■
『新感覚情報番組! 特に意味の無い話題を提供するネプステーションの時間だよ!』
おお。
おおお!
「おおおお!! うおおおおお!! うおあおあああああ!!!!」
「く、黒いお姉ちゃん!? 近い、近いよ! 目が悪くなっちゃう!」
馬鹿野郎、あのネプステーションだぞ!? 見逃したらどうするんだ!
これから流れる映像をワンフレーム単位で眼球に焼き付けないと!
「そんなに食いつくところなの!? これ、お姉ちゃんが思いつきで始めた適当な番組なんだけど……しかも放送も不定期だし……」
そこがいいんだよ! プラネテューヌっぽいし!
いけない、感情が高まって涙が出てきた……ネプステーション、好きだ。
「うーん……この番組がここまで続いてるの、そういう理由なのかなぁ……」
ネプステーション。ネプテューヌシリーズにかなりの頻度で登場する謎のコーナー。曰く「シナリオと独立したメタい番組だから、そこのところよろしくね!」とのこと。
内容としてはマジにシナリオ関係ない話で、プラネテューヌの長さの単位がネプテューヌの身長基準になったとか、そんなノリのニュースばっかりやってる。
さらに
ちなみに俺が一番好きなのは、アニメでプルルートが司会をした回なんだけど……
『今回はプラネテューヌのみんなに大事なお知らせです!』
いや、いや。俺の話はどうでもいい。語るべき時ではない。
重要なのは、ネプステーションという番組が実際に放映されていること。
虚構の存在であったネプステーションが実在するこの展開、かなりアツい。
そして何よりも、俺が今回のネプステーションを楽しみにしていた理由が。
『なんとなんと! このプラネテューヌに、さらに二人の女神が産まれました!』
「うおおおおおおおお!! マジかよオイ!!」
「自分のことだよね!? というか黒いお姉ちゃん、ほんとにテレビから離れたほうがいいよ! 液晶が壊れちゃう!」
おっ……やめ……やめろ! 放せネプギア!
俺はこの歴史的瞬間をこの眼に焼きつけたいだけなんだよ! 分かってくれ!
「それならそこのソファに座っててもできるよね!? お願いだから落ち着いて!」
…………それもそうか。
そうだよな、いくらアガったからって暴れていいわけじゃないし。
それに壊れたら弁償しなきゃいけないし。そんなにお金あるわけじゃないもんな。
言われた通りにソファへ座ると、「きゅ、急に落ち着いた……」なんて言葉を漏らしたネプギアが、俺の隣へと腰を下ろした。
『今回はそのお二人からそれぞれメッセージをもらってます! 順番に流していくから、テレビの前のみんなはよく聞いてあげてね!』
「はい!!」
「なんでそんないい返事なの!?」
『それじゃあまずは一人目の女神、プルルートから! VTR、どうぞ!』
驚くネプギアをよそに画面がぱっと切り替わる。
そこに映し出されたのは、机の上に置かれているプルルートの生首だった。
『みんな〜、こんにちはぁ~』
「ほあああああ!?」
「うわああああ!?」
『ちょ、ちょっとプルルート! まだ! まだ喋っちゃダメ!』
なんて叫びと共に画面外からピーシェが飛び出して、プルルートの体を抱え上げる。
ああ、身長足りなかったのね……それにしてもびっくりした。急に喋るもんな。
そうしてピーシェに抱えられたプルルートが、両手に持った原稿を読み上げた。
『えっとぉ~、新しい女神の、プルルートっていいま~す。こっちはぁ~、私のお姉ちゃんの、ピーシェお姉ちゃんで~す』
『私のことは言わなくていいから! 続き! 続きよんで!』
『は~い。えっと~、それで~……?』
原稿としばらくにらめっこをしていたプルルートは、ふいに頭を上げて、
『読めないぃ~…………』
『え? ええっと、それなら読めるところだけでいいから!』
……まだ十一歳だもんな。仕方ないよな。
それじゃあ~、なんてのんきな声を上げながら、プルルートが続けて、
『りっぱな女神さまになれるようがんばるから、よろしくね~』
そこでまた画面が切り替わって、再びネプテューヌが画面に映る。
『はい、ということでプルルートさんからのメッセージでした! いやー、あんな子供が女神になったんだから、びっくりしたよね。ブランよりも年下なんじゃないかな?』
……まあ、ピーシェよりはマシだよな。経緯とかも含めて。
そういえば女神になったら成長って止まるんだったっけ。そこら辺の設定、作品ごとに曖昧だからなぁ。国民が望むまでは成長する、みたいなのもあった気がするし。
だとしたら、ゆくゆくは元のプルルートみたいになってくれるのかな。
それだったら、ちょっと嬉しいかも。
「次だね、黒いお姉ちゃんの番。撮影はどうだったの?」
なんてネプギアの声で、ふたたび画面へと目を向ける。
あー、撮影……正直覚えてないんだよね。実は結構緊張しちゃって。
でもまあ、喋ることは喋ったから。大丈夫だとは思うよ。
「そうなんだ。上手く映ってるといいね」
『それじゃあお次は二人目の女神! これはみんなも驚くと思うよ? なにより、私が一番驚いたんだからね! ではVTR、どうぞ!』
ネプテューヌの言葉と共に、再び画面が切り替わる。
そして姿を現したのは、
『……………………』
…………あれ?
