天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

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Episode:15

「終わったか」

「ラウラ。ごめん、大丈夫だった?」

 

 

 丁度ハルと箒が手を離し、移動をしようとした時だった。三人に駆け寄るように走ってきたのはラウラだ。闇に溶け込むような黒いコートを羽織っている。コートの下にはISスーツを着用しているのがわかった。

 ラウラには箒を監視していた監視員達を制圧して貰っていたのだ。唐突に襲撃してきたISには誰も対処する事が出来ずに彼等は制圧された。故に箒と束の接触はまだ察知されていない。

 

 

「……殺したのか?」

「貴方が箒様ですか。私はラウラと申します。監視員達ですが、流石にそこまではしてません。ただ放置すれば凍死の可能性もあります。だからこそ私達は早くここを離れ、次の場所へと向かいます。あとの事は警察に知らせれば対処してくれるでしょう」

「そうか……」

 

 

 箒は安堵の息を吐いた。自分を監視している者達ではあったが、だからと言って死んでしまうのは寝覚めが悪かった。監視員の中には箒の境遇に同情してくれる者もいてくれたから尚の事だ。

 

 

「じゃあ束、箒。行こう。ラウラは箒をお願い」

「わかった。箒様、こちらへどうぞ」

「箒で構わない。……貴方が姉の仲間なのはわかる。だが私は私だ。普通に接してくれ」

「……了解した。ではこれからは箒と呼ぼう。改めてこちらへ来てくれ」

 

 

 ラウラは黒兎を展開し、そのまま箒を抱きかかえる。同じようにハルも雛菊を身に纏って束を抱き上げた。

 こうして四人は夜の闇へと消えていった。その後、近所の警察に一報が入り、監視員の者達は無事、命を繋ぐ事となる。

 篠ノ之 箒が行方不明になった事が知れ渡るのは翌日の事となる。その時には既に彼等の目的は達成された後なのだが、彼等は知るよしもない。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ようこそ、篠ノ之 箒様。私がこの高天原のオペレーターを務めるクロエと申します。以後よろしくお願いします」

「知っていると思うが篠ノ之 箒だ。すまないが敬語はなしで頼む。ここではただの箒として扱って欲しい」

「……はい。わかりました。では箒と。ただ敬語は癖なので気にしないでください」

 

 

 箒は高天原の艦橋でクロエと握手を交わしていた。この場には箒とクロエの姿しかなく、箒をここまで連れてきた三人は再び姿を消している。

 現在、高天原は日本の近海に潜伏している。補給などで使う小型船で浮上し、ハルとラウラのISを使って束達は日本に潜入した。そして今度は逆の手順で箒を高天原へと送り届け、再び潜入を行っている。

 

 

「もうすぐご両親との再会です。シャワーの用意なども出来ています。身支度を調えておくのが良いでしょう」

「……そうか。もうすぐ父さん達と会えるのか」

 

 

 クロエの言葉に箒は思わず目尻が熱くなったのを感じた。5年前に離ればなれになってしまった家族。もう会えないのだと思っていた家族。もう再会できるなんて思っていなかった箒からすれば、奇跡のような話だ。

 不幸の連続だった。もう幸せなど忘れていた筈だった。だが一夏との再会、そして姉との和解。もうこれ以上の幸せはないと箒は思った。今までの不幸が嘘だったかのように、目まぐるしく世界が変わっていく。

 

 

「ありがとう、クロエ」

「いえ。これも私の役目ですから」

「それでも、だ。……ところでクロエ? 何故巫女服を纏ってるんだ?」

 

 

 そう、クロエは天照を起動している為に巫女服姿なのだ。箒に指摘をされたクロエは、どこか恥ずかしげに視線を彷徨わせながら苦笑した。

 

 

「束様の趣味で……もう慣れてしまいました」

「姉さんの仕業か。……姉さん、気にしてたのかな」

「え?」

「ん? あぁ、姉さんは言ってないのか? ウチの実家は神社だったからな。巫女服と言えば何かあればよく着ていたからな。姉さんがそれをクロエに着せてる、というのはやはり思うところがあったのかな、と」

