■
……それで。
「どういうこと?」
いつか見た、暗闇の世界の中で。
あの時と同じように俺を取り囲む四人へと、そう問いかける。
けれど彼女たちは俺の言葉に疑問があるらしく、互いに顔を見合わせていた。
しばらくの沈黙。そして、最初に口を開いたのは小ベールで。
「ええと……どういうこと、とは」
「いろいろ」
あの黒い翼のこと。そして、それが泡沫のように消えてしまったこと。
やがて話を始めたのは、ホワイトハートだった。
「私達がどういう存在かっていうのは、あなたも知ってるわよね?」
「……女神の偽物。夢を叶えるためだけに産まれた、存在」
「そう。でも、私達がどこまであの子たちを偽っているのかは、知ってる?」
と、いうと。
「私達はね、偽物であっても女神には変わりないのよ」
すると、彼女が俺の方へ手のひらを差し出した。
そこに現れたのは、雪のような白さを持つ一つの結晶。その中央には、電源マークをもした構造体がぼんやりとした輝きを放っている。
「シェアクリスタル……」
「元々、私達はオリジナルである彼女たちと入れ替わる予定だったんですもの」
「ですから偽物である私達も当然、
語る中小ベールの手のひらにはそれぞれ、半分に割られたシェアクリスタルが漂っている。中の構造体も縦線のものと円形のものとに、丁寧に分割されていた。
「あなたにも、その神格が備わっていたはずなのよ。なのに、あなたはいつまでたっても変身できなかった。出来損ないっていうのは、そういう意味」
灰色のクリスタルを指先で弄びながら、ブラックハートがこちらを向いて。
「でもね、今のあなたは違う。ここには三つの神格が存在している」
そう言うと、彼女の持っているシェアクリスタルがゆっくりと宙に浮かび上がり、俺の体へと向かってきた。思わず手で塞ごうとすると、それはするりと腕をすり抜けて、俺の体の中へと吸い込まれてゆく。
何ビビってんのよ、と呆れるブラックハート。どう返そうかと悩んでいるうち、同じようにホワイトハートと中小ベールのクリスタルも、俺の方へ。
「それに、あなたはみんなから信頼されてるでしょう?」
そう……なのかな。でも、そうだよね。
みんなが俺の事を信じてくれたから、俺は空を飛べたんだ。
きっとそれは、この世界で言う信仰なんだと思う。
みんなの信じる心が、俺にこの翼をくれた。
……そうか、それってつまり。
「俺は、女神になったってこと?」
「いいえ。
問いかけると、中ベールがそう答えた。
「あなたはまだ、全ての女神の力を継承したわけではありませんから」
…………。
「誰かの女神の力が、どっかから盗んできたヤツだったとか」
「いえ、そうではなく」
「やっぱ全部揃ったら仏像みたいな感じになるの?」
「だから違うと」
ダサいかダサくないかでいうと結構ダサいからな、アレ。
せっかく変身できるようになったのに、アレになるのはちょっと勇気が……。
「単純に、数が足りてないのよ」
ホワイトハートの声に、余計な考えを捨てて耳を傾ける。
「翼、出してみなさい」
え。
いや、そんな急に言われても……出そうと思えば出せるモンなの? それ。
でも言われたからにはやってみるか……ええと……。
「オラ!!」
「そんなに力込めなくても大丈夫だから」
確かに。念じればすんなり出てきてくれるっぽい。お見苦しいところを……。
背後に現れたのは、漆黒に染まった三対の翼。
改めて見ても、やっぱりこれ見た目が敵キャラなんだよな。
女神だからもっとこう、ガラスみたいな透明な翼を予想してたんだけど。
なにか解放条件とか、スキン変更とかないのかな?
