天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

11 / 46
Episode:10

 時間は少し巻き戻る。時間はハルが一夏を確保したすぐ後の事だ。

 ハルは確保した一夏を抱えながら飛翔し、プライベートチャンネルを使って束と通信していた。

 

 

『束、織斑 一夏を確保。……犯人は見逃しちゃったけど』

『良いよ。いっくんの身の安全には変えられない。……本当に良かった』

 

 

 

 束の安堵する声が通信の先から聞こえてくる。これで山場は超えた、とハルも緊張に強ばっていた身体から力を抜いた。

 緊張が解された事で余裕が出来たのか、ハルは腕の中に一夏の拘束を解いてやる。自らとどこか似ている一夏の顔を見てハルは安堵する。なにやら声をかけてきているようだが、対応するだけの余裕はない。

 

 

『後は外に出れば大丈夫か』

『うんうん。早く戻ってきてね! ハル!』

『しかし廃棄区画の廃工場とは……。まぁ、常套句だけどさ』

 

 

 ISの台頭によって世界が受けた影響は大きい。特に打撃を受けたのは軍需産業だった。ISという空の覇者が生まれてしまった為に戦闘機などの需要は失われ、その生産ラインは瞬く間に閉鎖されていった。

 一夏が囚われていたのもそんな次代の流れに取り残された廃工場だった。元々、兵器を扱っている為に機密性が高く、身を隠すのにはうってつけの場所だっただろう。

 束の情報面での支援もあり、不意を打つように一夏を救出する事が出来たのは運が良かったと言うしかない。二人から安堵の息が零れるものだ。

 

 

『外だ』

 

 

 一夏にも、自分にも言い聞かせるようにして外の世界へと出る。一気にハイパーセンサーによって広がる世界に安堵の息が零れる。そのままハルは大地に一夏を下ろして、念のため、一夏の体調を確認する為に雛菊にチェックを頼んだ。

 

 

『少し興奮状態。けれど体調に異常はなし』

 

 

 表示された雛菊からメッセージウィンドウにもう一度安堵の吐息を出す。これでもう憂いは無い。何か問おうとしている一夏にはもう用はない。後は一夏に安全な場所まで行くように告げて全部解決する。

 その瞬間だった。ハイパーセンサーが急速接近するISを確認。唐突に鳴り響いた警戒音にハルはまさか誘拐犯が逆襲に来たのかと警戒し、目にした姿に驚愕の声を上げそうになった。

 

 

「一夏から、離れろぉぉぉおおおおおお!!!」

(織斑 千冬ッ!?)

 

 

 振り抜かれた刃の名は“雪片”。ぞっ、背筋に走る悪寒のままにハルは飛んで後退る。初撃を回避したが、まるで跳ね上がるように刃が手首を返して迫る。ハルは歯を噛みしめながら無理な体勢のまま、ウィングユニットで加速して刃から距離を取る。

 無理な体勢で加速した為に骨が軋むような音を上げた。アラートが劈くような音を立てて警告を届ける。はらり、と躱しきれなかった髪が宙を舞った。

 

 

「アァァアアアアアアアッッッッ!!!!」

 

 

 正に剣鬼。憤怒の表情を浮かべて咆哮し、斬り殺さんと向かってくる千冬にハルは冷や汗を流しながら舌を巻く。対峙してわかった。圧倒的な強者のプレッシャー。

 千冬が振るう一つ一つが必殺の刃。必死になって刃を避け続けながらハルは口には出さなかったが心の中で絶叫した。これが世界最強か、と。

 

 

(聞いてないって…!! なんでここに織斑千冬がいるの!!)

