「聞いてない!!」
それぞれの事情を一通り聴き終えた自称、ラブ探偵さんの第一声はこれでした。
「こんなに重い話だなんて聞いてない!!」
勝手に乱入してきた癖に何を言っているのかしら?とか、早坂はまた敗けたのね?とか、最近かなり勝率が落ちて来てるんじゃないかしら?とか、色々と思う事はあるけれど。
「よくも私を騙してくれましたね……あのキス魔…。甘酸っぱい青春の恋する乙女たちって聞いてたのに……いざ蓋を開けてみたら、昼ドラ顔負けのドロドロ三角関係じゃあないですか」
あの鹿撃ち帽にリボンを付けるスタイルは藤原さんなりのこだわりオシャレポイントなのでしょうかね?
あのコスプレはもう何度も見ていますが、いつも視線があのリボンへ向いてしまいます。凄く気になるんですよね。
「何の話か知らないけれど、道楽や冷やかしだったら遠慮して貰えないかしらね?見世物じゃあないのよ」
「いえいえ、ちょーーっとばかり予想外の出来事にすこーし戸惑っただけです。どんな愛の形であっても…恋に悩む方は、皆さん依頼人ですから。あなた方のお悩み解決もこのラブ探偵にお任せあれですよ」
「ふーん。こっちはそんなヘンテコな依頼をした覚えはないけど。まあ、部外者の藤原がどうにかしてくれるって言うのなら、どうにかしてみれば良いんじゃない?」
「部外者だからこそ、公平な立場で物事を判断する事が出来るんですよ。というか、四条さんだって部外者なんじゃ?まさか、どちらかに肩入れするつもりだったんですか?それは、それで……ねぇ?」
そういえば、藤原さんと眞妃さんがお話しているところを見た事が無かったけれど、微妙な空気感と言いますか、有り体に言って普通に仲が悪くないです?
個人的には現生徒会メンバーで藤原さんだけが名字呼びされてる辺りがツボですね。藤原さんだけが。
「あーはいはい。私も部外者ですよー。そうですよー。もう好きにしてちょうだい」
「という事で、おふたりさん。どうでしょう?あなた達のお悩みをこのラブ探偵チカに預けてみませんか?きっと後悔はさせませんよ」
「私は藤原先輩だったら良いです。お願いします」
「このままだとずっと平行線だし、私は別にギスギスしたいって訳じゃないから」
「ん〜〜。決まりですね!!ではですねーまずはお互いの気持ちをハッキリさせて整理するところから始めましょう。嘘は絶対にダメですよー。素直な気持ちで質問に答えてくださいね」
-申し訳ございません。取り逃がしてしまいました-
本当に必要最低限短のメールですが、送信者の苦労を想わずにはいられません。たまには早坂の働きを労ってあげるべきなのでしょうね。いつもいつもご苦労様。後でスタンプでもプレゼントしておきましょう。
「おばさまもスマホ弄ってないでさぁ……」
「あら失礼。あぁ、失礼と言えば眞妃さん、今ので3度目ですね」
「何の事かしら?」
「いつも言っているでしょう?いい加減、そのおばさまって呼び方をやめて貰えないかしら?はっきり申し上げると、凄く気分が悪いです」
「いつも言っているけれど、私にとってのかぐやおばさまは正真正銘、まごう事無き叔母様なのだから仕方ないでしょう?別に悪意がある訳じゃあないのよ。まあ、おばさまがどうしても嫌だと仰るのなら……そうね、親しみを込めて『かぐおば』と呼ばせて貰いましょうか?」
「丁重にお断りします」
「あーちょっと、ちょっと。かぐやさんも四条さんも何、流れ断ち切ってコント始めようとしてるんですか?そーいうの今は良いんで、静かにしてて貰えません?」
「ぐ……」
「そうですよ、眞妃さん。空気を読んで下さいな。別に無理をしてお姉様と呼ぶ必要もないですから。私の事はそうですね……親しみを込めて『かぐやさん』と呼んで下さい」
「あーはいはい。わかりましたよ、かぐやお姉様。これで宜しいのでしょう?」
「ええ。今後とも宜しくね。眞妃さん」
さてさて、こんな下らないやり取りをしている場合では無いですね。藤原さんが、どんな風にこの場を掻き乱してくれるのか……。正直、予想がつきません。
けれど、今回に限っては私に被害が及びそうに無いですし、それならそれで私もいっそ、この場を楽しんでしまう……と言うのもアリなのではないでしょうか?うーん。これは悩みますねぇ。
「こほん。えーー、ではミコちゃんからいきましょうか。準備はOKですかー?」
「宜しく…お願いします」
「あー、そんな肩肘張らなくて大丈夫ですよーリラックスしてくださいねー。で、まずお話を聞いて思った、私の率直な疑問なんですけど転機はなんだったんですか?」
「えぇ……と……」
「ほら、石上くんてあの通り、他人を正論でブン殴るDVクソ野郎じゃないですか?他人のミスや弱味に付け込んでは嬉々としてマウント取ってくる卑劣漢ですし、まあ良いところも多少はありますけど、恋愛対象としての魅力はイマイチ不明瞭と言うか……ぶっちゃけ決して良いとは言えない人格の持ち主だと思うんですけど、ミコちゃん的石上くんの愛すべきポイントはどこなのかなーー?と。どこで変なスイッチが入っちゃったのかなーー?と。その辺りが気になる訳ですよ」
完全に藤原さんの私怨が入っているわね。石上くんが聞いたら死にたがりそうな事をズバズバと言ってはいますが、確かに伊井野さんが心変りしたキッカケは少し気になるところです。
私の記憶が正しければ、去年まではお互いに意地の張り合いと言いますか、正直、歪みあっていた様に思うんですよね。
時々、あら?と思うような一面が垣間見えた瞬間もありましたが、それこそ、私と会長の様な大人の恋をするには、まだまだ若過ぎる印象でした。
それがこうまで石上くんへの好意をハッキリと態度に出すのは……。一体、彼女に何があったんでしょうね?
