「さあさあ、お次は攻守交代ということで、つばめ先輩のターンですよー。お題はですねー仮に付き合えたとして、どんな事を一緒にしたいかです!!恋愛は付き合う事がゴールではないですから。むしろ、そこはスタート地点と言えるでしょう」
「優くんとどんな事を一緒にしたいか……」
「これも難しく考える必要はありません。例えば、付き合って初めてのデート。何処へ行って何をしてどんな思い出を作りたいか。そんな単純な話で良いんです」
相手の理想を演じ続ける……ですか。確かにそれも1つの愛の形でしょう。けれども、そんな歪な愛は永遠には続かないものです。
愛に無理をしてしまうと、いずれ何かが破綻してしまう。その時になって初めて人は大切なモノを失う喪失感と絶望感と無力感を噛みしめる事になるのでしょうね。
『ありのままのあなたが好き』『格好つけるあなたも好き』『意地張るあなたが、頑固なあなたが、鈍感なあなたが、賢いあなたが、意地悪なあなたが好きで、好きで、好きで、堪らなく好き』だ、なんて。
「私から少し、補足したい事があるのですが宜しいですか?」
「はい、かぐやさん。なんでしょう?」
「その石上くんの理想ってお話なのですけれど幾つかで良ければ情報提供しますよ。私の知る限り……ですが」
「えっと、それはどういう意味の?」
「そんなに不安がらないで下さいな。この間プレゼント選びのお手伝いをした時に、すこーしだけお互いの恋愛観について触れたんですよ。その際に石上くんが言っていた願望、と言いますか…まあ、その様な感じの何かを子安先輩にお伝え出来れば…と、思いまして」
愛に嘘は禁物。お互いの真実に触れ合ってこそ愛は育まれるモノなのよ。でもその事実を子安つばめに気付かせるのは石上くんのお仕事なのだし、子安つばめ自身がどうしても都合の良い女を演じたいと言うのなら…。
私は、その姿を心から応援する事に致しましょう。その方が楽し…いえ、彼女がその過ちに気付いた時、より深く、より熱く、より焦がれる様な恋に堕ちるに違いないわ。
「うん。聞く聞く」
「ふふふ。では、少しお話ししましょうか。まず、石上くんの恋愛観についてですが……。有り体に言ってしまえば『キショい』です。それはもうピンポイントでかなりキショいですね」
「そう…なの?」
「ええ。彼、これまでの人生で大きな成功を成した事が無い……どころか、何をしても失敗続きで自信が無いのでしょうねぇ。そのせいか、引くぐらい守りに入る傾向があるんですよね。失敗を過度に恐れているのが丸わかり。選択が一々、無難なんです」
「元々、ヘタレで甲斐性無しだったけど、何処かの誰かさんが純情を弄んでくれたお陰で、ますます卑屈になったんじゃないかしら。あーあ可哀想な石上。下手したらEDになってるかも知れないわ」
「………。」
「かと思えばアプローチが突飛なんですよね。風変わりな上に奇をてらう癖があって、色々な相乗効果で気色悪さが倍増。あと妙にロマンチストな面もあって、それが彼の無垢な遍歴と合わされば、一般的な女性の感性と総合的な判断を以って『キショい』と言わざるを得ません」
「でも、かぐやちゃんは、優くんの事をそんな風には思っていないんでしょ?」
「いいえ?普通に気色が悪いと思っています。その点は遠慮なくダメ出ししておきましたし。アレは普通にキショいです。まあ、とは言え感性の部分で言えば伊井野さんとはナチュラルに気が合うかも知れませんね。夢見がちで無垢な少年少女同士ならお似合いです。恋文に花を添えて想いを伝えたり……なんてね」
「………。」
「で、でも!!私は今までに2回、優くんから告白されてるけど……そんな風に感じた事は1度も無いよ?ロマンチストなトコはちょっとだけあるかもだけど、私は嬉しかった。それにド直球で、今までに貰ったどんな告白の言葉より、優くんが一番誠実で……一番男らしくて、一番カッコ良かった」
「なるほど。それは良かった。子安先輩が石上くんのセンスをそのように感じていらっしゃるのなら、何も心配はありませんね。安心しました」
「どーゆーこと?まだ話が見えて来ない」
「いえね、彼に忠告したんですよ、貴方の願望は恋人以上の関係じゃなければアウトだと。ですが、要らぬ配慮だったようですね。では、前置きはこの辺で切り上げて本題に入りましょうか」