『ちーちゃん!? なんで!?』

 

 

 通信からも束が絶叫する声が聞こえてくる。 声からして頭を抱えて絶叫している様が目に浮かぶが、ハルは束に気にかけている暇がない。

 最大速度でも勝り、展開装甲によって機動力も旋回力も勝っている筈なのに食いつかれる。雛菊のサポートもあっても振り切れない千冬にハルは舌打ちをする。再び雪片の剣閃が走り、自身の眼前を過ぎ去ってゆく。

 持ち前の直感。そして無茶を通す実力。踏み込めるだけの踏み込んでくる、無謀とも取れる迷いの無さ。凌駕されている。ただの技量と気迫によって、性能という差が詰められていく。

 

 

(なんてデタラメ! 巫山戯んな! どうする、このままじゃ斬られる……!!)

 

 

 ここで落とされるのは不味い。自分の正体がバレるのも不味いが、何より雛菊が拿捕されるのは不味い。これは束の夢だ。束が現在、持てる技術の粋を集めて作られた夢の結晶だ。そのデータを世界に渡す? 許せる筈がない。

 だからこそ落ちる訳にはいかない。ではどうする? まずはこの剣鬼と化した織斑 千冬をどうにかしなければならないのだが。

 

 

『織斑千冬、話を――』

「よくも一夏をぉぉおおッ!!」

(聞く耳持たずかよ――ッ!?)

 

 

 ダメだ、と対話による解決をすぐさま斬って捨てたハル。全身から浮かぶ汗はさっきから千冬に向けられる濃厚な殺気の為だろう。恐怖に竦みそうな身体に必死に鞭を打ってハルは飛翔する。

 このままじゃ負けが見える鬼ごっこが続くだけだ。なんとかして状況の打破を計らなければ文字通り死が見える。化け物め、と千冬を内心で罵りながらハルは束に助けを求める。何かアイディアは無いか、と。

 

 

『束! どうすれば良いの!?』

『頑張って逃げて!?』

『無理だよッ!! 出来るならとっくにしてる!!』

『えーと、えーと、えーと!』

 

 

 束に助けを求めてもダメ。今の束は使い物にならないと候補から外す。食らいつくように振るわれた雪片を強引なバレルロールで回避。身体が軋む音を聞きながらハルは舌打ちする。この化け物めが、と。

 何度やっても引き剥がせない。これが世界最強の壁。あんなにも憧れた機動が今となっては憎らしい限りだ。

 

 

(やばい! くそ、アンタの弟を助けに来てなんでアンタに殺されなきゃいけないんだ……!!)

 

 

 視界の隅には千冬の登場に唖然としている一夏の姿がある。座り込んで小刻みに震えているのは恐怖の為なのか、それとも逆に千冬が現れて安堵してしまった為なのかわからない。そんな一夏の姿を見て、ハルは目を見開く。

 脳裏に閃くのは状況の打破の方法。思い浮かんだ方法の成功率は? そんなの知らない。ただこのまま闇雲に逃げるよりは光明がある。リスクはある? ここで雛菊と自分の命を失うよりはマシだ。

 

 

『束、ごめん!』

『え!? ハル!?』

 

 

 ハルは一世一代の賭けの気持ちで勝負に出た。ポーカーフェイスは充分。口は回る。ならば後は度胸。男ならここでやり通す。そう自分に言い聞かせながら身体を反転させる。

 雪片を掲げて真正面から突撃してくる千冬の姿を目に捉える。憤怒に染まる千冬を真っ直ぐ目にしながらハルは息を呑んで、奥歯を噛みしめる。

 

 

「――会いたかったよ。織斑 千冬」

 

 

 そしてハルは、バイザーを消して素顔を千冬の前に晒した。

 ハルの素顔を見た千冬が目を見開き、身を引き裂かんと迫った雪片の刃が鈍る。即座にハルは雪片を握る千冬の手首を押さえつけ、千冬と真っ向から向かい合う。驚愕の表情が千冬の顔に浮かんでいるのが見て取れた。

 まずは第一段階成功、とハルは唾を飲み込みながら心の中で呟く。だが表情には出さない。無表情に、どこまでも冷静を装う。焦りを悟られるな、ここで騙し切る。

 

 