喋らねえぞコイツ。どうなってやがる。
『あ、もう喋って大丈夫だよ。カメラ回ってるし』
『えっ……あ、はい……ええと、あの、その』
とてつもなく挙動不審な動きを見せながら、俺が原稿へと目を通す。
『こっ、この度、新しく女神になった、ネプテューヌ……です。元の女神のネプテューヌとは、名前と姿が同じなだけで……別人、です。紛らわしいかもしれませんが、そこのところは、よろしくお願いします……』
「…………黒いお姉ちゃん?」
知らない。
いや、マジで知らないっすね。
『おれっ……いや、私のことは、黒ネプテューヌって呼んでくれると、助かります。まだまだ知らないことは多いですけれど、これから一人前の女神を目指して、頑張ります…………ね、ねえ。大丈夫? こんな感じで良』
そこでぶつんと映像が途切れて、ネプテューヌの方へと画面が戻る。
『はい! というわけでなんと! 私と同姓同名、姿かたちも全く同じのネプテューヌが二人目の女神だよ! 間違えないで上げてね! でも黒い方の私は私よりもおとなしいし、無口だから見ればすぐにわかると思うよ! みんなも仲良くしてあげてね!』
………………。
『そんなわけで、ネプステーションでした! またみてね!』
CMに入ると同時に、テレビの電源を無理やり落とす。
そこでふと思い立って、ネプギアへと問いかけた。
「なんだあの陰キャは」
「い、陰キャって……黒いお姉ちゃんだよ? ちょっとっていうか、ものすごく緊張してたけど……あ、でも伝えたいことは伝わってたから、そこは大丈夫だよ!」
全然大丈夫じゃねえ! なんだあれは! え!? 俺あんなんだったの!?
しかも何が恥ずかしいって、これがプラネテューヌの全国民に見られてることだよ!
これ別の意味で表歩けなくなったな! 完全にやらかした!
「ああああああああああああ」
「黒いお姉ちゃん、今日はいつにも増して元気だね……」
こうでもしないとガチ凹みするからな! 空元気だよ!
……はあ。
とにかくこれで、俺はプラネテューヌの皆に認識された。されちまった。
今度は気兼ねなく表を歩けるけど……国民には会いたくないなぁ。あんな醜態を晒した後で、街を歩けるほど俺の皮は厚くないし。しばらくは様子見だなこれ。
うう、それにしてもあんな事態になってたなんて。そらあんな様子じゃ覚えてるわけないよなぁ。意外とクるものがあるぞ、これ
もしかするとネプステーション史に残るクソ回を生み出してしまったかもしれない。
何よりも悲しいのはそれだよ。あんなに大好きな番組なのに。
……ま、過ぎたことは仕方ないよな。大事なのはこれからだよ。
最初の失敗なんて気にしないくらいの成功を収めればいいんだ。立派な女神になれば、俺にも自信がつくと思うし。これからは意識を変えないと。
で、でも……国民のみんなに会うのとかは、明日からでいいよね?
「あ、そういえば黒いお姉ちゃん、午後からピーシェちゃんが呼んでたよ?」
ピーシェが? 珍しいな、どうしたんだろう。
「えっと、確か……プルルートちゃんと一緒に買い物、って言ってたかな?」
…………ええー。
■
それからしばらくして、教会の前で。
「……なにそのサングラス」
待ち合わせていたピーシェとプルルートと合流すると、開口一番にそう聞かれた。
いや、ファッションって言うか。夏だしさ。カッコいいっしょ。
「あれ~? ねぷちゃ、風邪ひいてるの~?」
そうなんだよね。マスクが手放せなくて。
うつっちゃうかもしれないから、プルルートはちょっと離れててね。
「帽子……TOP NEPって何?」
これはマジで謎だね。なんで俺の部屋にあったんだこれ。
「ねぷちゃ~……なんだか、ふしんしゃさん? みたい~」
「……顔、全然見えないんだけど、大丈夫?」
見えないなら大丈夫。むしろそっちの方が助かるっていうか。
とにかく今日はこれで行くから。誰が何と言おうと絶対に行くから。
「………………」
「………………」
………………。
「ンぐえっ!?」
「さっさと脱げー! プルルートの教育に悪くなる!」
「ねぷちゃ~、お顔みせてよ~。さみしいよ~」
分かった、分かったから! 同時に引っ張るのだけはやめて! 体が裂ける!