「え……。前置きでこれ?かぐやちゃん、普段優くんと一体どんな会話してるの……?」
ごく普通の有り触れた先輩と後輩の会話だと思いますけれどね。
さて、ここまでハードルを下げておけば、石上くんの破廉恥な欲求も、ある程度通る事でしょう。感謝なさい。初デートまでに子安つばめを貴方好みの淑女に仕立てておいてあげるわ。
「では本題に入りましょうか。まず、石上くんは子安先輩に対して清純なイメージを持っていますね。まあ、その辺りは既にお察しの事だとは思いますが」
「う、うん。それは何となく、そーかなー?って思ってる」
「具体的にはモコモコかつファンシーなパジャマで睡眠を取っていますね。何だったら、お部屋も全体的にモコモコかつファンシーな感じです。もう石上くんの中では完全にそうなってますね」
「え……?寝る時は普通にシャツとハーフパンツだよ。今の時季はジャージとかスウェットも着るけど…。そっかー。優くんは私にそんなイメージを持ってるんだね。ぽよい感じかぁ〜」
「はい。間違いなくぽよ系です」
「あ、だとしたらヤバイかも……」
「どうかしましたか?」
「イブの日に普段はハンモックで寝てるって言っちゃった」
「あー、それはいけません。マズイですね。ワンナウトですよ」
「ワンナウト……。私、どうしたら……」
「自室をフワフワモコモコかつファンシーでぽよい感じにリフォームしておいて下さい。それで大丈夫です」
「良かったぁ。まだ間に合うんだね?」
「ええ」
「ちょっと、ちょっと。かぐやお姉様、さっきから子安先輩で遊んでない?真に受けて、ホントにリフォームしかねないんだから、変な冗談はやめてあげなよ」
「え…冗談?そうなの?かぐやちゃん」
全く、分家の娘如きが要らぬ横槍を入れてくれるわね。
「クス。ちょっとした悪戯心ですよ。とはいえ四宮の名にかけて、嘘や偽りは申しません。そうですね、今のお話は将来、おふたりで家具などをお求めの際、参考にして下さいな」
「うん。わかった」
「最後に一番肝心なところですが……、石上くんの貞操観念についてです。ここに関して、子安先輩は一度やらかしていますから、しっかりと認識を改めておかなければいけません」
「う……。かぐやちゃんも結構、容赦ないね」
初キッスの事で悩んでいた過去の自分が可愛く思えるわね。やはりアレは早坂が初心過ぎただけで、要らぬ心配だったのでしょう。会長からも特に話題にして来ませんし。とんだ杞憂でした。
「いきなり寝ようとするのは論外。とはいえ彼も男です。初デートで恋人らしい身体の触れ合いは勿論、期待しています」
「そうなの?」
「ええ。例えば、今の時期ならばふたりで長めのロングマフラーなんかを共有して、暖を取ったりだとか……」
「う〜ん。優らしくて良いわねぇ。素敵じゃない」
「夜は一緒にお風呂に入って、お互いの身体を隅々まで……」
「らしくない!!全然、素敵じゃない!不潔。汚らわしい!!」
「眞妃さん。少し煩いです。一々、リアクションがオーバーなんですよ」
「で、でも……一緒にお風呂はハードル高くない?」
はぁ……。子安つばめまで一体何を言っているんでしょうかね。ありがとうの気持ちでセックスしようとする方が、よほどハードル高いでしょうに。
「ありがとうの気持ちでHするより全然マシでしょう。どっちにしろ不純ですけどね」
「伊井野ちゃん、そのネタで私を苛めるの、そろそろやめない?いい加減にしないと私、泣くよ?」
「泣けば良いと思いますよ。あいつは泣いていたんだから」
「……。私は別に、優くんとお風呂入るの嫌って訳じゃなくて……その…つまり……えーと…」
「どの辺りに抵抗を感じていらっしゃるのでしょう?」
「見られちゃうじゃん。色々と……私、お腹とかぷにぷにだし……脚だって細くないし……」
はあ?此の期に及んでこの女は……。ちょっと殺意が湧いてしまいましたね。別に、私は羨ましいとか、全然、ぜんっぜん、これっぽっちも思っていませんが……恵まれた容姿を持ちながらこんな事を口にする神経が理解出来ません。では後、何カップ足せば彼女は満足するのでしょうかねぇ?
