天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

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Episode:02

 ファンタジーの世界に迷い込んだような大自然の中、ハルは大きく息を吸った。まず緑の匂いを感じた。耳を澄ませてみれば、葉のざわめきや川のせせらぎが聞こえてくる。

 何とも言えぬ感動だった。ハルの今まで見てきた世界は無機質な機械に囲まれていた。目が覚めた時も、束に助けられた時も。だから大自然の中に身を置いているというのが正直、夢のようにも思える。

 初めて見るようで、思い出すような。そんな不思議な感覚に自然と心が躍っていた。両手を広げて小さくジャンプしてみる。踏みしめた小枝が折れる音、葉を踏みしめる感触、それが楽しくて笑みを浮かべた。

 

 

「ハルー、あんまり離れすぎたらダメだよー?」

「わかってる」

 

 

 束の呼ぶ声に振り返って返事をしながらハルはまたその場で踊るようにジャンプ。束はハルに注意をしながらも、ハルがはしゃいでいる様子を目にして笑みを浮かべた。

 現在、束の移動式ラボは日本に程近い無人島にいる。何故、彼等が無人島にいるかと言えばハルが望んだからだ。

 束はハルを保護してからハルを外には出していなかった。彼の出自や自分の状態を考えれば大手を振って外に出る訳にはいかなかったからだ。

 束の研究に宛てる時間こそ減っていたが、それでも研究自体は捗っていた。それも全てはハルが甲斐甲斐しく自分の身体を労ってくれた為だと言うことを束は良く理解している。だから束は自分の為に尽くしてくれたハルに何かお返しがしたかった。

 

 

「自然を見たい、か。喜んでくれてるのかな?」

 

 

 ハルが大自然にはしゃぐ姿を見ると、束は己の世界の狭さを思い知らされた。束にとって自然なんて興味の対象外だった。日本に住んでいた頃も四季の美しさなど気に留める事も無かった。目一杯に広がる自然の何が良いのか正直、理解に苦しむ程だ。

 だが、ハルが楽しそうに木や葉を踏みしめて笑みを浮かべている姿を見ていると、自然と良い物にも思えてくるから不思議だ。耳を澄ませてみれば葉のざわめきが聞こえる。改めて身体から力を抜いて、束はラボから引っ張り出してきたロッキングチェアに身を預けた。

 今日は研究はお預けでいいや。なんとなくそう思える事は束に余裕が出来た証なのだろう。悪くない、と束は笑みを浮かべて目を閉じる。大自然の息吹の中、束はリラックスして身を預けた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「束、火ついた?」

「ちょ、ちょっと待って! ……むきーっ! なんで火が起きないんだよ!!」

 

 

 一通り自然の息吹を堪能したハルと束は食事の準備をしていた。折角、キャンプのようなものなのだから、とハルはラボのキッチンを使わないで自炊したい、と必要な道具を買い揃えて貰っていたのだ。

 手持ち沙汰だった束もやってみる、と言うことで二人で作業している。といっても束は料理が出来ないのでやる事が無く、代わりに火を起こして貰う事にしたのだ。

 束は火を起こす為にハルが集めてきた乾燥した枝に火を付ける為に奮闘しているのだがなかなか火が起きない。段々と苛々してきた束はマッチや火を付ける道具を使ってやろうか、と思った時だった。

 

 

「あ、ついた」

「え? あー! ようやく火出た! あ、消える消える!?」

 

 

 ハルが用意していた燃えやすい小枝を渡し、束が起こした種火を次第に大きな火へと変えていく。ようやく大きな火になって焚き火らしくなったのを見た束は言い様のない感慨に耽っていた。

 調理の為にせわしなく動き回っているハルを横目で眺めながら束は火を見つめる。自分が生み出した火。きっとマッチなどの道具を使っては味わえないだろう感慨に頑張った甲斐はあったかな、と思った。

 

 

「頑張った甲斐、か」

 

 

 頑張って生み出した。それがどれだけ自分にとって満足でも他人からすればどうなのだろうか。それが例えば誰にでも使えるものなのであれば賞賛され、喜ばれるだろう。

 先ほどハルは、ありがとう、と束に告げた。束の努力に対してかけてくれた感謝の言葉が嬉しかった。たった火をつけただけなのに貰った言葉が束の心を躍らせた。

 

