沙条愛歌は転生者   作:フクロノリ

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そろそろ失踪しそう


この世界は

 結局、あれから攻撃を仕掛けられることはなく、わたしたちを乗せたバスは、無事に宿舎へと到着しました。

 バスを降りた後、時計で時間を確認しましたが、未来視が予測した範囲通りでした。いや、わたしが言っている未来視は、正確には未来視という表現はあまり正確ではありませんけど......

 

 わたしの能力は未来を映像以外に文字としても知覚しています。映像データだけを受け取っている未来視という能力からは若干逸脱しているので、より広い意味合いの未来予知と表した方が正しいです。

 ただ、このテキストデータはオマケと言うか―――映像からはわからないものを補足する程度なので、殆どは映像データなんですよね。

 だから、わたしは未来視としか言わないです。それに未来視の方が未来予知よりも字面的に格好いいというのもあります。できることなら魔眼の字も付けたいですが、別にこの能力はわたしの眼に宿っている能力というわけではないんですよね......

 

 この能力は、わたしが根源から検索した情報を受け取っているだけで、別に未来視や千里眼の魔眼を使って未来を知覚しているわけではありません。

 そもそも、この世界に魔眼など存在する筈がありませんし......

 

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 型月での魔眼は、眼に半ば独立した魔術回路を動作させ、外界へと効果を及ぼすものを指します。

 ですが、魔術が存在していなければ、もちろん魔術師や魔術回路、魔術刻印なども一切存在しません。

 実際、わたしの体には一本たりとも魔術回路が存在しません(因みに抑止力―――アラヤとガイア―――もこの世界には存在しない)。

 つまり型月での定義において魔眼と呼べるものが、この世界に存在することはありません。そう考えると少し残念ですが、未来を視た者たちの末路のことも考えると、結局はそれでいいのかもしれません。

 

 わざわざ視えている地雷を踏みに行くことはしません。

 

 わたしは、その人たちの末路を知っていますから。

 

 だからわたしが根源から未来を視るときは、部分的に視るだけに留めたり、自分が本当に危険と感じたときや他人の危機回避以外は、未来視は使わないというルールを決めていたりしています。

 固く誓っているわけでもないので、完璧にルールが守れているかは微妙ですけどね。

 

「愛歌~!!荷物、宿舎に置きに行こ~」

 

 後ろから声を掛けられて振り向くと、わたしの目の前にエイミィがいて、その少し後ろにほのかと雫とスバルが集まって此方を見ていた。

 

「そうね、行きましょうか」

 

 あの自動車の一件で少し疲れていたので、確かに懇親会が始まる前に早く休憩しておきたい。

 わたしはエイミィの提案をすぐに了承し、彼女たちと一緒に宿舎の中へと入りました。

 

 

 

 懇親会のパーティーが開かれている会場で、わたしたち一校の一年生たちは、今のところ各高校の生徒たちと全く交流できていませんでした。いつも会話するグループを作っている人たちばかりです。どうやら他校の一年生たちも同じようで、わたしたちみたいに同じ高校の人たちのグループばかりでした。

 会場に緊張感が満ち過ぎていて交流しづらいんですよね。それに、同じ高校のグループとグループ同士が固まって端に寄っているので、自分からも行き辛いんですよね。元から行くつもりは全くありませんけど。

 わたしは壁の花にでもなっておきます。

 

 上級生の方たちは慣れているのか、わたしたち一年生と違って、会場の真ん中の方で他の高校の上級生と思われる人たちと交流していました。

 

 まあ、和やかな空気が流れているわけではないようですけど。

 

 そう思いながらわたしが見ていたのは、七草会長と一校の生徒会役員たちが他校の生徒会役員たちと交流している場面です。七草会長と他校の生徒会長と思われる人がお互い笑顔で会話していますが、どちらも目が笑っていません。

 完全に睨み合っています。

 

「あれじゃあ、わたしたちより酷いわね」

 

 わたしたち一年生たちの睨み合いに舌戦を足しただけのような状況を見て、わたしは思わずそう呟いてしまいました。

 そうして壁に背を預けながら会場をしばらく見渡していると―――

 

「あっ!愛歌、どうこれ!」

 

 ―――エリカがそう言って近付いてきた。

 原作でアルバイトとして潜り込んでくるのは知っていたので、わたしは特に驚かずに「あら、似合ってるわね」と冷静に返した。

 

「えー、達也くんでも少しは驚いたのに。もしかして深雪か達也くんから聞いた?」

 

 しかし、わたしが驚かなかったことにエリカはご不満らしく、口を尖らせている。

 

「いえ、聞いてないわ。美月たちも接客してるの?」

 

