にいいもんね。トールズでやりたいことが沢山出来たし、友達もできたからね」

『マイスター。マルデ負ケ惜シミデスヨ』

 

アステルがモニターに[(/o\)]と表示してそう伝えると、シュミット博士は興味深げにそのモニターに視線を向けた。

 

「やはりその人工知能は興味深いな。これの延長線で開発したようだが……」

「アステルはやらないよ。悔しかったら自分で作るんだね、ジジイ」

「……ふん。まあよい。用事はこれを取りに来ただけだからな」

 

シュミット博士はそう言って書類を封筒に戻し、そのまま振り返ることなく店から出ていった。

 

「……本当に相変わらずなんですね、ソフィさん」

「あははー、ごめんね?あのジジイとは会う度にこうなんだよねー」

『マイスターガ先ニ噛ミ付イテイマスガネ』

 

アステルのツッコミにソフィーヤのライフが微妙に削れたその時、クレアの持つARCUSから着信音が鳴り響いた。

 

『今大丈夫かー?』

 

ARCUSを開いて早々、聞こえてきたルークの声にクレアは通話してきた理由も察して思わず苦笑してしまった。

 

「大丈夫ですよ。今はソフィさんのお店に居ますから」

『お。どうやら良いタイミングに連絡出来たな。今ヴァンも居るからスピーカーモードで話し合うか』

「ええ」

 

クレアの言葉から誰と通話しているのかを理解したソフィーヤは笑みを浮かべ、スピーカーモードとなったクレアのARCUSに向かって話しかけた。

 

「二ヶ月振りだねルーク!」

『ああ、二ヶ月振りだなソフィーヤ。ヴァンも近くにいるぞ』

「ヴァンも!?」

『うん、そうだよ。本当に久し振りだね、ソフィーヤ。クレア。声だけだけど元気そうだね』

 

クレアのARCUSからルークの声ではない男性―――ヴァン・シューレの声が届いてくる。

 

「久し振りヴァン!でも、どうして急に?」

『実はルークとクレアで久し振りに四人で会わないかってなったそうなんだ』

『日時はクレアの非番に合わせてだけどな』

「そうなんだ。確かにクレアは軍人だからそれが妥当だよね。場所は決めているの?」

 

皆で会う事にノリノリなソフィーヤが具体的な場所を聞くと、ルークが苦笑気味に言葉を発した。

 

『それについてなんだが……』

『僕の都合なんだけど、レグラムで会うのは駄目かな?』

 

ルークの言葉を遮って、ヴァンが少し申し訳なさそうに具体的な場所を掲示する。

 

「レグラム……ひょっとしてあの城を調べるのですか?」

『うん。せっかくの集まりでこっちの都合を押し付けるようで申し訳ないんだけど……』

 

声だけでも分かる程、ヴァンが申し訳なさそうにしていると、ソフィーヤが特に気にした様子もなく告げた。

 

「それくらいいいよ!レグラムの光景は綺麗だし、霧がかかっていてもそれはそれでいい場所だからね!!もちろん、ルークの弁当付きだよね?」

『クレアだけじゃなくお前もかよ!?』

『そこは仕方ないんじゃないかな?ルークの料理は本当に美味しかったからね。今から料理人に転職したらどうだい?』

『ヴァンも乗るなよ!……取り敢えず、全員参加で決定だな』

 

その後、具体的な日時を決めたクレアはオーバルレーザーライフルの料金を支払い、ソフィーヤの店を後にするのであった。

 

 

 




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