絶剣の軌跡   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


嫌な噂

―――七耀歴1204年5月16日

 

トールズ士官学院の学院長室にて。

 

「……あの、学院長」

「ん?どうしたのかねリィン君?」

「前から気になっていたのですが……『スケベ大魔王』について心当たりがないでしょうか?」

 

神妙な面持ちのリィンは『スケベ大魔王の再来』や『二代目エロ剣士』等といった、自身に襲いかかった不名誉極まりないあだ名の源泉について、何か知っているであろうヴァンダイク学院長に思い切って問い質していた。

 

以前から囁かれて気になってはいたが、こうして意を決して問い質している理由は先日、トワ会長から『スケベ大魔王になったら絶対に駄目だからね!?』と本当に心にくる釘を刺されたことが決定的だったからだ。

 

……ついでに先日のさらに先日、魚と全く無関係な()()()()を釣り上げたリィンは金髪少女によるアーツの制裁を喰らったことでその不名誉なあだ名が更に加速したのは言うまでもない。

 

ちなみにその被害者は青い髪のポニーテールの少女である。もちろん、彼女からも木剣で制裁された。

 

ヴァンダイク学院長は顎に手を当てて少し考える素振りをした後、赴ろに話し始めた。

 

「昔、とある男女の生徒二人がおっての。その女子生徒はとても優秀で、男子生徒の方は座学は下位じゃったが実技の方は当時務めていた戦術教官でさえ本気で苦戦し、三ヶ月経つ頃には完膚なきまでに負けるほどじゃった」

「そんな方達が居られたんですね。しかし、それが一体どう……」

「じゃが、何故か二人がその場にいると五回に四回の確率で不埒な事態が起きていての。その度に彼は彼女に制裁されておったのじゃ」

「―――え?」

「それも狙ってではなく偶然での。荷物を抱えて階段を降りているところで背中を叩かれたり、釣りをしておった時に釣り針が引っかかったり、地面に転がっていたものに足を取られたり等、様々な要因で起きておったのじゃ」

 

ヴァンダイク学院長は昔を懐かしむように呟くが、リィンはそれのせいで自分は不名誉極まりないあだ名を襲名する羽目になったのかと思っていた。……しつこいようではあるが、ラッキースケベをやらかしたリィンの自業自得である。

 

そんなリィンの心境に構うことなく、ヴァンダイク学院長は話を続けていく。

 

「それがほぼ毎回起きていたものじゃから、彼は男子からは憎悪の視線を、女子からは侮蔑の視線を向けられておったのじゃ。それが交友関係にまで響くほどにの」

「…………」

「それで勉学やレポートの頼みごとを彼女に土下座して願い出る羽目での。彼女も呆れながらも渋々といった感じで見ておったのじゃ。他の二人と一緒にの」

「…………」

「その二人もそれなりに目立っておっての。一人は技術棟を魔窟と化して、もう一人はそんな三人の仲裁役に回っておったのじゃ。それで『スケベ大魔王』、『氷の女王』、『技術棟の悪魔』、『苦労人』でトールズで有名となったのじゃ」

「……凄く濃いメンバーだったんですね……ちなみに最初のお二人のお名前は?」

「ルーク・バーテル君とクレア・リーヴェルト君じゃ」

「…………」

 

まさかの人物にリィンは言葉を失った。先月の特別実習で出会ったあの二人がトールズの卒業生であったことにも驚きだが、あの二人があのあだ名の源泉だったのが一番の驚きであった。同時に、クレア大尉がルークに制裁するまでの一連の騒動も思い出し、納得していた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「―――へっくし!」

 

くしゃみが辺りに響き渡る。

 

レグラムのエベル湖が一望できる高台。そこには木製のベンチとテーブルが設置されており、その内の一つのテーブルにルーク、クレア、ソフィーヤ、ヴァンは囲って座っていた。

 

「風邪かい?ルーク」

「そんな筈はないんだけどな……誰かが噂でもしているのか?」

 

茶色のダスターコートを羽織った如何にも学者風の格好をしたヴァンが心配げにルークを見やり、鼻を抑えているルークは疑問を浮かべながら返した。

 

「大方、貴方の不埒な行いに関する噂でしょうね」

 