「確かにあいつは人の気も知らないで無神経な事を言います。それに上から目線だし、いつも私の事を小馬鹿にして、私を女として見てるかどうかも怪しいし、優しくないし……イケメンじゃないし、王子様なんて柄じゃないし、正直良いトコなんて全然無いです」
「うんうん。私の知ってる石上くんだ」
「でも、あいつ。私が居ないとダメっていうかホントにもうダメダメなんです。今だって、つばめ先輩に振り向いて貰いたいとか言って色々頑張ってる癖に……下手なお洒落して、無理して変な言葉使って、見てて痛々しいし……それなのに……なのにあいつ、私が利き腕を折って不便だからって文句も言わずに、私の世話を焼いてくれてるんですよ。
信じられますか?クラスメートとはいえ…とはいえ、男の子と女の子ですよ?それを見た周りがどう思うか……誤解するに決まってます。好きな人居る癖にそんな事で損をして。あいつバカなんです」
「へーー。私の知らない石上くんだ」
「なので、好きになりました。今は私の方を向いていないあいつの優しさを私に向けて欲しくなったんです」
「なるほどー。うーん。ミコちゃん……知らない間に成長したね」
いやいやいやいや。何かちょっと良い話風に語っているけれど、嫌がる石上くんを無理矢理パシリに使ってるのは他でも無いこの子自身じゃない。しかも割と姑息な手段と方法で。
好きになった理由も取って付けた感じが凄くするし、本当に最低じゃない。大丈夫なの?
「あと……」
「ん?あと?」
「あいつ、私の前だと『俺』って言うんです。たまーにですけど……普段は『僕』なのに。それで、気付いたんです。これが、真実の愛だって。石上が私に酷い事をしたり、言ったりするのは愛なんだって。例えば、今の私はあいつに折られた右腕を見る度に石上の事を決して忘れない訳じゃ無いですか?あいつが私を傷付けるのは私に忘れて欲しく無いからなんです。だったら私もその愛に応えないと。あいつの恋路を邪魔をするのは、そういう事です。私はあいつが失恋の痛みを思い出す度に私の顔が浮かぶ様にしたいんです。私以外の女と傷付け合うなんて許せない」
怖っ!!!何が怖いって、言ってる事も十分アレなのだけれど、先程までと違って伊井野さんの眼や口調に迷いが無い。
つまり、内容はどうあれ本気って事ことなのよね………。凄まじい病みっぷりだわ。そうね……私の中での、面倒臭くて重い女ランキング上位3には間違いなく入るわね。あぁ、なんて恐ろしい子。
「あ〜うん。そうなんだーへー。と、とりあえず、ミコちゃんはこのくらいで良いかなーー。うん。じゃ次はつばめ先輩に質問していきますねー」
◆◆◆
「なんでも聞いてくれて良いよーー」
「私がつばめ先輩に聞きたいのは、ズバリ!!何で石上くんの告白断っちゃったんですか?です」
「そ、それはさっきも話したじゃん。上手くやっていけるかどうか不安だから……」
「えぇ、そうですよね。それは聞きましたし、気持ちも分かりますよ。咄嗟にマジ告白されて上手にお返事出来なかったと言うのも分かります。でも、今は石上くんの事、好きなんですよね?男として。じゃあ今からでもOKしちゃえば良いんじゃないですか?とりあえずOKして付き合ってしまった方が、より深くお互いを知るチャンスも増えると思いますし、余人が邪魔をするリスクも減ります」
「う……」
「それに何よりこの話って、つばめ先輩がOKしちゃえば、それでおしまい。あとはお二人お幸せに〜〜で、ちゃんちゃん。なんですよ?ミコちゃんには残念でしょうけど」
確かにそう。ミコがどれだけ優の事を愛したとしても、優が子安つばめに惚れている以上、あちらが先手を打ってしまえば、それで話は終わり。こちらは指を咥えて見てるしかない。
そもそも、こんな話し合いは最初から無駄。子安つばめがミコに邪魔されたくなければ、さっさとくっ付けば良いだけの話。
それをグダグダグダグダやっているからミコが拗らせちゃってる訳で……。
「それは出来ない…私からは絶対に言えない」
「それは……何故?」
「軽い女だって思われちゃう。優くんの告白からまだ全然、時間も経ってない。それなのに、私の方から告白返しなんかしちゃったら、移り気な女だって思われちゃう。真剣じゃない。遊びのキープ。大学に行くまでの間に合わせ。そんな風に思われる」