なんて抵抗しているうちに、マスクもサングラスも取り上げられて、顔面を晒してしまうことに。帽子だけは何とか許してくれたけど、それだけじゃ何も隠せない。
うう、出来るだけ隠れたかったのに。なんでこんなことに……。
「もしかして、あのテレビのこと気にしてるの?」
そりゃそうだよ。思い出すから話題にしてほしくなかったけど。
ああダメだ、また記憶が蘇ってきた。羞恥心がすごい。
だから今日は落ち着くまで教会で大人しくしようと思ってたのに。
「別に誰も気にしてないって。プルルートだってこんなんだし」
「ほえ~? どうかしたの~?」
そりゃプルルートは子供だから……仕方ないこともあるけどさ。
俺も一応大人なわけだし、体裁というか、なんというか……。
「おとなとか~、子どもとか~、関係ないよ~」
それは……どういう?
「だって~、ねぷちゃもわたしも、女神になるのは初めてなんだよ~? だから~、失敗しちゃう時だってあるし~、分からないことだってあるはずだよ~」
それはそうだ。俺もプルルートも、立ち位置は同じ。この国の女神。
だからこそ失敗は許されないし、女神という在り方を全うしなければならない。
「でもぉ~、そうやって失敗とかしないと分からないことも、あると思うんだ~」
……ああ。そっか。そうなのかも。うん、そんな気がしてきた。
誰でも、初めてのことを完璧に出来るわけじゃない。何回も考えたり、失敗したりして成長するんだ。ネプテューヌだってそうだった。そうだったよ。
つまり、失敗を受け入れるのが大事ってこと。
プルルートは、それを本当の意味で理解してたんだ。
「……ありがと」
「ほえ~? ねぷちゃ、いきなりどうしたの~?」
いや……やっぱり、プルルートも女神なんだなって。
迷っている俺を導いてくれるというか、答えを授けてくれるというか。
それに失敗を受け入れるっていうのは、誰にでもできることじゃない。確かな強さと信念があるからこそ、人はそうした負の面もちゃんと受け止められるんだ。
そう考えると、やっぱりプルルートは成るべくして女神に成ったんだと思う。
「なんだかよく分かんないけど~、ねぷちゃに褒められるとうれしいの~」
にぱー、と笑顔を浮かべながら、プルルートはそうやって俺のことを見上げた。
可愛いやつめ。うりうり。今日は一日付き合ってやるからな。
……って、そういえば。買い物ってどこに行くつもりだったの?
「ぬいぐるみ屋さん。結局この前、行けなかったからさ」
ピーシェの言葉にああ、と首を縦に振る。
約束だったもんね。ピーシェと一緒に遊ぶって。
でも……今更になるけど、俺が居てもいいの?