 

「簡単な事なんだねぇ」

 

 

 誰かにお礼を言われること。誰かの為に何かをする事。それはこんなにも簡単な事だったんだと、まるで新たな発見をしたように束は呟いた。ただ束は火を起こしただけだ。必要とされたものを用意しただけだ。

 それでもありがとうを言って貰えた。特別な道具を用意していた訳でもなく、発明した訳でもなく、自分が起こしたほんの小さな火に対して貰ったありがとうの言葉が束には新鮮だった。

 束に染み込むように感慨が広がっていく。揺らめく赤い炎にかざすように束は手を伸ばす。近づきすぎれば熱い火も、少し距離を取れば暖を取ってくれる。

 

 

「……人間なんだなぁ、私も」

 

 

 当たり前のような呟き。束が焚き火に視線を送る中、一瞬だけハルが振り返った事に束は気付く事は無かった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「おいしいー! もう一杯、おかわり!」

「はい、どうぞ」

 

 

 束は皿をハルに向けてカレーのおかわりを要求する。焚き火の音や森のざわめきと共に食べる食事は普段の食事とはまったく違った。ハルが作ったカレーも前にラボで作ってもらったカレーとはまた違う味で束の食欲を促進させていた。

 飯盒で炊いたご飯を束の皿に移し、カレーをかけてハルは束に差し出す。盛りつけられたカレーを受け取った束は勢いよくカレーを口に運んでいく。あまりにもがっつくのでご飯を喉に詰まらせたりする等、醜態を晒していたが束は楽しそうだった。

 食事が終わった後、ハルは洗い物は片付ける。洗い物は流石にラボの中のキッチンに持ち込んで洗った。手早く最後の一枚を洗い終え、濡れた手を拭ってハルはラボの外に出る。

 既に日の光は落ちていて辺りは薄暗い。光源となるものは束が起こした火のみだ。火の番をしていた束はただぼんやりと焚き火に視線を送っていた。火に照らされた彼女の顔はどこか儚げで、不安になってハルは束の隣に座って束の手に自分の手を重ねた。

 

 

「おや? どうしたの、ハル。随分と甘えん坊さんだね」

 

 

 束は重ねられた手に少し驚いたものの、笑みを浮かべてハルの手を受け入れる。先ほどまでの儚げな雰囲気は消え失せて、いつもの束がそこにいた。そんな束の顔をハルは見上げるように見つめる。

 

 

「珍しいね、束がぼー、としてるなんて」

「え? ……束さんだってたまにはアンニュイにはなるさ」

「そっか」

 

 

 たははー、と笑って言う束から視線を外し、ハルは呟くように返答する。

 火を燃やす為にくべられた枝が弾ける音、森のざわめき、川のせせらぎ、そして遠くで虫の鳴く音が聞こえる。大自然の合唱に耳を傾けながら二人の時間は言葉無く過ぎていく。

 重ねられた手はいつしか握られていた。束がハルの指を絡めるように合わせて握る。ハルは束が指を絡めてきたのに気付き、束の顔を見上げた。普段の笑みはそこには無く、どこか儚げな表情を束は再び浮かべていた。

 

 

「……悩み事?」

「いつだって束さんは悩んでるさ」

「でも、今日は楽しそうじゃないね」

「人生について悩んでるからねぇ」

「哲学って奴?」

「そうそう、それ。人間ってどうやって生きて、死ぬのが正しいのかな、なんてさ。柄じゃないよねぇ」

 

 

 柄じゃない、と繰り返すように呟いた束の声はいつもよりトーンが低かった。

 束の手を握るハルの力が少し強くなった気がした。束はハルの手の感触が頼もしかった。ここにいる事を伝えてくれる温もりを離さないようにハルの手を握り直す。

 

 

「ハル」

「なに?」

「君は何者なのかな?」

 

 

 束は一瞬、震えそうになった身体を意思で押さえつける。束が今まで口にする事の出来なかった疑問。それはハルという存在そのものについてだ。

 束がわかっているのは彼が多種多様の実験のテストベッドにされていた事。そして織斑 千冬の遺伝子を使って生み出されたという事。そして自分の世話を好んでしようとしている事。

