「これってさー私よりだいぶ若い子向けなんじゃないの?もしかして、バカにしてる?」
兄に勧められた映画。劇場版-それいけ!バームクーヘンマン-お茶漬けおじさんのわさび園を観終えた圭は少し不機嫌だった。
「お兄ぃ〜いくらなんでもkidsは酷いって。中学生向けのフィルタリング有るってハーサカさん言ってたし」
自身の持つスマホよりもさらに大きな画面に映し出されるエピローグを眺めつつ、白銀もまた不機嫌そうに言葉を返す。
「ダメ。元々は圭ちゃんが高校生になってからって約束だったろ?全く、四宮にも困ったものだ」
「ちょっと。かぐやさんに文句付ける気?お兄ぃも納得してたじゃん」
「清々しい程に詭弁だったけどな。キャリアの回し者かと思ったわ」
「またそんな事言って……。良い彼女さんじゃんか。私はかぐやさんの気遣いが嬉しかったけどな……。お兄ぃも気付いてんでしょ?」
「まぁな」
「全く、お兄ぃには勿体ないくらい素敵な女性だわ。くれぐれも愛想尽かされない様に」
「うるせぇ。ほっとけ」
-遡る事、数日。これは、かぐやが初めて白銀家を訪れた際のエピソードである。
付き合ってから初めて訪れる彼氏の自宅。完璧な淑女たる四宮かぐやとて一人の乙女。恋人関係のステップアップを期待する気持ちはある。それは当然あるが……。
(この娘の手前、あまり教育上好ましく無い事は慎むべきね)
「父は仕事、兄はアルバイトで少し帰りが遅くなると言っていました。おそらく、兄の方が先に帰ってくると思いますが……」
「ふふ。圭とゆっくりお話しするのも楽しいわよ。ね?女同士、水入らずで良いじゃない」
「はい…」
頬を染めてはにかむ様な彼女の笑顔に少しドキリとする。ホントにお可愛い。よく見れば髪が少し濡れている。少し上気している様にも。
(もしかして、さっきまでお風呂に入ってたのかしら?)
家に誰も居ない上に、先に身を清めてしおらしく待っていただなんて……、もし私が男だったら1発で落ちてるところね。
ってダメダメ、ダメよ。圭はまだ中学生なのだしそんなふしだらな事は。そう、圭に悪い虫がつかない様に私がしっかりと守ってあげないといけないわ。遠からず義妹になるかも知れない子なのだし。
-などと、かぐやが勝手な妄想を繰り広げている最中、圭は圭で少しばかり緊張していた。
本来であれば実兄の彼女など、こちらから積極的に関係を持ちたい相手では無い。兄の恋愛に興味が無い訳では無いが、誰とどんな事を致しているかなど、センシティブな事は聞きたくもない。なんだか生々しいし。
けれども、相手が四宮かぐやだと言うのなら話は変わる。かぐやは圭自身が憧れる女性でもある。そのかぐやと兄が男女のお付き合いをしている事を知った時にはちょっぴり複雑な気持ちにもなった。
もしかしたら、ひょっとしたら、万が一にも、あの憧れの存在が自分の義姉になるかも知れない。
故に失敗は許されない。兄が何かやらかして破局を迎える分には仕方がない。それが運命なのだろうから。しかし、自分が原因で兄とかぐやの関係にヒビが入るなど許されない。例え、兄がソレを許したとしても…自分自身を許す事が出来ないだろう。
(家中片付けた。お風呂も入った。洗濯物も取り込んだ。狭いのは……仕方ない。それはどうにもならないけど、他は完璧な筈。大丈夫、普段通りで大丈夫。落ち着け私)
「かぐやさんとお兄…いえ、兄が交際するに至ったきっかけって何だったんですか?」
「きっかけ……ですか。そうですねぇ、聞きたいです?」
「はい。かぐやさんが嫌じゃなければ……」
しまった!!この手の話は駄目だったか…!?圭の強張りが一層、強くなる。
「ふふ。そんなに緊張せずいつもどおりで良いのよ?私と圭の仲なのだから」
「かぐやさん……」
「なんでも聞いてくれて良いの。遠慮なんか要らないわ。けど……」
「けど?」
「それって何だか惚気みたいだし、少し憚られるけど……それでも聞いてくれるかしら?」
「はい。お願いします!!」
「では、--」
かぐやは普段の微笑みとは違う、ニッコリとした満面の笑みを浮かべる。圭はその表情に一瞬ドキリとし……それから徐々に肩の力が抜けていくのを感じた。
「--と言う訳で、私はお兄さんとお付き合いする事になったの」
成る程…。かぐや視点での兄がやたらと美化されている印象を受けるが、それを差し引いたとしても、兄は兄なりに苦悩し、努力し、頑張っていたのだろう。
メールを送る送らないで3時間程、うじうじと悩む女々しい兄の姿を目にした際は(あ、こいつマジでダメだな)などと思ったものだが……。
「少し兄が羨ましいです。私もいつかはそれくらい誰かを本気で好きになりたい」
「あら?圭にも気になる人が居るの?」
隅に置けないわ、とかぐやは強く感心を示す。
「いえ、残念ながら…まだそういう人は居ないです」
なんだかんだ圭はそれなりにモテる。男子から告白の様な事も何度かされた。だが、同年代の男子を恋愛対象として見れた試しがない。どうしても幼く見えてしまうのだ。
圭ちゃんは大人っぽくて素敵だね…などと同性に言われる度、複雑な気分になる圭であった。それは嫌味か。私だってまだまだ若いし、皆となにも変わらないのに……と。
(だけど、私ってやっぱり老けてるのかな?女の子らしくないのかな?)
