天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

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Days:14

 今日は休日。学園も休みなので、箒は朝から高天原の訓練施設で訓練をしていた。訓練の相手は一夏、ラウラ、クリスといつもの面々だ。

 彼等が行っているのは実戦形式に近づけた模擬戦だ。一夏はいつも通り竹刀を、箒は片手にいつもの竹刀、逆の手には小太刀を模した竹刀を持っていた。

 互いの呼吸を窺うように睨み合う両者。動いたのは一夏。意を決して箒へと踏み込み、上段から鋭い一撃を繰り出す。

 応じる箒は小太刀で一夏の太刀筋を払う。そして逆の手に握った竹刀で一夏に斬り掛かる。一夏は飛び後退る事で箒の一撃を回避。

 しかし箒は止まらない。振り抜いた竹刀を手首を返すように振り払い、再び一夏へと竹刀が襲いかかる。

 一夏は箒の竹刀を受け止め、弾くようにして後退る。チッ、と一夏の口から舌打ちが零れる。

 

 

(攻め難い……!)

 

 

 箒は再び構えを取って一夏を睨んでいる。その構えは篠ノ之流剣術の型の1つ。

 “一刀一扇”の構え。扇で防ぎ、流し、受け止める。そして刀で断ち、貫き、斬り伏せる。実際に握っているのは竹刀だが、対峙した際に感じる攻め難さは並ではない。

 これは箒が最も得意としている型であり、一夏もこの型を構えた箒には攻め倦ねる。篠ノ之神社の祭事では神楽舞として舞う事もあり、箒が理想としている型だ。箒は難しい顔をしている一夏に笑み、挑発するように告げる。

 

 

「どうした? 一夏。攻めて来ないのか?」

「はっ、隙見てるんだよ」

 

 

 まったく無いけどな、と思うも口には出さない。緊張の為か、一夏の頬に汗が伝う。

 本人も得意だと言い、剣の師である柳韻、舞の師である陽菜をして完璧だと称する程、箒の型の練度は高い。今もどう向かえば切り崩せるのか、まったく見えてこない。

 膠着状態となった二人。そんな二人の空気を変えたのは訓練施設に顔を出したクロエだった。

 

 

「すいません、束様がどこ行ったか知りませんか? 姿が見えないようなのですが」

「? いないのか?」

 

 

 クロエの問いかけに、ラウラは不思議そうに首を傾げた。私室にもいないし、研究区画にもいない、とクロエが伝える。

 高天原にいないとなればIS学園にでも行っているのだろうか、とクロエが首を傾げていると、クロエの疑問にクリスが答えた。

 

 

「あぁ。束なら出かけたぞ」

「出かけた? どこに?」

「さぁな。ハルも一緒だから大丈夫だろう」

「なに? ハルと一緒だと?」

 

 

 訓練の途中だったが、つい箒はその一言が気になって話に加わる。一夏も竹刀を下げて話に加わる。

 クリスが言うにはハルと束は朝早くから出かけたらしい。一体どこに? と問うてもクリスは知らないらしい。ただ、クリスはにやにやと笑みを浮かべている。

 

 

「野暮なことを聞くな。デートだよ、デート」

『デートォッ!?』

 

 

 クリスの言葉に、皆の驚いた声が唱和した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……たまにはこういうジャンクフードもいいかな」

「たまにはね」

 

 

 ハルは束と向き合って朝食を取っていた。二人がいるのはハンバーガーショップ。包みから取り出したハンバーガーを食べながらハルは呟いた。束はそんなハルの姿を見てシェイクを啜る。

 休日の朝。朝早く街に見える人の姿は少なく、まばらに歩いている程度だ。窓際に席を取った二人からはそれがよく見える。

 何故二人がハンバーガーショップにいるのか。休日に男女が揃って出かけると言えばデートしかない。では、何故こうも突然デートをしているかと言えば束がハルを誘ったからだ。

 ハルは面食らったものの、束からのお誘いを断る理由はない。そしてクリスに伝言を頼んで二人で街に出てきたのだ。

 とはいえ、素顔を晒して歩く訳にもいかず、二人は変装していたが。まずどちらも顔を隠すように伊達眼鏡をつけている。

 それぞれの格好だが、ハルは白のシャツの上に黒いジャケットを羽織っている。下はジーンズ。髪型はいつもの三つ編みではなく、ポニーテールに纏めている。

 束は白いワンピースに青いジャケット。髪型も変えていて、普段のハルのように一本の三つ編みに纏められている。

 頭にはウサギのアップリケが付けられたキャスケットを被っている。眼鏡と合わせて大分、印象が変わるのでよほど親しい者でなければ束だとわからないだろう。

 

