沙条愛歌は転生者 作:フクロノリ
わたしと原作組との関わりは、結構ゆっくりと仲良くなっていく感じでした。だから、幾つかのイベントにわたしは関われていません。
下校での争いは単純にわたしがその場におらず、達也の体育館での大立ち回りは、勧誘を振り切って体育館に行くのが面倒で関わりませんでした。
服部副会長との模擬戦も結局見られませんでした。
生徒会に入らないかと勧誘はされましたけど、わたしは丁寧に辞退しました。
わたしは生徒会やどこかの部活に入るつもりはありません。
ただ面倒なだけでしょうし......
そんな積極的とは言えないわたしが原作組と仲良くなったのは、深雪の抜きん出た才能と魔法力のおかげでしょう。
わたしは深雪や雫、ほのかと同じA組なのですが、実技でわたしと深雪とのペアになることが多いです。
理由は先程も言った通り、圧倒的才能と魔法力です。
その深雪に対抗できるのが、クラスでわたししかいなかったからです。
深雪相手で実技の勝率が五割以上ある相手は、わたし以外にいません。光に関する実技のみなら、他の方も該当しますが、それ以外なら深雪の圧勝です。
必然的に、ペアになる回数が多いと自然と話すようになるし、そうなると深雪の友達とも友達に―――親密になってきます。
そうした結果、今わたしは雫とほのかと一緒に昼食を摂っている、という事になったのです。
深雪が生徒会に入ってからは、深雪は生徒会室で昼食を摂ることが多い。だから、最近は雫とほのかで一緒に昼の時間を過ごすことが多くなりました。
「愛歌はどうして生徒会に入らなかったの?部活にも入っていないみたいだけど」
そう話を切り出してきたのは、ほのかでした。
彼女にわたしが生徒会に誘われたことは話していませんが、今までの授業で察しがついたのでしょう。
さすがに、わたしが実技で深雪に九割近くの勝率をほこっていれば、さすがに分かるでしょう。
根源接続者というチートのおかげです。そんな存在に勝率一割を切らせない深雪も中々にチートですが。
干渉力や
「わたし、家に帰ってやることがあるから」
わたしが生徒会や部活にも入らない理由は、面倒くさい以外にも理由はあります。せっかくこんな便利で万能———というか全能チートを貰ったのですから、他作品の物や技を開発・再現してみたくなるのが人の心というものです。
根源からの知識のおかげで、かなり形になってきていたり、既に完成している物もありますし、夢が広がります。
「そうなんだ...」
ほのかは、少しもったいなさそうに残念がりました。
シュンと小動物のような仕草は可愛らしいですが、わたしに罪悪感を植え付けようとするのはやめてほしいです。わざとではないのでしょうが、気まずくなります。
「でも、九校戦には出るんでしょ?」
「ええ...」
突然の雫からの質問に驚きながらも肯定すると、ほのかが「そうだよね!愛歌と深雪が居れば優勝間違いなしだよ!」とさっきの様子から一転して、急に元気を取り戻した。
どうやら雫が気を使ってくれたようでした。
雫に感謝の視線を送ると、雫は「別にいいよ」とでも言うように小さく首を横に振りました。
「そういえば、二人は放課後の討論会はどうするの?」
また気まずい空気にはしたくないので、今度はわたしから二人に話題を振ってみました。
今日の放課後に七草先輩が二科生の差別撤廃を求める有志同盟と討論会を行うそうで、わたしは余り興味ないのですが、原作ではテロリストに襲撃されることを考えて、図書館で資料でも閲覧することにしました。
「私は行かない。部活があるし、他人の愚痴に付き合うつもりはない」
雫がピシャリとそう言うと、うーんと言いながら考えていたほのかも、その言葉に納得したのか「わたしもいいかな」と言いました。
「そう、エイミィと一緒に危険なことしてたって深雪から聞いたけれど、その様子なら無茶はしなさそうね」
「うっ」
ほのかが親に叱られたような顔をしながら、居心地悪そうに体を縮めました。雫も少し俯いており、二人とも危険なことをしたという自覚はあるようです。
これなら、しばらく危険に突っ込んで行くことはない筈です。
根源から知識が得られるわたしでも、論文などを読む意味はあります。
わたしは根源を日常的に検索サイトとして使用していますが、そもそも検索サイトとは“何を検索したいのか”がわからないと検索できないものです。
少なくとも取っ掛かりは必要になります。
だから、こうしてわたしが論文を読むことは無駄ではないのです。