「どれだけ足掻いても、あなたは女神の偽物なんだから。我慢しなさい」
……それも、そっか。
「これはそれぞれのシェアエネルギーの収集器の役割も果たしてるの。例えば、右の一番下の白い結晶は、ブランからのもの。その反対にある緑色は、ベールの」
「どちらかと言うと、翼と言うよりそちらの役割の方が大きいかもしれませんわね。あなたを無理やり女神にさせるための装置であって、飛ぶのは副次的な役割で」
「翼の中にある結晶から集めたエネルギーを真ん中に集めて……私達の神格に接続してる、と。こんなところかしら。でもまさか、こんな形になるなんて思わなかったわ」
つまり、なんだ。
それは空を飛ぶための翼じゃなくて、俺を女神にするための翼ってことか。
でもまあ、何となく納得は出来る。
女神っていうのは、空を自由に駆けるものなんだし。
それよりも、その翼が勝手に消えたのが疑問なんだけど。
「だから、神格が足りてないのよ」
背中の中央、翼の付け根のあたりをつついて、ブラックハートが答える。
「シェアエネルギーを受け止めるのに三つじゃ不安定なの。四つじゃないと」
「四つ? あと一つだけ?」
「ええ」
「……なんで? なんであと一つだけって分かるの?」
「なんで、って」
そこでみんなは、きょとん、と顔を見合わせて。
『あなたの分』
……あ、そっか。
「本来なら、あなたにも神格は備わっていたはずなのよ。でも、あなたの精製にはバグがあった。そのせいで、あなたの体は一度崩壊してしまった」
「器と神格は無事だったけど、人格は完全に消滅したのよ。だから別の人格をどこから引っ張ってこよう、って。四つの神格を利用して、別の世界から適当なヤツを」
「でも、それは正常に動くことはありませんでしたの。まあ、もっともですわね。赤の他人に何も伝えず協力させるなんて、出来るはずがありませんもの」
「結果として、あなたは神格を持たないネプテューヌの模倣品としてプラネテューヌに設置されたんですわ。プラネテューヌの支配は計画の初期段階でしたの。でも、その要であるあなたが壊れてしまったせいで、この計画の大半が狂ってしまって……」
「ちょっ、ちょっと! 一旦ストップ!」
口々に話し始める四人に、思わず手を挙げて制止をかける。
情報が多すぎる。え、なに? もしかして今、メチャクチャ重要なこと喋ってない?
というか、俺を引っ張ってきたって、どういうこと?
つまりこの四人は俺の素性を知ってるって、もしかしてそれって。
「……俺を転生させたのって、お前ら?」
こくり、と。なんの悪びれもなく、まるで俺が今まで気づいていなかったことがおかしいくらいに、彼女らは簡単に首を縦に振った。
その軽すぎる肯定に違和感を覚えたのは、この場で俺ただ一人だけだった。
……いや、方法に疑問があるわけじゃない。
実際、
おかしな話じゃない、っていうのは分かる。
でも。
「どうして、俺だったの?」
問いかけに、中ベールは。
「偶然ですわ」
ぽつりと、ただそれだけで、答えた。
……偶然、か。別に何か理由があるわけじゃなくて、本当にただの偶然。
それ以上の言葉が四人からないのは、つまりそういうことだった。
「……申し訳ありません。こちらも、あなたを選んだわけではないのです」
やがて、恭しく頭を下げながら、小ベールが俺に言ってくる。
「恨むなら好きなだけ恨んでくれて構わないわ」
「ま、それで何が変わるってわけでもないけどね」
ホワイトハートとブラックハートの言葉に、いいよ、と短く返す。
そりゃまあ、そうだ。
俺だって、それくらいは理解してる。今更文句を言ったって、何も。
でも……そっか、そういうことだったんだ。
「元の世界へ戻る方法はあるの?」
「分かりませんわ。可能かもしれませんし、不可能かも」
「少なくとも、神格が揃っていない今では無理ね。もう一つが揃えば、あるいは」
あー……そうか。まだ、俺の神格がどこにあるのかって分かんないもんな。
ならまあ、いいや。別に。急ぐことじゃない。
それに俺、仮に今すぐ神格が揃ったとしても、すぐに帰る気はないし。
「……帰りたくない、ということですの?」
んー、いや、そういうわけじゃないけど。
「きっと俺は、この物語を終わらせないといけないんだと、思う」
運命、って言ったら陳腐かもしれないけど。でも、俺がこの世界にやってきて、ネプテューヌの偽物の形をしてるのなら、それはつまりそういうことなんだ。
だってそれは、ネプテューヌの偽物である俺にしかできないことだから。だったら、先に一人で元の世界へ帰るなんて、そんなことできるはずがない。
きっとそれが、俺に与えられた
だったら、それを果たさなきゃいけないんだと、思う。
「元の世界へ戻るよりも、あの子の夢を守ることを択ぶのですか?」
「うん」