はぁ〜〜ーん?何を言ってるのかしらね?この女は。付き合う前から男をベッドに誘い込んだだけでは飽き足らず、自分の匂いが移るまで接近した上に……あまつさえ、セッ…まで致そうとした癖に、今更、何を純情ぶって……。
「いや、石上くんはそんな風には思わないかなーと。『え!?つばめ先輩も僕の事を好きに?ラッキーー』ってなもんですよー。多分」
「優くん、結構マジメって言うか……そう言うトコちゃんとしてた。あの時、優くんに拒否されて、部屋を出ていく優くんの背中を見てたら胸が張り裂けそうになって……すっごく、すっごく後悔した」
「まぁ、それはつばめ先輩が色々段階をすっ飛ばしたからで……」
「優くんは私に幻想を抱いてるんだと思う。だから、最初はそんな相手と恋愛なんて……って迷ったけど、今はもう迷ってない。私は優くんの幻想になる。優くんが好きな私になって、一生、理想の先輩を貫き通す。それが優くんの気持ちに応える私の誇りで自慢で覚悟なの」
「やー、彼もそこまで少年では無いかと……」
「それにもう嫌われたくない。もし私からOKして、それでまた拒否されたら、もう生きて行けないと思う。そんな事になるんだったら…その可能性が少しでも有るんなら、私は待つしかない。優くんが好きな私は、きっと約束の3月まで待って、それでしっかりとした答えを出せる私だから。優くんが納得出来る答えをだして、それで2人一緒に過ごしていく私。遠距離でも、部活が忙しくても、愛さえあれば大丈夫。2人で一緒に乗り越えられる。そんな私じゃないとダメなの」
重い。そして、面倒臭い。私的、手本にしたくない先輩ランキング上位3にランクインする事は間違いないわね、この女。
「あーはい。つまり、つばめ先輩は自分からOKを出すつもりは無くて、あくまでも石上くんからもう一度告白してくる様に仕向けたい…と」
「うん。次はちゃんとOKするし、優くんが望む事だけを思い通りにさせてあげる。私の明るくて元気なところが好きみたいだから。夏に咲く花みたいだって…そう言ってくれたから」
傲慢。そもそも、自分がご褒美になると考えている辺りがいけ好かないのよね。結局は相手の気持ちを無視している訳だし、何なのかしらね全く。とはいえ、ミコもミコでお世辞にも綺麗な愛とは言い難いし……
あーあ、優は女運が無いわよね。いい子だと思うのだけれど…神は居ないのかしらね。どう転んでも波乱続きの恋愛しか待って無さそうだけれど私は応援しているわ。
最初は、優の意志を尊重して、子安つばめとの仲を応援していた訳だけれど、こうなると話が違ってくるわよね……。
はぁ、ミコが普通に恋してくれていたら、私も推しやすかったのに……どうしてこう……。
「ふーむ。なるほどですねぇ。おふたりの気持ちは朧げですが、まあなーんとなく分かっては来ましたよ。それでですねぇ〜ここまでで私から、一言だけ言わせて貰っても良いですか?」
「聞いてない!!!」
「ここまでの事は聞いてない!!!!!」
「これ、もう探偵じゃなくて、病院で専門家の治療を受けた方が良いです!!!2人とも重過ぎてしんどい!!人の恋バナを聞いてこんな気持ちになったのは初めてです。どーしてくれるんですか!!!もうトラウマですよ。良く考えたら私だって石上くんの顔を見る訳です!!!同じ生徒会ですもん!!!ミコちゃんじゃあないですけど、石上くんの顔みたら嫌でも今日の事を思い出しちゃいますよ。そんな時、どんな顔すれば良いんですか?笑えば良いんですか?あ〜〜〜〜もう最悪です!!!」
とうとう藤原が壊れてしまったわ。あーあ、他人の色恋沙汰に易々と首を突っ込んでくるからそういう悲惨な目に合うのよ。これに懲りたら今後はもうその悪趣味をやめる事ね。
「はーーーぁ。あーーーースッキリした。この様にですね、溜まった心の鬱憤を解放する事が大事な訳ですよ。皆さんはソレをしないから、こーんなに拗れちゃってるんですからね?反省するよーに。ではではー続きをやって行きますよー覚悟は良いですねーー?今日はおふたりの心を丸裸にしちゃいますから」
訂正。流石は曲者揃いの生徒会メンバーだけの事はあるわね。書記の名は伊達じゃない……と、こんな程度じゃあへこたれない……と。
なるほど……。あぁ、隙を見てどうにか帰れないものかしら?
第3話に続きます。