虚構彷徨ネプテューヌ   作:宇宮 祐樹

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03 ふたりのネプテューヌ

■

 

「……なるほど。別の世界から、ですか」

 

 小さな腕を組みながら、イストワールはそう告げた。

 イストワール。プラネテューヌの教祖。いーすん。Historie。

 イストワールにも二種類いるけれど、どうやらこちらは超次元の方。

 つまりいつものイストワールらしい。

 

「まったく、ネプテューヌさんはいつも面倒ごとを持って来ますね」

「今回は違うよ? だって、あの子のほうから勝手にやってきたんだもん」

 

 うーん、俺としても勝手にこっちへ連れてこられたもんだからな。

 少なくとも確かなのは、ここにいる全員がその原因ではないということ。

 それは彼女も理解しているようで、はぁ、とため息をひとつ。

 それから、ふわりと宙を舞って、俺の目の前へやってきた。

 

「さて……では、ネプテューヌさん」

「はい! なになに?」

「そちらのネプテューヌさんではなく!」

 

 実際紛らわしいしなぁ。うむ、どうしたものか。

 ……でも、この体でネプテューヌ以外の名前を名乗るのも、なんか違う気がする。

 違う、気がする。

 

「……なら、暫定的に黒ネプテューヌさんと呼びますね」

「うっわ、ネーミングセンスひどいねいーすん」

「お姉ちゃん、そろそろやめといた方がいいよ……」

 

 そんな会話を無視しながら、イストワールはこほんと息を吐いて。

 

「あなたは、このプラネテューヌに害を成す存在ですか?」

 

 害? 俺(ネプテューヌ)が? このプラネテューヌに?

 そんなこと……ああ、いや。そういうことか。

 つまり、まだ信用されてないわけだ。

 そりゃ普通は、国の女神と瓜二つの存在がいたら警戒するに決まってるよな。

 ネプテューヌとネプギアの受け入れ方がおかしかっただけで。少し考えれば分かることだ。

 だったら返答としてはもちろん、そんなことあるはずないと答えるべきなんだろうけど。

 普通に言っても信用してくれないよなぁ。イストワール、そういうキャラではないっぽいし。

 うーん。どうするか。

 ……考えるだけ無駄な気がする。

 ここは正直に言うしかないか。

 

「俺は……」

「俺?」

「あ、いや、えっと……私は……」

 

 私、って言うの、精神的にキツいと思ったから、つい。

 でもなんだか、その一人称を受け入れるのに時間はかからなかった。

 

「……私は、ネプテューヌ。この国の女神と同じ名を持つ存在」

「それが?」

「それだから……私は、この国に対して敵対するつもりはない。むしろ、この国を守るための力になりたい。それが、ネプテューヌという名を冠する責任なのだと思う。ここにいる意味なのだとも、思う。何もわからないけれど……これだけは、確か」

 

 噛まずに言えた。よかった。

 言葉を探しながらだから、少しおぼつかない口調だったけど、最低限のことは伝えられたはず。

 なんて頭の中で反省会をしていると、三人がきょとんとした顔でこちらを見つめていた。

 え、何? なんか変なこと言ったかな、俺。

 

「す……すごい喋ったね、黒い私」

 

 そんな、喋らない人みたいに言われても。

 いや、確かに緊張してたからあんま喋ってなかったな。

 

「黒い私、すっごく無口だったからさ! 何考えてるのかわかんなくて!」

「そうだよね。正直、こんなお姉ちゃんも新鮮かも」

「ちょっと二人とも、話はまだ……って、全然聞いていませんね」

 

 うん。でもまあ、分かってくれたのかな。どうなんだろう。

 

「……ネプテューヌさんたちがこうした反応ならば、疑う必要はないでしょう。仮にもこの国を守る女神なのですから。もし危険な存在だったのであれば、早急にあなたと敵対するはずですから」

「ちょっといーすん、仮にもって何? 私ってば、正真正銘プラネテューヌの女神だからね?」

「あんなに仕事を溜める女神がどこにいるんですか!」

 

 少なくともイストワールの前に二人……?