 この温もりを失いたくなくて誤魔化してきた。手を離さなければ、ずっと自分の傍に閉じこめておけばいなくならない。彼は離れない。だからこのままで良いと束は考えていた。

 けれど自然の中にいる事を喜ぶハルを見て不安になったのだ。彼は外への興味を無くしている訳ではない。自分だけが全てじゃない。自分の望みを持っていて、束が理解出来ない喜びを持っている人間なのだと。そもそも、それがおかしい話なのだが。

 

 

「元々おかしいんだ。君の存在自体が不可解だ。君に関わる全てが不鮮明で、言ってしまえばデタラメにさえ思えてしまう。奇跡? 奇跡にしたってデタラメ過ぎる。人格なんて持ってる筈もないし、刷り込みにしたって自発的な行動も多い。ハル、君は一体何?」

 

 

 仮にハルが束に送り込まれたスパイだと言うのならばどれだけ巧妙な手口だと言うのか。それにしたって杜撰で、今まで平穏に暮らして来た。それでもハルを研究に関わらせなかったのには僅かな警戒が束の中にあったからだ。

 ハルは人形ではない。誰かの操り糸に操られている人形ではない。自らの意思で行動する人間なのだと。今日ではっきりと自覚したのだ。

 だからこそ問わなければならない。興味と恐怖が入り交じった問い。束は虚偽は許さないと言うようにハルを見つめた。そんな悲壮とも言える決意を固めた束にハルはにへら、と笑ってしまった。

 

 

「……どうして笑うのさ」

「束が僕の事を悩んでくれたんだな、って思うとちょっと嬉しくて」

「疑ってるんだよ? 束さんは。ハルがスパイなんじゃないかなー? とか」

「もしスパイだったら?」

「殺すよ」

 

 

 人のしがらみには囚われたくないのだ。そもそも手口が汚すぎる。もしも本当にハルがスパイならば束はハルを生み出した何者かにこの世のありとあらゆる苦痛を与えて殺すだろう。勿論、ハル自身もだ。

 束が本気の殺気をぶつけたのにもかかわらずハルは笑っている。どこか虚ろな様子に束は息を呑む。束の様子に気付いたのか、ハルは表情を苦笑に変える。

 

 

「言ったって信じられないよ。僕だって信じてないし」

「何を知ってるの?」

「束は生まれ変わりって信じる?」

「……生まれ変わり?」

「そう。生まれ変わり。……どう言えば良いのかな。僕はね、特別になりたかったんだ。僕は最初から束を知っていた。そして君を好きになった。ただ、それだけなんだ。生まれる前から貴方の事を想っていたんだ」

 

 

 ハルは握り合わせた手を持ち上げる。自分の両手で束の手を包み込みながらハルは束と真っ直ぐ視線を合わせる。

 

 

「束の特別になりたかった。束を笑わせたくて、束に笑いかけて欲しくて。束に必要とされたかった。束にとっての特別になりたかった」

 

 

 その為に全てを捨ててきた。後悔はない。そもそも後悔する記憶も執着も全て落としてきた。ただ一つ残してきたのは束への執着と恋慕だ。ならそれが自分にとっての全てで良い。

 自分がどんな存在だって良い。別に人間でなくたって構わなかったかもしれない。束に想われて、愛されて、共にいる事が出来るんだったら自分がどんな存在であろうと構わなかったかもしれない。

 

 

「僕が何なのか、きっと束はわからないと不安なんだろうね。でもごめん。僕は何者かなんて答えられない。答えを持ってないから。だから証明も出来ない。だから信じて欲しいとしか言えない。――僕は貴方の為に生まれてきたんだ。それが僕から言える僕の真実」

 

 

 

 満面の笑みを浮かべてハルは束に伝える。ハルの言葉に対して束は何も言わない。ただ無言のままハルを見つめている。ハルもまた束から視線を外さない。

 

 

