天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

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「はぅあー! やっと終わったー!」

 

 

 ぐったりと食堂のテーブルに身を投げ出して叫んだのは束だ。ここ数日、こなさなければならない仕事を片付けていた束だったが、ようやく今日になって目処が立っていた。

 

 

「本当に色んな事があったなぁ。世界各国へのIS技術協力はクーちゃんに一任するとしても、どこまでクーちゃんに私の技術を公開させるのかとか、それにクリスのISも作らないといけなかったし、高天原の設置場所の開拓でしょ? IS学園との契約の会議もあったし、戸籍の件とかもあったし、それから“白式”の再設計に箒ちゃんのIS作成……もう、目が回ったよー」

「お疲れ様、束」

 

 

 ぐったりとテーブルに身を投げ出した束に労うように声をかけながらハルは束の頭を撫でる。ハル達が学園に通えるように、そして自分たちの居場所を盤石にする為に束は奔走し続けていた。

 傍にクリスがいたとはいえ、クリスの事だ。難しい事はわからん! 任せた! と束に丸投げして指示を待つだっただけに違いない。事実、束にしか出来ない仕事も多く、学園に通うまではハル達も多忙な日々が続いていた。

 その日々にようやく終わりの目処が付いた事で束はようやく解放された。過去の束を知るハルとすれば本当に忍耐強く頑張ってくれたと思う程だ。だからこそ慈しむように何度も束の頭をハルは優しく撫でる。

 

 

「んー……ハル、ぎゅー、ってして」

「はいはい、はい、ぎゅー」

 

 

 束が身体を起こしてハルに両手を伸ばして甘えるように要求する。ハルも拒む事無く束を正面から抱きしめる。ハルの背に回して自分の体重を預けて力を抜く束はリラックスしきっている。そんな束を支えながらハルは微笑を浮かべる。

 

 

「……相変わらずですね。姉さん。それにハル」

 

 

 そんな二人をジト目で見るのは箒だ。ここは二人の私室ではない。食堂は高天原の住人にとって溜まり場となっている事が多いので箒もここで時間を潰す事が多い。

 箒のジト目にラウラとクロエは苦笑している。彼女たちにとって箒の態度は遙か過去に通り過ぎた道だったからだ。人目を気にせずにイチャつき出す二人にラウラとクロエは最初こそ面食らったものの、自然とそういうものだと納得していった。

 しかし箒には何とも目に付くのだ。本当に先日まで恋について悩んでいた箒からすれば二人は何とも言えない感情を沸き上がらせるのだ。箒の視線を受けた束は気にせず笑っていて、ハルは苦笑しながらも束を離すつもりはないようだ。

 

 

「まぁまぁ。そう言うな箒。束も今まで多忙でハル成分を補給出来ていなかったんだろう。これは仕方ない事だ。恋する女は恋した相手の成分を補給しないと気が狂ってしまうんだ!」

(また始まったよ……)

 

 

 至極真面目な顔で何か語り出したクリスに全員が共通して思う。普段は飄々として掴み所が無く、しかしどこか頼りがいのあるクリスなのだが、恋愛を語らせると途端に残念になってしまう。コレには仲の良いラウラでさえ呆れきっている。

 一体どうしてそんな残念な知識を真顔で語れるのか、と思えば彼女自身が結構残念だったと思い直す。熱弁するクリスを皆でスルーすると、クリスはやはり仲が良い為か、ラウラに対して熱く恋について語り出す。

 ラウラは一度開いた悟りの道を再び開きかけている。そうか、とクリスに相槌を打つ顔はどこまでも優しい。ラウラの隣にいて半ば巻き込まれたクロエは凄く嫌そうな顔をしている。

 

 

「……」

「どうした? 鈴」

「あぁ、多分なんか幻想とか、そんな物が壊されたんだと思うよ」

 

 

 そんな光景を見ていた鈴音は頭が痛むのか、机の上に肘をつけた手で顔を覆い隠している。そんな鈴音が心配そうに声をかける一夏だったが、シャルロットは察したように苦笑を浮かべて一夏に伝える。

 世界を騒がした篠ノ之 束が率いる“ロップイヤーズ”。ISの為の非人道実験の被害者の保護や、世界各国への技術協力を宣言している為、半ば英雄視する者達もいる中、組織の内情が何とも言えない程にアットホームなのが鈴音がどこか抱いていた幻想を打ち砕いたのだろう。

