「久しぶりですねー黒夜くんと組手をするのは。」
俺は霧雨に負けてしまい、回避を見直そうと思って美鈴に組手を頼んだのが、今の状況なのだ
が、化け物か?美鈴は喋りながら動いているのに呼吸に、乱れはない。妖怪と人間の体力の差か。お互いそこまで速い攻撃はせずに、防御と回避を重視してやっている。
こちらは能力を使って美鈴の動きを予測して動く。同じ水に入っている相手の動きが波によって伝わるように美鈴の動きが頭に入ってくる。
相手の拳の勢いを少しの力で逸らす。正面からではなく勢いをそのままに誘導されて相手に届かない。布を殴ったようで手応えがない。
小細工を使いたくなるが、今は別の修行なので我慢する。
これを何度も繰り返して、美鈴の回避の動作を学びながら、能力による空間認識の精度を下げていく。弾幕ごっこのときにしたように、頭で全て把握するのではなく、感覚に身体を任せ始める。この組手で練習してから数日間。最初は回避できずに文字通りボコボコにされたが、ようやく感覚を掴めるようになってきた。
3年間組手は相手がいなかったので、練習出来なかったのだ。
「ここまでにしましょう。」
美鈴に終了を告げられて、日陰に移動してから身体と頭を休める。相変わらず綺麗な庭園だ。
回避の修行は集中が途切れて、思うように動けず終わってしまった。
突然能力の割合を切り替えようとすると頭がついていかないってとこか。
回避はこの方向性で伸ばしていけばいいか。
「なあ美鈴。必殺技的なやつってどうやったらできると思う?」
「はい?黒夜くんって今そういうお年頃でしたっけ?」
「そうじゃなくて、霧雨のあれみたいなドーン!!って感じのやつ。」
もう片方の瞬間火力の方だが、思い詰まっていた。霧雨のあれを見たせいで自分なりのスペルカードを作りづらいのだ。
「単純に黒夜くんにあるものを使えばいいと思いますよ。極太のレーザーが撃てなくても勝てますって。」
俺にあるものか。色んなことに手を出してきたけど、弾幕ごっこにどう使えばいいのか。
「2人とも、いつまで休憩してるのよ。」
どうやら、相談している内に仕事の時間になっていたらしい。咲夜も俺も移動時間がほとんどないから時間にルーズになってしまっていた。咲夜は3年間の内に治したらしいが、俺は1人で旅をしていたので悪化している。
「咲夜さん、黒夜くんと切り札について話してたんですけど咲夜さんはどう思います?」
「切り札?よく分からないけど私は黒夜なら物量で押せばいいと思うわ。私と黒夜の共通の弱点だけど、能力が通じない場合攻撃の手段が一気に減ってしまうもの。」
美鈴が俺の悩みについては咲夜に話す。
うーん…やっぱり咲夜もみたいだが火力不足だよな。それで物量で押すっていう案か。
それで咲夜が使っているのがナイフらしい。てっきり趣味だと思っていたんだけどと聞いてみると趣味でもあったらしい。ナイフの話は置いといて物量で圧倒する、ね。
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後日、また休憩時間中に今度はパチュリーの所へ訪れていた。幸い俺が欲しかった物は、パチュリーにとっては、すぐに作れる物らしく後日また取りに来てくれとのことだった。
今は、見渡す限り本で囲まれているまるで本の森のようなこの図書館で読書中。時折本のページを捲る音が聞こえるぐらい静かだが、温かみを感じて心地良い。
読書は、小さい頃からの趣味だ。当時紅魔館の中だけで世界が完結していた俺にとっては、文字通り別の世界に連れて行ってくれる存在だった。そこで新しい知識や閃きを得てパチュリーにこれって作れるの?などの質問をよくしていた。その質問に出来ないと答えるのが嫌だったらしくパチュリーが、作ってくれた物は、おもちゃとしてよく遊んでいた。少々危険な物も混ざってはいるけど。
最近は、あまり来ていなかったがまた思いついたことがあったので今日訪れたという訳だ。この魔女は、ここから殆ど出ないからね。
「黒夜くんがこんな所に来るのはかなり久しぶりですね。」
どうやら、小悪魔も俺と同じことを思っていたらしい。
「別にここに来るのが嫌だった訳じゃないよ。ドタバタしてる日が続いてたから。ほら、本を読む日は、一日中のんびり過ごしていたいと思わない?パチュリーなら分かると思うんだけど。」
やっぱりその日をどう過ごすかは一貫性を持たせたいというかなんというか。頑張る日は頑張る日、のんびりする日はのんびりする日というように俺は一日の行動に、一貫性を持たせている。一日の内に、色んなことをやると忙しなく生きてるように思えて、心の余裕が無くなっていく気がするんだよね。
丁度今読んでる本にキリがついたらしいパチュリーに同意を求める。
「言いたい事は分かるけど私はそもそも他の事をしないわ。あとこあ、こんな所ってどういう意味よ。黒夜も否定しなさい。」