そんなルークに私服姿のクレアは特に心配する様子もなくアイスコーヒーを口にする。クレアの隣に座っているブラウスとスカート―――お出かけ用の服に身を包んだソフィーヤは笑ってジュースを飲んでいた。

 

「俺に対しては本当に辛辣だな!?」

「貴方にはこれで充分です」

「仕方ないんじゃない?ルークは本当にわざとかというくらい、クレアにやらかしちゃってるからね」

「そうだね。一番印象残っているのは―――」

「ヴァンさん?」

 

ヴァンの言葉を遮って、クレアはにこやかな笑顔を向ける。心なしか、彼女の周りの空気が冷え込んでおり、右手がガンホルスターに納まっている拳銃に添えられていた。

 

「……ごめんなさい。何でもないです」

 

そんなクレアの迫力に、ヴァンはあっさりと言葉を呑み込んだ。言えば、もれなく導力銃の制裁コースである。

 

トールズのみで広がったクレアの異名―――《氷の女王(アイス・クイーン)》は健在であった。

 

ソフィーヤはそんな微妙に重い(?)空気に構うことなく、木製のテーブルの上に置かれたバスケットの中にあるローストビーフとトマトのサンドイッチを掴み、美味しそうに頬張っていた。

 

「うーん。相変わらずルークの作る料理は美味しいね。これでお酒もあったら完璧だったんだけどね」

「流石にここでお酒は駄目だと思うよソフィーヤ」

「昨日ヴァンと一緒にレグラム入りして、無理言って宿の厨房を借りてまで用意したからな。第一、昼から酒盛りは流石に御免だ」

「それに、ソフィさんに付き合ったら全員酔い潰されそうですしね」

 

お酒を所望するソフィーヤにルーク、クレア、ヴァンは呆れたような冷めた視線を送る。一度、クレアがソフィーヤと一緒に飲んだそうだが、クレアは見事に酔い潰されたのだそうだ。対するソフィーヤは終始平然としていたそうで、クレアは二日酔いにも関わらず実に何時も通りだったそうだ。

 

「えー?ワイン三十本はほんの付き合い程度でしょ?」

「その量はほんの付き合い程度じゃないから」

「おかげで翌日、私は頭痛を堪えながら仕事をする羽目になったんですよ?」

「それでクレアの先輩―――ミハイルさんがお前の店に来て文句を言われただろ」

 

ミハイル・アーウィング。クレアと同じ鉄道憲兵隊に所属している人間でクレアの従兄である。

 

()()()()()からミハイルとクレアの関係は決して良好とは言えないのだが、険悪な関係とも言い切れない。何故なら、二日酔いの件もクレアに小言を言いつつも彼女を気遣って比較的軽い仕事だけになるように手配したり、後日ソフィーヤに文句を言いに行ったりと、何だかんだでクレアの事を気にかけているからだ。

 

ちなみに、ミハイルはルークに対してかなり厳しい目を向けている。理由は彼の実の妹であり、クレアとも同じく微妙な関係であるイサラの『姉さんを辱しめた女の敵は死ね』という伝言をルークに伝えた時点で推し測るべきだろう。

 

「あー。確かに仏頂面で三十分近く文句を言っていたね。全部聞き流していたけど」

「……本当に相変わらずだねソフィーヤ。昔、好き勝手に分解したり作ったりして、ルーレ工科大学から入学拒否されてトールズに入学した時のままだね」

「そっちも同じでしょ、ヴァン。それよりも、皆聞いてよ!今、トールズに面白い機械があるそうなんだ!!」

「ああ……」

「始まったな……」

「始まりましたね……」

 

両手でテーブルをバンッ!と叩いて立ち上がり、目を輝かせたソフィーヤに三人は疲れたように溜め息を吐いて呟く。そんな三人に構わず、ソフィーヤは嬉々として内容を語り始めていく。

 

「聞けば、何もない場所からいきなり現れたり、金属なのに自由自在に曲がったり、まるで意思があるように反応する機械だそうだよ!!ぜひパクって徹底的にバラして、自らの手でそれを作り上げてみたい!!」

「……元に戻せますか?」

「私が同じものを作れるようになれば大丈夫だよ!」

「そう言って昔、導力式の拳銃や戦術オーブメントを徹底的に分解した挙げ句、結局直さなかったよね?」

「……フッ。私は過去を振り返らない女なのよ」

「格好つけて誤魔化そうとするな」

(……絶対にミリアムちゃんを会わせるわけにはいきませんね)