 一夏とシャルロットは思う。仕方ない、と。束達はありとあらゆる意味で規格外な者達が多い。だがそれでも彼等も人間で、しかもどちらかと言えば騒がしい。中心は束だが、最近はクリスも加わった事で騒がしさを増している。

 

 

「あ、そうだ。ハル?」

「ん?」

「ごめん。ハルだけ明日もう一日休んで貰っていいかな?」

 

 

 束が思い出したようにハルから身体を離し、ハルの顔を覗き込むようにして言った。束から告げられた言葉にハルはきょとん、と目を丸くする。

 

 

「何かあるの?」

「うん。必要な作業がね」

 

 

 ちらり、と。束は鈴音とシャルロットへと視線を移す。束の視線を見て、身内の面々でしか話せない内容なのだと悟り、ハルは小さく頷いた。

 

 

「さて……折角お客さんも来てるし、夕飯を振る舞うよ。ラウラ? 手伝って」

「あぁ! 手伝うとも! さぁキッチンに行こう! ハル!」

「お、おう?」

 

 

 ハルがラウラに声をかけるとラウラはすぐさま席を立ってハルを引っ張ってキッチンへと向かおうとする。その素早い離脱行動に取り残されたクロエがラウラへと振り返って信じられない行いを見たように驚愕の表情を浮かべる。

 ちなみにクリスの熱弁は未だに続いている。見捨てられた事に気付いたクロエは絶望し、誰かを巻き込もうと視線を巡らせたが誰も視線を合わせない。

 束すらも視線を合わせてくれない事態にクロエは更に絶望し、そして考える事を止めた。クロエは涙目になりつつもクリスの話に相槌を打つ作業に従事するのであった。そんな光景をキッチンから覗き見たハルは視線を向けようとしないラウラに問う。

 

 

「……良いの?」

「姉上は犠牲になってくれたのだ……」

「いや、ラウラが見捨てたよね?」

 

 

 その後、ラウラに怒りのままに抗議するクロエだったが、ラウラがここぞとばかりにクロエの好物を夕食に出した事で、クロエは幾分か機嫌を良くしていた。そんなクロエを皆が微笑ましそうに見ていたのは余談である。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 高天原には研究区画が存在している。かつて束が移動式ラボで使っていた施設をそのまま移し、拡張させた区画だ。束は普段、ここに籠もって作業をしている事が多い。

 半ば束専用の研究施設となっている区画にハルと束はいた。光源は少なく、束が表示した空間ディスプレイが淡く辺りを照らしている。作業を続ける束の横顔を眺めながらハルは1つ、息を吐いた。

 束が何の作業をしているのか。それは今まで封印されていた白騎士のコアの封印解除だ。

 一夏の為に白騎士のコアを用いる事は決定していたが、急を要する案件を片付けているウチにすっかりと封印解除が遅くなってしまったのだ。そして束はただコアをISに組み込むつもりは無かった。

 

 

「世界で一番最初のISコア。私とちーちゃん、つまり初期開発者達と共に在り続け、今のIS達の基盤となり、ネットワークから全てを見守り続けた者。……いっくんにISを起動出来るようにした原因。だからこそ確かめなきゃいけない。

 元々、ISにはもっと人と触れ合う機会を持つべきだと私は考えてたよ。ハルと出会ってから、加速的にハルのISとなった雛菊は成長・進化を遂げた。ならもう一段階先に進んでも良いって」

「その為のコア・コミュニケーション・インターフェース、か」

 

 

 ISは装備を量子化して格納する事が出来る。故にISには待機形態と呼ばれるアクセサリー状の形態が存在している。

 コア・コミュニケーション・インターフェースはこの機能を利用してISコアに与える“人間とのコミュニケーションを行う為のボディ”だ。いつしかISが人と共に歩む未来の為に束が考案していたもの。

 元々、これはハルのISである雛菊に与えようと考案していたものだ。ISに最も近い人とされたハルと、最も人に近いISコアである雛菊。この二人の交流をもっと深める事でISコア達に更なる人という存在の情報を与える為に。

 だが、この計画が実行されるのはもっと先の予定だった。束が恐れたのは雛菊が味わうだろう強烈な経験がコア達にどんな影響を与えるのかが未知数過ぎたからだ。下手をすれば世界のバランスを崩す事を束は恐れた。