「な、に? 子供? いや、お前は誰だ? 何故、私と似ている、お前は一体……!?」

 

 

 激情と困惑に震えながら千冬はハルを睨み付ける。殺気こそ薄れたが執着は増したように思える。舌打ちしたい衝動に駆られながらも千冬を見据えてハルは言葉を紡ぐ。

 

 

「会えて嬉しい。“オリジナル”」

「オリジナル、だと!? まさか、お前は!?」

「弟を大切にね」

 

 

 動揺したままの千冬に更なる言葉を紡ぎ、雪片を握る手を無理矢理捻り上げる。このまま武装解除を狙えればと思ったが、思いの他、千冬の抵抗は激しい。雪片を落とせずに二人で押し比べとなる。

 やっぱり浅はかだったか、とハルは今度こそ舌打ちをする。今更、逃れようにも千冬の抵抗が強すぎて出来ない。このまま離せば先ほどの二の舞だ。改善しない状況に顔を歪めそうになる。

 

 

「待て! お前には聞きたい事がある!」

「答えられない」

「答えて貰う……!?」

 

 

 千冬が更に力を込めようとしたその時だった。突然、千冬の表情が驚愕に彩られ、抵抗の力が緩んだ。いや、無くなった。何が起きた、とハルでさえ目を見張る中、ハルは視界の端に表示されたウィンドウに喝采を上げそうになった。

 

 

『暮桜のコアとコンタクト。機能停止を了承』

(雛菊、愛してる――ッ!!)

 

 

 どうやったのかは知らないが雛菊によって暮桜はその機能を停止した。突然の機能停止に千冬も何が起きたかわからず言葉を失っている。ハルは再びその顔を覆うようにバイザーを被り、千冬を抱えて降下する。

 このまま落としても良かったが、機能を停止しているという言葉がハルに躊躇させた。ゆっくりと高度を下げて行き、ハルは呆然と事態を見守っていた一夏の傍に千冬を放り捨てた。機体が動かない為に背中から落下した千冬だが、この程度の高さならば怪我も負わないだろう、と。

 

 

「がっ!?」

「千冬姉っ!?」

「くっ……何故だ、暮桜! 動け! 動けッ!!」

 

 

 千冬が暮桜を動かそうと藻掻いている。機能停止したISならば、ただ重量のある鉄の塊となる筈なのに千冬は僅かでも動かしている。ハルはそんな千冬に対して恐怖を覚えた。この女、本当に人外なんじゃないか、と。

 動かぬ暮桜に困惑を隠しきれぬまま千冬が藻掻き続ける。そんな千冬の姿を目にした一夏は何を思ったのか、空中に浮かぶハルを見た。

 何か言ってくるのか、と思ったが、一夏は両手を広げて千冬の前に立ちはだかった。一夏の思わぬ反応にハルは一瞬動きを止めた。

 よく見れば一夏の膝は笑っている。それでも必死に歯を食いしばりながらハルを睨み付けている。

 そんな一夏の姿に思わずハルは笑い声を上げそうになった。だからだろう。一夏に問いを投げかけてしまったのは。

 

 

『何のつもり?』

「……ッ……!」

『ISも使えない男が何が出来る?』

「……ッ、か、関係ない! お、俺は千冬姉を守る!! 守るんだぁ!!」

『今度は死ぬかもしれないよ?』

「……ッ……!? う、うるせぇ!! 守るって言ったら守るんだぁッ!!」

 

 

 死ぬ、という言葉に一夏は大きく身を震わせた。だが自分を奮い立たせるように叫び返す。

 威嚇するように歯を剥いて一夏は目についた足下の石を拾い上げた。大きく振りかぶって投げられた石は真っ直ぐにハルに向かって飛ぶ。しかし石などISの装甲の前では無力にも等しい。こつん、と虚しい音がハルの耳に届く。

 

 

「あっち行け! こっちに来るな! 千冬姉に近づくなぁッ!!」

 

 

