彼女達は晒したい   作:サボリーマン先輩

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運命を分かち合う彼女達の愛と友情の番外編です。


番外編その2-B 彼女達はくっつけたい

「うーわ、本しか無いじゃんこの部屋。女の部屋じゃないな、と言うコメントは締め切りました」

「思ってねぇよ。要素はあるじゃん。熊とか」

「そんな取って付けたような……」

確かに女らしさは感じないが、彼女らしさを感じられて、これはこれで良いと思う。

たけど、それを言葉で伝えるにはまだ少し恥ずかしい。彼女と付き合い始めて日も浅い少年には、まだ少し勇気が足らなかった。

「あんた、女子の部屋はフワフワモコモコかつファンシーでぽよい感じが好みなんでしょ?」

「いや、そんな事ないけど?誰がそんな事言ったんだ」

「……。違うなら良いの。別に気にしないで」

やはりまだ、あの人の事を気にしてるんだろうか?……そりゃそうか。僕が伊井野の立場だったら絶対、気にするもんな。

けど、僕はあの人の部屋がどうなってるかなんて知らないし……。いや、まあ気持ちの問題なんだろうけど……。

(僕はお前とあの人とを比較べた訳じゃない。今はお前が好きなんだよ)

「気になるだろ。ああ、気になると言えば、ベッドが無いなこの部屋。伊井野は布団派か?」

「エッチ」

「なにが?」

「彼女の家に来て、最初に気にする事がソレな訳?」

「違うわ!!ていうかまだ無理だろ?そういう事は治ってからだな。時期的にもちょうど良いだろ」

「あっそ。まあ、隠す様な事でも無いから教えてあげる。ちょっとそこに座りなさいよ」

石上は自分の立つ位置が邪魔なのかと考えて、部屋の隅に座った。その傍らには、この部屋で唯一の少女らしさが、その存在感をアピールしている。

「私が寝る時はね……。こんな風にするのよ」

その柔らかな感触と甘い匂いが、石上を襲う。

(くっ。不意撃ちだ。卑怯だぞこんなの)

「中々、良い感じね。しっくり来るわ。新しい寝床はサイズがちょうど良いみたい」

「これ寝辛く無いか?熟睡出来なさそー」

「どうだろね。ん、どうなんだろ……」

悩むまでもないだろうに。まあどうせ、こいつの事だから睡眠時間を削って勉強しているのだろう。普段の様子を見ればわかる。

「けど何か固いモノが当たってる。私の腰あたりに…なんだろう?」

ってバカ。触るんじゃないよ。それはとても繊細なヤツなんだから!!

「ゴツゴツしてカタくて…」

あ、ここ丸みがある!の辺りで石上は気付く。

「お前さ、全部わかってて言ってるだろ?」

「さぁ、何の事かしら?私は真面目な優等生だから、そんな言葉の含みなんて分からないわ。それともあんたが今から教えてくれるの?手取り足取り」

「手が取れないんだけど?あとお前が触って悪戯してるのスマホだから。まあ、寝るには確かに邪魔だろうから出しとくよ」

石上は自らのポケットを弄り、スマートフォンを床へ置いた。当然、その際に密着している部分に触れる訳だが……特にそれを咎める者は居なかった。

「スマホね…。ねぇ、アラーム機能はあるのかしら?」

「ん?そりゃあまあ。標準機能だし」

「そう。なら20分経ったら起こしてよ」

っておい、あと20分もこの体勢かよ。結構辛いぞそれ……。

(全く、仕方ないな)

目を瞑り、安心しきった表情を見れば、とても文句を言う気にはなれなかった。

仮眠に適した時間帯はもう過ぎているけどまあ良いか。精々、良い『夢』を見て欲しい。その為なら枕にもなろうじゃないか。

夢と言えば、あの日以来、変な夢を見なくなったな……。伊井野と付き合う前には、あんなに見たのに……。

 

◆◆◆

 

『あなたの為を思って言うのだけれど、気を悪くしないで頂戴ね?早くあの子から離れた方が良いわ』

「あの子って誰の事ですか?」

『あなたが毎日、甲斐甲斐しく世話を焼いている子よ』

「ああ、それは仕方ないんです。僕に責任があるんですから。罪滅ぼしって奴ですよ」

『それは違うわ』

「??」

『あなたが責任を感じる必要なんて無いのよ。あんな事になったのは全てあの子が悪いんだから』

「え?それってどういう……」

 

変な夢を見ちゃったな……。夢は潜在意識だと言うし僕は自分の都合の良い風に考えたくて、罪の意識から逃げたくて、それでなのかな?