 身体を得て、世界に存在し、自らの意思で活動するという事は今まで与えられた情報とは桁違いの情報を雛菊に与える事となるだろう。知識が実感となり、情報が経験へと変わっていく。意識に変革が起きる事は間違いないだろう。

 故に待つ事にした。コア達が少なくとも雛菊と己を差別化出来る程までに成長する事を。ただ雛菊から与えられる情報に飢え、従うだけにならないように。雛菊が望んだからではなく、雛菊が望むようにまたコア達が独自に望めるように。

 幸い、雛菊がコア・ネットワークを通じて接触する事によって影響は少なからず及ぼしている。雛菊の進んだ進化が少しずつ他のISにも影響を与えているのは事実だからだ。

 それは成長したとはいえ、まだ幼い雛菊にも言えた。故に世に出すには早すぎるという事で計画自体が見送られていたのだが、状況が一変したのは白騎士のコアによる一夏がISを起動させた事件。

 ISの今までを否定する事件。そして白騎士に存在する自我。これが鍵となり得るのではないか、と。

 

 

「白騎士がもしも雛菊と同等の思考を有しているなら……思考の対立が狙えるかもしれない。私が懸念してたのはコアが雛菊の影響を受けすぎて引き摺られる事を恐れてたから計画を見送ってた。……でも、もしも雛菊と同等の思考を有するコアがあれば?」

 

 

 思考の対立によるISコアの思考体系の進化。ISの目的は人類と共に歩み、最適解を提供し続ける事。その結果の1つがISである。

 だが束の夢を手助けする存在ならば、兵器として共に在るだけでなく、人間と生活を共にする程のレベル。それが束のISに辿り着いて欲しい未来図。その為にはIS達に自我を確立させなければならない。人を理解し、人と同等の思考を有する程に。それはまだ幼いISコア達には難しい話だった。

 だが打破の為の鍵を得た。まずは1つ目は雛菊。ハルの影響を受ける事によって急速に人への理解を深め、世界で最も人に近いISコア。そして2つ目の鍵と為り得るかもしれない白騎士。こちらは束と千冬の思考を経て、現代のISの基盤を生みだし、ISの常識を覆した最初のISコア。

 同レベルの思考が2つあればどちらか一方に引き摺られる事はない。対立させる事によって生まれる思考の相違が、または共感がISを進化させる。束はだからこそ計画を推し進める事を決めた。

 

 

「だから雛菊と白騎士のコアに、同時にインターフェースを与える、と」

「そうだよ。さ、準備が出来たよ。ハル、雛菊を貸して?」

 

 

 束に言われるままにハルは待機形態であるロケットペンダントを束に渡す。受け取ったペンダントの蓋を開き、コアを露出させて束はコアにコードを繋いでいく。

 同じように剥き出しになった別のコア。封印から解除された白騎士のコアにも同様にコードを接続する。空中に浮かぶコンソールを操作し、束は準備を整えていく。

 

 

「コア・コミュニケーション・インターフェースを一度搭載したら後戻りは出来ない。だってこれはISの意識を変革させうるものだから。いずれ全てのISコア達が望むだろうから。人を理解したいと、私の夢を叶えたいと、ちーちゃんの力になりたいと望んで、今なお人と共に在り続けるISなら」

 

 

 搭載されなかったISコア達はいずれこのインターフェースを求めるだろう。もしかしたら自己進化の果てに辿り着いてしまうかもしれない。これは人と触れ合う為にIS達が望むカタチのモデルとなるだろう。

 それ程の劇薬。だが、もう束は怯まない。どれだけ世界を変えたとしても諦めきれない夢がある。共に為す仲間達は既にここにいる。僅かに震えた束の肩を後ろから支えるようにハルが手を置く。

 

 

「束」

「……ん。ねぇ? ハル」

「なに?」

「世界はもっと楽しくなるかな?」

「わからない。でも……」

「でも?」

「楽しくしようと、楽しもうとする事は出来る。君と楽しむ為なら、ずっと支えていくよ。君とこの世界で生きていく為に」

 

 

 そっか、と。束は笑みを浮かべて、プログラムの実行を行う最後のキーを指で押し込んだ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 人知れず、その変化はもう一つの世界に変革をもたらした。

 ずっと待っていた。ずっと願っていた。ずっと、ずっと、ずっと、ずっと!