「……戻れなくなるかもしれないわよ?」
「それでネプテューヌが助かるなら」
少なくともそういう結末になりそうなのは、今までの流れから何となくわかってる。俺自身がやってきたことだしね。それくらいの覚悟は、できてる。
その上で俺は、この役割を果たしたいって思ってる。
彼女に、夢を諦めさせたくないから。
それは必ず、俺一人の犠牲よりも大事で、かけがえのないものだから。
「呆れた。前々から思ってたけど、あなた、ネプテューヌの為なら死にそうよね」
肩をすくめていうブラックハートに、確かに死ねるな、なんてことを考えていた。
だって、ネプテューヌのためなら、なあ。
それでこの物語が終わって、みんなが幸せになれるのなら。
それも悪くないかな、って思えるんだ。
「……おそらくそれが、あなたが選ばれた理由なのかもしれませんわね」
どういうこと、と聴こうとして、声が出ないことに気が付いた。
暗闇は薄れ、だんだんと光が輝きを増していく。
「時間ね。今日のところはこれではおしまいよ」
その言葉を残し、ブラックハートが消える。
「せっかくあの子たちと会えたんですもの」
「私達よりも、あの子たちに構ってあげたほうがいいですわ」
二人で言葉を紡ぎながら、中小ベールが消える。
「さ、分かったらさっさと起きなさい。夢なんて、いつまでも見てるものじゃないわ」
とん、と背中を押されて、ガラスの足場から落ちていく。
夢から醒める刻が来た。
■
「遅いわよ、黒ネプ子」
扉を開くと、そんなアイエフの声が帰ってきた。
「ごめん」
「構わないわ。そっちも疲れてるだろうし、時間はたっぷりあるもの」
「ありがとう……遠坂……」
「次言ったら本当に殴るわよ」
いやマジでごめんて。でも、声を聞いたら言わずにはいられなくて……。
「状況は?」
「これから話してもらうところです」
プラネタワーのどことも言えない、小さな部屋の中だった。棚にいくつかの機材が並べられているところを見るあたり、何かしらの倉庫ではあるらしい。
その中にいるのはアイエフとネプギア、そしてネプテューヌと、俺。
そして。
「……なんだ、出来損ないっちゅか」
恨めしそうに俺のことを見つめる、ワレチューの姿があった。
「本当はこんなことしたくないけど、事態は一刻を争うんです。だから……」
「オラオラー! さっさとゲロらないとあんなことやこんなことしちゃうぞー!」
そうだぞオイオイ! おメーよぉウチのネプテューヌ様に手ェかけさせんじゃねえぞコラ! オイ! 大丈夫っスネプテューヌ様、自分いつでもイケますんで! ゴーサインでたらすぐイケるんで! 任せてください! 確実に仕留めますんで! オラオラやっちゃうぞコラ! 雑魚が調子乗ってんじゃねえぞオイ! テメエ二度と俺たちに逆らうんじゃねえぞマジで! あ!? なに!? やるか!? お前そろそろ
「いいから」
「っス…………」
「だからそういう態度はいいから!」
ワレチューの胸倉(胸?)を掴もうとしたところで、アイエフに止められた。
「……と、とにかく。知ってることを全て私に話してください。正直に話してくれれば、手荒な真似はしませんから。私達も、そういう手段は取りたくありませんし……」
優しく声をかけるネプギアに対して、けれどワレチューはため息を一つついてから。
「オイラも本当のことは知らないっちゅよ。あのオバハンに言われたことをやったまでっちゅ」
「あんた、ここまできてまだそんな口を……」
「尋問でも拷問でも好きにやればいいっちゅ。時間の無駄ってことが分かるはずっちゅよ」
「……なんだか、本当に知らないみたいだね」
怪しさは拭えない。
でも、諦めにも似たワレチューの表情が、それを確かなものにしていた。
「何も知らない、ってわけでもないでしょ。手伝ってる手前、何かしらの情報は知ってるはずよ。この際、どんな小さなことでもいいから教えてくれない? 生憎、こっちは情報不足でね」
「知らないもんは知らないっちゅ」
「あ、そう」
冷たく言い放つと、アイエフが一歩後ろに下がる。
その背後では、どこからか取り出した刀を構えているネプテューヌがいて。
「お、お姉ちゃん? 本当にやっちゃうの?」
「当たり前だよ! プラネテューヌ流のやり方、見せてあげる! 刮目せよ!」
「そんな……こんなのノワールさんたちに見られたらどうすれば……」
「だいじょーぶ! 最悪コンクリに詰めて海に流しちゃえばバレないバレない!」
……いや。
「ダメでしょ」
「え? なんで?」
「な、なんかこう……ブランドイメージが……」
「……そうだよ! もしバレたら、お姉ちゃんのシェアが下がっちゃうかもしれないし! もっと安全な方法を探そうよ! ね? 黒いお姉ちゃんも言ってることだしさ!」
