虚構彷徨ネプテューヌ   作:宇宮 祐樹

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26 ふたりのネプテューヌ

■

 

「天王星……うずめ?」

 

 空から降り立ったその少女に、ネプテューヌがぽつりと呟いた。

 天王星うずめ。又の名を、女神オレンジハート。

 ……英語名もそのまんまだから、あだ名とかないよなあ。

 というより、彼女だけ普通に苗字と名前だし。

 あ、でも教祖のみんなもそうか。イストワールは違うけど。

 ……昔はそれが普通で、教祖とかはそうした風習を継いでるとか?

 本編でもあんま言及なかったから、細かい所はよく分からない。

 なんてことを考えていると、きょろきょろとあたりを見回していたうずめが、ふと。

 

「こいつら、誰だ?」

 

 ……あれ。

 

「知らないの?」

「おう、全員新顔だな。どういうメンツだ?」

 

 ……彼女たちは、今代の守護女神。

 君がこの大陸から去った後に興った、人々を守る存在だよ。

 

「あー……えっと、つまり?」

 

 つまり、君の後輩ってこと。

 

「おお、なるほど! じゃあ先輩としていいトコ見せねえとな!」

 

 ぱしん、と手を叩いてうずめがにかりと白い歯を見せる。

 ……というより、このうずめはど(・)の(・)時(・)点(・)の(・)うずめなんだ?

 ダークメガミには見覚えがあるみたいだから、本編終了時だとは思うけど。

 でも、だったらネプテューヌ達のことは知ってるはずだし。

 うーん。

 

「おい、何ボーっとしてんだお前!」

「うお」

 

 腕を引く強い力と、うずめのそんな掛け声で思考から戻される。

 次の瞬間、俺の目の前を巨大な拳が通り過ぎて行った。

 

「危ねえな! もう少しで潰されるとこだったぞ!」

「ごめんごめん、ちょっと考え事を」

「しっかりしてくれよ……」

 

 そうやって呆れられつつも、手頃なビルの屋上へ下ろされる。

 五階か六階建てのビルだった。それでも、ダークメガミの膝にすら及ばない。

 明らかに本編よりも大きいよなあ、アイツ。

 

「なーに、心配すんな。俺ならやれる」

 

 本当に?

 

「ああ。何より、俺ならできるって信じてくれたから、お前は俺を呼んでくれたんだろ?」

 

 ……ああ、そうだ。そうだったよ。

 君なら力になってくれる。だから、呼んだんだ。

 俺が気弱になってどうする。しっかりしろよ。

 頬をぱんぱんと叩くと、遠くからブラックハートの声が聞こえてきて。

 

「ちょっと黒いの! その変なの、結局味方なの!?」

「おーう、バッチリ味方だぜ後輩たちよ! 俺が来たからには安心しろよな!」

「……いきなり現れて先輩ヅラしてますけど、本当にどなたですの?」

「知るか! とにかく、先輩だったら何とかしてくれよ!」

 

 とのことですが。

 

「任せとけ! ちゃんとついて来いよ、お前ら!」

 

 気持ちの良いほどの答えと同時、うずめがビルから飛び降りる。

 

「変身っ!」

 

 高らかな叫びと共に、自由落下する彼女の体が、オレンジの光に包まれた。

 太陽が地上に現れたかのような、強い輝きだった。やがて光は彼女の体に纏わるように収束していき、プロセッサユニットへと姿を変える。それは夕焼けの景色を閉じ込めたかのような、茜の装甲。そして、背負う翼は夜明けのように煌めく、東雲に染まっている。

 沈む夕陽と昇る朝陽、その二つを体に宿した太古の女神。

 それが――

 

「オレンジハート、ここに参上っ!」

 

 ぱちんとウインクを決めてから、顔の横にピースサイン。

 ただ、その決めポーズを遮るように、ダークメガミの拳が飛んでくる。

 

「ふふん、力比べだね? 負けないよー!」

 

 ぶんぶんと腕を振って、大きく勢いをつけてから、オレンジハートが拳を放つ。

 轟音。空気が震え、遠く離れたここまで衝撃波が飛んでくる。

 小細工無しの正面衝突。身の丈の何倍もある拳と、彼女の小さな拳の鬩ぎ合い。

 でも、こういうやり方の方がやっぱり、うずめらしい。

 

「でりゃあああぁぁあああっ!」

 

