アイシア   作:ユーカリの木

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第二章:殺人鬼の正義 1

 日本中が、更科那美が投下した爆弾によって混乱していた。全てのニュースが少女の動画を報じ、事件の犯人とその動機を知ってしまった。児童買春問題が提起され、特番が開かれることになったテレビ局もあるようだ。ネット上では彼女を擁護する意見が出たかと思えばその行動を称えるものすら現れ、もはや収集がつかなくなっている。

 

 あれから急遽関東支部に呼び戻された弓鶴たちは、ISIA日本事務局関東支部長直々に事件解決を命じられた。とはいえ、逮捕の実働部隊であるアイシア班は、ブリジットとオットー以外にできることがなく、かつマスコミが押しかけたことで外へ出るのも苦労する状況となってしまい支部内に待機することになった。ラファエルは仕方なしといった様子で、遅めの昼食を取りにひとり食堂へ向かった。

 

「警察とASUは無能の巣窟だってさ。言ってくれるなあ。参ったねホント」

 

 警護課のオフィス。アイシア班の席に腰かけたアイシアが、端末に目を落としていた目を上げて困った表情を作って言った。

 

 参ったどころの話ではない。警視庁の記者会見は、予定していた内容を急遽変更する必要に迫られ対応に苦心していた。なにしろ十一歳の女児が犯人としてマスコミに名乗りを上げ、あまつさえこれから罪を犯した男どもを殺して回るというのだ。混乱しないほうがどうかしている。

 

「捜索班の様子は芳しくなさそうか?」

 

 弓鶴の問いを受けてアイシアが再び端末に目を落とす。

 

「いま警察が動画に映っていたホテルを特定したから、そこから辿っていくしかないね」

 

「どうしても後手に回るな」

 

「姿を変えられると追跡が困難になるからね。警察の顔認証追跡でも無理だよ。ブリジットが放った妖精の内一体でも更科那美を補足できれば追い付けるんだけど……」

 

「難しいのか?」

 

「相手がどこのだれを狙っているか分からないからね。そもそも、警察が補足していない犯罪者グループをどうやって見つけ出したのかな?」

 

 アイシアの疑問の解はおそらくはこうだ。

 

 協力者が更科那美に情報を流している。

 

 動画内では魔法で見つけたと言っていたが、そんなことは元型体系では無理だ。まして、いくら魔法が使えると言っても潜伏中の衣食住はどうやって調達するのか。どうしたって資金は必要だ。十一歳の女児がそんな金を持っているはずがない。

 

 アイシアの視線が虚空を泳ぐ。

 

「協力者は更科那美に信頼されている人物。もしくは信頼させられるだけのコミュニケーション能力に長けた人物。児童買春グループの情報を持ち、かつ、子どもを匿えるだけの資金を持っている」

 

「今ごろ警察が躍起になって探してるだろうな」

 

 アイシアの目が弓鶴で止まる。

 

「だね。私たちが考えても意味はない。それよりも更科那美の人物像をもう少し深く知りたいかな。洗脳の可能性も無くはないからね」

 

「白鷺小百合に会ってみるか?」

 

「さすがにあの動画の後なら口を割ってくれそうだけど、別の視点も欲しいな。他には職員っていたかな……」

 

 端末でアイシアが資料を漁り出す。

 

「あったあった。ひとり女性職員がいるね。というか、いま気づいたけど夜に職員が五人もいるなんて変だね」

 

「確かにな。そういう目的だったんだろ」

 

 弓鶴が吐き捨てる。考えるだけで吐き気がするような催しが定期的にされていたに違いない。

 

「稲垣本部長はたぶん勘づいてたんだろうね」

 

「いまは本部が変わったから本部長じゃないだろ」

 

 些細なことはどうでもいいよ、と言ってアイシアが警視庁に映像で連絡を入れる。幾度か事務的なやり取りをした後、警察側の担当者が立体映像で浮かび上がる。話題に上がった稲垣だった。

 