「君が死ねというなら、今すぐ喉を掻き毟って死ぬよ。

 君が尽くせというのなら、君が望む全てを叶えるよ。

 君が愛せというのなら、僕は何度でも愛してると囁くよ。

 君が傍にいろというのなら、この命が尽きる時まで傍にいるよ。

 君を傷つけるものがいるならば、この世から消滅させて見せるよ。

 君が悩む時があるならば、傍にいて答えが出るまで付き合い続けるよ。

 この血肉も、意思も、魂の一欠片すらも全てを君の為に使いたい。

 一度自分の為に捨てた命だから。なら次はこの命は君に差し出したって構わない」

 

 

 ハルは束の手を握っていた手を離し、指で喉を指し示し、次に胸を拳で軽く叩く。

 

 

「あぁでも、そうだね。もしも一つだけ我が儘を言うなら、人間として、ハルとして君の隣にいたい。それが僕の望みだよ。理屈になんか出来ない僕のエゴだ」

 

 

 そこまで言い切ってハルは少し困ったように笑みを歪めた。眉根を下げて束を不安げに見つめている姿は怯えているようにさえ思えた。

 そんなハルの姿を束はただ見つめていた。そうして二人の間には沈黙が生まれる。耐えきれなくなったようにハルは束から視線を逸らして視線を落とす。

 

 

「……ハル」

 

 

 ぽつりと、束が小さな呟くような声でハルの名を呼ぶ。

 

 

「私が好きなら、私の為に全部尽くすっていうなら、これから私にする事に抵抗しないで」

「……いいよ」

 

 

 ハルの返答に束はハルに顔を寄せた。覗き込むように顔を近づけ、ハルの瞳を見据える。能面のように無表情な束の姿にハルは身を震わせそうになるも、負けじと身体の震えを抑えて束と目を合わせた。

 束の手が伸びる。束の手が伸びた先はハルの首だ。首に添えられた手からはハルの体温を感じられる。ひゅ、とハルが息を呑む音が聞こえた。それでも構わず束は撫でるようにハルの首に触れる。

 束は何を思ったのか、首に添えた手に力を込めた。息苦しさにハルが呻くような声を漏らした。ハルの顔が苦悶に歪む。ゆっくり、ゆっくりと束は力を込めていく。絞められていく呼吸にハルは苦しそうに喘ぐ。

 そのまま束は押し倒すようにハルを地面に転がした。火に照らされた顔は息苦しさからか苦悶に歪んだまま。目の端には涙が浮かんでいる。それでも束は手を首に添え続け、力を抜きはしない。

 不意に苦悶に歪んでいた筈のハルの表情が変わる。ハルが浮かべたのは安らかな笑みだった。束に首を絞められても構わない、と言うように。そんなハルの表情を見た束の瞳が揺れたのをハルは気付かない。

 

 

「……死ぬよ?」

「いい、よ」

「……殺すんだよ?」

「う、ん」

「……抵抗しないの?」

「束が、しないで、って、言った」

 

 

 かひゅ、と。苦しげにハルは喘ぐ。藻掻こうとする身体を必死に押さえつけて涙に顔を濡らしながら。それでも笑顔を浮かべて。

 束は目を細めた。両手をハルの首に伸ばして馬乗りになった状態でハルを見下ろす。ハルの首は、このまま両手に力を入れてしまえば簡単に折れそうだった。

 不意に束は力を抜いた。解放されたハルは苦しそうに咳き込む。必死に酸素を取り入れようと藻掻く。

 そんなハルの姿を尻目に束はハルの首に顔を寄せた。口を開けてハルの首筋に噛みつく。ハルの首に流れる血脈が直に感じ取れ、ハルが再び息を引き攣らせるのを耳元で感じる。

 このまま食い千切る事も簡単だ。なのにハルは抵抗しようとはしない。逆に束の背に手を伸ばした。束の背を撫でるように触れる。まるで安心させるように背を撫でる感触に束は眉を寄せた。

 

 

「大丈夫……全部、あげるから」

 

 

 ハルの呟いた言葉に束は目を見開いた。そして身体を震わせた。

 

 

「……束?」

 

 