 拳を振り切り、オレンジハートが叫ぶ。

 その瞬間、ダークメガミの巨躯が後方へと吹(・)き(・)飛(・)ん(・)だ(・)。

 大地が削れ、ビル群をいくつかなぎ倒して、ようやく止まる。半身は崩れ落ちたビルの中に埋められていて、すぐに動き出すような様子もなかった。

 その顛末を見届けたオレンジハートが、ふふん、と胸を張って、

 

「これでどう?」

 

 自慢げなその呟きに、返ってくる言葉はなかった。

 

「あれれ? みんな、どうしちゃったの?」

「……あなた、何者なの?」

「だーかーら、言ってるでしょ? 私はオレンジハート! プラネテューヌの女神だよ!」

「はぁ? また増えたわけ?」

 

 じろり、とブラックハートが俺の事を睨んでくる。

 だ、だってしょうがないじゃん……状況が状況なんだし……。

 

「どうすんだよ、これ。今はいいけど、後々になって収拾つかねーだろ」

「いっそのこと、一人くらいこちらに回してくれても構いませんのよ? ネプギアちゃんでもプルルートちゃんでも、黒ネプちゃんでも私はぜんぜん構いませんけど……」

「……後でいいでしょ、そういう話は」

 

 若干の苛つきを含めた口調で、パープルハートが会話を終わらせる。

 そうだぞ。今ラスボス戦なんだし。さすがに真面目にやらないと。

 ……ちょっと待って? 俺がリーンボックスに行くこと、否定されてなくない?

 俺、嫌だよ? だって向こう行っても着せ替え人形になる未来しかないし。

 ネプテューヌ? ねえ? おい、聴いてんのか?

 

「あなたが一番切り替えできてないじゃない!」

「だって……」

「だってじゃないでしょ! 今のことだけ考えなさい!」

 

 ……まあ、そっか。

 俺がこの後どうなるかなんて、考えても意味のないことだ。

 だから今は、マジェコンヌを倒す事だけに集中しなきゃ。

 

「おはなしは終わった?」

 

 あ、すいません。はい、大丈夫です、はい。

 

「ええ。いつでもいけるわ」

「よーし、じゃあさっさと終わらせちゃおっか!」

 

 ふわりと上空へ舞い上がると、オレンジハートが左手の小さな盾を構える。

 シェアエネルギーの収束が感じ取れた。段々と勢いを増していくそれは、やがて目に見えるくらいの濃度になっていって、淡いオレンジ色の輝きを放ち始める。

 ダークメガミが動き出すのは、同時だった。すぐに体勢を立て直したそれは、その巨体からは考えられないようなスピードでこちらへと向かってくる。

 正直、まだ動きが早くなることに驚いた。でも、オレンジハートを脅威と見なした証拠。つまり、彼女ならダークメガミをなんとかできる。

 再びダークメガミが接近、宙に浮かぶオレンジハートへ拳を、先程よりも早い速度で振り抜く。

 けど、もう遅い。

 

「シェアリングフィールド、展開!」

 

 暗転。内蔵が持ち上げられるような浮遊感と共に、世界が宇宙色に塗り替えられる。

 ――シェアリングフィールド。

 シェアエネルギーを媒介として生成される、固有結界。展開には膨大なエネルギーが必要になるけど、その分オレンジハートをはじめとした女神たちに協力無比な力を与え、且つ相手を弱体化させる、ダークメガミへの切り札。

 本編もこれがないと、ダークメガミは倒せなかったっけ。

 実際、フィールドが展開されてから調子が良い。四肢を巡るエネルギーもより強く感じられるようになったし、体もどこか軽くなった。

 これなら。

 

「うわわわわ!? ちょっと、なにこれぇー!?」

 

 ……え?

 

「ネプテューヌ?」

「あ、黒い方の私! ごめん、助けてくれる!?」

 

 すぐさま落ちていく彼女の方へ向かって、手を掴む。

 宙づりになったまま、互いにふぅ、安堵の息。

 そっか、大ネプも巻き込まれてたのか。危ない危ない。

 近くの浮いている足場まで飛んで、そこに彼女を降ろす。

 

「どうなってるの、これ……」

「……あの女神が作った異空間。これなら有利に戦える」

「そりゃまた、とんでもねーヤツ連れてきたな、お前」

 

 あ、クロワール視点でもけっこう評価高いんだ、うずめ。

 でもよく考えたらそうか。こういうことができる人、他にいないもんね。

 やっぱりうずめって結構特殊なんだ。現実改変能力とかあるしなあ。

 歴代の女神の中でもかなり格上だよね、彼女。

 下手したらプルルートより上なのかも。

 

「誰が私より上ですって?」

「うお」

 

 急に出てくるなよ! びっくりするだろ!