だったら、最低じゃないか。僕が悪いのは明らかなのに……。まるで伊井野が悪かの様に、しかもそれを四宮先輩に言わせるなんて最低だ。

その日、久しぶりに石上は死にたくなった。

 

『せっかく忠告したあげたのに、あなたって本当にしょうがないのね』

「何の事ですか?」

『あれだけ言ったのに、今日も世話を焼いていたわ。と言うより今日はいつにも増して甘やかしてたわ。ねぇ、一体どう言うつもりなの?』

「あなたは四宮先輩じゃないですよね?」

『え…?』

「あなたは僕の潜在意識なんでしょ?僕が怖いと思って、普段は目を逸らしている感情が四宮先輩の形をしているだけなんだ」

『あぁ、そう言う事…。ふふっ、別にどう解釈して貰っても構わないわ。私はあなたの味方なんですから』

「絶対にそうだ。僕の恐怖の象徴なんだ、四宮先輩は。絶対そうに違いない……」

『酷い言われ様ね…。まあ、ともかく、これ以上あの子に入れ込むのは良くないわ。早く気付きなさい。それがあなたの為よ』

 

たかが夢である。誰かに詫びたり、何かに恥じたりする必要は無い筈だ。

だから、その日も何となく、困っている奴に対する親切心が強く働いた。

でないと心が圧し潰されそうな気がしたから。これでは誰が誰を助けているのか分からない。

 

『あなたは意外と頑固で面倒くさいのね。それとも何か気付いたの?』

「別に僕は下心がある訳じゃない」

『何の話かしら?』

「つばめ先輩に告白しておいて、同じクラスの伊井野にちょっかいを出してる様に見られてるなら凄く心外です」

『ああ、なるほど。あなたはそういう風に受けっ取ったのね』

「違うんですか?僕が言いたい事は…」

『まるで違うわ。そんなどうでも良い事をわざわざ告げに来る程、暇じゃあないの。私はね、あなたがあの子と関わりを持つ事自体、良くないと言っているの』

「え?何でですか?」

『有り体に言ってしまえば、運気が良くないのよ。サゲマンって言うのかしら?最近の子たちは』

「え…そんな理由!?四宮先輩ってオカルト肯定派でしたっけ?」

『本当の事よ。なら、そうね……。あなたが今までに経験した辛い事をいくつか思い出してみなさい。何か気付く事はない?』

「急に言われてもそんな……。全然、何も無いですけど」

『本当に?あなたに辛い事が起こる度、決まってあの子が傍に居る。まるで、あの子が不運を呼び寄せているみたいだわ。ねぇ、それは単なる偶然なのかしら?』

 

久々に寝覚めの良い朝だった。ここ最近は嫌な夢の連続で、自分の人間性を否定されるかの様な思いだった。

だけど、あんな出鱈目な話だったら気が楽だ。笑い飛ばせば良い。そんな事、現実に有りはしないのだから。

 

-昼休みの中庭は人通りが少なくて静かに過ごしたい人にはオススメの場所だ。特に今の季節は日中でも冷えるし、好き好んでわざわざ屋外で昼食をとる物好きも居ないだろう。

「寒い……。風邪ひいたらどうすんの?」

「そんな事言ってもそう毎日、毎日ボランティア部にお邪魔したら悪いだろ」

教室なんて論外。となると、校内で人目に付かない場所なんてそうそう無い。生徒会室が使えたら良いんだけどなぁ……。今は諸事情で入室禁止。

最近見る変な夢の事もあって、石上はその心中でほんの少しだけ怨んでいた。

「ほら」

「ん」

女子にあーんでお弁当を食べさせている姿など他人には見せられない。只でさえ同級生からの評判が良くないのだ。絶対にロクな事にならないとこれまでの経験から判断していた。

「ねえ、この木の噂って聞いた事ある?」

やたらとデカイ弁当箱を空にした後、暇にでもなったのか、伊井野がこんな事を言い出した。

(知ってるもなにも……。【首吊りの木】だろ?七不思議からは解放された筈なんだけどなぁ)