もう中等部2年生にもなると言うのに、まだ誰とも付き合った事がない。その上、兄にまで先を越されてしまった圭は少しだけ落ち込んでいた。
「そうですか。では圭にそういう男性が出来た時には私に教えて下さいね」
「はい。その時は相談させて下さい」
「約束よ?出来ればお兄さんよりも私を先に頼ってくれれば、もっと嬉しいわ」
「はい!約束です。てか、お兄ぃにそんな話するとか有り得ないです」
でも良いか。こんなに綺麗なかぐやさんだって高校生になるまで恋愛は経験が無かったと言うのだから。
それなら、自分はもう少しゆっくりと生きて良いだろう。恋に恋するなんて柄じゃないし、私は私のペースで生きれば良い。それこそ、まだまだ若いんだから。
そう考える圭は、同年代の子たちより、やはり少しだけ達観しているのかもしれなかった。
「あ、そうだわ。お兄さんが私の事、いつの頃から好きだったか……圭は知らない?」
「??」
「お兄さんがね、1年の春から私の事好きだったって、そう言ってくれるのだけど…私達、その頃はまだ知り合ってなくて……」
「えーそれは妙な話ですね」
「そうなのよ。だからもしかしたら、何か重大な見落としや勘違いがあるかも知れなくて…ちょっとだけ、気になるの」
「うーん。一昨年の春……」
どうやら兄が真剣恋してる。圭がそれに気付き始めたのは去年の夏頃だった。当初、恋する相手こそ勘違いしてしまったが、話を聞く限りであれば、あの頃既にかぐやに惚れ込んでいたのは間違いない。
だけど…いつから?一体いつから、兄はかぐやを好きになったのだろう?他ならぬ、かぐやの悩みである。それがちょっとした悩みであったとしても力になりたい。圭は目を瞑り自身の記憶を辿る。
「もしかしたら会長はその頃は、他の女の子が好きで私に嘘を吐いてるんじゃ……?とか、だとしたらその相手は誰で、今その相手とはどういった関係で、何か私に隠し事をしてるのかしら?とか、そんなことを考えると凄く不安になるの」
あ、これ全然ちょっとした悩みじゃなかった。真剣で重いやつだ……。
「あーー。っと、ちょっと待って下さい。今、-ふかくおもいだす-ので」
認識を改めた圭は、懸命に記憶を辿る。一昨年の春頃…一昨年の春頃……一昨年の春…。あ、。
「やっぱり、私の記憶ではお兄ぃがその頃に誰かと恋愛してた感じはないです。と言うか、お兄ぃはかぐやさんが初恋だと思います」
「ホント?圭はそう思う?」
童貞丸出しな数々の言動から初恋であろう事は疑いようがない。花占いとか普通の高校生ならしない。圭は、兄のクソ恥ずかしい姿を思い出し、少しテンションが下がった。
「はい。ほぼ間違いなく」
「じゃあ私の方が勘違いしてるのかしら?知らず知らずの内に、私また何かしちゃった?」
「おそらく……なんですけど。考えられるとしたらお兄ぃが廊下かどこかで偶然すれ違ったかぐやさんに一目惚れした説が、一番可能性高いと思います」
「え?」