 

「でも、そうねえ……あの子、私よりも強そうだから。いろいろと楽しめそうだわあ……」

「ぴいも! あの子とあそんでみたい!」

「戦闘狂ども……」

 

 なんでネプテューヌも他の女神も、変身すると好戦的になるんだろ。

 ……まあでも、ちょっとうずめと手合わせしたい気持ちもある。どれくらいの強さなのかなー、とか。どの程度俺の力が通用するのかな、とか。気になるし。

 いやでも、その程度だから。みんなとは違うから。

 ……ふう。

 

「そういえば、二人はどうしてここに?」

「あの子から頼まれたのよ。ねぷちゃんを見つけてきて、って」

「俺を?」

 

 どういうことだろう。何かやらかしたかな、俺。

 

「あ、おーい! ねぷてぬ見つけてきたよー!」

 

 ぶんぶんと手を振るイエローハートの視線の先には、こちらへ向かってくるオレンジハートと、パープルハートの姿。二人ともふわりと俺の前に舞い降りると、オレンジハートから先に口を開いた。

 

「時間もないから、簡単にいくよ? まず、アレはこの子と君の二人じゃないと絶対に倒せない」

「どうして分かるの?」

「それは先輩のカン! ……ってわけじゃないんだけど、いま戦ってる子たちもその二人も含めて、他のみんなにはダークメガミを倒せる力がないんだ。感覚というか、そのためのエネルギー? がないっていうか、そんな感じ」

 

 ……なんだそりゃ。知らなかったぞ、そんなの。

 

「覚えてない? 私たちも今までそうだったじゃない」

「でも、今まではみんなが――」

 

 言いかけたところで、ようやくその真意に気づく。

 グリーンハートを倒したのは、同じグリーンハート。

 ホワイトハートを倒したのは、同じホワイトハート。

 ブラックハートを倒したのは、同じブラックハート。

 ……ああ、そうか。そうだったよ。

 やっぱり、夢は自分の手で夢として終わらせなくちゃいけない。

 だったら、俺の偽物(ダークメガミ)を倒すには。

 俺(ネプテューヌ)と、ネプテューヌ、ふたりのネプテューヌの力が必要なんだ。

 

「分かってくれた? 私の言ってる意味」

 

 オレンジハートは最初から、それを見据えてたのかな。

 分からない。でも、きっとそうなんだと思う。

 

「みんなには、足止めをしてもらってるの」

「でも、時間はそこまでないからね。違う次元のせいなのか、シェアリングフィールドもだんだん縮(・)ん(・)で(・)き(・)て(・)る(・)し。無くなる前に、さっさと終わらせちゃおう」

 

 パープルハートの背後では、ダークメガミを中心とした戦いが繰り広げられている最中だった。膠着と言うほどでもないし、俺たちの介入がなくても勝てそうだけど、決定打には至らない感じ。

 きっと、その欠けたピースが俺たちなんだ。

 

「……これが最後よ」

 

 うん、そうだね。これが本当の最終決戦だ。

 何が何でも終わらせる。プラネテューヌを取り戻すんだ。

 ……ああ、でも。

 これが最後って言うのは、間違いかもね。

 

「……え?」

 

 行こう。

 

「よーっし! みんな、とつげきーっ!」

 

 オレンジハートの掛け声と共に、両足で大地を蹴った。

 彼我との距離はそれほど遠くない。けど、向こうは俺たちの接近には気づいてないみたい。

 流れ弾を躱しつつ、ダークメガミの上空へと回り込む。オレンジハートが指示を出してくれているのか、みんなできるだけ多方向から攻撃してくれていて、奴も思うように動けないみたい。

 ネプテューヌと並ぶ。そして互いに頷き合って、急降下。

 狙う場所は――

 

「胸だよ! きっとそこに、本体もいるはず!」

 

 オレンジハートの声に従って、ネプテューヌと同じ太刀を握る。

 そのままタイミングを合わせて、腕を振りかぶる。

 斬りつける直前でダークメガミが気づかれた。

 眉間にエネルギーが収束していく。たぶん、迎撃行動。

 けど、もう遅い!