 ここでエリカの質問を普通に返すと、ますます彼女を不機嫌にさせるだけなので、わたしは彼女の質問に答えつつも、話題をすり替えた。

 

「美月とレオは裏方よ。わたしとミキが給仕―――っとと、愛歌も深雪と同じでミキは知らなかったわよね?連れてきて紹介してあげるわ」

 

「別に後で構わないわ。仕事の邪魔はしたくないし」

 

「そう?じゃあ、また後でねー」

 

 そう言ってエリカは、トレイに載ったドリンクを一切こぼさずに人混みをヒョヒョイと素早く避けながら消えていった。

 

 

 

 来賓の挨拶が始まったので、わたしは壇上に視線を向けていました。魔法界の名士か何かの人たちが入れ替わり壇上に現れますが、まるで興味がないので視線は向けていても、話は聞き流していました。

 どうせ激励の言葉ばかりですからね。

 そして、いよいよ来賓の最後の一人の名前が司会者に呼ばれました。

 

「次は魔法協会理事、九島烈様から激励の御言葉です」

 

 司会者がそう告げると、ライトの下からパーティードレスを着た若い女性が現れました。

 手品のタネを最初から知っているわたしは、一瞬で女性の背後にいる老人の姿を捉えました。魔法自体は強力ではないので、女性に意識を向けさせられているという手品のタネを予め知っておけば、魔法師でなくとも破れる類のものです。

 老人は壇上から会場を見渡しており、わたしの視線に気付いたようで、ニヤリと悪ガキのように笑いました。

 わたしが目礼を返すと、老人は満足そうな笑顔を浮かべ、若干わたしとは別の方向へと視線を向けました。そこに、おそらく達也がいるのでしょう。

 老人がパーティードレスを着た女性に何かを囁くと、女性はスッと脇へどき、ライトが老人―――九島烈を照らしました。

 周囲が大きくどよめいていますが、老人が「まずは―――」と喋り始めると、自然と会場が静かになりました。

 

「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する。今のはちょっとした余興だ。魔法よりは手品の類だ。だが、手品のタネに気付いた人間は、わたしが見たところ六人だけだった」

 

 会場にいる生徒たちが、老人の次の言葉を待っているのが伝わってきます。

 

「つまり、わたしがもしテロリストで君たちを殺す人間だった場合、それを阻むべく行動することができたのは六人だけ、ということだ」

 

 先ほどの余興と話術によって、会場の生徒たちの心を完全に掴んだ老人は、工夫する大切さを生徒たちに刻み込んで行きました。

 

 

 

「あ~もう、嫌な感じだった!」

 

「ほのかは、何を怒ってるの?」

 

 ほのかと雫の部屋にお邪魔してみると、ほのかが珍しく怒っていたので、雫に説明を求めます。

 

「深雪が三校の選手にバカにされたの」

 

 雫が簡潔にそう言うと、わたしは一色愛梨のことだと思い至りました。

 

「あんなの深雪にボコボコにされるに決まってるんだから!」

 

 ほのかは余程頭に来ているようで、手をブンブンと振ってそう力説していました。

 

「でも、あの人はかなりの実力者だよ」

 

 雫がスクリーン型の端末を見ながらそう言うと、ほのかは「嘘でしょ!?」と叫びながら雫に詰め寄ります。ほのかは雫のスクリーン型の端末の画面を覗き込むと、雫はスクリーン型の端末を見ながら説明し始めた。

 

「一色愛梨、師補十八家の一つ、一色家のご令嬢」

 

 雫が次々と一色愛梨の実力と実績を説明し、さらに残りの二人もかなり実力者だと知ってしまったほのかは、ベッドに倒れ込んでいた。

 

「大丈夫かな?」

 

 さっきの雫の説明で不安になったのだろう。心配そうにわたしを見てきた。

 

「大丈夫よ、問題ないわ。確か一色愛梨も新人戦のクラウド・ボールに参加する筈だから、ほのかの(かたき)はわたしが討ってあげるわ」

 

「わたし死んでないよ!?」

 

「どうやら、元気は出たようね。そうそう、エイミィがこのホテルの温泉に入る許可を取ったから、みんな一緒に入らないかって言ってたわよ」

 

 わたしの“温泉”というワードに興味をそそられた雫とほのかは、数秒の間お互いに顔を見合わせた後、すぐに首を縦に振りました。




補足(今回も作者の実力不足で書けなかった)

実は直死の魔眼のように根源、またはそれに近しいものから情報を得ている魔眼は存在する可能性があります(ただし、確率は絶無)

イデアにアクセスする能力の上位版と思って頂ければ大丈夫です。

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