「埼玉県警の稲垣だ。私の方がそちらへの通りが良いだろうから出させてもらった」

 

「助かります。ASUのアイシアです。お忙しいでしょうし端的に。児童養護施設の職員へお話を伺いたいのですが、警官を一名お借りできませんか?」

 

 ASUにももちろん捜査権はあるが、事情聴取をする場合は警察官と一緒に行うことが多い。警察官を前に出した方が、話がスムーズに行くからだ。

 

「白鷺小百合と桜井芽衣(さくらいめい)のことか? 報告書として既に上がっているはずだが、なにか理由がありそうだな」

 

「いえ、単純に更科那美の人物像が知りたくて、白鷺小百合にももう一度面会はしたいのですが、白鷺とは別視点で話を伺いたいんです」

 

 稲垣が黙考する。

 

「逮捕時のためということか」

 

「そうです。相手は最高位級の魔法使いの可能性が高いので、こちらとしても詳細な情報を掴んでおきたいんです」

 

「いいだろう。埼玉県警から一名そちらに寄越す」

 

「ありがとうございます」

 

「なに、こちらからも二三質問があるのだが、刑事課とはまともに連携が取れなくてな。困っていたところだから警備課から連絡があって助かった」

 

 弓鶴は思わず苦笑する。あの連中が一般人と馬が合うわけがない。

 

 魔法使いは一般人を見下している。魔法が使えることがより上位の種であると自認しているのだ。特に生まれてからすぐに魔法使いになった生粋の魔導師はその傾向が特に強い。

 

「刑事課は魔法使いらしい魔法使いの筆頭ですからね」

 

 アイシアも苦笑を隠さなかった。

 

 そのようだな、と稲垣も皮肉気味に笑ったところで話を戻した。

 

「更科那美が洗脳されている可能性はあの動画からは分からないか?」

 

「可能性はあります。それを確認する意味でも彼女の人物像が知りたいんです」

 

「アイシア君の見解ではどうだね?」

 

「私個人の見解では洗脳はされていないですね」

 

「根拠は?」

 

「元型魔法で洗脳された場合、洗脳した側の精神が色濃く反映されることが多いんです。更科那美の動画を見る限りではその様子が見受けられなかったので、洗脳されていないと考えています」

 

「ならあの動画で発した言葉は更科那美自身の言葉だと?」

 

「それはなんとも。台本があるかもしれないし、ないかもしれない。本心かどうかまではASUの本分ではありませんね」

 

「確かに、警察側の仕事だな」

 

「ところで、白鷺小百合は例の件を供述しましたか?」

 

「あの放送の後すぐに任意で事情聴取をかけたら自供した。取り調べの動画があるが見るかね?」

 

「お願いします」

 

 稲垣が端末を取り出し操作をすると映像が切り替わる。画面上に、取り調べ室の中にいる中年警官と白鷺小百合の姿が表示された。

 

 中年警官が取り調べを始める。

 

「急にご足労頂き申し訳ございません。気になる点がありましたので再度お呼びさせて頂きました。ご協力いただき感謝します」

 

「いえ、例の報道の件ですよね」

 

 答える白鷺の顔色は悪い。状況を考えれば当然だろう。

 

「児童養護施設光の森で性的虐待が行われていたことは事実ですか?」

 

「……はい、事実です」

 

「あなたはそれを知っていたわけですね。いつからですか?」

 

「私が知ったのは一か月前くらいからです」

 

「というと、もっと以前から行われていたと?」

 

「おそらくは……」

 

「警察に届け出は出さなかったんですか?」

 

「……脅されていたんです」

 

 中年警官が目を細める。

 

「どう脅されていましたか?」

 

「警察に話したら殺すと。俺たちのバックには大物が付いていると言っていました」

 

「それは東京都の事件と関係があるか分かりますか?」

 

「いえ、分かりません」

 

「では、事件当時も性的虐待が行われていることをあなたは知っていましたね?」

 

 白鷺の口が固まる。中年警官がその背を言葉で押す。

 