パチュリーの返答に思わず苦笑してしまう。どうやら常に本を読んでいるという言葉がぴったりの魔女には、あまり関係が無かったようだ。
うっかり失言をしてしまった小悪魔に図書館の素晴らしさを語り始めたパチュリーの口撃が、こちらに飛んでこない内になだめておく。
図書館の素晴らしさとやらは、小さい頃から理解しているつもりだ。壁中にある教科書と聞けば大抵のことを答えてくれるこの場所は俺にとって、図書館であり学校であったのだ。と伝えると、パチュリーは分かってるならいいのよ。とやめてくれた。
助かったというばかりにこちらを見てくる小悪魔には、「貸1つ。」という言葉を笑顔とともに送り付けといた。「誰だ、こんな風に育てたのは?」と騒ぎ始めた小悪魔に対して俺とパチュリーの視線が突き刺さる。
少なくとも俺は性格ごとに効く嫌がらせや、恩を売る方法などは小悪魔に教えてもらった記憶があるがパチュリーも同じだったようだ。
「うぅ。昔はもっと可愛かったのに。」
「そうね。あのときは微笑ましかったわ。」
昔はこうだった、ああだったなどといい始めた2人に対して口を挟めなくなり縮こまる。
昔のことを持ち出すのはやめて欲しい。
あの頃は、咲夜が苦手だったし余裕がなかったのだ。
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僕には物心ついた時から常に一緒なやつがいる。名前は十六夜咲夜。僕より2週間ぐらい前にこの紅魔館の住民に拾われたらしい。
そんなことは置いといて僕はこいつが苦手だ。理由は多々あるのだが1番はこいつが僕より優秀なこと。
パチュリーさんから教えてもらっている勉強や美鈴さんから教えてもらっている体術は互角なのだが、2人しか居ないため互いの差が浮き出てしまう。今は僕があいつに隠れて努力しているから互角なだけなのだ。それでようやく互角なのだから、嫌でもお互いの才能の差について考えてしまう。
そして勝ち越せないのは才能の差だから仕方ないと納得してしまいそうな自分が、何よりも情けなくて、悔しくてどうしようもない。
あいつと対等に成れれば視点が変わるだろうと努力をし続けているけど、それでもようやく互角。
自分でも分かってはいるが僕は極度の負けず嫌いだ。だからあらゆることに勝ちたくて、沢山の分野に手をつけて負けることがないように努力している。知らなかった、初めてだったなどというのは全て戯言なんだ。それは知ろうとしていない、やろうとしていない自分が悪いだけでなんの言い訳にもならない。
相手の苦手な分野で勝つのは当たり前で、あらゆることで勝っていたいと思う。
だからよく僕は図書館で本を読んでいる。まずは知識から。知識がなければ何も出来ないとは思わないが、今まで生きてきた人達の知識の集合体が本なのだ。中には僕達よりもよっぽど賢い天才達が書いた本もある。そういった昔の人達が遺した知識は大いに役立つだろうとパチュリーさんに教えてもらい始めた時に教わった。
だから僕は知識を求め、力を求め、それを活かす頭脳を求める。そして、そのための努力をしているのに勝ち越せない咲夜が苦手だ。
あと最近館の皆が微笑ましそうに笑ってるのが気になる。
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私には俗に幼馴染というやつがいる。名前は晦 黒夜。私は彼のことが苦手だ。
彼は一言で表すと万能だ。この館には私と彼しか人間がいないからよく分からないが、彼ほど万能なやつはあまり居ないはずだ。
人間が2人しか居ない分様々な面で互いの能力が分かる。紅魔館では、望むなら様々なものが与えてもらえる。代表的なのはパチュリーさんからの知識、美鈴さんからは体術だ。
私と彼は様々なことでよく競う。私と彼は負けず嫌いなのでどんな事でも全力だ。
私は負けたくないので彼にバレないように努力を続けている。なんでも出来る万能な彼に負けないように私はあらゆる面で完璧になろうと多くの分野に手をだした。料理や家事の練習だってしたし、美鈴さんからは体術を残って教えてもらった事もある。
私は少なくとも努力に手を抜いたつもりはない。それでも彼に勝ち続けることができずにいるのが現状だ。
だいたい彼が万能過ぎるのがおかしいと思う。あいつは男のはずだ。
私があいつの前でさりげなく美鈴さんから教わった家事をしているとあいつもさりげなく手伝い申し出てきて私が教えてあげようとすると、当たり前のように私と同レベルの家事をしだしたときはなんとも言えない気持ちだった。
体術も今は互角だが、最近本で学んだことによると成長期がくると女の私は男のはずの彼に勝ちづらくなってしまうらしい。体格の差というやつだ。
だからこそ私は努力してあらゆる面で彼に勝ちたいと思っている訳だが彼に勝ち続けることが出来ないのが現状だ。大抵の場合は引き分けか時間切れで終わってしまう。
あと最近紅魔館の皆が微笑ましそうに笑っているのが気になる。なんでだろう。