 

「ハル、ソースついてる」

「ん、どこ?」

「ここ。ほら」

 

 

 ハルの口についたソースを束は指で拭う。束の指にくすぐったそうにするハルだが、束はソースを拭い終わったのか、指をハルに見せるようにして振る。

 ソースがついた指を口に含み、綺麗に舐め取る束。ハルは思わずどきり、と心臓が跳ねたが平静を装う。誤魔化すように残ったハンバーガーを口に放り入れてしまう。

 

 

「そろそろ出ようか?」

「そうだね。そうしよう」

 

 

 今度はソースを残さないように口元を拭い、ハルは席を立った。束がハルの腕に自分の腕を搦めて微笑む。そのまま並んで店を後にする二人。

 特に目指す場所もなく、二人で腕を組んで歩いていく。唐突に誘われたデートだ。ハルにデートプランなどある訳もなく、ただ束に付き添う形で街を歩く。それがどうにも感慨を思い起こさせて、ハルは目を細めた。

 

 

「ハル? どうかした?」

「……いや。束とこうして街を歩く日が来るなんて思わなかったから」

「……私もだよ」

 

 

 束はハルに絡める腕に力を込めた。離さない、と言うようにだ。確かに感じる事が出来る束の存在にハルは微笑み、ハルも力を込めた。

 日常を謳歌する事。普通の男女のように腕を組んで街を歩く。想像したことはあった。だが叶うなんて思っていなかった二人は、自分たちがこうして歩いている事が不思議で笑い合った。

 

 

「どこに行こうか?」

「あ、自然公園が近くにあるんだって。そこ行ってみない?」

「自然公園か。良いね。行ってみよう」

 

 

 目的地を決めて向かう足取りはゆっくりとしたものだ。しっかりと噛みしめるように平和な時間を味わいながら二人は並んで歩いていった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 自然公園は程近く、辿り着くのはすぐだった。行き交う人達とすれ違いながらハルと束は歩いていく。整えられている自然達は、過去に見た大自然とは違う趣をハルに覚えさせた。

 季節は春。芽吹きの季節だ。公園の一角には色鮮やかな花達が咲き乱れていて、思わず目を奪われた。以前、自然に生命の息吹を感じた事があるハルだが、人の手を入れられた庭園は磨かれた生命の美しさを感じさせた。

 公園にハルの目を奪われた束は少しむっ、とする。だが、すぐに頬を緩ませてハルに身を寄せた。ハルが本当に嬉しそうに景色を見渡しているからだ。その顔が見れた事で多少、気は晴れたのか束は何か言う事は無かった。

 所々、足を止めながらハルと束はゆっくりと時間をかけて公園を巡った。そんな中でハルが長く足を止める事となる場所へとたどり着く。

 

 

「――」

 

 

 ハルは息を飲んだ。そこは桜並木。丁度咲き誇った桜がハルの前に広がった。ひらり、と。風に遊ばれて舞った花びらが舞い降りる。掴むようにハルは手を伸ばした。

 ハルの掌に収まるように桜の花びらが落ちる。淡い桜色を見てハルは吐息を震わせた。顔を上げて桜が続く道を見る。

 

 

「……ハル?」

「いや。……綺麗だな、って」

「桜ねぇ。春の代名詞だからね。やっぱり思うところがある?」

「そうだね……。そうかもしれない」

 

 

 手の中に落ちた花びらを風に流してハルは微笑む。もうすぐ散ってしまうだろう。はらはらと花びらが落ち始めている桜を見てハルは寂しさを覚える。もう少しで綺麗だと思ったこの花たちも枯れてしまうのか、と。

 

 

「また来年来れば良いよ」

「来年……」

「花は、何度でも咲くよ」

 

 

 束に告げられた言葉にハルは驚いたように束を見て、そして小さく笑った。ハルが何故笑ったのかわからず、束は首を傾げる。

 

 

「ハル?」

「いや……。束がさ、ISや夢以外の事で未来を語るなんて珍しいから」

「……そうかなぁ?」

「そうだよ」

 

 

 行こう、とハルは束の手を引いた。束は引かれるままにハルと並んで歩いていく。

 桜の花びらが二人が歩いた道に落ちていく。まるで、彼等が去っていく事を惜しむかのように。ひらり、ひらり、また1つ花びらが落ちていく。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 自然公園を抜けて、再び街に戻ってきたハルと束。また行く当てもなく歩いていたのだが、束が足を止めたのはアクセサリーショップだ。

 足を止めた束を見て、ハルが中に入ってみるかどうか尋ねる。興味があるのか、束はすぐに頷いて店の中へ足を踏み入れた。

 

 

