「最近『龍』が出るらしいです。知ってましたか、隊長?」
「『龍』……前に会った奴かな」
「おぉ、やはり知っていたのですね。流石です」
一応私は古参という事になるのだろうか。
同時期に製造された個体はもうガロとジャックの二人しか残っていない。
何十年も経ち、我々の誤算も正されてきた。
機械人形は異界には呑まれないと思われていたが、それは人間と比べたらの話であり、着実に侵食は進んでいたのだ。
今話している相手も四代目のリトであり、受け継いだ超合金バットと野球帽を被っている。
「侵食レベルは?」
「私ですか?まだ2です」
「そっか」
この体は異界で回収している龍骸から取れる龍核をコアとして動いている。
素体の金属のボディに培養した人工生体組織を貼り付けて人間の見た目をさせている。
そのコアが厄介者で、機械に自我を目覚めさせ、感情を得させ、
そして
人間は異界から帰れない。
そのルールに呑み込まれてしまうのだ。
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「たいちょー、最近元気ないな」
「まぁ初期の私達も減ったからな」
私もジャックも侵食レベルは5のままだ。
私は射撃管制システムを独自改造して感情の揺れ幅を小さく、ジャックは恐怖より快楽の感情を優先して発する事で侵食を抑えている。
今では私達も隊長だ。
龍骸の発見数は月に数回。そこから予算との兼ね合いで私達は増えていく。
「ねぇ、ガロ。今度増えるのは誰だっけ?」
「五代目のハルだな」
「そっかー、外皮の節約だっけ?これ以上増やしちゃいけないのかな」
「余計な事にメモリを使わないのは流石だな……」
忘れるって機能を持ってるのが羨ましいよ。
「12人が限度なんだよ。それ以上は駄目なんだ」
「そうなんだ」
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「何故同じ型の人格を量産しないんです?」
その言葉にそこに居た研究員全員が振り返った。
「お前、新入りか」
「はい!一昨日から整備士として雇われました!」
「ったく……本部も最低限知識教えてから寄越せってんだ……」
「もしかして、聞いちゃ不味かったヤツですかこれ」
仮にも秘密組織なのだ。もしかして消される……?とドキドキしてきたその新入り整備士に年老いた研究員が答えた。
「いや、そんなビビらなくていい。整備士だし知っておくべき話だからな」
身振りでデータを画面に出すように伝える。
「今初期ロットから稼働してるのが初号機のクロ、参号機ジャック、四号機ガロの三機だ。こいつらの人格データを増やそうって話だな?」
「……はい」
「やってみたんだよ。ほら、これがそん時の実験結果だ」
画面に映し出されたのは二機の少女型ロボット。
手に持ったリボルバー拳銃からガロであると分かる。
次の瞬間。
「なっ……!?」
「見たか。コピーした方が自殺するのを」
映像ではコピーされた人格をインストールされた方が手に持ったリボルバーを口に咥え発砲する様子が映っていた。
「コピーは駄目なんだ。龍核ってのが厄介でな、人格を生むのはいいんだが同じものを二つは存在させないらしい」
研究員は映像の表示を消して整備士を振り返った。
「ドランケン・シュタインはタダじゃない、それこそ莫大な金を掛けて自殺されちゃコストに見合わん」
「それなら……その人格を元にして増やすのは……?」
「お前が思い付く程度の事を俺達が試さなかったと思うのか?……やったよ。やってみた。その結果がこれだ」
別の表示を出す。
それを見た男の表情が驚愕に歪んだ。
「これって……」
「初号機『クロ』の意識を元にして出来た十三号機『パンドラ』、こいつを止めるのに五体が犠牲になった」
「最後はクロが半ば相討ちじみた形で封印処理したんだよな」
画面に映るのは氷付けにされ、四肢がバラバラになっている一つの人形。
凍った回りに纏わりつく巨大な黒い影。
その独特な影を覚えていた男は、未だに画面から目を離せずにいた。
「新宿の惨劇の…………?」
「そう呼ばれてるな、お前ら若い世代からは」
首都を一夜で廃墟へと変え、周囲の異界化をしかけた機体。
見た目は普段接している彼女達と同じ容姿だ。
しかし、その眼から放たれる殺意が、画像越しにも関わらず男の背すじを凍らせる。
「感情を最初から持ち、侵食レベルは測定不能。最初に持った感情が殺意の人形だ」
「クロとは真逆だな、あいつはあの時侵食レベルが測定不能になったが、今も正気で稼働している」
「機械が素体だからって科学で制御出来た気になっちゃいるが、意思を持つだなんてそれこそ神の領域だ」
未だ呆然としている整備士の男に研究員の一人が最後に言った。
「手を出しちゃいけねぇ領域もあるんだよ。俺達に出来るのは現状を維持してあいつらをちゃんとした状態で異界へ送り出す。それだけだ」