沙条愛歌は転生者 作:フクロノリ
魔法演算領域って脳にないんですね......初めて知りました。
流石に修正します。
皆も魔法科を書くときは気を付けよう!
沙条愛歌が図書館の特別閲覧室から出ると、廊下には司波兄妹がいた。エリカが見当たらなかったが、おそらく壬生紗耶香との一騎打ちにでも洒落込んでいるのだろう、と彼女は思い至った。
千里眼を使わずとも、それぐらいわかる。
エリカが「深雪たちは先行ってて、こいつはわたしの獲物よ」と言うのが目に浮かぶ。
「お早い到着ね」
花が咲いたような笑顔で彼女は話しかけるが、司波の兄と妹はどちらもニコリともせず、真顔だった。
「壬生先輩について聞かないんだな...」
「壬生?...ああ、彼女ね。別に興味ないもの。逃げ出したところでどうなるわけでもないし」
今ここで彼女が逃げ出したところで、この事態が解決するわけではない。この事態において、彼女の存在は余り重要ではないのだ。
そして、彼女は壬生紗耶香の名前について、知らないフリをした。他の人の口から聞いたことはないし、今の関係性から知っているのは不自然だと考えたからだ。
この嘘に大した意味はない。痛くもない腹を探られるのが面倒というだけだ。
この嘘が二人にバレている様子はない。
本当に今初めて聞いたような雰囲気だった。
これが魔法で引き起こされたものであれば、達也が気付いただろうが、生憎これに魔法は使われていない。
「そうだな...なら―――」
達也もこの事態において壬生先輩は余り重要ではないことには同感なので、特にその話は引きずらなかった。
達也が気になっていたのは、もう一つの事柄だった。
「―――愛歌......先ほど特別閲覧室にいた存在はなんだ?」
達也たちが図書館前に来たとき、彼は特別閲覧室に強大な存在を感じた。
精霊のように見えたが、師匠―――九重八雲に指導を受けている達也は、精霊に対してそれなりに造詣が深いつもりだが、達也には
それほどの存在感。
深く理解しようと達也が『眼』を向けようとしたとき、その存在はいつの間にか消えていた。
「教える義理はないわ」
笑顔で断る愛歌を深雪が冷たく睨むが、達也が腕で深雪を制止する。
今達也としては、彼女と争うわけにはいかなかった。
沙条愛歌が深雪以上の実力を持っているのもあるが、何より特別閲覧室にいた存在がまだ自分たちの周囲にいるかもしれないという状態がまずいと感じていた。
達也は深雪を守らなければならない。
それが彼の使命であり、唯一の感情から生まれたものでもある。今も彼は
「そうそう、侵入者ならあの部屋で倒れているわよ。三時間ほど経てば意識も戻るわ」
そう言い終わると、彼女はスタスタと達也の横を通り過ぎて行く。
彼―――達也にとって
その焦りが、達也を早まらせた。
達也は、深雪に関することだけは何よりも誠実で素直であると言える。だが、それは逆に言えば暴走しやすくもあるということだ。沙条愛歌は深雪を殺しうる存在であり、達也は深雪が殺されるのを防ぐ存在だ。
達也がそんな相手の対策を怠るわけにはいかない。
実は、達也は沙条愛歌が入試試験の総合一位だとわかった夜から九重八雲に調べて欲しいと頼んでいた。
深雪が入試で一位ではないと達也が知ったときに頼まなかったのは、まだ名前がわかっていなかった事と、九重八雲に借りを作るほどの存在だとは考えていなかったからだ。
それに、達也が命令したりできる諜報員がいなかったのも大きい。そんなことができるなら、達也は在校生と新入生の名簿くらいは入手していただろう。
だが、四葉には借りを作るのは危険。
独立魔装大隊の力は借りられない。
文弥や亜夜子に迷惑は掛けられない。
つまり、今のところ達也は九重八雲ぐらいにしか頼めないのだ。そしてその九重八雲も、達也としては余り借りを作りたくない相手だ。
だから、基本達也が九重八雲に情報収集を頼むときは、自分と深雪の安寧を邪魔する可能性がある存在と決めている。
そして後日、九重寺で八雲は調査結果を言った。
「わからなかった」
「わからない?師匠がですか?」
達也が少し目を開きながら驚き、思わず聞き返した。
八雲は「うん」と頷いた。
達也は再度驚く。横を見ると、深雪は手で口を押さえて驚いていた。
「別に何もわからなかったわけじゃないんだ。彼女の経歴とか、家族構成とかは普通にわかったしね...」
そう言って、八雲のいつも飄々とした雰囲気が鳴りを潜め、困惑の表情が浮かぶ。
「だけど...彼女自身のことは何一つわからなかった。彼女の家に侵入しようとしたんだけどさ、気付かれちゃってね......」