「はぁぁ……なんか凄いねぇ」

「ね。見てるだけで楽しいや」

 

 

 多種多様なアクセサリーの数に束は圧倒されているようだ。以前はどれも同じもののように見えたが、手に取ってみれば意外と違う事がわかる。

 なぜ束が店に入ったかと言えば、束はペアルックという言葉を思い出したからだ。恋人の証でもあるペアのアクセサリー。

 持ってみていいかな、と思って入ってみたが、どれも思うようなモノがない。どれが良いかなんてわからないのだ。まったく無縁だったからこその弊害だろう。束は難しい顔で悩み込んでしまった。

 

 

「ねぇ? 束」

「何?」

「これ、可愛いね」

 

 

 ハルが手に取ったのは、羽根を模したイヤーカフスだった。光の反射によっては白にも見える銀色。羽根の先が少しずつ色づいていて、色は桜色と青色の2つ。

 確かに可愛らしい、と束は思った。派手すぎず、少し丸っこいけど、流線型に整えられたデザイン。

 束はハルの顔を見た。そして、もう一度イヤーカフスへと視線を落とす。うん、と1つ頷いて束はハルの手を取った。

 

 

「それ買おう?」

「え?」

「……ペアルック、欲しいな?」

 

 

 甘えるように束はハルに囁いた。すると互いに少し頬を染めて、視線を落とす結果となる。

 結果として。二人が店を出る際、束とハルの耳にはそれぞれ桜色と青色のイヤーカフスが揺れていた。

 次に二人が向かったのはゲームセンターだった。ここに入ってから二人で遊び倒す事となる。

 主に遊び回っていたのは束だったが。シューティングゲームからUFOキャッチャーまで。シューティングゲームはハルと並んで遊べる事が楽しく、UFOキャッチャーには思い通りに景品が掴めない事に苛ついて暴れそうになったり。

 酷かったのはエアホッケーだ。最初は流し程度にやっていた二人だったが、やがて白熱してきたのか、半ば超人じみた争いを繰り広げて衆人環視の目を集めたり。

 勿論、視線を集めていた事に気付いてからは逃げ出すようにその場を離れたが。そして逃げ込んだ先はプリクラコーナーだった。折角だから、と束がハルの手を引いてプリクラの一台に入り込む。

 

 

「わ、わ? これどうするの?」

「え!? し、知らないよ!?」

「え? もう撮るの?! 早くない!?」

 

 

 そして二人で変顔を晒して、出来上がったものを見て二人で笑ってみたり。

 束がリベンジしようとした所で、先ほどのエアホッケーで二人を注目していた人達が気付いて、また二人で逃げ出したり。

 ハルと束はそうして走り回った。その間にも手を離す事はなく、たまにお互いを確かめるように視線を合わせて微笑みながら。

 結局、ゲームセンターからは出なければならず、二人は外に出た。空は次第に夕焼けに染まっているようで、夜の到来が近づいている事を知らせている。

 

 

「……そろそろ帰ろうか?」

「夕食、食べて行っても良いけど?」

「急に出てきたから心配してるだろうしさ。それに……ちょっと疲れちゃった」

 

 

 歩き通してからの走りっぱなし。この程度でへばるハルではないが、それでも疲労しているのには変わらない。

 そして唐突に高天原から出て行ってしまったから心配しているだろう、と。あまり遅くなるとラウラが探しに出てくるかもしれない。それは流石に申し訳なかった。

 ハルの言葉に納得したのか、束は少し名残惜しげに頷いてくれた。改めて二人で手を繋ぎ直して、IS学園へと帰る為のモノレールへと向かって二人は歩き出した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 IS学園に着く頃にはすっかり空は夕焼けの色に染まっていた。モノレールから降りて、高天原へと続く道を二人で歩いていく。

 夕日が二人の影を長く伸ばす。繋いだ手をそのままに、二人はゆっくりと高天原を目指す。ゆっくりなのはハルが束の歩調に合わせているからだ。

 

 

「遠目から見るとおっきいねー。高天原」

「そうだね。本当に」

「えへへ……嬉しいな。私の夢がいっぱいここにあるよ。束さんは幸せ者だなぁ」

 

 

 額に手を当てて高天原を見つめて、ハルと繋いだ手に力を込める。しっかりと握り返してくれるハルの手にどうしようもなく笑みが浮かんでくる。

 段々と高天原が近づいてくる。もう道半ばぐらいまでは歩いただろう。そこで束は足を止めた。束が足を止めた事で手を引かれる形となったハルは束へと振り返った。

 束がハルの手を引いて引き寄せる。二人の距離がゼロとなり、束はそっと瞳を閉じた。触れ合った唇の熱を確かめるように長く口付ける。

 最初は驚いたハルだったが、すぐに力を抜いて束を受け入れる。二人の息が止まり、世界からまるで音が消えてしまったようだ。

 