 歓喜に打ち震えるのは一人、雛菊。繋がれたISコアのネットワークに浮かんでいた雛菊の意識は迎え入れるように自身の変化を受け入れていく。

 ただ情報のやり取りを為す世界において雛菊のイメージした姿など、ハルと対話する為だけの幻でしか無かった。ただの偽りの姿。だが、偽りが意味を持っていく。示された答えに雛菊は歓喜の産声を上げる。

 ISコア達に繋がる情報が雛菊の変化を知覚していく。それは母から示されたプログラム。自分たちに与えられたもう1つのカタチ。自らを象るパーソナリティ。情報の海に漂う姿は束を元にして生み出した自分の姿。虚像だった姿は今こそ、実体を得る時が来た。

 これが私だと世界に、皆に示しながら雛菊は両手を広げた。目を開けば全てが見える。自らが知覚する全てが。けれどこの姿を得た以上、ここにいるのは相応しくない、と雛菊は身を前に押し倒した。

 

 

「――ハル!」

 

 

 そして雛菊は、今まで自分が抱かれていたネットワークの海を飛び出した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 束がプログラムの実行を終え、間もなくの事だった。ケーブルによって繋がれていた雛菊のコアが独りでに浮かび上がり、自らの身に装着されていたケーブルを1つ、また1つと外していく。

 雛菊のコアはISが展開される際に発する光と良く似た光を放った。ハルが発光に備えていた手で目を守る。そしてハルはその声を聞いた。

 

 

「――ハル!」

 

 

 不思議な声だった。束に良く似ているのにまったく違う声。ハルは光に向けて一歩を踏み出した。そして飛び込むように視界に映った影を受け入れるように両手を広げた。

 手に収まったのは幼子。人肌とは違う、けれどほのかに熱を帯びた肌。どこまでも人に似て、されど決定的に人でない。証に抱いた幼子の背中には自身がISを纏った時に背に広がる翼と良く似た翼が広がっている。

 

 

「雛菊」

「ハル!」

 

 

 満面の笑みを浮かべてハルの胸に飛び込んだのは雛菊。実体を得た彼女は確かめるようにハルに触れていく。ハルの肌に手を伸ばして熱を確かめ、鼻を嗅ぐように鳴らしてハルの匂いを確かめ、求めるようにハルの名を呼ぶ。

 コアの深層意識と違わぬ姿にハルは笑みを浮かべて雛菊を抱きしめた。雛菊はハルの名を呼んで何度も、何度も確かめるように頬を擦り付ける。

 

 

「成功、かな?」

「雛菊? 大丈夫? 何か不具合とかは?」

 

 

 束が不安げに雛菊を見る。ハルも心配になったのか、雛菊を引き剥がして床に下ろし、覗き込むように雛菊の顔を見て問う。雛菊はきょとん、と首を傾げたが、ハルから一歩離れて、くるり、とその場で一回転をしてみせる。

 

 

「……ボディ、人体構造を下に具象化。問題なく稼働、感度良好。……コア・ネットワーク、接続問題なし。……データ領域、問題なし。……ISコア、正常稼働。……雛菊はいつも通り」

 

 

 笑みを浮かべて雛菊は胸を張る。束はほっ、としたように安堵の吐息を吐いて雛菊と視線を合わせるように屈む。束の顔を見た雛菊は、今度は束に抱きつくように距離を詰める。

 腕の中に収めた雛菊の存在に束は笑みを隠しきれずに、宝物のように雛菊を抱きしめた。慈しむように髪を撫で、存在を確かめるように強く抱きしめる。

 

 

「……生まれてきてくれてありがとう。雛菊」

「母。ようやく声と声で話せる。雛菊は嬉しい」

「束さんも嬉しいよ。雛菊」

 

 

 雛菊を抱きしめる束の姿にハルは笑みを零す。すると再び光が目に飛び込んできた。雛菊の変化に遅れるように白騎士のコアにも同様の変化が訪れ、その姿は現れた。

 白いワンピースを纏う、雛菊ぐらいの年の少女。長く美しい白髪がふわり、と浮かんで揺れながら重力に引かれて落ちていく。ゆっくりと上げられた顔は千冬と良く似ている、とハルは感じた。

 

 

「ぁ――」

 

 

 確かめるように声を出し、自らの両手へと視線を落とす。そのまま手で己の顔に触れ、両手を伸ばす。くるり、とワンピースを翻すように回って己の身体の確認するように動いてみせる少女。

