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ある日の朝。
俺は目を醒ますと、自分がネプテューヌになっていることに気が付いた。
「…………は?」
ネプテューヌ。ネプ子。プラネテューヌの女神。ねぷっち。ねぷねぷ。Neptunia。
とにかく、朝焼けの光が差し込む窓に映っているのは、紫色のツンツン髪の女の子で。
俺が右手を顔の方へ近づけると、目の前の彼女も同じように。
それはつまり、そういうことらしかった。
なんでだろう。明日も仕事だと早寝をしたのが間違いだったんだろうか。
気が付いたら体が妙に縮んでいて、そんでもって声もなんか変な感じで。
よくよく考えればピンク一面のいかにも女の子~、みたいな部屋に立っていて。
つまるところ俺は、ネプテューヌになっていて。
憑依……なんだろうな。転生ではないと思う。とにかく普通の状況じゃない。
しかし、まあ、その、何だ。
……いや。
深く考えても仕方ない。
とりあえず俺は見たところネプテューヌになっている。
何が何でも、それを受け入れるしかなかった。
……にしても、なんでネプテューヌに?
ネプテューヌ。数多あるネプテューヌシリーズにおける、主人公オブ主人公。
ドがつくほどの能天気で、いわゆる元気系ロリっ子。
いや、ロリなのか? この体、どっちかというと中学生っぽいし。
確か公式の身体年齢は14歳だったような? でも女神だから実年齢五百とかいう噂も。
とにかく、少女。今目の前に映っていたのは、紛れもないネプテューヌという少女だった。
あとは、ええと。
……ネプテューヌは、プラネテューヌの女神。人々から信仰される存在。
法治国家とかそこら辺はよく分かんないけど、プラネテューヌという国を治めている。
とはいっても本編とかだとイストワールとか、ネプギアとかが仕事やってるイメージだけど。
ネプテューヌはマジで仕事しない。これは共通認識だと思う。
それでも、何だかんだ国民の平和を一番に願ってる。
きっとそれが、プラネテューヌの女神という在り方なんだろうなあ。
こんな小さい体で……って思ったけど、女神化すると割と大人になるのか。
って、あれ? もしかして俺、女神化できるのか?
何気なしに腕をぶんぶんと振るけれど、違和感は思考のうちにどこかへ消えていた。
魂と体との順応が早いのか。はたまた、そんなもの最初から存在しなかったのか。
とにかく俺の魂というやつは、このネプテューヌという体に慣れてしまったらしい。
体を二、三回ほどひねって、ぴょん、ぴょんと小さく跳躍。
さながらカンガルーのように! カンガルーのように!
……パンツ見えそうだった。
さすがにそこまでの勇気はなかった。ジャンプは極力控えるようにしよう。
今気が付いたけど、服装はジャージワンピだった。
Vとかアニメとかの、裾の短い上着にワンピースの、あれ。
あれ、ってことはこの次元はVとかアニメとかの次元なのか?
ネプテューヌシリーズってのはなんというか、各作品ごとに世界線が違う。
本筋は無印からVⅡまでの四作品で、それらは全てリメイクされてるのが特徴で。
他にはアイドルする世界線だったり、他の女神とオンゲする世界線だったり、ゾンビと戦ったり、バイクになってる世界線もあったような気がする。バイクってなんだ。
んで、今俺が着てる服装から考えるに、この世界は三作品目のVかアニメか。
ワンチャンPPだったらどうしよう。アイドルなんて、出来る気もしないけど。
閑話休題。
とにかく、女神化ができるかどうか。そのためにまた、体を動かしながら思考の整理。
女神化。国民の信仰心たるシェアエネルギーを使って、国民を守る守護女神へと変身すること。
ネプテューヌの場合はパープルハート。黒と紫を基調としたプロセッサユニットを身に纏う。
あと性格がメチャクチャ変わる。プラネテューヌの女神は変身すると性格が変わりがち。
なんだかんだそれも好きなんだけど。
さて、女神化……女神化か……女神化……。
いや、女神化ってどうやるんだ?
憑依特有の記憶とかもないし。そもそもシェアエネルギーとか感じられないし。
作中だと「ふん!」みたいな感じで変身してたけど、そんな軽いノリで変身できるのか?
アニメだとポーズ取った後、謎に全裸になってからプロセッサユニットが出てきたけど。
……てか、あれ? 全裸になるの?
そ、それはそれで遠慮するっていうか……仮にも他人の体だし……。
これは他人の体。ネプテューヌという存在を、何の因果か俺が乗っ取ってしまったもの。
つまり今の俺は、ネプテューヌという
訳が分からなかった、で済ませていいのだろうか。
でも、ネプテューヌにはこの国を治めるという、他に代えられない役割がある。
プラネテューヌという国を守り、その国民を導かなければならないのに。
たぶん、責任があるんだと思う。俺は、償わなければいけないんだと思う。
訳も分からないとはいえ彼女を殺してしまったのに、その役割まで放棄するなんて。
俺自身が許せなかった。逃げたいと思ってしまった自分が。
ならば、その役割を継がねばならないんだって、思う。
ネプテューヌとして。プラネテューヌの女神として、在らねばならない。
だから。
女神にならなければ。
それが、ネプテューヌという少女にできる、唯一の償いなのだ。
だから何としても、俺は女神化しなければいけない。
民草を守る存在に。人々を導く存在に。
なりたい……んだけどなあ。
うおおお、と全身に力を込めても、何かが起きるはずもなく。
窓には、無駄な動きをしまくったせいで、ぜえはあと肩で息をするネプテューヌが映っていた。
どうすれば女神化できるんだろう? やっぱり専用のポーズとか必要なのか?
でもさっきからそれらしいポーズしてるけど、何かが起きるはずもないし。
変身。変身……変身だよ、ネプテューヌ。
両手を腹の下部へと当てて、そのまま右手を左前方へ。
左手を握ったまま、腰のあたりに置くのを忘れずに。
そのままゆっくりと右腕を横に動かして、右前方へ達したときに、勢いよく――!
「変身!」
左腰のボタンを押して変身! 両手を広げ、プロセッサユニットが装着するイメージ!
…………。
なるわけないか。
古代の力も何もないのに、変身できるわけもなかった。
いやまあ、他のに変身できるわけでもないけど。あ、でも装着系とかだったらいけそうかも? ネプギアとかに会ったら、頼んでみようかな。そもそも存在するかどうかすら怪しいけど。
なんて馬鹿みたいなことを考えつつ、はたと一息。
今ここにいる場所は、プラネタワーにあるネプテューヌの部屋らしい。
アニメとかで見たのとそっくりだった。メチャクチャ散らかってるけど、不思議じゃない。
とりあえず、イストワールとかそこら辺に正直に説明して、状況を確認してもらおう。
あの人なら何かわかりそうだし。若干のメタも理解してくれそうだし。
なんて、希望を持って振り向いた。
その瞬間だった。
「……あれ?」
果たして俺の視界に映ったのは、これまた一人の少女だった。
紫色のツンツン髪に、特徴的な十字キーを模した脳波コントローラ。
まんまるに開かれた瞳はうすい紫色で、それは夜明けとか宵闇とかを閉じ込めたみたいで。
着ているのは白を基調としたパーカータイプのワンピース……いわゆるパーカーワンピ。
おそらくこの国のハードなんだろう。十字を模したゲーム機を片手に抱えている。
その、名は。
「あれ……? 私……?」
ネプ子。プラネテューヌの女神。ねぷっち。ねぷねぷ。Neptunia。
それは紛れもなく……ネプテューヌという、この国の女神だった。
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