「お兄ぃ高校に入ってから少し変わりました。大きく変わったのは一昨年の夏頃でしたけど…それより前から生徒会に入ったりして……私は高校デビューでもするつもりなのかな?ってその時は思いましたけど、今にして思えば、誰か好きな女性が出来て……振り向いてもらう為に頑張り始めたのかも」
「そうなの?」
「はい。お兄ぃは元々、生徒会に入る様なキャラじゃなかったです。今でこそ、秀知院学園の生徒会長として振舞ってますが……。それに勉強だってそれ程は…。普通よりちょっと出来る人くらいだったのに……。今ではあんなです」
「そういえば、お父様も初めてお会いした時にそんな感じの事を仰ってたわね」
「あぁ、父もそういえばこの間、お兄ぃが猛勉強するのは恋してるからだって言ってました」
「まぁ……」
「けど、だからって無理して過労で倒れちゃうのはどうかと思います。そうだ、聞いて下さいよ、かぐやさん。お兄ぃ、こないだなんて病院から帰って来た夜に教科書開いて徹夜したんですよ。せっかく私がお粥作ってあげたのに、それも食べずに」
「それは良くないわね。心配だわ」
「バカだと思いません?お兄ぃが倒れたら皆、心配するってのに、お兄ぃときたら全然気にして無いし。お兄ぃに何かあったら家はどうすんのよって……もう私だって家の事は出来るのに子供扱いばっかして」
「そう。あの人は私達の気持ちを全然分かってくれないのよね。一体どれだけ想われてるか。それこそ、私は会長が思うより多分ずっと好きなのに……」
心の底から兄に対する愚痴について語り合えるのは嬉しい。それに楽しい。かぐや義姉さん。いつか日かそう呼ばせて貰いたいなぁ。それはさぞ、素敵な未来だろう。
◆◆◆
「さて、下準備はこんなもので良いでしょう。後は御行くんが帰って来てから仕上げましょうか。でないと冷めてしまいますしね」
「全部お兄ぃの好物ばかり。喜ぶと思います。ハーサカさんって料理上手ですよね。プロみたいで凄い」
「ふふ。ありがと。妹ちゃんだって上手だと思うよー。いつも料理してるの?」
「いえ、炊事はお兄ぃに任せっぱなしです。掃除と洗濯は私がやってますけど、火は危ないからってお兄ぃが……。私だって出来るのに」
「ふぅん。御行くんは心配性だからね。でも、妹ちゃんが御行くんに対して思う事があるんだったら溜め込まずに言った方が良いよ」
「けど、なんだか恥ずかしくて…上手く言葉に出来ないんです」
「ならラップだね。ラップは良いよー。気持ちを伝えるならさ。私が教えてあげようか?」
「ラップ……。お兄ぃとラップ……。う……。それはまた今度でお願いします……」
「あぁ、妹ちゃんも被害者なのか……。可哀想に……うんうん。もう怖がらなくても大丈夫だよ。アレはね、悪い夢だと思って、もう忘れちゃいなよ」
ムカ。ムカムカムカムカムカ。ムカ。
早坂が圭の頭をポンポンしてるぅ〜〜〜。私だってまだしてあげて無いのに…。なんだって早坂は……!!!あ〜〜〜!!あ〜〜〜〜!!!