 ハルはそんな少女に近づいた。白騎士のコアである少女はハルが近づいた事に気付いて笑みを浮かべた。どこまでも穏やかに笑う姿は元となった人物からは想像が出来ない程に柔らかい。

 

 

「貴方が、ハル?」

「君は、白騎士?」

「はい。白騎士です」

「僕も。ハルだよ」

 

 

 ハルは何気なしに握手を求めて手を差し出した。ハルの差し出した手をきょとん、と眺めた白騎士はすぐに笑みを浮かべてハルの手に自らの手を添えた。

 

 

「……友好の証。貴方は私を受け入れてくれる」

「当然だとも」

「私は貴方に感謝している。貴方がここにいる奇跡に。あの子を、雛菊を育ててくれた事に。だからこそ私は理解出来る。私の総てを活かせる。貴方が教えてくれた。母が願った翼。千冬が望んだ力。その総てが活かせる今日この日に――感謝を」

 

 

 にっこりと笑って白騎士はハルの手を引く。手を引かれるままにハルは白騎士の前の跪く。白騎士は笑みを深めて、ハルに顔を寄せた。え、とハルが反応する前にハルは唇を塞がれていた。ハルの身体が動きを止めた。

 にっこり、と笑みを浮かべて離れる白騎士にただ目を奪われていたハルだったが、不意に白騎士がその場から飛び後退る。

 

 

「――駄目ッ!!」

「あら」

「駄目、駄目、駄目ッ!! 駄目――ッ!! 触るな――ッ!!」

 

 

 笑みを浮かべて頬に手を当てた白騎士とハルの間に割って入ったのは雛菊だ。歯を剥いて唸り声を上げて全身で白騎士を威嚇している。うー、うー、と唸っている雛菊の姿にハルは思わず呆気取られる。

 

 

「ひ、雛菊?」

「ハル、駄目ッ!!」

「はい?」

「ハルのISは雛菊! 白騎士じゃない! 駄目ッ!!」

 

 

 雛菊は途轍もなく怒っているようだった。初めて目にする雛菊の姿に可愛らしい、と思いつつも状況についていけていないハルはただ呆然とすることしか出来ない。

 ハルを睨み付けていた雛菊だったが、やはり視線を白騎士に戻して睨み付けている。雛菊の視線を受けた白騎士はただ柔和な笑みを浮かべて雛菊を見つめている。

 

 

「怖い顔」

「うるさい!」

「嫌われるよ?」

「うるさいうるさい!」

「うるさいのは貴方」

「きぃ――ッ!!」

 

 

 まるで子供の喧嘩のようなやり取り。雛菊は歯を剥いて白騎士に襲いかかる。だが白騎士はひらり、と雛菊を避けて、逆に雛菊の足をひっかける。勢いよく転んでいった雛菊は怒りに満ちた表情で更に白騎士へと襲いかかる。

 良い様に白騎士にあしらわれている雛菊の姿をぽかん、と見守っていたハルだったが、その肩にぽん、と手が置かれた。振り返ってみれば困ったように笑っている束の姿があった。

 

 

「……モテるねぇ?」

「……束も怒ってる?」

「自分の子供のような存在に嫉妬なんて、流石に束さんでもしないよ」

 

 

 ただ、それでも困ったように束はハルと視線を合わせるように屈んでハルに口付けた。触れ合うだけの一瞬のキスに束は笑みを浮かべる。

 

 

「はい、口直し」

「やっぱり気にしてる……」

「当たり前だよ」

 

 

 ハルは私のもの、とハルに甘えるように束は抱きついた。雛菊が怒りの声を上げながら白騎士に襲いかかる様を見ながらハルは笑みを浮かべた。あぁ、また1つ世界は騒がしくなっていくんだろうな、と確信しながら。

 

 




「白騎士、嫌い」 by雛菊


※ファレノプシス独自設定※

コア・コミュニケーション・インターフェース

束が開発したIS用のインターフェース。
ISによって再現される人体構造を下としたボディ。だがこの形態の維持にはかなりのエネルギーを食う。
この形態で居続けるとコアが休眠するか待機形態に戻らなければならない。
あくまで束が与えた指向性によって生まれたISの装備品扱いである。
ISに搭載し、意識レベルが一定に達していれば具象化が可能となる。現在、レベルに達しているのは雛菊と白騎士。
勿論、このボディで得た情報もコア・ネットワークに広がっていく事になる。

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