「えーと、皆さん……飲み物は紅茶で宜しいですか?」
「……はい」
「あ、私お菓子持って来たよ。皆で食べよ」
「おばさま、私は時計草のハーブティーでお願いするわ」
…………。はあ、『女子会』ってこういうモノでしたっけ?言ってはなんですが、なんだか雰囲気が宜しくないんですよね…。言い出しっぺの伊井野さんからは、何やら普段の彼女らしからぬ『圧』を感じますし。
「というか眞妃さんは、いつの間に『お友達』になったんです?」
この娘は以前から、どうも『私以外』の生徒会メンバーと仲良くしている節があります。もしかして…いえ、もしかしなくても完全に私への当て付けでしょう。
「私は交友関係が広いですから。本家のおばさまとは違って。……って、別に私の事は良いのよ。ホラ、あなたがやりたいって言った女子会なのに、何で黙っているのよ?何か話したい事があるんじゃないの?」
「そうだったの?伊井野ちゃん主催の会だったんだ。ん〜〜?それで伊井野ちゃんが話たい事って何かな?」
「……ごにょ…ごにょ……ひそ……ひそ………」
本当、つくづくこの子は成長しないな、と思う。視線を向けられる事が苦手だし、言い出し難い事は、ああして心許した誰かに耳打ちするし……まあ、わざとやっているのでしょうね。
「ふむふむ。なるほど。うんうん、わかった。わかった。おほん。えーとですね。『つばめ先輩はぶっちゃけ石上の事どう思ってるんでしょうか?好きなんですか?』……だ、そうです」
「ちょ……、四条先輩、何で言っちゃうんですかぁ!?」
顔を赤くして慌てていますが、どうにも白々しく見えるのは私だけでしょうか?
まあ『お話』の中身は、大方そんなところでしょう…とは思っていましたよ。
それにしても、石川くんですか……。こう言ってはなんですが、彼女達は彼の何処に魅力を感じているのでしょうね?私には全く理解出来ません。
-実は折り入って、伊井野ちゃんにお話したい事があって……何とか、かぐやちゃんからお願い出来ないかな?-
なんて事を年始早々に頼まれて、さてどうしたものでしょう…と、思案していた矢先。
-可愛い後輩が困っているから力になってあげて欲しい-
と、今度は四条家の娘がやってきた。全く、柏木さんと言いこの人達と言い、生徒会室を恋愛相談室か何かと勘違いしている節があるわね。
残念ながら、今年の生徒会室は私と会長の為に…私達の愛を育む為にだけに存在する…いわば、私達2人だけのラブルームなのに…。
まあそんな事をわざわざ余人に公表するつもりは無いし、虫ケラ程度…とは言え、初めて面倒を見た可愛い後輩に対して情が湧いたのも事実だから、少しだけ協力するのは吝かでは無い。
というか伊井野さんは何故、毎日生徒会室で顔を合わせている私では無く、そんな分家の娘如きを頼るのでしょうかね?別にそんなつまらない事で気分を悪くはしないですけれど。
「すっごい奇遇だね。私も同じ事を聞きたくってさぁ。ぶっちゃけ、伊井野ちゃんも優くんの事…その……、好きなの?」
「質問に対して質問で答えないで頂けますか?訪ねているのは私です。つばめ先輩はあいつの事どう考えてるんですか?」
「どう……とは?」
「異性として好きかどうかって聞いてるんですよ!!」
「そ、それは…」
やや伊井野さんの口調が強くなっていますね。気持ちは分からなくも無いですが……。
これは、石上くんからクリスマスイブの話を聞いた時、個人的に思った事なのですが、子安先輩はもう既に結構なところまで落ちているのでは?
石上くん自身は随分と気落ちしていましたし、-せっかくプレゼント選んで貰ったのに、活かせなくてすみませんでした-と心底、申し訳無さそうにしていましたが……私は案外、まだ脈アリだと見ています。
子安先輩自身はまだ煮え切らない様子ですが、側から見てると、まるで根本が腐った樹木。土台がグズグズです。
本当にちょっと押せばコテンと倒れちゃいそうで、以前に彼女自身が言っていた『恋愛すると他がおざなりになる』と言うのも頷ける話ですね。
「なら、言い換えます。つばめ先輩、私は石上が好きです。だから身を引いて頂けますか?」
…………。はれぇ!?