 

 

 年中、引き籠もっていた束の姿を思い出す。自分には優しかった束だったが両親には冷たかった。だが、それは受け入れて貰えない寂しさから、両親へ心を閉ざしてしまっただけなのではないか、と。

 だから自分が着る事が無かった巫女服をクロエに着せたかったんじゃないか、と。箒が言うと、クロエはまじまじと巫女服へと視線を下ろして、自分の身を抱きしめるように巫女服を掻き抱いた。

 

 

「……恥ずかしいけど我慢します」

「恥ずかしがる事はない。似合っているぞ」

 

 

 銀髪で色白だが、不思議とクロエには巫女服は似合っていた。儚げな雰囲気がそうさせるのか、クロエが巫女服を纏っている姿は自然だ。

 クロエを良く知らない初対面の箒が言うのだ。クロエは渋々と、だが少し嬉しそうに巫女服の裾を持って喜んだ。思わず愛らしさから、箒が頭を撫でると不機嫌な顔をされた。どうやら身長を気にしているらしい。

 それから箒は、クロエの勧めに従いシャワーで身を清めた。服はクロエから預かったものに着替えようとする。クロエが言うには、束の変装時の服だと言う。

 

 

「馬鹿な……!? 腰回りが少しきつい、だと……?」

 

 

 いざ箒が身に纏おうとした時、箒は驚愕したように目を見開いた。

 腰回りがきつい事に気が付いた箒が、ショックから立ち直る事が出来たのはそれから暫くしてからの事であった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 数時間後、再び小型船が高天原に帰還した。箒は高天原の内部に収容された小型船の下へと急いでいた。逸る気持ちが抑えられず、廊下を勢いよく駆けていく。

 そして収容された小型船から人が下りてきているのが見えた。箒に気が付いたのか、先に降りていたハルが傍にいたラウラの肩を叩いて箒を示す。ラウラは察したように頷く。二人は箒と擦れ違うようにドックを後にする。擦れ違う間際、箒は礼を告げるように小さく頭を下げた。

 そして小型船から束が降りてきた後、追うように降りてきた二人の姿に、箒は遂に涙腺を緩ませた。

 

 

「父さん! 母さん!」

「……! 箒……!」

「箒? 箒なの!?」

 

 

 飛び込むように箒は二人に駆け寄った。父である篠ノ之 柳韻と母である篠ノ之 陽菜が驚いたように声を上げる。そして涙を目に浮かべた。飛び込んできた箒を陽菜が駆け寄って抱きしめる。

 二人の傍に寄り添う柳韻も柔らかく微笑む。陽菜は箒を解放し、その両肩に両手を置いて箒を正面から見た。

 

 

「箒……こんなに大きくなっちゃって」

「母さん……!」

「本当綺麗になったわ……ごめんなさい。5年も貴方を一人にしてしまって」

「それは言わないでください! 今、母さんはここにいる! それだけで私は嬉しいんです……!」

 

 

 再び母の胸に顔を埋めるように箒は陽菜を抱きしめた。箒は覚えている。母親である陽菜が好きだった。神社の行事で舞う神楽が綺麗だった。だから無理に化粧をして欲しいと頼んで困らせた事もあったけど、自慢の優しい母だった。

 再会した母は少しやつれているようだった。父も同じだ。あれだけ立派だった父の姿は少し小さくなったように見えた。自分が大きくなったにしてもあの立派な背は少し背を曲げていたようだった。

 皆、同じように苦しかったのだ。だけどこうして再会出来た。ならもうそれで充分だと箒は身体を震わせる。

 無言で互いに抱きしめて存在を確かめ合う。そんな妻と下の娘の様子を見守っていた柳韻は視線をもう一人の娘に向けた。何とも言えない表情で自分たちを見ている顔に柳韻は眉を寄せた。

 まるで薄いカーテン越しに、しかし絶対超えられない壁のように隔てられている。手を伸ばす事はおろか、声をかける事も許されない。それから束は背を向けて場を後にしようとする。