「いいの~。というか、ねぷちゃもいっしょがいいの~」
「……そういうわけだから。どうせねぷてぬもヒマでしょ?」
う、否定できないのが悲しいな。確かに引きこもる予定だったから。
「それじゃあ、しゅっぱ~つ!」
なんて片腕を上げるプルルートを挟みながら、ピーシェと共に足を踏み出した。
■
昼下がりのプラネテューヌの街は、たくさんの人で賑わっていた。
ゲームの中だと背景しか見たことなかったから、こうして人が行き交っているのを見るのは新鮮な気分だった。そのせいでいろいろ目移りしちゃって、二人に遅れてしまうこともしばしば。はぐれるほどの人込みじゃないから、そこは大丈夫。
何よりも問題なのが、やっぱり。
「あ、新しい女神の……黒い方のネプテューヌ様って呼べばいいのかな?」
「えっと……そう、です」
「あら新しい方のねぷちゃんじゃないの。どっか遊びに行くの?」
「はい……その、プルルートと」
「黒い方のネプテューヌ様だ! ねえねえ、テレビ見たよ!」
「そ、そう……ありがと……」
「すげー、ほんとにねぷ姉ちゃんと同じなんだな! なんで帽子かぶってんの?」
「……落ち着くから?」
こうなるわけなんだ。うう、覚悟はしてたけど、やっぱり辛いなこれ。
興味を持ってくれるのは女神として嬉しいことなんだろうけど、こんなにたくさんの人と関わるなんて。みんなの期待というか、珍しいものを見る視線が少しだけキツい。
でもネプテューヌは、こういうことも経験したんだよな。その上で、国民の一人一人とちゃんと向き合ってる。すごいな、やっぱり。俺には到底できないことだ。
……やっぱり、ネプテューヌも女神なんだなあ。
いや、そんな感傷に浸ってる場合じゃないぞ。ピーシェたちと合流しないと。
「ま、待ってる人がいるから、いかないと!」
みんなごめんね、今はちょっと待っててくれ。俺が立派な女神になるまでは。
人込みをかき分けて外へと抜け出した俺に、みんなはそれ以上を聞かないでくれた。 みんな優しいな。あとでちゃんと、各々とお話しておかないと。
「……あ~。ねぷちゃ、やっときた~」
道のすぐ先、数人の国民に囲まれているプルルートが、俺に気づいて声を上げた。
「おそいよ~」
「ごめん……やっぱりみんな、いろいろ知りたいみたいで」
「そこは仕方ないよね。プルルートも同じだもん」
ばいば~い、とみんなに手を振る彼女を見て、ピーシェがそう呟いた。
「じゃあ行こ~。ぬいぐるみ屋さん、もうすぐそこだから~」
あとは道路を跨げば目的地はすぐそこ。心なしか、プルルートが嬉しそうに見える。
しかし、ぬいぐるみ屋さんとな。やっぱりプルルートはぬいぐるみが好きなんだ。
「うん~。いつかね~、自分で作れるようになりたいんだ~」
自分で。それは……すごいね。うん。
神次元のプルルートも裁縫が趣味だったし、ゆくゆくは、って感じだな。
なんてことを話していると、着いたぬいぐるみ屋さんの自動ドアがういーんと開く。
うおお、一面ぬいぐるみ。いや、そういう店なんだから当然なんだけどさ。
奥には綿や糸とか布とか、ぬいぐるみを造るための道具が揃っているみたい。
店に入るや否や、プルルートは最初から決めていたように、中を進んでいった。
「プルルート、何が欲しいの?」
「ええとね~、ねぷちゃのぬいぐるみ~」
問いかけたピーシェに、プルルートが歩きながら答える。
「そうじゃなくて~、ねぷちゃの、ぬいぐるみだよ~」
ねぷちゃのって……もしかして、俺の事を言ってるのか?
うーん、ないんじゃないかな。残念だけど俺、今日女神になったばかりだし。そういうグッズの方はなんていうか、
「だから~、じぶんでつくるの~」
並んでいるネプテューヌのぬいぐるみを一つ取って、プルルートがそう言った。
ああ、そういうことか。それに自分でつくる練習してるって言ってたもんな。
「うーんと~……お洋服の布もあるし~、綿もあったはずだし~」
俺とぬいぐるみへ交互に視線を向けながら、ぶつぶつとプルルートが呟く。
かと思うと、あ~! なんて何かを思いついたようにしながら、また足を動かして。
「これ~、お姉ちゃん、これとねぷちゃのぬいぐるみ、ほしい~」
そう言いながらピーシェへと差し出したのは、一枚の黒い布だった。
あ、そっか。脳波コン白いもんな。そこも自作しないといけないのか。
ちゃんと見てるんだな。なんだかちょっとだけ、嬉しい。
「うん、分かった。他に欲しいものとかない?」
「わたしはないよ~、ねぷちゃは~?」
え、俺? いや別に、欲しいものとかないし、あったとしても自分で買うよ。
「お金ないんじゃないの?」
だって働けるようになったもん。
これからは自分で稼がないと、女神としての示しがつかない。
それにここで俺もおねだりしたら、ピーシェの負担にもなっちゃうし。
そういうの、俺はあんまり―――ん?
「ねぷちゃ~? なんかあったの~?」
ネプギア……。
「ネプギア? ネプギアはいないよ?」
いや、あそこにネプギアンダムが……。
「は? 何それ……って、本当に何あれ? え? どういうこと?」
「わぁ~、ネプギアちゃんだぁ~!」
ネプテューヌの隣に並んでいるネプギアのぬいぐるみの中、一つだけ四角い頭と明らかにヤバイ顔をしたロボットのぬいぐるみ。それが、俺の示す者だった。
彼の者の名をネプギアンダム。ネプギアを元にして造られた、プラネテューヌの科学力の結晶。それは全体攻撃スキルとして、確かな強さを持っている。
ちなみにこのネプギアンダム、制作においてネプギアの許可は全く取ってないぞ!
