沙条愛歌は転生者 作:フクロノリ
「愛歌はどの競技に出ると思う?」
わたしが雫とほのか、そしてエイミィと一緒に期末試験に向けての勉強会に参加しているとき、エイミィがそう聞いてきました。
わたしがエイミィの方を見ると、勉強のし過ぎで疲れていたのでしょう、彼女はテーブルに突っ伏していました。
「何とも言えないけど...深雪と一緒の競技にはならないと思うわ」
わたしと深雪、どちらも一位を狙える人材を同じ競技に参加させるのは、どう考えても非効率です。
一校の作戦スタッフもそう考えている筈でしょう。
「そっかー、それもそうだね」
「でも、愛歌が深雪と本気で戦うところは見たかったかも」
「......それは同意」
エイミィが頷くと、ほのかや雫も勉強の手を止めて雑談に加わってきました。
「深雪は何の競技に出るのかな?やっぱりピラーズ・ブレイクかな......」
「そうだね...深雪、冷却魔法が得意だし」
雫がほのかの意見に同意するが、ほのかは「う...うん、そうだね」と生返事でした。
雫は不思議そうにほのかの顔を見つめるが、しかしほのかは雫と目を合わそうとしません。
「あー!!ほのか、完全に深雪の雰囲気で言ってたでしょ!」
エイミィがビシッとほのかを指差しながらそう言うと、明らかにほのかは言葉に詰まっていました。
そのわかりやすい反応に「やっぱり!!」とエイミィは鬼の首でも取ったかのような笑顔になります。
「違うわよ!ええっと......」
ほのかが顔を真っ赤にしながらそう言いますが、上手い言い訳が思いつかなかったのか、続きのセリフは出てきませんでした。
「えー!本当に~??」
ますます調子に乗るエイミィに、ほのか自身では対処できないと感じたのか、わたしと雫に視線で助けを求めてきました。
しかし雫はジトッとした目でほのかを見つめるだけで、助け舟を出す様子はなく、わたしは我関せずの構えです。
ほのかが考えなしに発言した結果―――つまり身から出た錆です。それぐらいは自分で対処して欲しいです。
孤立無援だとわかったほのかは、慌てすぎて大きい身振り手振りをしますが、口に出るのは「えっと」や「あれ」など、言葉にならないものばかりです。
「わたしも深雪がピラーズ・ブレイクに出ると思ったし、エイミィもそろそろ許してあげて。これ以上やると、ほのかが泣き出しそうだわ」
流石にかわいそうになって口を挟むと、ほのかはそれまでのことが嘘のようにパァっと明るく笑いました。さっきまでは少し絶望したような顔をしていたのに、今は救世主が現れたかのようなニコニコ顔です。
感情の浮き沈みが激しいな、と思わず心の中で苦笑してしまいます。
「ほのか、ごめん!流石にからかいすぎたよ」
エイミィもやりすぎたと思ったのか、申しわけなさそうな顔で謝りました。
「ううん!!わたしが考えなしに深雪のイメージで言っちゃっただけだし...気にしないで!!」
ほのかもエイミィに悪気がなかったのは理解しているらしく、少し慌てた様子で胸の前で両手を彷徨わせながら彼女を許していました。
「いや、ほのかが言いたいこともわかるよ。深雪って氷の女帝みたいな感じだ―――」
「―――そうでしょ!深雪って......」
エイミィがまだ申しわけなさそうな顔をしながら、ほのかの気持ちに同意すると、ほのかは目をキラキラさせながらエイミィに詰め寄って、色々と深雪について語っています。
最初はエイミィも驚いていて、ポカーンとしていましたが、次第に乗ってきたのか、二人とも盛り上がっていました。
「ありがとう」
「うん?」
二人が深雪本人が居ないのを良いことに、羨ましいやら何やら言っているのを眺めていると、いつの間にか隣に雫が座っており、いきなりお礼を言ってきました。
何のお礼なのだろう?
言葉が足りなさすぎていまいち理解できず、わたしは首を傾げてしまいます。
「ほのかを助けてくれたでしょ?わたしの代わりに」
ああ、とわたしは得心がいく。
「わたしが言わなかったら、貴方が言ってたでしょ?気にしなくていいわ」
あの場面では、誰がほのかに助け舟を出すかは時間の問題だったでしょう。
わたしが何も言わなければ、雫が助け舟を出すか、エイミィが自分から謝っていたに違いない。
「そう...かな......」
そう言って雫はほのかとエイミィの方を見ました。
彼女たちは、未だ深雪のことについて話し合っているようでした。
「ねえ!雫も深雪の髪が一番羨ましいよね!!」
「いや、あの白い肌でしょ!」
遂にはこちらにも飛び火してきました。
二人が雫に詰め寄って、顔を寄せる。
雫は目を見開き驚いた後、ああだこうだ言う二人の前でしばらく考え込み―――答えました。
「体型」
「「じゃあ愛歌は!!」
ほのかとエイミィが同時にわたしの方を見て言った。
雫は何も言いませんでしたが、ジッとこちらを見つめているだけで、二人を止める気はなさそうです。
わたしは呆れながら言いました。
「貴方たち勉強はどうしたのよ...」
「「「あ」」」
三人とも固まっていた。
どうやら本当に忘れていたようで、三人とも急いで机に向き合いました。
「愛歌、ここ教えて~」
「はいはい、ここは―――」
エイミィに呼ばれ、彼女が躓いている問題を見ると、できるだけ目に見えるようなものに例えて教えます。
わたしはこの勉強会の先生役です。
そもそも根源に接続しているわたしは、勉強など必要ありません。頭の中に自前で答案用紙を用意してあるようなもので、テストなど作業でしかないです。
卑怯だと自分でも思いますが、根源先生の利便性の誘惑には勝てなかったよ......