「あの、かぐやさ……ん?あなたが私を呼び付けたんじゃないですか。それなのに、そんな眼で私を見るなんてあんまりでは?いつかも言いましたが、私を大切にしないと罰が当たりますからね」
「あら?何の事かしら?別に早坂を睨んでなんかいないわ。それに私は早坂の事を大事に思っていますから。今迄も、これからも、ずうっとね。」
「はいはい。分かりましたから。下らない事を考えてないでかぐやさんも手を動かして下さいね。お片付けまでが料理ですから。それが他所様の台所ならば尚更ですよ」
「わかってますよ。私だって心得てます」
早坂がこの場にいるのは無論、かぐやがLINEで呼び付けたからである。
-予定変更です。こちらへ来る前に適当に食材を買って来て下さい。勿論、例のアレも忘れずに-
-畏まりました。会長用ですね?-
-そうよ。会長に体力をつけて貰う為に、今から圭と夕飯の準備をするの-
-畏まりました。それではこちらで用意しますので、お待ち下さい-
-任せるけど、少し多目に買ってきて頂戴。そうね、明日のお弁当1人分を余分に作りたくなるくらいの量がベストね。あと、圭の前で様付けはダメよ。距離を感じてしまうから-
-了解です。かぐやさん-
というようなやり取りを経て、かぐやと圭と早坂の3人は仲良く台所に立っていた。
それは決して、過去にこっぴどくフラれた女が彼女の存在に嫉妬して彼の家に乗り込んできたとか……男の身から出た錆だとか…そんな事情では無かった。もし、そんな事を邪推して肝を冷やしたならばとんだ杞憂と言えるだろう。それが、どんなに寿命が縮む様な思いだとしても。
「それにしても御行くん遅いねー」
「すみません。もうそろそろ帰って来ると思います」
「んーん。バイトなんだからしょうがないよーバイトって大変だからさー」
「アルバイトと言えばハーサカさんはかぐやさんのお家で働いてるんですよね?」
「そーだよー。かぐやさんは私の雇い主さんなんだけど〜。小さい頃からの仲だから、ホントの姉妹みたいに仲良しなんだ。勿論、血の繋がりは無いけどね」
「へーそうなんですか。じゃあかぐやさんとはお友達で幼馴染なんですね」
「そーとも言うのかな?何にしても私はかぐやさんが大好きだよ」
ホントかしら?あの口調でそんな事を言われても凄く胡散臭いのだけど……。
台所を片し終えた3人は再びリビングで寛ぎながら談笑していた。圭はなんとか早坂に懐いてくれた様子。その点についてかぐやはホッと胸を撫で下ろす気分である。
白銀家を訪れた早坂を見た瞬間に、圭の表情が青ざめ完全に血の気が引いていた。早坂と圭に接点は無い筈だし、何が原因か全く分からないが間違い無く、圭は初対面の早坂に対して警戒を示し戦慄していた。
結局のところ、その緊張は直ぐに解かれ、本当に何だったのか…?今となっては不明だが、とにかく良かった。
それにしても……と、かぐやは思う。その視線の先には早坂の膨らみを帯びた胸部がある。
変装の必要がある事は分かるし、髪を下ろしてカラーコンタクトを着けていることも分かる。(だけど胸を盛る必要はあるのかしら?)
一体、何の必要があって……?別にそういうつもりが無くても自分への当てつけの様に感じられる。事、胸のサイズ絡みに関しては非常に神経質なかぐやであった。
「さて、少し時間もある事ですし。早坂、例のモノを出して貰えるかしら?」
「アレですね。少々、お待ちを。今取ってきますから」
早坂は席を立ち、鞄から包みを取り出した。長方形の箱に包装紙でラッピングしリボンを付けたモノ。この日の為に用意した所謂、ひとつのサプライズである。
「はい。これはかぐやさんから妹ちゃんへのプレゼントですよ」
「私から圭へ。細やかな贈り物です。どうぞ中を開けてみて下さい」
「わー。ありがとうございます。嬉しいです」
そう言って、丁寧に包装を剥き、中身を取り出した圭は嬉しい様な、残念な様な、そんな複雑な表情を浮かべた。
「嬉しいんですが、コレは受け取れません。せっかく頂いたのに、本当に申し訳ないです」
予想の通り。圭ならば受け取らないだろう。かぐやはそう思っていた。あぁ本当に可愛い子。律儀だし、筋を通す強い意志、流されず真っ直ぐに生きる彼女は本当に愛おしい。
「大丈夫ですよ。圭の事情は知ってます。その上で用意させて頂きました。詳しい事は早坂が説明するから安心して聞いて頂戴。ね?」
「はい。では御指名頂きましたので、僭越ながら私が…妹ちゃんに良い事を教えてあげるよ」
◆◆◆