 なんてくだらないことを考えていると、とにかく、とイストワールがこちらへ向き直って。

 

「しばらくの間はこの教会に留まってもらいます。いきなり外に出てもらって、プラネテューヌの女神が二人いる、なんてことが発覚したら国民が混乱するかもしれませんから」

「私たちも行き場のない人を勝手に追い出すほど鬼じゃないし。遠慮せずゆっくりしていってよ」

 

 纏めると、いろいろ都合がいいから教会に置いてくれるらしい。

 なんともご都合主義というか。でも理にかなってはいるのか。

 

「お姉ちゃんが二人ってことは……寝る場所も用意しないとだよね?」

「えー? 別にあのベッド、二人は余裕で寝れるよ? 一緒に寝ちゃえばへーきへーき」

 

 …………。

 

「別々でお願いしていいですか?」

「えっ」

「ねぷっ」

 

 考えるより先に口が動いていた。

 

「そ、そんな……そんなに私と一緒が嫌なんて……」

 

 いや、嫌というかそういうわけではなく、何というか。

 何か駄目な気がする。分からないけど、心の中の俺が猛烈に拒否してる。

 

「もう、お姉ちゃん。一人で寝たいって人もいるんだよ? だったら配慮してあげなきゃ」

「そうですよ。それに、もし寝込みを襲われたらどうするんですか」

「私に限ってそんなことはないと思うけどなぁ……」

「というわけで、部屋はネプギアさんとで用意しますから。黒ネプテューヌさんは、そこからあまり出ないようにしておいてください。むろん、教会の中だったら自由に歩き回ってもらってもいいのですが……」

 

 ……えーと?

 つまり、なんだ。

 思いっきり監禁されるってことか、俺。

 

「そういう面もありますが、国民へ説明するタイミングを見計らうためでもあります。急にこの国に女神が二人となると内部での分裂や、最悪の場合他の国との関係にも関わりかねませんからね。不満はあると思いますが……」

 

 ああいや、それなら仕方ないよな。うん。国民のことが第一だよね。

 それに、説明とか信頼を得られた後なら、好きに街を歩いてもいいってことみたいだよね?

 なら、それまでの辛抱だ。待つのは嫌いじゃないし。

 

「あ、そういえば黒い方の私ってさ、女神化できるの?」

 

 そろそろ退屈になってきたのか、ネプテューヌが欠伸交じりにそんなことを聞いてきた。

 

「確かにそうだね。私もずっと気になってたんだ」

「自分がネプテューヌだ、と言うくらいですから出来て当然だとは思いますが……そこら辺はどうなんですか? 黒ネプテューヌさん」

 

 そ、そんな期待するような言い方をされても……困るっちゅーの。

 一度やってみたけど、できなかったし。

 そもそもやり方も分かんないし、出来るかどうかも分からない、って感じかなあ。

 

「なら実演してあげるよ! それっ、変身――」

 

 なんて、急にネプテューヌが声を張り上げたかと思うと、視界が眩い光に包まれる。

 朝日のように白いその光が張れると、果たしてそこに立っていたのは、

 

「――こんな感じ、かしら?」

 

 紫の女神、パープルハート。

 全身を包む黒と紫のスーツに、背中には透明の翼。

 電源マークを模した、煌めく瞳が俺のことを覗いていた。

 

「ちょっとネプテューヌさん、いきなり変身しないでください!」

「ごめんなさい。でも、こうした方が早いと思って……」

「こうした、って言っても今のじゃあんまり分からないと思うけど……」

 

 ほ-う、ふむふむ、なるほど。

 …………。

 

「ふんッ」

「えっ、ちょっと黒い方のお姉ちゃん!?」

「いきなり光りましたよ!? 大丈夫ですか!?」

「いいえ、これは……」

 

 そうそう。そうだよ。変身だよネプギア。

 よく言うシェアエネルギーってのは何となく理解できた。

 あとはこう……何だろうな。どっかから湧いてくるそれを集める感じ。

 手の先から、全身にかけて纏わせるように。

 果たして、光が晴れた後。俺の体は――。

 

「……あれ」

 

 身長も声も何も変わってない。ついでに胸も。デカくなるんじゃないのか。

 

「変身……してないけど」

「おかしいわね、今のは確かに、シェアエネルギーの光だったはず……」

 

 なんでだろうね。完全に俺もいけると思ってたんだけど。

 そうやって、うーんと腕を組もうとしたとき。

 

「あ、女神化してるじゃないですか。よかったですね」

 

 うん? イストワール? 何言ってるんだ?

 全然、どこも女神化なんて……

 

「…………本当ね、してるわ。ほら、その手」

 

 ネプテューヌに言われ、ふと見下ろした手のひらが、黒く染まっていた。

 そこから先、おおよそ肘まで届かないくらいまでだけど。

 パープルハートと同じようなプロセッサユニットが接続されていた。

 これが、女神化。

 女神化? 

 ……なのか?