「じゃあ、バイバイ」
「うん、またね!」
「またねー」
勉強会はお開きとなり、わたしは一人帰路に就く。
あの後、九校戦の話でまた盛り上がり、あまり集中して勉強できたか怪しいですが、問題ないでしょう。
雫はいざという時の集中力が凄いし、ほのかは真面目にコツコツと頑張るでしょう。
エイミィは......多分何とかするでしょう。
「はぁ」
「どうされましたか...」
思わず心配で溜め息をついてしまいますが、それに反応する存在がいました。
わたしの周りに人や人の目はないでしょう。そうでなければ
隣を見るといつの間にか褐色の少女―――アサシンが立っていました。今は髑髏の仮面を外していて、かわいらしい顔を晒しています。
「別に大したことないわ」
本当に大したことはないため、何とか適当に誤魔化すことにしました。
この少女は達也と同じ、暴走しやすい人間です。
迂闊に話してしまえば、彼女の引っ込み思案と危うさ、どちらが勝つかによってエイミィの命が決まってしまいます。
未来視で軽く確認すると、八割強で引っ込み思案が勝つらしいです。
なら、話さない方がいいでしょう。
「...本当ですか?」
心配そうに見つめてきますが、わたしの表情は揺るぎません。
アサシンは生い立ち的に毒が効かないわたしを失いたくないのか、事ある毎にわたしに何かあると、このように心配そうに寄ってきます。
「ええ、帰ったら夕食を何作ろうか考えていたのよ」
この世界には家事を自動でやってくれるHARと言う機械が存在し、わたしも普段はそれを使っていますが、偶にわたし自身が作ることもあります。
わたしが作る料理は、根源からおいしい料理と検索して引っ張ってきたレシピです。正確には、わたしの家の材料で作れるおいしい料理です。
おいしい料理だけで検索すると、範囲が広すぎて検索結果が無限に出てきます。だから条件を多くしないとまともに調べられません。
多すぎるというのも考えものです。
因みに余談ですが、根源での検索はわたしの認識に依存しているようで、例えばわたしが“おいしい料理”と検索した場合、わたしが“おいしい”と感じるものしか出てきません。
つまり、わたしの好みが反映されるということです。
だから、あの激辛麻婆豆腐が、絶対に検索結果に出てくることはないです―――というかアレは“料理”で検索しても出てこないと思います。
「...わかりました。楽しみにしています」
アサシンは、まだ何か言いたそうな―――しゃべりたそうな顔でしたが、引っ込み思案の彼女にそのようなことができる筈もなく、それ以上何も言わずに消えていきました。
しょんぼりとする彼女の様子は、何だか子犬のようでかわいらしかったです。
わたしが達也に警告したあと、達也はわたしに深く干渉しないようにしています。
達也がわたしに『眼』を向ければ、すぐにわたしが気付くことは理解している筈です。そうでなければ、一瞬で達也一人に狙いを絞るのは不可能ですから。
FPSゲームで言えば、スナイパーライフルのスコープが光っているようなものです。見られているという警告と同時に、そこにいると教えている。
わたしはそこに魔法と言う銃を撃っただけです。
別にわたしは表層を見られる程度なら構わないのですが、
それに、わたしは達也を―――
一般人のわたしに人を殺す度胸はありません。傷つけることでさえ、それなりの忌避感があります。
だから、達也に言ったあの警告はハッタリです。
まあ、そのハッタリは通じたようで、流石にリスクが高いと判断してくれたようです。
後はわたしの素が出ないように気を付けて、沙条愛歌っぽいロールプレイをし続ければ、達也とは知り合い程度の仲に落ち着くでしょう。
わたしとしては嬉しいことです。
確かにわたしは多少原作に関わりたいと思っていますが、あくまで
原作キャラとそれなりに仲良くなりたいだけです。
別に敵をバッタバッタと殺戮したいと思いません。戦略級魔法など論外です。
わたしにそれだけの人の命は背負えません。
結構な時間この世界で過ごしてたきたので、わたしもこの世界にそれなりに愛着はあるのでしょう。でなければ、こんな世界から今すぐ出て行って
「(まあ、わたしの元いた世界より気に入っているのは事実ね)」
わたしは思考をそこでストップし、アサシンにおいしい料理をご馳走するため、根源先生に検索ワードを打ち込んでいきました。
補足(作者の文章構成力では書けなかったので)
主人公が愛歌のロールプレイをしているのは、沙条愛歌の顔をしているのに、喋り方がおかしいのが慣れず、気持ち悪いと感じたのが始まり。
今では癖のようなものになっている。