なーんか、私が予想していた感じとは若干違いますね。えぇ……。
伊井野さん……。え〜…。そうだったんですか。私はまたてっきり、好き合ってるのに交際を引き伸ばす2人にヤキモキして、善意で憎まれキューピッド役を買って出ているものだとばかり思っていましたよ。
まあ最近の伊井野さんを見ていると、もしや石上くんに気があるのでは……?とも少しは思ってましたが、よもや真正面から子安先輩に仕掛けようとは……流石にこれは予想していませんでしたね。
「う……。やっぱり、伊井野ちゃんもそうだよね?……実は、私も伊井野ちゃんに言いたい事があって……この際だからはっきり言うよ?」
「どうぞ」
あら……。やはり子安先輩も譲る気は無し…と。
これは面白……いえ、大変な事になって参りました。そうですか。そうですか。これは、もしかして、世間一般で言うところの……所謂、三角関係と言う奴では?
うふふふふふ。痴情の絡れ。あぁ、浅ましい。他人の修羅場は面白いものですね。
石上くんの取り合いと言うのが、私的にイマイチピンと来ませんが、まあ良いでしょう。これはこれで楽しい女子会になりそうです。
◆◆◆
「どうぞ。さあ、冷めないうちにお召し下さいな」
「頂きます」
うん、美味しい。流石はかぐやおばさま。淹れたてのハーブティーが五臓六腑に染み渡るのを感じるわ。
ああ、それにしたって安請け合いをしたもんだと思う。我ながら人が良過ぎるとも。
-もっと自分の気持ちに素直になった方が良いわよ。でないと後悔するのは貴女自身。良く考えた方が良いわ-
全ての始まりは私のこの言葉からだったのかしら?目の前で不幸になりそうな…このまま放っておけば毎夜枕を濡らす事になりそうな…そんな彼女を見ていたら、つい一言告げたくなっちゃって。
そこから、色々お話していくうちに、どうにもシンパシーを感じちゃって、仲良しになれたのは良かったのだけれど…。
-あの女からあいつを略奪してやる-
なんて。まあ私が焚き付けちゃった部分もあるけれど、正直、気は進まない。進まなかったんだけど、あれよあれよと言ってる間に、お茶会に参加する羽目になって。
私、かぐやおばさま、ミコ、子安つばめ。
去年までは大凡、接点のなかった4人が、新年早々に集まって、生徒会室でお茶会。しかも修羅場。
あーあ。私って前世で大罪を犯してこの世に生を受けたのかしらね?何でこんな目にばかり合うのだろう。
鉄面皮のおばさまはどうってこと無いんでしょうけど、繊細な私にとって、この部屋は針の筵としか言いようがない。
「私達の邪魔をしないで」
あ〜〜。ミコには悪いけど強敵だわ。子安つばめは表情こそいつもの柔和な笑顔だけれど、目が全然、笑っていない。
って言うか……、こっわぁ〜〜〜。3年のマドンナだか何だか知らないけど、女の怖い部分を具現化した存在とでも言えば良いのかしら?
かぐやおばさまとはまた違った腹黒さを隠し切れてないと言うか…何と言うか…同じ女としてこうはなりたくないわね、と思う。
でも優は子安つばめが好きなのよね…。まあ異性と同性じゃ見え方なんて違って当然だし、優の見る目がない訳じゃあ無いのでしょう。確かに美人だし。あと、胸が大きいしね。
「私…たち?」
「そう。私と優くん。伊井野ちゃんだって知ってると思うけど優くんは私の事が好きだし。私は、そんな彼の気持ちに応えようと、彼の事をもっと知ろうと、色々頑張っているところなの」
「………。」
「それは誰にも邪魔されたくない。分かるでしょ?と言うか、伊井野ちゃんは『邪魔』って部分は気にならないんだね。もしかして自覚あった?」
「あったらどうだと言うんです?」
「私達の事はそっとしておいてよ。これは2人の問題だから」
「………。黙って聞いていれば偉そうに。まだ付き合ってもいないどころか、あんな酷い振り方をしておいて、よくもまあぬけねけと彼女面が出来ますね。そっとしておいて?私が放って置いたら、あいつはまた悩んで、苦しんで、哀しんで……」
「それは伊井野ちゃんに関係ない」
「ありますよ。私は石上が好きだって言ってるでしょう。私の話、ちゃんと聞いてましたか?それを言うなら、私があいつと何をしようが、つばめ先輩に関係ないですよね?要らないなら私が貰ってあげると言っているんです」
うーわ最悪。こんなつもりじゃなかったんだけどなー。私は良かれと思って、ミコにアドバイスしただけなのに…ほんとにどうしてこんな事になってしまったのだろう?誰か助けて。
『ちょっと、ちょっと〜〜。私抜きで恋バナなんて許しませんよ〜〜。貴女達の愛と言う名の落し物。このラブ探偵が見事、見つけ出して差し上げます!!』
扉の向こうから何か聞こえた。
第2話に続きます。