「知っていたんですね?」

 

「……はい。私が那美ちゃんを連れだすことに協力しました」

 

「連れ出す……つまり、彼らに協力していたということですか?」

 

「協力させられていたんです!」

 

 白鷺が悲痛の声を上げる。

 

「脅されて、協力しないと殺すぞって……。私、怖くて、逆らえなくて……」

 

 急に白鷺が怯えだすと震える自身の身体を抱きしめた。中年警官が額を手で抑える。

 

「つまり、あの児童養護施設は男たちにとって性的虐待をする場であったということですか?」

 

「……はい。その手の人たちに売ってるという話も盗み訊いたことがあります」

 

 ここで点と点とが繋がった。東京都の被害者グループは、児童養護施設で女児を調達していた可能性が高い。男の下種な欲望に満ちた最悪の繋がりだ。死で償えという気分になってくる。思わず弓鶴は頭を振った。思考が更科那美と似てきている。善悪の判断はASUの領分ではない。

 

「更科那美が動画で言っていた顧客リストなるものに心当たりはありますか?」

 

「いいえ、分かりません」

 

「更科那美についてですが、もう一度どんな子か教えてください」

 

「……前も話しましたが聡明な子です。雰囲気も子どもよりも大人に近くて、色気みたいなものを感じるときがあります。こういう仕事をしているとたまにそういう子はいると先輩から教わったことがありますが……」

 

 そこでアイシアが、んっ、と吐息を漏らした。

 

 映像の中の中年警官は質問を続けていく。

 

「他には?」

 

「誰とでも仲良くなれる子でした。施設には色んな子がいますが、全員と仲良くしゃべったり遊んでいたりしました」

 

「つまり人気者ということですか?」

 

「はい、そうです」

 

「魔法使いの兆候はありませんでしたか?」

 

 沈黙。思考しているのか白鷺の目が泳ぐ。

 

「……いえ、ありません」

 

「もう一度よく思い出してください。どんな些細なことでも構いません。更科那美の周囲で変な光が見えたとか、彼女がいない場所で彼女の声が聞こえたとか、見えない場所が見えているような様子だったとか、心を読んでいるようだったとか。なんでもいいです。なにかありませんか?」

 

 再度沈黙するも、白鷺の答えは同じだった。

 

「……ありません」

 

 映像が途切れて画面が稲垣の姿に切り替わる。

 

「なにか分かったかね?」

 

 なにか考え込んでいたアイシアが一本指を立てた。

 

「ひとつあるかもしれない可能性を。更科那美が元々魔法使いで、姿を変化させていたかもしれません」

 

 稲垣の表情には疑問。だがすぐに氷解する。

 

「魔法で子どもの姿になっているということか?」

 

「あくまで可能性です。高位の元型魔導師ならば可能なことです。現にうちのブリジットが行っていますから」

 

「動画で青年が鎧武者に戻った光景を見せられたら信じるしかあるまい」

 

 魔法は奥深いものだな、と稲垣が一人ごちる。

 

「こちらは更科那美の戸籍を洗ってみよう。桜井芽衣の聴取は見るかね?」

 

「いえ、直接訊きに行きます。住所を伺っても?」

 

「既に報告書として捜査クラウドに上がっている。そちらを確認するといい」

 

「分かりました」

 

 通信が切れると同時に、アイシアが端末を操作して資料を呼び出す。弓鶴にも見られるよう画像を空中へ映した。

 

「パートで働いてる人みたいだね。年齢は四五歳。家は赤羽だね」

 

「それなら関東支部からの方が近いな。このままAWSで行くか」

 

「その前に」

 

 立ち上がった弓鶴を止めたアイシアが軽くお腹をさする。

 

「お昼食べようか。もう午後三時だよ。さすがにお腹すいちゃった」

 

 弓鶴は苦笑いした。急いている心境を見抜かれたのだ。一度落ち着けということだろう。強張っていた身体をほぐすように軽く伸びをする。

 