 

「おりゃあ!」

「たああっ!」

 

 斬撃が交錯する。手応えも確かにあった。

 けど――

 

「っ、硬い!」

 

 傷はついたけど、それだけ。本体にダメージが通っていない。

 多分、分厚いガラス玉みたいな構造なんだ。本体というよりは、ダークメガミが動くエネルギーがあそこに収納されていて、そのエネルギーが同時に防壁の役割も担ってる、ってところ。

 でも、あそこが重要な部分なのは確実。そこさえ落とせれば、だな。

 初撃でそこまでは把握できた。問題はその構造をどうやって打破するかだ。

 考えろ。次の一手を早く――

 

「あぶねえッ!」

 

 ホワイトハートの声を受けて、直上へ回避行動。

 次の瞬間、ダークメガミの振り抜いた腕が俺の真下を過ぎ去っていった。

 安堵するのも束の間、奴の体から無数のレーザーが飛んでくる。

 すぐさま体を回転。なんとか被弾は避けたけど、運がいいだけ。

 急いで体制を立て直そうとして、視界に影ができていることに気づく。

 見上げたその先には、ダークメガミの背負う翼がこちらへ迫ってきていて。

 

「あ」

 

 やべ、間に合わ――

 

「そお、れっ!」

 

 ばしゅん、と。

 紫の稲妻が、暗闇に迸る。

 開けた視界に映ったのは、宇宙色に輝く空と。

 俺の事を見下ろす、アイリスハートの姿だった。

 

「だいじょうぶ?」

「……ありがと」

 

 なんて、俺の言葉をかき消したのは、ダークメガミの咆哮で。

 それはおそらく、片翼が切り落とされた苦悶によるものだった。

 

「斬っ……たの?」

「だってえ、鬱陶しかったんだもん」

 

 面倒くさそうな呟きに、何も返せなかった。

 一体どこまで滅茶苦茶なんだ。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな、を地で行くなよ。

 

「また来るわよ、ねぷちゃん!」

 

 アイリスハートと同時に後方へ飛翔、迫る拳をすんでのところで躱す。

 ずお、と空気が震える音。びりびりとした衝撃が肌に伝わってくる。

 ……こいつ、まだ早くなってる? 

 

「どんだけ暴れるつもりだよ、こいつ! これじゃ埒が明かねえぞ!」

「大丈夫です! お姉ちゃんたちが、なんとかしてくれるはず……」

「それなら早くしてくださいませんこと!? こっちの体力ももちませんわよ!」

 

 まずい、結構限界近いんだ、みんな。

 早く打開策を考えないと。ええと、どこまで分かったんだっけ!?

 ……ダークメガミの原動力は、マジェコンヌのものと同じ。

 だったら、アナザーエネルギーを動力にしてるはず。

 さっき攻撃が弾かれたのも、高濃度のアナザーエネルギーが本体を守っている可能性が高い。

 それじゃあ、アナザーエネルギーはどうやれば消滅させられる?

 ……考えてみれば、アナザーエネルギーを消滅させたこと、なくないか?

 ベールの時も、ブランとノワールの時も、俺がぜんぶ吸収した。

 その理屈で言うなら、さっきの一撃でアナザーエネルギーは吸収できたはず。

 でも、できなかった。つまり、今までと何かが違った。

 考えろ。何が足りない? どうすれば――

 

「あ」

 

 ――ネプテューヌ! 

 

「何!? 何か分かったの!?」

「いいから、こっち来て! 早く!」

 

 こっちからも向かおうとするけど、ダークメガミが行く手を遮った。

 

「このっ……!」

 

 皆の攻撃を防ぐより、阻害を優先してきた。

 多分こいつも勘づいてるんだろうな。俺だけを確実に止めようとしてる。

 攻撃は回避できてる。でも、頻度が尋常じゃない。避けるので精一杯。

 さっきまでは皆に分散してたヘイトが、一気にこっちに向いてるんだ。

 どうするか、と思考した瞬間、ダークメガミの全身に光が収束するのが見えた。

 

「うお」

 

 放たれたのは、無数の光弾だった。

 無差別の範囲攻撃。幸い、弾速があるお陰で避けれはするけど。

 このままじゃ、いつまで経ってもネプテューヌと合流できないぞ。

 行く手をどんどん遮られる。逃げ道を、逃げ道を探して――

 

「あ」

 

 駄目だ。封じ込められた。一瞬、完全に俺の動きが止まった。

 それでよかったんだ。向こうからすれば、一瞬でも十分隙になる。

 回避は手遅れ。奴の拳がすぐ目の前まで迫っている。

 体が強張る。盾の展開も間に合わない。

 まずい、このままじゃ――

 