 

 

「ッ! 姉さん!」

 

 

 箒が気付いて呼び止めるも、箒が呼びかけた瞬間に束は肩を震わせて走り出してしまった。ただ呆然と走り去っていく姉の姿を見送って箒は言葉を無くす。

 

 

「一度も目を合わせてくれなかったわ」

「え?」

「やっぱり束は私達の事を憎んでいるのね。それだけの事を私はあの子にしてしまった」

 

 

 束は、まるでそこにいないように柳韻と陽菜を扱った。名を呼んでも反応しない。ただ淡々と振る舞う様は無言で泣いているようだった。そんな束を支えるようにハルと名乗った少年が束の傍にいてくれた事に不甲斐ないながらも安堵してしまったのだ。

 そして後悔した。陽菜は束の才能に畏怖し、持て余していた。どう接すれば良いのかわからないまま、時は流れてしまった。その果てに一家は離散してしまった。だが思い出せば手を伸ばす事は簡単だったんじゃないかと、陽菜は後悔を募らせる。

 

 

「駄目な母親ね……私は」

「私も、だ。……接し方があった筈だった。だが、私達はそれをしなかった」

「あなた……。そうね」

 

 

 5年越しに再会する夫と妻はどこかぎこちなかった。仕様がない。確かに束が事を起こしてしまった事が全ての始まりだろう。だがそれを止められなかったのは間違いなく親である自分たちなのだと。

 柳韻は不器用な男だった。剣の道に生きたような男だった。故に女子の、そして奇抜な束の感性には付いていけなかった。なまじ束が強かだったのも柳韻が束から離れてしまった要因だろう。そして陽菜もまた、理解出来ない我が子よりも慕ってくれる箒の方ばかりを可愛がってしまったと後悔している。

 

 

「……やり直せますよ」

「……箒」

「だって家族なんです。……もし仮に駄目でも、思う事だけでも出来るから」

 

 

 箒の言葉に柳韻は目を瞬かせ、陽菜は言葉を失った。そして僅かな間をおいて柳韻は箒の頭をそっと撫でた。

 懐かしい父の手の感触に箒は目を閉じた。大きく育った娘が誇らしいと思うのと同時に、もう一人の娘にもこうしてやる事が出来なかった後悔が過ぎる。柳韻は過ぎった感情を隠すように瞳を伏せた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……束?」

 

 

 家族の再会を邪魔してはいけないとドックから去り、ハルは艦橋にいた。すると、いきなり飛び込んできた束の姿に目を丸くする。束はハルの姿を見つけると、ハルに縋るように抱きついた。

 僅かに肩が震えている姿を見て、納得したようにハルは束を抱きしめた。束は何も言わず、ハルの首元に顔を埋める。気付けば傍にはラウラとクロエがいて、束の肩をそっと叩いた。

 

 

「大丈夫。……大丈夫だよ、束。僕等がここにいる」

「……うん」

「だから大丈夫。一人じゃないよ」

「……私達もいます」

「御側にいますよ、束様」

「……うん……!」

 

 

 流石に両親は無理だったか、とハルは束の背を優しく叩きながら思う。完全にトラウマは払拭出来ていない上に、再会を喜んでいるだろう箒の姿を見た事で耐えられなくなったのだろう。

 しょうがない。既に終わってしまった事だから。過去はどう足掻いたって変える事は出来ないのだから。ならばせめて今は自分たちが傍に居よう。彼女の家族の代わりとして。

 束の服の裾を掴んでくっつくクロエと傍らに控えるラウラ。二人が頷いたのを見てハルもまた頷く。同じ思いを共有するように。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……どうしてこんな事になったんだろうなぁ」

 

 

 はぁ、と一夏は引っこ抜いた電話線を揺らしながら呟いた。放っておけば電話が延々と鳴り響く為、鬱陶しくなって引っこ抜いたのだ。手にした電話線を放り捨てて、床に大の字で寝転がる。