「来たようね」
外から爆発音が聞こえてきました。
陽動が始まったということは、もう工作班は侵入していると見ていいでしょう。
わたしは個室タイプの閲覧ブースから出て、二階の特別閲覧室に向かいました。
「ハァッ!!」
特別閲覧室に向かう途中、見張りの人員であろう二人の男たちが奇襲を仕掛けてきました。階段の上にもう一人隠れていますが、未だわたしに気付いていないようです。
奇襲されたわたしは、特に驚きませんでした。奇襲と称しましたが、ただ泳がせていただけです。
その気になれば、何時でも無力化できますから。
しかし、それでは面白くないので、この人たちには悪いですが、実験台になって頂きます。
二人がスタンバトンをわたしに振るいますが、バトンがわたしに触れた瞬間———バトンが砕けました。
呆気にとられる二人の男たちの腹にトンと触れると、男たちは勢いよく吹き飛んでいきました。
「
音で気付いたのだろう。階段の上からもう一人の魔法科高校の制服を着た男子生徒が真剣を上段に構えて突っ込んでくる。魔法を使っているため、階段でかなりの速さで加速していても体勢が崩れていません。
しかし、その突進も左の脇腹に何かをぶつけられ、男子生徒は横に吹き飛んでいきました。
「脅威の排除、完了しました」
「お疲れ、
人型―――それもメイド―――をとった水銀を労います。
わたしはトリムマウを再び転移させ、家に戻しました。
この世界は長期間作用させる魔法は苦手で、質量を軽減する魔法を使い続けるよりも、転移させたほうが面倒がないのです。
「さて、そろそろ終わりにしましょうか」
そう言って、わたしは特別閲覧室へと向かいました。
壬生紗耶香は、目の前の行為に心の整理ができず、扉の方に目を向けていたおかげで、その異変にいち早く気付き、声を上げた。
その声は彼女自身が思っていたよりも大きく、ハッキングしていた男たちもその異変に気が付いた。
厳重にロックされている筈の扉がいつの間にか、なくなっているのだ。
いや、紗耶香だけは見た。
扉は、なくなったのではない。
開いたのだ。
普通に。
そうなるのが当たり前のように、自然に横に開いていったのだ。
男たちが邪魔されないように内側からロックを掛けていたことは、紗耶香自身も知っていた。
これは、この部屋の元々のセキュリティで、簡単に解除できるものでもないので、突破しようと思えば相当の時間が掛かる筈。扉を力ずくでぶち破るならともかくとして、一体どんな魔法を使えば、こんなことができるのか......彼女には想像できなかった。
彼女たちが扉に視線が釘付けになったとき、廊下から一人分の足音が響いてきた。
ガツンガツンと近づく足音に、男たちはハッキングを中断し、臨戦態勢を整えた。
「はじめまして、わたしは......」
姿を表した少女が自己紹介を待たず、男たちは拳銃を発砲した。
しかし、放たれた弾丸は彼女が展開していたベクトル反転の魔法によって男たちの拳銃に舞い戻った。
「あら?自己紹介は最後まで聞かないと」
手の痛みに倒れ伏す男たちを少女が笑う。
「貴方...誰!?」
紗耶香は目の前の少女―――否、化物に問いかけるが、少女は彼女の質問に答えずに、クスクスと笑った。
「何が可笑しいの!?」
彼女がヒステリーになっているのは、目の前の少女が恐ろしいからなのか、それとも少女の制服にある八つの花弁の妬みからか、紗耶香自身にも分からなかった。
「いえいえ、気にしないでください。わたしは沙条愛歌です」
少女が言ったその名前に、彼女には特に聞き覚えはなかった。
それも当たり前だろう。
学年も違えば、同じ部活に所属しているわけでもなく、生徒会や風紀委員会に所属しているわけでもない人間など、たとえ成績優秀な生徒であろうが、情報通でもない彼女が知っているわけがない。
「壬生、指輪を使え!」
その声が響くと白い煙が立ちこめてくる。
彼女は言われるがまま、アンティナイトの指輪にサイオンを流し込み、キャストジャミングを発動させる。
彼女は白い煙に紛れて少女の横をすり抜ける。
一刻も早くあの場から逃げ去りたかった彼女は、本来は連携すべき男たちを置いていった。
「逃がしてよろしいのですか?」
髑髏の仮面を被った褐色の肌の少女が、沙条愛歌に声を掛けた。
その少女の周りには、先ほどの男たちが倒れている。
「問題ないわ、
褐色の少女はその意見に何も言わず、サッと消えていった。
次で入学編は終わりです。(次があれば)