 大声で叫び、肩を上下に下げて一夏は呼吸する。明らかに恐怖に震えている癖に、それでもハルを睨み付けるのを止めない。

 一方で、一夏に庇われた千冬は焦燥した様子で一夏を呼ぶ。一夏の行いがどれだけ無謀な事か理解しているが故にだ。

 

 

「止めろ一夏!」

 

 

 だが千冬の言葉が聞こえないのか、一夏は立ち塞がり続ける。ハルはどうしようもなくその姿がおかしかった。だからだろうか。ついついその言葉が口から零れてしまったのは。

 

 

『お姉さんを大事にね。織斑 一夏』

「……え?」

『強くなれるよ。君ならきっと』

 

 

 ――生身でISに喧嘩を売ろうだなんて、僕には出来ない。

 蛮勇だろう。無謀だろう。だがそれでも、確かに一夏が見せた姿にハルはどうしても惹かれてしまった。姉を守ろうと必死に立ち塞がる姿を。

 どうか報われると良い、と彼の行く末を祈りながらハルは空へと舞い上がる。これ以上ここに留まる訳にはいかない。早く束に下に戻って安心させてあげたい。寄り道はここまで。

 

 

「お前……」

『じゃあね』

「ま、待て!!」

 

 

 誰が待つか。呼び止める千冬に内心で吐き捨ててハルは加速した。周囲にISの反応が近づいてきているのを確認したが、雛菊の速度なら逃げ切れる。

 空に走る一筋の残光。その姿を一夏は見えなくなるまで、ただひたすら見上げ続けるのだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 束のジャミングの支援を受けて、ハルが束の移動式ラボに辿り着いたのは日が落ちて夜になってからだ。

 身はくたくた、心はぼろぼろ。よくぞあの剣鬼・織斑 千冬の魔の手から逃れられたと自分を誇りたいくらいだった。飛び出す前はあんなにも決心を固めていた筈なのに、いざ危機と対面してみればこの様だ。呆れて笑う事しか出来ない。

 ふらふらと巧妙に隠されていたラボの中へと入るハル。同時に雛菊を解除して、そのまま足下がふらついて床に倒れそうになる。

 

 

「――ハル!!」

 

 

 だがハルの身体は飛び込んできた束によって抱き留められる。苦しいまでに力を入れてハルを抱きしめてくる束の頬には涙の跡があった。

 心配かけたな、と疲れた頭でぼんやりと考えながら束の背に手を回す。その手が震えている事に気付いてハルは、押さえ込んでいた心を解きはなった。

 

 

「うぅ……! うわぁあああ! 怖かった! 怖かった! もうやんない! 絶対やんない! アイツ怖い!! もうやだぁあああああ!! 死ぬかと思ったぁあああ!!」

「ハル……」

「うぅぅう! 情けないよぉ……! でも怖い! アイツもうやだ怖い死ぬやだぁああああああ!!」

 

 

 恥も外聞もなかった。ハルは心に溜め込んでいた緊張と恐怖を吐き出す。外見相応に泣き喚きながら束に泣き縋る。

 千冬を前にした時、本当にダメだと思った。死ぬとさえ思った。束の夢を台無しにする所だった。それが怖くて、恐ろしくて、それでも踏ん張った。

 でももう我慢しない。ここにいるのは束だけだから。束なら受け止めてくれると思ったから。身体を震わせて、涙を流して嗚咽を零す。

 

 

「だから言ったでしょ。馬鹿……」

「ごめんなさい……!」

「でも大丈夫。もうさせないから。させないよ。だから大丈夫。大丈夫だよ。束さんが守るから」

 

 

 ハルは束に痛い位に抱きしめられる。今、生きてここにいるのだと。束に守られているのだと実感してハルは更に泣いた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 事の顛末を語ろう。

 あれから織斑 一夏誘拐事件は未遂となって終わり、モンド・グロッソは恙なく進行された。第2回モンド・グロッソの優勝者に輝いたのはやはり織斑 千冬。2連覇を達成した彼女へは惜しみない賞賛が贈られる事となる。