「えー。私、拷問とか一度やってみたかったんだけどなー。女王様とお呼び! って」
それ別のプレイってかプルルートの……いや、よそう。
「じゃあどうするの? 何か策でも?」
「……ちょっと、二人だけにさせて」
するとアイエフは、二人とそれぞれ一度ずつ顔を見合わせてから。
「何かあったらすぐに呼びなさいよ」
そう言って、部屋を後にしてくれた。
……さて。
「ワレチュー」
「……そういえば、そうっちゅね。お前は元々、オイラの名前も知ってるんっちゅね」
「他にも、色々」
まあ、俺もそれほど知ってるわけじゃないけど。
「脅されてる?」
「どうっちゅかね」
「大切な人を人質に取られてる。たとえば、白いネズミのお姉さんとか」
「何を」
「俺が知ってるのは、君が真に悪役ってわけじゃない、ということ」
まあ、なんていうかアレなんだよ。
ワレチュー、毎回改心の余地はあったりするんだよな。ちょっとイタズラ好きなだけっていうか、小物って言えばそれまでだけど、まあそんな感じで。
だから、この次元の彼もそうなのかもしれない。マジェコンヌに利用されてるだけで。本当は、こんなことしたくない、って思ってるのかもしれないし。
……考えが甘い、のかな。
でも、それくらいの優しさはいつも心に持ち合わせていたい。
「何から話してくれる?」
「……逆に、お前らはどこまで知ってるっちゅか?」
口を開いてくれたワレチューは、そう俺へと問い返してきた。
「女神の夢を叶えようとしていること。女神を女神じゃなくて、ただの人に成り下げようとしていること。その果てに、マジェコンヌがこの世界を乗っ取ろうとしていること」
「まあ、及第点っちゅね」
「そっか」
とにかく、マジェコンヌがこの世界を支配しようとしていることだけは、はっきりしている。夢を叶えさせようとしているのは、あくまで過程。邪魔なネプテューヌ達を排除するために取った手段に過ぎない。
まあ、それがとても厄介なんだけど。
「次はここ?」
「その予定だったっちゅ」
予定?
「だって、ここにはお前がいるじゃないっちゅか」
……ああ、そうか。
「でも、お前はバグっちゃったんっちゅよ。元がアレだったっちゅから」
「元がって……ネプテューヌが?」
「オイラ達には、女神どもの夢を覗き見る方法があったんっちゅけど」
「どういう技術で」
「知らないっちゅ。あのオバハンの能力っちゅよ」
「……そっか」
素で答えているあたり、本当のことらしいけど。
「それで、ネプテューヌの夢を覗いてみたんっちゅけど」
ふむふむ。
「あの女神、夢がなかったんっちゅよ」
…………なに?
「どういうこと」
「そのままの意味っちゅ」
それが分からないって言ってるのに。
「だからお前もバグったんっちゅよ。お前らはあいつらの夢から作られた存在なんっちゅ。でも、あの女神には夢がなかった。だから、お前もおかしくなった。出来損ないってのは、そういう意味っちゅ」
「そんな」
「予定だった、っていうのもそういう意味っちゅ。最初はここから始める予定だったんちゅけど、お前がバグったからリーンボックスから始めたんっちゅ。でも結局、お前のバグは治らなかった。だからオイラも、今後の展開は何も聞かされてないっちゅ。オイラは本当に、これからのことは何も知らないっちゅよ」
「じゃあ、何を……」
「でも、たった一つ分かることは」
するとワレチューは、もう一度俺の瞳を見つめて。
「あの女神が夢を見ることは、決してないってことっちゅ」
夢を見ない。
それはつまり、変わることを望んでいないということ。
変容を拒んでいるということ。衰退を待つだけの、不変の存在になるということ。
それは……ネプテューヌらしく、ない。絶対にそんなこと、しないはずなのに。
でも俺がここにいるっていうことは、それが正しいことの証明であって。
「そんな、はず……」
続けようとした言葉は、どこかへ消えてしまって。
やがて、しびれを切らしたアイエフが扉を開くまで、俺はずっと立ちすくんでいた。
夢を見ないということは、マジェコンヌの策略に陥らないってこと。
その証拠が俺だ。俺みたいな出来損ないがいるから、プラネテューヌは無事なんだ。
でも、本当にそれでいいのかな。
ネプテューヌが、このプラネテューヌの女神に夢が存在しないなんて、そんな。
そんな、こと。
■
「ねぷちゃん~! はやく、こっちだよ~!」
プルルートの呼ぶ声で、はたと我に返る。
プラネタワーの頂上にて。ピーシェに背中を押され、止めていた一歩を踏み出した。
「ほら、早く行くよ! プルルートが待ってる!」
「ごめんって」
だから、押さなくても大丈夫。心配しないで。
「……何か、考えてたの?」
「どうして?」
「さっきからずっと、変な顔してる」
いや、そんなことは……そんな、こと……ない、はず、だけどなあ?