かぐや様の指示の元、今回私が用意したブツはとある海外メーカーの廉価Android tabletだ。12.5インチでスペックは並以下、防水はあるがワンセグは非対応。ROM16GBにRAM1GBしかない。正直言って特徴らしい特徴は無い。ネットに繋げて、LINEが出来て、動画視聴が出来る。当たり前だ。今時、それが出来ないタブレットなんかある訳がない。我ながら良くこんな条件の良い機種を探し出せたものだ。
-え?圭への贈り物にそんな安物を?最新の1番高くて1番良いモノにしましょう。ほら最近話題のスマートフォンがあったじゃない?アレにしましょう-
はぁ。わかってない。かぐや様は何もわかってない。機種選びに1番良いモノなんてない。ただ新しくて、ただ高いだけの機種なんて、そこらのミーハー共に買わせておけば良いのだ。
本当に良い機種と言うのは使う人の利用シーンが見えなければ駄目だ。会長とその妹ちゃんが相手ではそもそも受け取って貰えるかすら怪しいと言うのに……。
だけど、私は見つけた。これならイケる。きっと喜んで貰えるに違いない。流石は私、いつもながら良い仕事をする。
まあ、私の仕事がかぐや様の幸せに繋がると言うのなら……別に私は不満はないけど。かぐや様にも少しは私の価値というものを考えて貰いたいものだ。
使用人、早坂愛は主人からの扱いに少々、不満を持っていた。
「実はね、前もって御行くんに聞いといたんだー。携帯電話は妹ちゃんが高校生になってからって約束なんでしょ?」
「はい。兄とはそう約束してます」
「だよねー。ちゃんと約束守る妹ちゃんは良い子だね。偉い偉い。でもコレは携帯電話じゃないし。スマートフォンでも無いし。シングル機だし。約束の範囲外だよ」
「シングル機?」
「あー通話が出来ない通信専用の端末って事だよー。スマートフォンなんかは通話と通信ができるからデュアル機とかハンドセットとかって言われてるね」
「理屈は分かりますけど……それって屁理屈なんじゃ?」
「そうだよ。屁理屈だよー。じゃあ妹ちゃんに聞くけど、もし妹ちゃんがこのタブレットを使うとしたら何が不安かな?」
「やっぱり料金が気になります。こういうのは高いと思いますし…」
「そうだね。やっぱりパソコンとかと同じで高いモノだと思うよねー。実際、最新の1番高いヤツだと15万くらいするし」
「15万ですか……凄い」
15万もあれば少しでも家計の足しにしたい。新聞配達何軒分になるのだろうか……?と、自然に考えてしまう圭はやはり白銀の妹だった。
「でも安心して。まず、このタブレットを購入するのにお金はたったの¥2-だけしか使ってません」
「え!?」
「嘘じゃないよー。契約事務手数料¥3,240-のところ今だけ¥1-になるのと端末代金¥21,600-のところ今だけ¥1-で合わせて¥2-だよ。今月末までのキャンペーンなんだってさー。ラッキーだね」
「すご……。そんなキャンペーンがあるんですか?お店潰れちゃうんじゃ……」
「お店ってゆーか、キャリアさんかな?ほら、御行くんも使ってる格安スマホの会社だよー利用者が多いから、その分安いんだー。私も使ってるしー」
「お兄ぃと一緒……」
「そう。お揃いだね。包装紙はかぐやさんが家にあったやつで包んでくれたからタダだよ」
「はい。手先は器用なので微力ながらお手伝いをさせて頂きました。生憎と機械の事には詳しくないものですから、せめてこれ位は」
「かぐやさんはもう少し、スマホの使い方とか勉強して欲しいなぁ。おばあちゃんじゃないんだからさー」
「私には早坂が居るから良いんです。いつも頼りにしてますよ?だから続きお願いしますね」
「……。あとはまぁ、充電器だけど残念ながら御行くんのとはTYPEが違うから私のお古になるけど、妹ちゃんに一本あげるよ。私が前に使ってたヤツで捨てようか迷ってたのだから遠慮しなくて良いからね。充電器だけあっても仕方ないしさ」
「嬉しい。ありがとうございます。けど、ネットに繫がるからには毎月、いくらかかかるんじゃないんですか?」
「お、妹ちゃんは鋭いね。じゃあ、毎月いくらくらいかかると思う?」
「えーっと、¥5,000/月くらいですか?」
「残念。そんなに高くないよー。てかそれだと高過ぎだし〜。それは家のネットとかの値段だよー」
実際、そうである。圭は格安SIMの料金など知らない。家計簿をつけているとは言え、兄のスマホ代金は兄の小遣いの範囲内で支払いをしている。故に、圭は知らない。毎月、兄がスマホにいくら払っているかなど。