 それもこれも一夏が高校受験に向かった先で起きてしまった事件の所為だ。一夏が向かった試験会場では、同じ場所を借りて受験を行っていたIS学園の区画があった。そこに一夏は迷い込んでしまったのだ。

 その先にあったIS。随分と久しぶりに見た鋼鉄の装甲に、一夏は過去の後悔を思い出して感傷に浸ってしまっていた。だからだろう、ついついISに触れてみようだなんて魔が差してしまったのは。

 そしてISは何故か一夏を搭乗者として認識し、一夏は世界で初めてとなるISを動かせる男性として世に知れ渡ってしまったのだ。

 

 

「だぁ、もう! 千冬姉からも戻ってくるまでは家から出るなって言われたし……やる事がねぇ」

 

 

 もう何もかもが面倒くさい。一体どうして? なんて繰り返しても答えが返ってこない問答だ。

 とにかくISを動してしまったという事態だ。これは不味い。何が不味いって世界に一人しかいない男性。一夏だってわかる。それがどれだけ貴重な存在なのかという事ぐらい。

 

 

「……これからどうなるのかな」

 

 

 思わず胸中の不安を口にしてしまう程に心細かった。無性に千冬の顔が見たかった。だが、そこまで考えて弱気を振り払うように首を左右に振った。

 勢いよく身を起こして立ち上がると、不意に一夏の耳に音が届いた。それは窓を叩く音。一夏は音の方を見た。今はカーテンを閉め切っていて外が見えない状態だ。

 興味本位で覗きに来た馬鹿か? と一夏は不機嫌になって眉を寄せる。窓を叩く音はまだ止まらない。それどころか次第に強くなってる。放っておくと窓ガラスを破られかねないと、一夏は覗き込むようにカーテンを手で避けて窓の外を見た。

 

 

「……束さん?」

 

 

 そこには随分と懐かしい知り合いの姿があった。その後ろには自分と同い年ぐらいのサングラスをつけた少年が立っていた。

 しかし一夏にとって重要だったのは束の方だった。ISの開発者である束がわざわざ尋ねてきたという事は何か知っているのかもしれない。そもそもこの人が原因なんじゃないか? と思いながら一夏は入り口を指さした。

 それから一夏は玄関へと向かった。玄関の鍵を開けると、束と少年がすぐに駆け込んできた。二人が駆け込んだのを確認して、一夏はすぐさま扉を閉めて鍵をかける。

 

 

「やぁやぁ! 久しぶりだね、いっくん!」

「束さん! 何がどうなってるんですか!? 束さんの仕業ですか!? 俺がISを動かせたのって!?」

「うわぁ、予想通りの反応だよ。まぁまぁ、それを説明しに来たんだよ。上がらせて貰っていいかな?」

「えぇ! 早く説明してくださいよ! ……所で、えっと?」

 

 

 束が連れている少年が誰かわからず、一夏は不躾な視線を送ってしまう。それに少年は苦笑を浮かべる。

 

 

「モンド・グロッソの時以来、だね」

「……え?」

「久しぶり。織斑 一夏」

「……まさか、あの白いISの!? あれ!? でも男!? あれ!? 実は女!? なんで束さんと一緒に!?」

「たくさんの質問、ありがとう。それも織斑 千冬が戻ってきたら説明するよ。二度手間になるし、余裕もある訳じゃないしね」

 

 

 一夏は少年の言葉の意味を察して、驚愕に目を見開かせる。モンド・グロッソの時以来と言われれば思いつく限り誘拐事件の事しかない。となると消去法で行けばあの時、一夏を助けてくれたISの操縦者はこの少年という事になる。

 だがISの操縦者だ。何故女じゃないのか、と一夏は混乱する。そんな一夏の様子に落ち着け、とジェスチャーをしながら、彼は名前を名乗った。

 

 

「僕の名前はハルだ」

「お、おう。織斑 一夏だ……。ちょ、ちょっと待ってくれ! 本当にあんたがあのISの操縦者なのか!?」

「君を助けた白いISの事を言ってるならね。あの時は混乱させてすまなかった。お姉さんも傷つけてしまって申し訳ない。こちらの不手際だったよ」

「……ッ! すまねぇッ!!」

 