「つばめ先輩、それは余りに嫌味過ぎます。そんなに綺麗な身体なのに…背だってあるし、胸だって大きいのに」
「胸の問題!?いやいやそうじゃなくってさ、好みとかあるじゃん!?かぐやちゃんの話を聞く限りだと、優くんの好みってむしろ伊井野ちゃんじゃん……。フワフワモコモコでファンシーでぽよい感じの服とか、私に似合わない。ちっさくてお人形さんみたいな可愛い子の方が優くん好きなんだ……あと、伊井野ちゃんも胸は結構、あるよね?」
「はぁ……、全く分かってないですね。自覚が無いのかも知れませんが、つばめ先輩はあいつの好みドストライクですよ。いっつも鼻の下伸ばしてデレデレデレデレ、イヤラシイ視線を向けています。私をそんな風に見た事なんか一度も無い癖に……。あぁ、腹立つ。胸はどうだか知りませんが。別に標準でしょう」
なんなの?この女どもは……。ちょっと、頭がどうかしてるとしか思えないわ。どいつもこいつも二言目には胸、胸と。
はぁ……。大事なのはサイズよりも形状でしょうに。何故、それが分からないのかしらね。大きければ良いと言うのなら胸にスイカでも入れておけば良いのよ……全く。
まあ、コンプレックスは人それぞれですし?当人たちの問題ですから?私はそれに一々、干渉しませんけれど。
◆◆◆
「まあ、好みの話は置いておくとして、優の事なら私も多少は知ってるわ。お友達だしね」
「そういえば、四条ちゃんも、優くんとちょくちょくお話してるよね……」
「あいつ……、地味に女友達が多いのよね。1人が好きそうな雰囲気出してる癖に」
「恨みがましい視線を向けないで貰える?生憎ともう三角関係は間に合ってるのよ。しばらく吹っ切れる予定は無いから安心して頂戴」
「四条先輩……。何故、こんな良い人が……」
哀れみの視線を向けられるのも……それはそれで腹立つわね。アンタらだって、どっちか1人はこうなるんだからね?他人事じゃあ無いのよ?
「おば…、お姉様は守りに入ってるって言うけれどね、それは仕方ないのよ。怖いものは怖いの。自分のチョイスが相手の感性と違ったらどうしよう?優しい人だから笑って楽しんでくれるとは思うけれど…内心はどうなんだろう?以前に行った事ある場所だったら?以前に食事したことあるお店だったら?それはいつ?誰と?自分はその思い出を超えれる?比較されるのは癪だけど…それでも自分とのデートを楽しんで欲しい……ってな感じよ」
「優くん……。私は優くんとだったら、どこでも楽しいよ、きっと」
「被害妄想の生々しい感じが、とってもあいつっぽいです」
「でしょう?だから、最初のデートスポットはある程度、こっちが決めてあげた方が良いでしょうね。まあ、あの子も案外鋭いところがあるから、2回目からはいい感じに対応してくるでしょうし」
「なるほど、最初はこっちがリードしてあげる感じだね?」
「そう。さらに言えば、アプローチが変な方向に行っちゃうのは気恥ずかしいだけなのよ。そりゃあ一言でズバッと『好き』だけ言えれば楽よ?けど、やっぱり恥ずかしいのよ。だから、回りくどい方法を選びがちになるんだけど…そうなると今度は『これで伝わる?』って不安になって、あれこれ推敲してるうちに、なんだかヘンテコな事になっちゃうのよね。優の場合は変に知識だけは豊富なもんだから、さらに複雑よね。とりあえず花絡みは全部、愛情表現だと思っていいから」
「優くんて割とズバッてくる方だと思うんだけどな〜。あーでも良く考えたら、小指に指輪付けたり可愛いトコもあったような」
「あぁ、アレは私が贈りました。恋愛の成就を願うお守りとして」
「え……。四宮先輩、ちょっとその話、詳しくして貰って良いですか?」
マズイ。さっさと済ませたいのに、またかぐおばが話を脱線させる気だわ。と言うより、このヒステリーババァ絶対に邪な事を企んでいるわね。さっきから四宮家の人間特有のロクでもない表情してるもの。
「詳しくも何も、悩める後輩の背中を押しただけよ。そうですよねお姉様?まさか、それ以外に他意があるなんて事がある筈が……」
「ええ、眞妃さんの言う通り。アレは可愛い後輩に親愛の情を込めて贈ったお守りです。まあ少し早めのクリスマスプレゼントだったと思って下さいな」
只でさえややっこしい状況なんだから、混ぜっ返す様な真似はやめて……。まさか、ワザとやってんじゃないでしょうね……?おばさまならそういう事をやりかねない。勘弁してよ……。
「えー、では一旦これまでのお話を整理致しますと……1、最初の行き先は女性側で決めてあげる。2、男性側の浅ましい欲求は広い心で受け入れてあげる。3、演じるのなら最後まで演じきる。こんなもので宜しいでしょうか?」
「やたらと上から目線なのが気になるけれど、4、私たちはまだ高校生なんだから節度を持った行いを心掛ける。も、足しといて頂戴」
「わかった。2人のアドバイスを参考にして、最高のデートプラン考えてみる」
「あのーーー?ちょっと趣旨変わってません?皆さん、いつ戻ってくるんだろーなー?と思いながら静観してましたけど、もう無茶苦茶じゃないですか!!もう仕方ないですから、つばめ先輩の仮想デートプラン発表で良いですけど…それ終わったら、ミコちゃんの番ですから、今のうちにしっかりと考えておいて下さいね」
あら?藤原の存在をすっかり忘れてたわ。そういえば、居たんだった……。うーん、おばさまに余計な事されるくらいだったら、藤原に任せちゃった方がまだマシなのかしら?悩みどころよね。
第4話に続きます。