「まあ、一応は」

「ならさ、もしここで女子に告白されたら、あんたはどうする?」

伊井野の言葉にドキリとする。恋のトキメキなんかじゃ勿論ない。思い出し恐怖。かつてピアノの幽霊から貰ったラブレターに対する恐怖の感情が蘇った。

「そ、そんな有り得ない事を前提にした質問は不毛だよ。僕が女子に告白されるなんて事はある筈が無いんだからさ」

「-ごめん。俺、好きな人居るから-」

「へ?」

「あんたはそう言うべきじゃないの?」

「あ…いや、それは……」

余程、告白され慣れていなければ、咄嗟に出てこない言葉である。まして、石上は違う事に意識が向いていた。

だから、そんな石上に対して、やや不機嫌に当たるのは可哀想と言うものだ。

「有り得なくもないんじゃないの?今までに貰った事があるんじゃないの?例えばさ、キュンとくる文面の…可愛いらしいラブレター」

-あなたのことが好きです-から始まる文章の可愛い文面に、綺麗な字。-FROM 親愛なるあなたへ ピアノの少女-と綴られたラブレター。

「この【幸運の木】で結ばれたカップルは永遠の愛を手に入れる」

-この【首吊りの木】で告白された者には波乱続きの恋が待つ-

「ん?ちょっと待て……。伊井野が何で知ってるんだ?」

アレは僕と会長の2人しか知らない事なのに…。

「それはね。あのラブレターは私があんたに宛てたモノだからよ」

へ?背筋が凍る。変な汗が出てきた。

「なんてね。さあ、そろそろ戻るわよ。午後の授業に遅れちゃうから」

それから、その日はどうやって帰路に着いたか覚えていない。とにかく寝たい。眠ってしまいたい。『夢』でもなんでも良いから……。石上はオカルトでも何でも縋りたい心境だった。

 

「クッソ!!なんでだよ。土日だからって休んでんじゃねーよ」

見たい夢が見れないという理由で声を荒げる高校生男子は客観的にみれば少しオカシイのかも知れない。

自室での独り言なのだから、別にどうでも構わないが……。見たくもない時は勝手に出て来ておいて、こちらが見たい時には出てこないなんて理不尽が過ぎる。

そもそも怪奇に対して条理を求める事自体がナンセンスなのかも知れないが、連日のストレスで石上はどうにかなってしまいそうであった。

 

-あの子が不運を呼び寄せているみたいだわ-

 

いやいやいや。そんな事、有り得ないだろ。確かに自分は決して運が良い方じゃないとは思うし、辛い目にも沢山遭ってきた。

だけど、それは自分が悪いのであって……決して他人が悪い訳では…。あの時も、あの時も、あの時だって自分が悪かったと思う。

よりにもよって伊井野が悪いだなんて…そんな事は夢にも思いたくない。今回の事だって、きっと真実はしょーもない事で、それは全然オカルトなんかじゃなくて、ちゃんと説明のつく話に違いない。

その時には深くは考えなかった石上が、自身の大変な思い違いに気付いたのは、その週が明けた後の話である。

 

◆◆◆

 

「おい。そろそろ20分経つぞ?」

「………」

あまりにも無防備にリラックスしているが、特に眠っている様子もないので声を掛けた。

「起きてんだろ?無視するなよな」

「………。眠り姫の起こし方も知らないの?」

(眠り姫って…ああ、そーいう気分なのね)

確かにそういう体勢だと言えない事も無いし、こいつはそういう気分に浸るやつだったな、と石上は納得する。

「したくないんだったら別に良いのよ?無理にしなくたって」

「したくないとは言ってない」

「ん」

こいつの事を、可愛気の無い頭でっかちなんて悪口を言った奴らにこの姿を見てせやり…たくはないか。勿体無いな、他人に見せるのは。

よいしょ、と。目覚めたお姫様はそのまま胡座の上に腰掛けて、彼の胸板を背もたれ代わりにその体重を預けた。

「お前の髪って良い匂いがするよな」

「ん」

目の前にある髪を手櫛ですいて、頭を撫でる。もしかしたら自分は匂いフェチなんじゃないかな?割と鼻が効く方だと思ってはいたが、彼女と付き合うまで気付かなかった性癖の一つであった。

「ねぇ、ひとつ聞いて良い?」

「ん?」

「あんたさ、何で私の事OKしたの?好きな人居たのにさ……」

「それは前にも言ったろ?叶わない夢を見続けるより、手の届く現実を優先したんだって。これからも高校生活を送るのに同級生の彼女なんて最高だからさ」

「それは前にも聞いたわよ。あんたがそんな男だったら、私も随分楽が出来て良かったのに。いい加減ホントの事を教えてよ。ああ、けど同級生の彼女が最高だってトコは真実であって欲しいわね」