「やらせない!」

「ねぷてぬ!」

 

 激突の瞬間、イエローハートとオレンジハートが俺の前に割り込んだ。

 

「いくよ、合わせて!」

「うん、センパイ!」

 

 そして、二人がそれぞれの拳を大きく振りかぶる。

 

「たりゃあぁぁあっ!」

「はああぁああああ!」

 

 ずどん、と。

 雷鳴にも似た轟音と共に、ダークメガミが遥か彼方へと吹き飛ばされた。

 そりゃもう、ずっと遠くまで。ぽかんと呆けられる余裕ができるくらいには。

 ……徒手空拳コンビ、えげつないな。ほんとに。

 

「やった! センパイ、すごいすごい!」

「君もなかなかセンスあるねー! うんうん、いい後輩に恵まれたなあ、私!」

 

 めっちゃ増長してるじゃん。そんなに先輩ポジション気に入ったんか。

 

「とにかく、時間ができたから今のうちに!」

 

 ああ、そうだ。ええと。

 とりあえず右腕に盾を生成して、それをそのまま取り外す。

 あれ? このまま接続モードにできるんだっけ?

 なんて思考したらすぐに、盾が中央からがしゃん、と割れて鞘みたいになる。

 ……よし。

 

「ネプテューヌ」

 

 首肯した彼女が、俺の盾に太刀を繋げる。

 ……足りないのは俺の盾だ。

 この接続システム、何気なく使ってたけど、アナザーエネルギーへの特攻なんだ。

 他の三人の時も、盾を介した攻撃が決め手になってる。

 微量だったり、そもそも本体じゃない奴は、俺一人で吸収できた。

 けど、今みたいに本体を倒す時にはやっぱり、盾が必要になってくる。

 それぞれの武器と繋がって、別の武器になるのもそういう意味なんだと思う。

 だから。

 

「今度こそ、一緒に」

「ええ」

 

 俺(ネプテューヌ)の盾と、ネプテューヌの剣。

 この二つが一つになれば、あるいは。

 

「おおおぉぉぉぉぉおおおおおおお!」

 

 震えあがるような咆哮。向こうも、これで決めるつもりだ。

 まあ、俺を倒せば終わりだしな。でも、それはこっちも同じ。

 ……ああ、そうだ。終わらせよう。

 お前の夢も、俺の物語も、全て!

 

「行くわよ!」

「うん!」

 

 共に握った刀を構え、飛翔。同時に再び、無数の光弾が雨のように飛来する。

 回避は難しくなかった。というより、タイミングも方向も、全くネプテューヌと一緒だった。

 ……偽物。ネプテューヌを模った、紛い物。

 でも、そうじゃなきゃ俺はここにいない。ネプテューヌの隣にいない。

 この物語を、終わらせられない。

 

「上ッ!」

「分かってる!」

 

 放たれた巨大なレーザーを直上へ回避、そのまま同時に剣を真上へ構える。

 いつもなら黒色で生成される刃が、今だけは眩い紫の輝きを放っていた。

 ……いける! これなら!

 

「うおおぉぉぉおおおお!」

「はあああぁぁああああ!」

 

 俺(ネプテューヌ)とネプテューヌが放つ、最初で最後の一撃。

 その名も――

 

『ツインクロス・ネプテューヌ!』

 

 ――そして。

 

■

 

「…………あれ?」

 

 突如として失われた浮遊感に、ピーシェがそんな言葉を漏らす。

 そこは、プラネテューヌの遥か上空だった。

 

「なにこれ……どう、なって……!」

 

 ふと背後を振り返ると、そこには宇宙色をした球体が浮かんでいる。 

 ただ、それはだんだんと収束していっているようにも見えた。いきなり現れたあの先輩女神の話から察するに、どうやらあれ自体があの奇妙な異空間、ということらしい。

 

「……終わったの?」

 

 返答はなく、ただ風を切る音が返ってくるのみ。

 

「っ、ねぷてぬ! ねぷてぬは!?」

 

 記憶があるのは、ふたりのネプテューヌが一撃を入れたところまで。

 そこから先は、眩い光によって視認できず、気が付けば自由落下を始めていた。

 衝撃波で投げ出されたのか、あるいはあの先輩女神によって放り出されたのか。

 真意は謎のままだが、ピーシェはそこで初めて、自分の現状に気が付いた。

 

「だめっ、まずは変身……!」

 