 

厳密に言えば彼女の持つ戦術殻《アガートラム》ではあるのだが。

 

「珍しいな。お前さん達がここにいるなんてよ」

 

そんな和気藹々な場に白いコートを羽織った金髪の青年が声を掛けた。

 

「トヴァルか。そういえばレグラムには遊撃士協会(ブレイサーギルド)があるから当然か」

 

その青年―――トヴァル・ランドナーにルークは肩を竦める。そして、次にトヴァルの姿に反応したのは意外にもソフィーヤであった。

 

「あれ?トヴァル?あはは、久しぶり~」

「?知り合いなのかソフィーヤ?」

「うん。オーブメント改造のアドバイスを求めるウチのお客様だよ。勿論お金は取ってるけどね♪」

「……納得だよ。ソフィーヤは昔、アーツの並列同時駆動やストックを可能とした改造を施したからね。ルークは何処で知り合ったんだい?」

「ちょっと知り合いと一緒に()()()()を解決した時だな」

 

ソフィーヤの説明にヴァンは納得したように呟く。ルークも言葉を少々濁して説明した。

 

ENIGMA(エニグマ)の改造プランも提供したし、前世代の戦術オーブメントを新世代オーブメントの補助マシンに改造する案も発案したんだよ」

「リセット機構や同調(チューニング)機構……最初は頭痛を覚えたもんだ。……今は噂に聞くお前さんがここにいる事に驚きなんだけどな」

「…………」

 

トヴァルの言葉に、クレアは申し訳なさそうに視線を落とす。

 

現在、帝国の遊撃士は二年前の支部襲撃件以来、帝国政府の意向で大きく活動を制限されてしまっている。その舵を取った《鉄血宰相》と政府直属の組織である《情報局》の兄弟組織に所属しており、《鉄血宰相》直属の部下と囁かれているクレアに対してもあまり良い感情は抱けないのは理解は出来るのだが……

 

「……ルーク。ヴァン。今すぐこいつをエベル湖に沈めよう」

「へ?」

 

せっかくの楽しい空気がぶち壊された事に静かに頭にきていたソフィーヤの物騒な発言に、トヴァルは思わず目を丸くしてしまう。そんな彼に容赦なく追い討ちが掛かる。

 

「まぁ、せっかくの集まりに水を差されたからね。これくらいは仕方ないかな?」

「楽しく談笑の空気を見事にぶち壊されたからな。エベル湖に放り投げるくらいは大丈夫だろ」

「えっと……その……お前さん達はどういう関係なんだ?」

 

何か地雷を踏んだらしいと察したトヴァルはこめかみに汗を流しながら問い掛けると、ルーク、ソフィーヤ、ヴァンは揃って答えた。

 

『トールズの卒業生。同時に同期生で友達』

 

それだけでトヴァルは察し理解した。久しぶりの友人同士の集まりに水を差してしまったのだと。

 

「……お、俺が悪かった。別にそういうつもりで言ったわけじゃないんだ」

「謝る相手が違うでしょ」

「た、確かにそうだな……」

 

ソフィーヤの指摘にトヴァルは納得し、申し訳なさそうにクレアに向き直った。

 

「悪かったクレア大尉。せっかくの集まりに水を差しちまって」

「いえ。そう思われても仕方ないと思っています。サラさんも似たような雰囲気でしたし」

「罰としてトヴァルは今すぐ高価なワインを二本今すぐ用意してね。もちろん自腹で♪」

「勘弁してくれよ!?」

 

その後、トヴァルが泣く泣く持ってきた二本のワインをルーク、クレア、ヴァンは悩んだ挙げ句、結局楽しんだ後―――

 

バキッ!

 

お約束の如く、木製のテーブルの脚が片側だけ折れてルーク達は揃ってバランスを崩し―――

 

「何でこのタイミングで―――」

「あんっ!」

「――――――」

 

またしても()()()が炸裂し、数秒後、轟音と共にルークはエベル湖に向かって吹き飛ばされるのであった。

 

「いやー、懐かしいね。流石ふう―――」

「卒業後も変わらないなぁ……本当にお似―――」

ふ た り と も?

「「……すみません。何でもないです」」

 

 

 




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