「ほしい」
「え、これ……? よりによってこれなの? 他のだったらまあ、考えたけど」
「ほしい」
「じ、自分で稼ぐって言ったじゃん……やだよ、私。これ持ってレジ行くの」
「利子はつける。トイチで」
「プルルートの前でそんなこと言うな!」
叫びながら、ピーシェが俺の手からネプギアンダムを奪う。
「あーもー、買えばいいのね!? 分かった! 買ってくる!」
「ありがとう~」
「ありがとう…………!」
頬を膨らませながらレジへとずんずん歩くピーシェに、二人で手を合わせたりして。
レジから帰ってきたピーシェに、思いっきりぬいぐるみを投げつけられた。
…………フィジカルが強いと、ぬいぐるみでも武器になるんだな。
■
「あー……なんか疲れた」
「お姉ちゃん、だいじょうぶ~?」
「ありがと、大丈夫だよ。ねぷてぬのせいで疲れただけだから」
そ、そこまでなのか……なんかごめんな……。
「別にいいよ。欲しかったんでしょ? それに、ちゃんとお金返してくれるなら」
そこはマジで返す。少なくとも十日以内には必ず。
「だから、そこまで気にしなくていいって。返せるときに返してくれれば」
「お姉ちゃん、わたしも~」
「プルルートはいいよ。そんなこと気にせずに、ぬいぐるみ作り、頑張ってね」
「……うん~! わかった~!」
なんて談笑しながら、三人で歩く帰り道。太陽はそろそろ沈み始めていて、西の空が赤くなってくるころ。伸びる三つの影を見つめながら、プルルートが笑っていた。
……どうしたんだろう。やっぱり、嬉しかった?
「うん~。ぬいぐるみも買ってもらえて~、ねぷちゃといっしょにお出かけできたから~」
俺と? そんなに楽しかった?
「……プルルート、ねぷてぬのこと好きなんだよ。そうだよね?」
「そうだよ~。ねぷちゃのこと、だ~いすき!」
そ、そんなにド直球で言われると照れるな。めちゃくちゃ嬉しいし。
「なんだか~、かぞくがふえた気がして~。うれしいんだ、わたし~」
……そっか。それなら、よかった。
じゃあ、これからもずっと一緒に居てくれるかな。
「うん~! お姉ちゃんも、ねぷちゃも、ずっといっしょ~!」
夕日に照らされるプルルートの笑顔は、とても眩しいものだった。
これからずっと一緒か。いられるよな。俺だって、二人と離れたくないし。
「……プルルートのこと、あまり悲しませないであげてね」
もちろん。それに、ピーシェだって。
いなくなったらプルルートも、俺も悲しくなるから。
だからプルルートと一緒に。今までも、これからも。
「そっか……そう、なんだ」
曖昧な表情だったけれど、ピーシェはそうやって笑ってくれた。
と。
「…………あれ?」
路地裏の影に何かが走っていくのが見えて、思わず足を止める。
ネズミ……なのかな? 尻尾が生えてて、黒かった。あと妙にデカい。
なんなんだろう……何か引っかかるような……?
「……ねぷちゃ~?」
「ねぷてぬ? どうかしたの?」
いや……ごめん、先に行ってて。ぬいぐるみも持って。
「え? それって、どういう……」
いいからいいから。すぐに教会に戻るから、心配しないで。
そう言うと、しばらく俺のことを見つめていたピーシェは、プルルートの手を引いて先に行ってくれた。ありがと、ピーシェ。色々察してくれて。
心配そうな視線を送るプルルートを見送った後、手のひらにプロセッサユニットを接続。手首から先だけを女神化しながら、何かが入っていった路地裏へと入っていく。
「……はできなかったっちゅ。やっぱり、あの女神の夢はデカすぎるっちゅ」
途切れ途切れに聞こえてきたのは子供のような声。
誰かと話しているようで、曲がり角から様子を伺うと、そこには二つの影があった。
「やっぱり、あの女神は手に余るっちゅ。他の女神に手を付けてから、最後に回すべきだったっちゅよ。こればっかりはどうしようもないっちゅねぇ」
一つは灰色をしたネズミ。
そして、相対するもう一つの影は。
「……ならば、また始めなければならんな」
マジェっち。ナスの人。マザコング。洞窟マニア。
あるいは、はじめの女神。全ての元凶。
その名を。
「女神たちの夢を、叶えてやろうではないか」
マジェコンヌ――――
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