 

「しょぼ……」

「そういう問題なの!? っていうか、それどうやったの!?」

「落ち着きなさい、ネプギア。あれは私(ネプテューヌ)なのよ? 女神化できたって不思議なことじゃないわ」

「十分不思議だとは思いますが……」

 

 呆れたような声で、イストワールがそうため息を吐いた。

 

「でも、ネプテューヌさんの言う事もあながち間違いではないかもしれませんね」

「え? それってどういうことですか?」

「つまり、あちらの黒ネプテューヌさんへもシェアエネルギーが流れている、ということかもしれません。同じネプテューヌという存在だからなのか、そこは良く分かりませんけど。でもプラネテューヌのシェアエネルギーはネプテューヌさんとネプギアさんに使われてましたから、今、黒ネプテューヌさんが使えるのはその残り、ということなのでしょうね。憶測に過ぎませんが……」

 

 なるほど、だから腕だけしか女神化できなかった、と。

 完全に変身するにはシェアをもっと集めないといけないのかな。

 ルウィーとかは三人女神化するし、割とその説が有効かもしれない。

 でも、今の俺じゃあシェアなんて集められないし。

 それに、うーん。右手だけってのも……。

 いや、ちょっと待て。もともと全身に纏うものなんだし、右手だけなわけがないだろ。

 するするする~、となんかこう、エネルギーをそのまま移動させる感じで。

 ……あ。

 

「いけた」

「いけたって……あれ? 女神化してるのってそっちの手でしたっけ?」

 

 いや、違う。今移動させた。

 えっ何それ、って驚くネプギアをよそに、左腕に纏うシェアエネルギーを右足の方へ。

 足だとふくらはぎまでっぽいな。左足に移動させてもそんな感じ。

 別にパープルハートみたいに足が伸びたり、なんてことはないらしい。

 たぶん完全に女神化できるようになったら、ちゃんとネプテューヌみたいに大人になるのかな。

 ……そうだ、両手にするとどうなるんだろ。

 

「なんだか、私たちよりエネルギーの使い方が上手い気がするわ」

「あんな風に変身することなんてなかったもんね……」

 

 ああ、両手だと手首から先だけになるのか。え? これ握力強くなったりする? 

 ネプギア、ちょっと握手しよ?

 

「え? あ、うん、別にいいよって痛い痛い痛い痛い痛い!」

 

 やっぱり強くなってるらしい。いやまあ、だから何って話になるんだが。

 なんで私が……なんて涙目になるネプギアの頭を、女神化したままの手で撫でる。

 

「そういう自由奔放なところは似てるんですね」

「私、あんなに脈略のない動きするかしら……?」

 

 疲れたようにネプテューヌが言って、そのまま再び体から光を放つ。

 

「あー、疲れた! 女神化するのも楽じゃないよー、まったく」

「勝手に変身したのはネプテューヌさんの方でしょう」

「そうしないと後輩に示しがつかないでしょ? それに、私のお陰で女神化もできたんだし」

 

 ちょっと足りないところもあるけど、なんてネプテューヌは俺へ視線を向ける。

 まあ、いろいろ足りない。0.2パープルハートくらいかな。0.2ph。ぺーはー。

 

「でも……女神化できるってことは、本当にお姉ちゃんと同じなんだ」

 

 同じ、なのだろうか。もしくは……対極か。

 そんなことは今考えても、分かるはずもなくて。

 とにかく、女神化できることが分かった今、するべきことは。

 

「部屋どこ?」

「部屋……あっ、今日のお部屋ですね? ええと、それでは来客室の方に……」

「あ、それなら私が案内します。ついでに教会の中も」

「それなら私も一緒に行くよ。人は多い方がいいでしょ?」

「ネプテューヌさんは溜まってる仕事を消化してください!」

 

 なんて、わちゃわちゃ言いつつもイストワールがいる部屋――あとでネプギアから聞いたけど、謁見の間という部屋らしい――から抜け出して。

 流れるように教会、っていうかプラネタワーの中身をまるまる案内されて。

 最上階に着いた頃にはすでに夕日が沈んでいて、そのまま泊まる部屋に案内されて。

 風呂なんて備え付けであるもんだから、そのまま一人で入ったりして。

 上がった時にちょうどネプテューヌとネプギアが二人で話してて。

 夕食までゲームしよ、なんて言うもんだから、今朝にやったゲームを三人で遊んだりして。

 なんやかんや夕食もその部屋で食べて、歯磨きもして、そのままベッドに。

 ちゃんとネプテューヌは自分の部屋に寝に行ってくれた。ネプギアも。

 一緒に寝たいー、なんて最後までわがままを言っていたけど。

 まあ、その……もっと慣れた時にお願いしようかな。

 

 とにかく。

 平凡だった。何かあるわけでもなく、適当に過ごして適当に一日が終わっていく。

 真新しい景色のはずなのに、新鮮さも特別さも、どうしてか感じられなかった。

 いやまあ、どちらかというと流されるっていうか、巻き込まれているっていうか。

 ネプテューヌを含めた全員が、俺についてそこまで問題意識を持っていなかったような気もする。

 

 ……そんなこんなで。

 俺のプラネテューヌ生活一日目は、幕を閉じるのだった。

 

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