 小さな呟き。身体が震えた事を悟られたのだろう。束はハルの首に突き立てていた歯を離し、滑らせるように剥き出したハルの鎖骨に唇を寄せる。

 痛みが走り、ハルは身を引き攣らせるように仰け反らせた。束はゆっくりと顔を上げてハルを見る。ハルの鎖骨には束が噛みつき、名残のように跡が残されていた。口元を手で拭いながら束はハルを見下ろした。

 

 

「いいよ。ハル、そんなに言うなら束さんのモノにしてあげる。心優しい束さんに感謝すると良いよ。これからも束さんを信奉しな。ハル、君は私のモノだ」

「……束」

「だから次は抵抗してよ。……私に尽くすつもりなら、簡単に死んでも良いなんて絶対に絶対に許さない」

 

 

 ――あぁ、なんでこの子はこんなに歪なんだろう?

 

 

 束の頬を伝って涙が落ちていく。身体が小刻みに震えていた。それは果たして怒りか、悲しみか。或いは両方か。束は歯を噛みしめながら震えていた。

 愛おしくて手放しがたかった温もりが、何も知らなければあっさりと消えていたかも知れない事実に束は恐怖した。そしてどうしようもない程に怒りを覚えた。

 ハルは勝手だ。勝手に尽くして、勝手に人の心に入り込んで、勝手に自己満足して、勝手にいなくなろうとする。そんなの許せない、と束はハルを睨み付ける。

 

 

「……ごめん」

「絶対に許さない」

 

 

 ハルの申し訳なさそうに呟かれた言葉に束は首を振って告げる。あぁ、許さない。絶対に許さないとも。

 

 

「今日から君の命は束さんのモノだ。束さんの許可無く捨てる事なんて許さない。死にたくなっても死なせない。全部私が決める」

「……うん」

「だから生きて。ハルの気持ちはわかったから」

 

 

 だから死ぬだなんて言わないで。ここから消えないで。いなくならないで。

 懇願した束にハルはもう一度、ごめん、と呟いて束の涙を拭うように手を伸ばした。

 束の涙を拭ったハルの手を束は掴む。もう離さない、と言うように強く握りしめながら。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「それにしても転生だなんて摩訶不思議な事もあるもんだね」

「よく覚えてないけどね。束がどんな人か、とか、束が好きだ、って事とか、断片的にしか覚えてないし」

 

 

 落ち着いた後、火の処理等を終えてハルと束はラボに戻っていた。ベッドに二人で横になりながら言葉を交わす。

 ハルを抱きしめながら束はふぅん、と呟いた。転生に関してはハルもわかっている事は多くなく、語れる事も少なかった。

 

 

「束はさ、気持ち悪い、とか思わなかった?」

「ん?」

「僕の事。だって転生なんて信じられないでしょ」

「……んー。逆になんかどうでも良くなったかな」

「え?」

「私だって普通じゃないんだろうし。ISなんて作っちゃうぐらいだからね。だから良いじゃん。普通じゃない者同士で」

 

 

 気にしなくて良いよ、と束はハルの背を優しく撫でた。ハルは僅かに身を強張らせたがすぐに安心したように束に身を預けた。

 

 

「そもそも、ほら、オリジナルのちーちゃんだって大抵人外だし」

「良いの? そんな事言って?」

「あ、内緒だよ? 言ったら怒り狂って追いかけてくるから。だから良いんだよ。我思う、ゆえに我あり、だっけ?」

「誰かの言葉だったっけ?」

「そうそう。良いんだよ。どうあろうと自分は自分なんだ。……それを肯定してくれたのは君だよ。ハル」

「? それってどういう……」

「さーさー! 今日は疲れたから寝よう! また明日から束さんは研究を再開するからね!」

 

 

 むぎゅ、と束の胸に顔を押しつけられてハルはそれ以上の追求を止めた。息苦しそうに藻掻くハルの姿を眺めながら束は笑みを浮かべた。

 

 

(生まれ変わってまで愛してる、なんて。命までかけられたんじゃ無下には出来ないよ。私の孤独を埋めた分、逃げるのも、離れるのも許さないんだから覚悟してよね? ハル)

 

 

 私は欲求に素直なんだ。欲しいと思ったら力尽くでも手に入れる。だから君は絶対に手放さない。ハルを抱きしめながら束は笑みを浮かべて、ハルの額に自分の唇を押し当てた。


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