あんまり気が進まないけど隠し通すのもそろそろ限界かも知れない。別に言えない様な理由じゃないけど、恥ずかしいから秘密と言うのは通じなさそうだ。

この位置からじゃ顔は見えないけど、どんな表情してるかは、何となく想像が付く。

「それは真実だよ。お前はずっと傍に居てくれるから。たったそれだけの理由だけど、僕にはそれが大事だったんだ」

「ん。どゆこと?」

「思えばさ、僕がピンチの時には必ず伊井野が傍に居てくれた気がしてさ。それってさ、僕が知らず知らずの内にさ、伊井野が助けてくれてたんじゃ無いのかな?って。僕をフォローする為に昔からずっと僕を見てくれてたんじゃないのかな?って。だとしたら、僕はいつもダメダメだったからさ、随分苦労したんじゃないのかな?って。傲慢かも知れないけど、そんな風に考えたら…伊井野を手離したく無いと思った。伊井野の事をつばめ先輩より好きになった訳じゃなくて、あの恋が偽物だったなんて思ってないけど、それでも僕の抱く等身大の愛ってのはそーいう形をしてるモノだと思ったんだよ」

「ふぅん。そう」

「なんだよ、淡白だな」

「だって」

ふふふ。と、伊井野は笑う。そんな当たり前の事、あんただけだと思わないでよ、と。

 

-あの子が不運を呼び寄せているみたいだわ-

 

それは一種の認知バイアスの様なもので、穿った見方。物事の一面だけしか見えていない、浅い見解だ。

例えば、不幸を告げる黒猫も、不吉を知らせるカラスも、あれらは非常に賢い生き物だから、人間の生態や行動を良く観察している。

災難の原因を深掘りすると案外人為的なミスであるケースが多いとして、-そんな事してたら大変な目に遭うぞ-と警告しに来てくれた者がいたとして、-あいつが近寄ると不幸な事が起きやすい。不吉だ-なんてのは余りに身勝手な解釈では無いか?本当は守り神かも知れないのに。

少なくとも、僕はそう考えた。だけど、守護られてばかりと言うのは癪だから、僕だって守護ってやりたい。生涯、そんな関係を続けられたなら、それはきっと素敵な事だと思うから。

 

◆◆◆

 

『君もなかなかやるものだね、流石』

『まあね。読心術やら人身掌握の術やらは、生前に嫌と言う程、叩き込まれていたからね。三つ子の魂百まで、人はそう簡単には変われないのよ』

『つまり、彼の心理を誘導する事くらい、君には簡単だったって訳だね?』

『そうね。けど、あの子は馬鹿なんじゃないかしら?猫やカラスが観察するのは屍肉を漁る為よ。それ以上でも以下でも無いわ』

『ふぅん。本音は?』

『全然予定と違う。あの子がサゲマンだってのは本当なのよ。よりにもよって選択肢を間違えてくれたわ。あの子があたし達の仲間入りするのも時間の問題ね』

『そうかな?僕はそうは思わないけど』

『どうだと言うの?』

『確かに、あの子達は2人とも薄幸だと思う。けどね、運気ってものは相性があってね。まあ要するに、あの子達は互いに互いが助け合ってまあ幸せとは言えないまでも、死なない程度にはなんとかやっていけるだろうさ』

『えーー。それって良い事なの?』

『知らないよ。当人達の問題なんだから』

『君もなかなか良い性格してるわよね』

『そうかい?ただ僕は羨ましいだけだよ。僕だって君とそういう風に生きたかったんだから』

『ずるい。今更そんな事を言うなんて』

『悪かったね。けど、今暫くは君と2人で彼らを温かく見守るつもりだよ。僕は猫でもカラスでも無いからね。君だってそうさ』

『そうね。波乱続きの恋がどんなものか気になるし、もう少しだけ面倒を見てあげる事にするわ。ほんの少しだけ』

 

その後、石上優が不思議な夢を見る事はそれなりにあった。




番外編は守護霊達の活躍により並行世界が展開されています。

守護霊ルールその2

『七不思議に関わった数によって干渉できる度合いが変化する』

例、石上6/7 つばめ1/7 ミコ3/7
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