 優勝を果たした事でコメントを求められた千冬だったが、千冬はこの大会を以て引退を宣言。突然の引退宣言には記者達を驚かせる結果となった。

 諸事情、という事で引退の理由を一切語る事が無かった千冬だが、裏では一夏誘拐事件の噂が密やかに流れ、その事件を後悔したや、彼女の所属国である日本から無断でISを使用した事を咎められ、自主的な引退を持ちかけられたのでは、と推測と議論がネットで行われる事となる。

 語られる事のない真実は全て闇の中へ。最強の名を欲しいままにしたブリュンヒルデはそうして無敗のまま公式の場より去る事となる。惜しむ声は多く、また千冬に公式戦への出場を望む声も多く寄せられた。

 

 

「しかし織斑 千冬は公式の場に戻る意思はなく、次に目指すはIS学園の教師の道、か」

 

 

 独占インタビューと銘打たれた記事には千冬の今後の目標が彼女の口から語られていた。ISは自分に多くの事を教えてくれた、と。後進達の為に自身の経験を教え、継がせていきたい、と語る文章が綴られている。

 コーヒーを口に含みながらハルは記事を表示していたディスプレイの画面を閉じた。

 

 

「ま、平和に終わってめでたしめでたし、かな?」

「ハルのトラウマが生まれたじゃん」

「う……。まぁ、それでも世は事も無し、さ。それに超したことはないって」

 

 

 ハルは束の膝の上に乗せられて抱きしめられていた。あれから束はこうしてハルを抱いて過ごす事が増えた。束を心配させた罰だと、ハルは甘んじて受け入れている。ずっと背中に豊かな胸が当てられていて、試されているようで複雑な気分だが。

 そしてハル自身の事。彼は見事に千冬がトラウマになった。悪夢にうなされる事も多く、今は一人で寝る事が出来ないという程に重傷だった。結果、束が毎日ハルに付きそう事となる。それは束の研究の手を止めてしまう、という事でハルは申し訳なかった。

 

 

「束、ごめんね。研究したい事とかあるのに」

「本当ね。だから今後一切危険な事は禁止だよ」

「……それは約束出来ないかな。怖かったし、もう嫌だと思ったけど間違った事はしてないと思うから」

 

 

 見上げるように自分を抱きしめる束の顔をハルは見る。手を伸ばして束の頬に触れてハルは笑みを深めた。

 そんなハルに束は機嫌を悪くしたのか、ハルの首に手を回した。力を込めれば、ぐぇ、とハルの喉から潰れた蛙のような声が漏れる。

 

 

「ふん。ちーちゃんにズタボロにされて泣き喚いて帰ってきた弱虫の癖に」

「あんなのと正面切って戦うなんて無理無理。……今は、ね」

「今は?」

「強くなるよ。束や雛菊に頼ってばかりじゃダメなんだって思ったから。だから僕自身が強くなる」

 

 

 一夏みたいに、と思った言葉は口にする事は無かった。ハルは魅せられていたのだ。生身でISを前にして、それでも大事な人を守ろうとする姿に。

 だからこそハルは強くなりたいと願う。無謀でも、あんな風に大事な人を守ると言えるぐらいに強く。

 今、自分を抱きしめてくれるこの温もりを失わないように。この人を泣かせないように。強くなろう。今よりももっと強く。もう誰にも負けないぐらいに強く。

 

 

「危ない事はして欲しくないのに」

「男の子だからね。張りたい意地があるんだよ」

「弱虫泣虫の癖に生意気」

「いひゃいいひゃい!」

 

 

 むぅ、と眉を寄せて束はハルの両頬を指で引っ張った。きっとダメだって言ってもこの子は飛び出してしまうのだろうと理解しながら。

 その理由が自分だと知っているからこそ、本当は危ない事をして欲しくないのに。それを嬉しいと思ってしまう事を束は止められなかった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。