知っているのはプロバイダーから毎月請求がくる光回線の利用料。圭にとってのネット料金はそれしかイメージが無かった。
「使い方にもよるけど、私が妹ちゃんにオススメするプランは大体、¥1,000/月くらいだね。これも今だけのキャンペーンで割引があるから最初の6ヶ月間は¥200/月になるんだー。さらに圭は御行君の子回線契約になるからさらに月額¥200割引だよー」
「え………。と言うことは半年間はタダって事ですか?」
「うん。そうなるねー。請求はまとまっちゃうから半年後の¥1,000/月は圭ちゃんから御行くんに直接渡してあげてね。¥1000/月くらいだったら御行くんが払ってくれそうな気はするけど、妹ちゃんは自分で払いたいでしょ?そーいうのは」
「はい。それは…自分で払いたいです」
「だよね。妹ちゃんだったらそう言うんじゃないかと思った。ちなみに節約するんだったら雑誌とか新聞とか参考書とかをタブレットで見るようにすると良いよ。1年契約だから大体、年間トータルで¥6,000-浮かせば元は取れるからさ」
「ハーサカさん。こーいうの詳しいんですね。凄いです」
「ふふ。そんな事無いよ。最近の女子高生は皆これ位は知ってるもんだよ。スマホ好きだからさー」
嘘である。早坂は主人の願いを叶える為に、休日を返上し、様々な電気屋、家電量販店、併売店、各キャリアショップに足を運び、果てはオンラインショップを隅から隅まで調べあげ徹底的に調査した。
そう。かぐやは圭にスマホを持たせたいのでは無い。ただ単に圭とLINEがしたい。ただ、それだけなのである。その為の障害は全て排除しなくてはならない。
それが使用人に勤め。早坂はプロフェッショナルを自認していた。なんだかんだで職人気質であった。
「でも、やっぱりお兄ぃは許してくれないと思います」
「妹ちゃんは何でそう思うの?」
「やっぱり私がまだ中学生だから。子供扱いされて腹が立つ気持ちはありますけど…結局、お兄ぃは私の事をいつも心配してるから」
「んーん。それって凄く大事な事なんだよ。子供扱いとかって話じゃなくってさ。実際に未成年がスマートフォンなんかを使う場合はフィルタリング設定が法律で義務付けられてるんだから」
「そうなんですか?」
「そうだよ。それだけインターネットでのトラブルに未成年が巻き込まれやすいって事。だから私だって、妹ちゃんがスマートフォン持つのは心配だよ。あと、偉そうな事を言ってるけど私達だって未成年だから、当然付いてるよ。フィルタリング」
「だったら尚更……」
「ふふ。けど、かぐやさんがそんな危ないモノを妹ちゃんに渡す筈が無いじゃん。ちゃーんと対策してるよ」
「はい。キチンとセキュリティを強固におきました。細かな設定は早坂任せですけど…。そうですね、例えばLINEなどは現状、私としか出来ません。端末管理者が許可しなければ追加も変更も出来ない仕様だそうです。勿論、その管理者は会長になって頂きますよ」
「かぐやさん……」
「フィルタリング設定は小学生レベルから大学生レベルまであるから、その辺りは御行くんと話し合って決めてね」
「分かりました。お兄ぃと話し合ってみます。何から何までして頂いて本当にありがとうございます」
「使える様になったら私ともID交換しようね。後はWIFI設定だけど、それは御行くんが帰ってからだねー。私じゃルーターのパスワードわからないし。ノーパソあるって事は無線は飛んでる筈だから」
「はい。私もLINEしたいです。グループ通話とかしてみたい」
ふふふ。ちょろい。まあ、妹ちゃんならこんなものか。早坂は内心でほくそ笑む。
説得の材料として、まだまだ実弾を用意していたのにアッサリと落とせてしまった。白銀父の実印が押された親権者同意書。フィルタリングサービス不要申込書。委任状。その他諸々。
まあ、後一人、説得をしなければならない相手が居るには居るが……。これらの武器は、彼との舌戦で使うとしよう。
ーあ、彼がそろそろ帰って来た様だ。迎えに出ねば……。
目配せをしようと主人を見るが、すでに主人は席を立ち、玄関へと歩を進めていた。
(地獄耳……。)
あぁ、そうだ。妹ちゃんにコレだけは言っておかなければならない。とても大事な事だから。
「ねぇ、妹ちゃん。ご飯食べ終わったら私とコンビニ行こうよ。うっかりしてアイス買ってくるの忘れちゃったんだ〜〜。ね、好きなの奢ってあげるからさ」
これからはこんな感じの番外編を不定期で更新します。