「ならエルと合流するか。どうせまだ食堂で一人カルボナーラ祭りでもしてるだろ」

 

 

 

 案の定カルボナーラ祭りを繰り広げていたラファエルと合流して昼食を取った後、弓鶴たちは赤羽にある桜井宅へ向かった。

 

 一軒家の前には、丁度着いたところなのか車両の傍に私服警官と思わしき男性が立っていた。ASUを示す深紅のローブを見て眉をひそめる。いつもの反応だ。すぐに表情を戻した警官が敬礼する。アイシアが手を上げて挨拶を交わし、早速桜井宅のインターホンを押した。

 

 家の中から出てきたのは、穏やかそうなふくよかな女性だった。女性は弓鶴たちを見て首を傾げた。

 

「あら、えーっと……」

 

「ASUのアイシアです。桜井芽衣さんですね?」

 

「はい、そうですけど。ASU? ああ、魔法使いの方ですか」

 

「はい。児童養護施設殺人事件の件についてお話を伺いに来ました。こちらの方は埼玉県警の方です。一応警察官がいた方がお話しやすいと思いましてお呼びしました」

 

 桜井の表情が暗くなる。

 

「那美ちゃんの件ですね……」

 

「そうです。中に入らせていただいてもよろしいですか?」

 

 どうぞ、と桜井が家の中へ招く。弓鶴達はアイシアを先頭にして桜井宅へと入った。リビングに入りテーブル席に案内される。全員が座りしばらくすると桜井がお茶を運んでくる。桜井がそれを置いて腰を落ち着かせると、深い息を吐き出した。

 

「あの、テレビで那美ちゃんの動画が流れていましたけど、あれは本当なんですか? とても信じられなくて……」

 

「那美さん本人かどうかも含めて現在確認中になります」男性警官が答える。

 

「そうですか……。あの子は人を殺すような子じゃないです。いい子なんです」

 

 アイシアが口を挟む。

 

「それについてお伺いしたいんですが、更科那美さんは桜井さんから見てどんなお子さんでしたか?」

 

 桜井が少し考え込む。

 

「頭の良い子でした。本が好きなようで、よく読んでいました。ファンタジーが好きだったように思います。年齢の割には少し大人びていて、とても落ち着いていました。誰とでも仲良くなれる明るい子です」

 

 白鷺の話と変わらない。アイシアが更に突っ込む。

 

「他には何かありませんか? 例えば、子どもらしいエピソードとか」

 

「そうですね……。いつもはにこにこしている那美ちゃんですけど、なんかの拍子にボールがぶつかって、その子が謝らなかったんですよ。そしたらカンカンに怒ってつかみ合いの喧嘩になりました。いつもは落ち着いてたので、やっぱり歳相応なんだなって思いましたよ。あとは新しい本を与えたときはとても喜んではしゃいでいました。その日からしばらくはずっと夢中になって本を読んでいて、お昼になっても部屋から出てこないことがありました。食事の度に部屋から連れ出すのにとても苦労しました」

 

 話をする桜井の表情が和らぐ。聡明やら大人びているやら動画のことやらで、那美の印象は子どもからはズレていたが、こうして訊く限りはどこにでもいる普通の少女にも思えてくる。とても魔法で子どもに擬態しているようには思えない。

 

 アイシアが話を戻す。

 

「虐待の件については何か知っていましたか?」

 

「いいえまったく……」

 

 桜井が沈鬱な面持ちになる。本当に知らなかったようだ。

 

「まさかあんなことがあったなんて……。確かに、他の子たちは少しふさぎ込んでいる節があって、職員の間で気にしていたのですがまさか……」

 

 私がちゃんと気づけていれば良かったのに。桜井が両手で顔を覆って泣き出した。これにはアイシアも困ってしまったようで弓鶴を見た。

 

「あの子は、あの子は……死刑になるんですか……?」

 

 桜井の問いは重い。さすがのアイシアも口を噤む。弓鶴は腹を括った。

 

 弓鶴は慎重に口を開く。

 