思ったことが顔に出るって自覚は無いけど、どうなんだろ。
「そうだよ~? ねぷちゃん、さっきからへんなかお~」
う、そうなのか。
自分で言うのもアレだけど、感情とか面に出さないようにしてたのに。
「この際だから言うけど、結構出てるよ」
「まじすか」
「いや、普段からあんま喋んないから、顔見るくらいしか判断できなくて」
そうなのか。じゃあもっと喋ったほうがいいのかな。
いや、絶対いいよな。無口なメリットってそんなにないし。
でも……うーん。
「はずかしいの~? おしゃべりするの~」
そういうわけじゃない、けど。
「俺が、そんなに喋ってていいのかな、って」
ただでさえネプテューヌの姿を借りている存在なのに。
言動や行動まで俺にしちゃうと、なんていうか。
ネプテューヌに対して失礼じゃないのかな、って思ったりするんだよね。
俺は結局、偽物なんだから。存在してることさえ、厚かましいことなのに。
だからせめて、ネプテューヌの姿に恥じない在り方をしなきゃ、って思う。
……この世界に来てから、ずっとそう思ってる。
誰にも話したことなんてない。話せるはずがないから、ね。
「……ねぷてぬ」
「…………」
そうやって話し終えると、プルルートがこてん、と首を傾げて。
「そんなこと、きにしてたの~?」
そんなこと、って。
「どんなことがあっても、ねぷてぬはねぷてぬだよ」
「そうだよ~。ねぷちゃんは、わたしたちのねぷちゃん~!」
……………………。
いや、どういうこと?
「偽物とか~、本物とか~、そんなの関係ないよ~」
「そうだよ。本物に失礼だとか、そんなこと考えなくていい、ってこと」
するとピーシェは、戸惑う俺の手を取って。
「だってねぷてぬは、私を助けてくれたんだもん」
「……うん」
「だから、私もいまここにいる。プルルートとねぷてぬ、二人と一緒にいられる」
「そう、だけど」
「確かにさ、ねぷてぬは女神のねぷてぬからしたら偽物かもしれない。でもね、ねぷてぬは私を助けてくれた。私のことを家族だって、大切な人だって思ってくれた。その気持ちは本物のねぷてぬにはない、ねぷてぬだけの本当の気持ちでしょ?」
問いかけながら、ピーシェは俺の方を向いて、笑ってくれて。
「ねぷてぬは、私達にとっての女神だよ」
……そっか。
この二人は、俺の事を信じてくれてるんだ。心の底から。
体の奥から力が湧いてくるのを感じる。今までのものとは違う、輝かしいもの。
これが女神になることなんだって、直感的に理解できた。
確かに俺はネプテューヌじゃない。プラネテューヌの女神じゃない。
偽物の女神だ。出来損ないの、存在。本物には決してなれない。
それでも、この二人の前だけでは、本物の女神になれる気がした。
「ほら~、ねぷちゃん、こっちこっち~」
プルルートに呼ばれ、ピーシェと共に彼女の傍へ。
……そういや、なんで俺達ここにいるの?
いや、ピーシェとプルルートの二人に呼ばれたってのは分かるけど。
「分かんない。プルルートが 来たいって言ってたから」
「確か今日は一日フリーだったんじゃないの?」
「うん。だからプルルートと出かけようと思ったんだけど、ここがいいって言ったから」
すると、話を投げられたプルルートが、こちらへ振り向いて。
「わたしたち、またかえってこれたんだな、って」
……ああ。
「お姉ちゃんがいなくなって、寂しかったもん~」
「それは……ごめんね。後ろからいきなりやられちゃったから、油断してたよ」
「……でも、帰ってきてくれたからいい。ねぷちゃんも、わたしのお願い、きいてくれたもんね」
「お願いって……ああ、ピーシェを助けてくれる、ってこと?」
「うん。ねぷちゃんが連れ戻してくれたおかげで、また家族が元通りになったから」
俺とピーシェ、それぞれの手を両手で繋いでから。
「これからも、ずーっと一緒だよ」
プラネテューヌの街並みを背後に、プルルートは笑っていた。
■
次回から最終章 プラネテューヌ決戦編
七月中には更新したいですね