 

 一夏はその場で膝を付き、床に頭を叩き付ける勢いでハルへ土下座をした。見事な土下座に、思わずハルはサングラスで隠した瞳を丸くする。束すら突然の土下座に呆気取られている。

 

 

「え? あの、なんで土下座?」

「俺……! アンタに助けられたのに、アンタに石を投げちまった……! すまねぇ!!」

「あ、あぁ? あの時の事を言ってるのかい? むしろ僕が悪かったから君は何も気にする必要は……」

「――これは一体何の騒ぎだ? 束」

 

 

 ハルは思わず悲鳴を上げそうになった。ぎゃあ、と出かけた声を手で口を抑え付けて咄嗟に束の背に隠れた。

 勢いよく開かれた扉。扉を開いたのはトラウマの怒れる剣鬼。憤怒の表情を浮かべて降臨する織斑 千冬の姿がそこにあった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「で、速やかにかつ簡潔に事情を説明しろ。終わったら介錯してやる」

「わぁお、相変わらずのセメント対応だね、ちーちゃん。懐かしいよ。愛が痛いね!」

「黙れさっさと説明しろ殺すぞ?」

「はい。すいませんでした。でも今回は私もドキドキ吃驚大冒険なので関わってないです、はい」

 

 

 何故か束とハルが正座で千冬に事情説明を行っていた。別にハルは強制された訳では無かったのだが、束が千冬によって正座させられている姿に自然と正座をしてしまっていたのだ。

 千冬は苛立った様子で、束が少し茶化しただけで豪腕が束の顔面を掴みあげた。みしみし、と人として鳴ってはいけない音を鳴らしている千冬にハルは身体の震えが止まらなかった。

 やはり、この女は人間ではない、という確信と共に。

 

 

「……ところでお前は?」

「ひぃっ!?」

「……そのサングラスを……いや、良い」

「……いえ、ちゃんと明かして置いた方が良いでしょう」

 

 

 千冬がサングラスを外すように言おうとするが、一夏の存在を思い出して止める。それにハルは身体の震えを止めてサングラスに手を伸ばした。サングラスが外されればそこにあった顔に千冬は眉を顰め、一夏は目を見開かせた。

 

 

「千冬姉……!?」

「……やはり貴様か」

 

 

 一夏は驚いたように、千冬は納得したようにハルの顔を見た。素顔を晒したハルは神妙な表情で頭を下げた。

 

 

「あの時は、すいませんでした」

「いや……。あの時は私も周りが見えずに貴様に迷惑をかけた」

「そんな、貴方が気にする事では。一夏くんもそうですが……」

「いや、それでも言わせてくれ……。一夏を助けてくれてありがとう。感謝している」

 

 

 千冬はハルの前に両膝をついて、ハルに土下座をした。なんでこの姉弟は反応が同じなんだろう、と思わず笑いそうになってしまった。

 

 

「顔をあげてください。今はそれよりも話すべき事がある筈です」

「……あぁ、勿論お前の事も説明してくれるんだな?」

「その為にここに。ね? 束」

「……うん。そうだよ、ちーちゃん」

 

 

 束は佇まいを直して千冬と向き直った。その束の反応に千冬はまるであり得ないものを見たように目を見開かせた。

 暫し唖然としていた千冬だったが、柔らかい笑みを浮かべて束を見た。

 

 

「ほぅ、落ち着いたもんだな」

「そっちも、ね」

「色々あってな」

「色々あってね」

 

 

 千冬と束は互いに不適に笑みを浮かべ合う。そんな姿を見ているとやっぱりこの二人は親友なんだろうな、とハルは微笑ましそうに見る。

 ふと、状況に置いて行かれた一夏がぽかん、と口を開けて間抜け面を晒している事に気付いて苦笑した。

 

 

「さて……まず何から話そうか?」

 


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