「魔法使いの殺人は罪が重いのが現状です。逮捕時に抵抗した場合、処断することも十分あり得ます。でなければこちらの身も危ういのです」

 

「そんな……!」

 

 弓鶴の言葉に顔を上げた桜井は悲壮感が漂っていた。胸が痛かった。魔法犯罪は血なまぐさい結果になることが多い。それだけの力を持っているから、罪に対する罰が重いのだ。それだけ世界が、そして政府が魔法使いを恐れている証拠でもあった。

 

「あの子は悪くないじゃないですか! 悪いのは殺された側じゃないですか! 子どもたちを買って! 傷ついているのはあの子の方じゃないですか!」

 

 反論の言葉が無かった。まったくその通りだと思ったからだ。だが、それを認めれば弓鶴はASUの人間ではいられなくなる。悪い魔法使いを捕まえる。彼の本分がそれだからだ。

 

 だから敢えて弓鶴は言った。

 

「これが魔法使いのルールです」

 

 桜井の顔に怒り。

 

「そんなルール間違ってる!」

 

「……どんな理由があれ、人を殺して良い理由にはならない。それが人の理ですよね?」

 

 いままで黙っていたラファエルが口を開いた。桜井が口ごもる。

 

「そ、それは……」

 

「子どもだから、未来があるからとそれを覆しては人のルールに反する」

 

 それは魔法使いのルールだ。そこに感情はない。未来の希望はない。愛情がない。無機質な掟があるだけで、それに則って裁いているに過ぎない。そんなもの、人の理と呼べるのか。

 

 この仕事をしていると、時折自分がおかしいのではないかと弓鶴は感じることがある。人と魔法使いの価値観は致命的なまでに異なる場合があって、こうした場面でそれは顔を出し、何が正解なのか分からなくするのだ。

 

「エル、それ以上はやめなさい」

 

 アイシアが、更に続けようとしていたラファエルを止めた。ラファエルは息を吐いて口を噤む。

 

「うちのものが失礼しました」

 

 アイシアが頭を下げる。呆然としていた桜井が首を振った。

 

「いえ、こちらも取り乱してしまい申し訳ありません」

 

 結局、これ以上の成果は得られず弓鶴たちは桜井宅を出た。警官と別れた頃には、赤羽の街が黄昏に沈んでいた。

 

 少し休憩しよう、と提案したアイシアの言に従って赤羽駅前にあるカフェに入った。店内に入った瞬間視線が集中するのを感じたが無視した。いつものことだからだ。注文が届くまでの間、三人は無言だった。

 

「悪い。口が過ぎた……」

 

 弓鶴が後悔しながら言った。あの場で言うべきことではなかったと思ったからだ。アイシアが首を振る。

 

「いいよ。間違ったことは言ってないから」

 

 弓鶴は自分の両手を見下ろした。この手で更科那美が止められるのか分からなくなったのだ。この手をあの子の血で染めることが果たして可能なのか、それが正しいのか。

 

 弓鶴、とアイシアに呼ばれる。顔を上げると、彼女は優しく微笑んでいた。

 

「あまり考え過ぎないように。今回の私たちの仕事は犯罪魔導師を捕まえること。それ以上でもそれ以下でもない。だから……」

 

 そこで区切ったアイシアの目つきが鋭くなる。背筋がぞっとするような、魔法使いの目だった。

 

「それ以上考えるのはやめなさい。死ぬよ」

 

 こくん、と弓鶴は喉を鳴らす。無駄な思考を回せばすぐに死ぬ。自分はそういう立場にいるのだ。魔法使いと戦うとはそういうことだ。

 

「……分かった」

 

 一度落ち着くために珈琲を飲む。理解している。これ以上の思考は泥沼だ。それでも考えずにいられないのは、人であったときが長かったからなのだろうか。魔法使いでなく人の部分が考えろと叫ぶのだ。そうでなくば、弓鶴はただの殺戮兵器になり果てる。

 

 それが、弓鶴にはたまらなく怖かった。

 

 

 

 

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