虚構彷徨ネプテューヌ   作:宇宮 祐樹

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01 俺が女神でネプテューヌ

 

 ある日の朝。

 俺は目を醒ますと、自分がネプテューヌになっていることに気が付いた。

 

「…………は?」

 

 ネプテューヌ。ネプ子。プラネテューヌの女神。ねぷっち。ねぷねぷ。Neptunia。

 とにかく、朝焼けの光が差し込む窓に映っているのは、紫色のツンツン髪の女の子で。

 俺が右手を顔の方へ近づけると、目の前の彼女も同じように。

 それはつまり、そういうことらしかった。

 なんでだろう。明日も仕事だと早寝をしたのが間違いだったんだろうか。

 気が付いたら体が妙に縮んでいて、そんでもって声もなんか変な感じで。

 よくよく考えればピンク一面のいかにも女の子~、みたいな部屋に立っていて。

 つまるところ俺は、ネプテューヌになっていて。

 憑依……なんだろうな。転生ではないと思う。とにかく普通の状況じゃない。

 しかし、まあ、その、何だ。

 ……いや。

 深く考えても仕方ない。

 とりあえず俺は見たところネプテューヌになっている。

 何が何でも、それを受け入れるしかなかった。

 ……にしても、なんでネプテューヌに?

 

 ネプテューヌ。数多あるネプテューヌシリーズにおける、主人公オブ主人公。

 ドがつくほどの能天気で、いわゆる元気系ロリっ子。

 いや、ロリなのか? この体、どっちかというと中学生っぽいし。

 確か公式の身体年齢は14歳だったような? でも女神だから実年齢五百とかいう噂も。

 とにかく、少女。今目の前に映っていたのは、紛れもないネプテューヌという少女だった。

 あとは、ええと。

 ……ネプテューヌは、プラネテューヌの女神。人々から信仰される存在。

 法治国家とかそこら辺はよく分かんないけど、プラネテューヌという国を治めている。

 とはいっても本編とかだとイストワールとか、ネプギアとかが仕事やってるイメージだけど。

 ネプテューヌはマジで仕事しない。これは共通認識だと思う。

 それでも、何だかんだ国民の平和を一番に願ってる。

 きっとそれが、プラネテューヌの女神という在り方なんだろうなあ。

 こんな小さい体で……って思ったけど、女神化すると割と大人になるのか。

 って、あれ? もしかして俺、女神化できるのか?

 

 何気なしに腕をぶんぶんと振るけれど、違和感は思考のうちにどこかへ消えていた。

 魂と体との順応が早いのか。はたまた、そんなもの最初から存在しなかったのか。

 とにかく俺の魂というやつは、このネプテューヌという体に慣れてしまったらしい。

 体を二、三回ほどひねって、ぴょん、ぴょんと小さく跳躍。

 さながらカンガルーのように! カンガルーのように!

 ……パンツ見えそうだった。

 さすがにそこまでの勇気はなかった。ジャンプは極力控えるようにしよう。

 今気が付いたけど、服装はジャージワンピだった。

 Vとかアニメとかの、裾の短い上着にワンピースの、あれ。

 あれ、ってことはこの次元はVとかアニメとかの次元なのか?

 

 ネプテューヌシリーズってのはなんというか、各作品ごとに世界線が違う。

 本筋は無印からVⅡまでの四作品で、それらは全てリメイクされてるのが特徴で。

 他にはアイドルする世界線だったり、他の女神とオンゲする世界線だったり、ゾンビと戦ったり、バイクになってる世界線もあったような気がする。バイクってなんだ。

 んで、今俺が着てる服装から考えるに、この世界は三作品目のVかアニメか。

 ワンチャンPPだったらどうしよう。アイドルなんて、出来る気もしないけど。

 

 閑話休題。

 

 とにかく、女神化ができるかどうか。そのためにまた、体を動かしながら思考の整理。

 女神化。国民の信仰心たるシェアエネルギーを使って、国民を守る守護女神へと変身すること。

 ネプテューヌの場合はパープルハート。黒と紫を基調としたプロセッサユニットを身に纏う。

 あと性格がメチャクチャ変わる。プラネテューヌの女神は変身すると性格が変わりがち。

 なんだかんだそれも好きなんだけど。

 さて、女神化……女神化か……女神化……。

 いや、女神化ってどうやるんだ?