すると、八雲の顔から困惑が消え、いきなり明るい笑顔になり―――
「しかも...どうやら見逃されたみたいなんだよね~」
ハッハーと八雲は笑いながらそう言った。
達也も深雪も固まっていて、声も出せなかった。
「力になれなくて済まないね、達也くん。彼女には本当に気をつけた方がいい」
本当に自分たちを心配していながら、少し力なく笑っているような八雲の姿が、達也には印象的だった。
沙条は三の数字に連なる者で、第三研究所のテーマは様々な状況に対応できる魔法師の開発―――一言で言うと万能で、どんな魔法を使ってくるのかは推測の仕様がなかった。
深雪から普段の実技の授業の様子を聞いていても、同じ課題でもその日の気分で魔法を変えるらしい。
つまり、今の今まで彼女の手の内と呼べるものは何一つわかっていないのだ。
だが、ようやくそれらしいものを達也は今さっき見つけたのだ。
特別閲覧室にいた
あの存在が、おそらく精霊のような情報体だと考えると、それを操る『精霊魔法』のような魔法を彼女は使っている筈だ。
今の彼女自身に魔法を発動している様子はないので、魔法の効力は消滅しているだろうが、記録を辿ることができれば、あの存在について何かわかるかもしれない。
達也はそう考え、彼女の去っていく後ろ姿を見つめながら、
「ぐッ!?」
「お兄様!?」
突然、達也が頭を押さえて体をふらつかせた。
何事かと深雪が小さく悲鳴を上げながら、すぐに達也に近寄り、肩を支える。
「覗き見はやめてほしいわね、達也さん」
「愛歌!?あなた...!」
「やめろ、深雪!」
達也に害をなした愛歌に深雪が敵意を向けるが、達也は深雪を止める。
「なぜですか!?お兄様!?」
しかし、それでは納得できない深雪が、珍しく達也に食い下がる。だが、達也は引き下がらない。深雪の頼みでもこれだけは譲れなかった。
強い意志で深雪を見つめると、深雪は冷静になったのか「わかりました」と達也の後ろに引っ込んだ。
「さっきは覗き見して悪かったな」
「構わないわ、ただ―――次はないわよ」
「ああ、肝に銘じておく」
達也は先ほどの攻撃の恐ろしさを理解していた。
達也が
先ほどの攻撃は手加減されたのだろう、と達也は思っている。
おかげで知恵熱程度の症状しか起きなかったが、おそらく本気を出せば一瞬で人の脳をオーバーヒートさせることができるだろう。
この攻撃の何より恐ろしい点は、『再成』が発動できない―――いや発動する暇がないというところだ。
達也の『再成』―――自己修復は人間の認識できる速度を越えているが、先ほどの攻撃は脳に大量の情報を送りつける魔法だ。
喰らえばおそらく、達也の無意識が自己修復を行おうとする前に脳がオーバーヒートして死ぬだろう。
対応策としてイデアに接続していなければ、この攻撃を受けることはないだろうが、達也はガーディアンとして深雪を守らなければならない以上、
また達也がイデアに接続している以上、この攻撃に物理的な距離は意味をなさない。つまり、彼女がイデアから達也のアクセスポイントを認識することができれば、例え地球の裏側でも攻撃されるだろう。
オマケに魔法式を見れなかったので、どういう原理で行っているのかもわからない。
手の内を明かそうと、焦ってしまった結果だった。
達也は
無様だな、と達也は自嘲する。
「(いや、反省は後だ...今は、この事態の収束に専念するべきだ)」
沙条愛歌は潜在的に最大の脅威だが、今目下の最大の脅威はブランシュ―――テロリストだ。
沙条愛歌の調査や対策は後回しにするしかない。
それに、達也は何も掴めなかったわけではない。一つだけ、沙条愛歌についてわかったことがあった。それは、沙条愛歌が達也と同じ
達也を襲ったあの魔法は、イデアに高いアクセス能力がないと使えない類の魔法の筈だ。
だがこれは、ある意味達也にとって絶望と言えるものだった。
つまり、達也がイデアに接続してもしなくても、一度彼女に捕捉されれば、違う魔法が達也たちに飛んでくるだけなのだ。
達也に『眼』を誤魔化す能力はない。
彼には『分解』と『再成』しか使えないのだ。
そしてそれは、深雪がいつ沙条愛歌に殺されてもおかしくないことを意味していた。
そんなことはさせない、達也は心の中でそう決意し、今自分ができること―――学校を襲ったテロリストの掃討という目標に集中することにした。
これが作者の精一杯の『再成』対策です...
あと、型月も魔法科も設定が多すぎて、把握しきれない