 目を瞑り、いつものようにシェアエネルギーを巡らせる。

 しかし、そこから光が放たれることは、なかった。

 

「……うそ、なんで?」

 

 呟いたのも束の間、ピーシェが再びあの宇宙色の球体へと振り返る。

 

 

「まさか、ぜんぶ使っちゃったってこと!?」

 話によれば、あれは莫大なシェアエネルギーを消費することによって生成された異空間。

 中にいたから分かるが、殆どシェアエネルギーで埋め尽くされているような感覚だった。

 それこそ、一国のシェアエネルギーがまるまる、あの空間に詰め込まれたかのように。

 

「そんな、どうすれば……」

「あ~、あれだよ~! お~い、おねえちゃ~ん!」

「なるほど、お前が黄色いのか! なるほど、確かに黄色いもんな!」

「その声……プルルート、それに……!」

 

 安堵の息を吐くと共に、声のする方へと振り返る。

 そこにはピーシェと同様、絶賛落下中のうずめとプルルートの姿があった。

 

「なんであんたも落ちてんの!?」

「いやー、まさかここまで使うとは思わなくてさ。張り切りすぎたみてえだな」

「張り切りすぎにも限度があるでしょ! どうすんのよこれ!」

「どうしようね~」

「そうだなあ……なんかこう、ギャグ時空っぽくして生き延びるか。ほら、あの髪の形まで地面に穴が空く奴。アレだったら最悪、全身打撲程度で済みそうだしな」

「それ言った時点で無理でしょ!」

「じゃあ~、とりさんにつかまえてもらう、ってのはどう~?」

「いや無理! 大体、鳥なんてどこにも……」

「あれ~? じゃああそこにいるの、とりさんじゃないの~?」

「あん?」

 

 プルルートの言葉に、二人が同時に空を見上げる。

 

「いました! ピーシェさんとプルルートさん、それにうずめさんも!」

「……ネプギア!」

 

 ブラックシスターの肩に掴まりながら、ネプギアが叫ぶ。

 どうやら、変身が解けたのはプラネテューヌの女神のみらしい。

 

「お姉ちゃん! 皆さん、お願い!」

「ああもう、どうしてプラネテューヌの女神って迷惑しかかけないのよ!」

「いつものことだろ!」

「では、私はプルルートちゃんを!」

 

 真っ先に飛んできたグリーンハートが、プルルートの体を抱える。

 

「ほら、あんたも! 後輩に迷惑かけてんじゃないわよ!」

「サンキュー! 助かったぜ!」

 

 悪態を吐きながらも、ブラックハートがうずめの腕を掴む。

 

「ピーシェ!」

 

 伸ばしたピーシェの手を、ホワイトハートがしっかりと握った。

 間もなくして減速したのち、ピーシェがゆっくりと地面へ足を付ける。どうやら、割とギリギリで助けられたらしい。思わず力が抜けて、へたりと地面へ倒れ込む。そんな彼女の様子を見て、ホワイトハートがもう一度、彼女の手を引いた。

 

「おい、しっかりしろよ」

「……ありがと」

「気にすんな。お前にはいろいろ貸しがあるからな」

「え? それって、どういう……」

「こっちの話だ。忘れてるんなら、それでもいい」

 

 彼女の物言いに疑問符を浮かべているうち、うずめとプルルート、それにネプギアたちも同じところへ降りてくる。顔ぶれと様子を見るに、なんとか全員無傷で地上に降りられたらしい。

 ほっとするのも束の間、何かに気づいたようにブラックハートが首を傾げて、

 

「あれ? 大きい方のネプテューヌは?」

「ここにいるよ!」

 

 待ってました、と言わんばかりに、崩れた瓦礫の裏からネプテューヌが姿を表した。

 

「おおきいねぷちゃ~、ぶじだったんだね~」

「私にはクロちゃんがいるからね! よっぽどのことがない限りへっちゃらだよ!」

「別にお前だけ置いてきてもよかったんだぜ?」

「ウソウソ! ごめんねクロちゃん、ほんと助かったよ~!」

 

 両手を合わせてネプテューヌが頭を下げるが、クロワールは明後日の方を向いたまま。

 一瞬だけ和らいだ空気も束の間、すぐに強張ってゆく。

 

「……お姉ちゃんは?」

「ねぷてぬ! ねぷてぬは!?」

 

 重なったその声に、うずめが空へと指を立てて。

 

「まだ、あの中だ」

 

 二人が見上げた先では、宇宙色の球体が未だに収縮を続けていた。

 

■

 




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