 憑依特有の記憶とかもないし。そもそもシェアエネルギーとか感じられないし。

 作中だと「ふん!」みたいな感じで変身してたけど、そんな軽いノリで変身できるのか?

 アニメだとポーズ取った後、謎に全裸になってからプロセッサユニットが出てきたけど。

 ……てか、あれ? 全裸になるの?

 そ、それはそれで遠慮するっていうか……仮にも他人の体だし……。

 

 これは他人の体。ネプテューヌという存在を、何の因果か俺が乗っ取ってしまったもの。

 つまり今の俺は、ネプテューヌという役割(ロール)を果たさなければならない、ということになる。

 訳が分からなかった、で済ませていいのだろうか。

 でも、ネプテューヌにはこの国を治めるという、他に代えられない役割がある。

 プラネテューヌという国を守り、その国民を導かなければならないのに。

 たぶん、責任があるんだと思う。俺は、償わなければいけないんだと思う。

 訳も分からないとはいえ彼女を殺してしまったのに、その役割まで放棄するなんて。

 俺自身が許せなかった。逃げたいと思ってしまった自分が。

 ならば、その役割を継がねばならないんだって、思う。

 ネプテューヌとして。プラネテューヌの女神として、在らねばならない。

 だから。

 

 女神にならなければ。

 それが、ネプテューヌという少女にできる、唯一の償いなのだ。

 だから何としても、俺は女神化しなければいけない。

 民草を守る存在に。人々を導く存在に。

 なりたい……んだけどなあ。

 

 うおおお、と全身に力を込めても、何かが起きるはずもなく。

 窓には、無駄な動きをしまくったせいで、ぜえはあと肩で息をするネプテューヌが映っていた。

 どうすれば女神化できるんだろう? やっぱり専用のポーズとか必要なのか?

 でもさっきからそれらしいポーズしてるけど、何かが起きるはずもないし。

 変身。変身……変身だよ、ネプテューヌ。

 両手を腹の下部へと当てて、そのまま右手を左前方へ。

 左手を握ったまま、腰のあたりに置くのを忘れずに。

 そのままゆっくりと右腕を横に動かして、右前方へ達したときに、勢いよく――!

 

「変身!」

 

 左腰のボタンを押して変身! 両手を広げ、プロセッサユニットが装着するイメージ!

 

 …………。

 

 なるわけないか。

 古代の力も何もないのに、変身できるわけもなかった。

 いやまあ、他のに変身できるわけでもないけど。あ、でも装着系とかだったらいけそうかも? ネプギアとかに会ったら、頼んでみようかな。そもそも存在するかどうかすら怪しいけど。

 なんて馬鹿みたいなことを考えつつ、はたと一息。

 

 今ここにいる場所は、プラネタワーにあるネプテューヌの部屋らしい。

 アニメとかで見たのとそっくりだった。メチャクチャ散らかってるけど、不思議じゃない。

 とりあえず、イストワールとかそこら辺に正直に説明して、状況を確認してもらおう。

 あの人なら何かわかりそうだし。若干のメタも理解してくれそうだし。

 なんて、希望を持って振り向いた。

 その瞬間だった。

 

「……あれ?」

 

 果たして俺の視界に映ったのは、これまた一人の少女だった。

 紫色のツンツン髪に、特徴的な十字キーを模した脳波コントローラ。

 まんまるに開かれた瞳はうすい紫色で、それは夜明けとか宵闇とかを閉じ込めたみたいで。

 着ているのは白を基調としたパーカータイプのワンピース……いわゆるパーカーワンピ。

 おそらくこの国のハードなんだろう。十字を模したゲーム機を片手に抱えている。

 その、名は。

 

「あれ……? 私……?」

 

 ネプ子。プラネテューヌの女神。ねぷっち。ねぷねぷ。Neptunia。

 それは紛れもなく……ネプテューヌという、この国の女神だった。

 

 


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