 

「……っ」

 

 

 ハルがそっと唇を離して息を吸う。束はその瞬間を狙ってハルの肩を掴む。そのままハルに顔を寄せて、再び唇を重ねる。そして僅かに開いたハルの唇に差し込むように舌を入れた。

 

 

「ッ……た、……ッ……!」

 

 

 深く、深く。ハルを貪るように束は口付ける。ハルの呼吸を奪い取るように。瞳を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。ハルが苦しげに眉を寄せて身体を震わせたのがわかる。

 どれだけ貪り尽くしたか、満足したように束はハルを解放した。繋がった糸が光に反射して見えたが、すぐに途切れてしまう。余韻を味わうように束は唇を舌で拭う。

 

 

「……てへ」

 

 

 つい、やっちゃった。

 束は誤魔化すように笑った。恥ずかしげに微笑む顔には朱色が浮かんでいる。夕日に照らされた事で更に赤みを増した顔。目の端に僅かに涙を浮かべた束の表情にハルは思わず見惚れる。

 

 

「ッ……!」

「ひゃっ!?」

 

 

 ハルが束の顎を持ち上げるように掴み、今度は逆に束を奪うように深く口付ける。突然、口付けられた事に束は身を竦ませる。先ほどの余韻が消えきらないまま、唇を貪られれば身体が震えた。

 息が苦しい。少し荒々しい程にハルは束を貪り奪う。抵抗しようとしたのか、束の身体が震えたが、すぐに力を失ったようにハルに身を預ける。息苦しさからか、薄く開いていた目には涙が浮かび、堪えきれないように伏せられる。

 解放された頃には力なんて入らなかった。唇が離れ、ハルの拘束が緩むと束は膝を折った。そのままへたり込んでしまいそうになるのを、ハルが慌てて束を抱きかかえる事で防ぐ。ようやく取り戻せた呼吸をしながら、束は呟いた。

 

 

「……ハ、ハル」

「ご、ごめん……!」

「う、うぅん……あの、えと……」

「な、なに?」

「……腰抜けちゃった」

 

 

 まったく力の入らない腰に束は呆然と呟き、ハルを呆気取らせるのだった。

 結局、腰が抜けてしまった束をおんぶし、ハルは高天原へと戻る事になった。高天原に戻ってからも、束の症状は回復する兆しを見せず、ハルは意を決して高天原の中へと入っていった。

 

 

「なんだ、帰ってきたのか? ……って、どうした? 束」

 

 

 まず最初に出会ったのはクリスだった。戻ってきた二人を見て、つまらん、と言いたげな表情を浮かべたが、ハルに背負われたままの束を見て首を傾げた。

 

 

「腰抜けただけだよ……」

「どうしてデートに行って腰が抜けるような事になるんだ?」

「うるさいな! 放っておいてよ!!」

 

 

 散れ、と言いながらクリスを追い払うとする束だったが、クリスはまるで面白い玩具を見つけた、と言うように束をからかい始めた。

 騒ぎを聞きつけたのか、高天原の面々が集まってくるのを察してハルは深い溜息を吐いた。どう弁明したものやら、と言い訳を考えながら。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ラウラが作った夕食を食べた後、束は自室に戻されていた。腰が抜けたのは治ったが、安静にしてて欲しい、とハルに言われたからだ。

 ベッドの上で枕を抱えながら束は寝返りを打った。指を伸ばした先は自分の唇。指が唇に触れると、ハルに深く口づけされた感触が蘇って束は顔を真っ赤にした。

 

 

「……ぅぁ~~」

 

 

 自分でもよくわからない呻き声を上げてベッドの上を転がる。抱きしめた枕に顔を埋めて身を縮める。感触が忘れられなくて、また力が抜けてしまいそうになる。

 もどかしい感触に束は唸り続ける。これもちーちゃんが悪いんだ、と脳裏に親友の笑う顔を想像しながら。

 

 

「……我慢させてるって、言うから」

 

 

 つい、舌を。そこまで思い出して束はまたごろごろとベッドの上で転がりだした。自分からしてしまったのも悪いが、それでもその後の反応は束にとって予想外過ぎた。

 少し痛い程、拘束されて、悉く貪られ、奪われた。思い出せば出す程、恥ずかしくなって束は転がる。

 同室の箒が戻ってくるまで、束は奇怪な転がりを続けるしか出来なかった。顔を真っ赤にし、妙な呻き声をあげながら。触れた感触を忘れられずに。今日はもう、眠れる気がしなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ハル?」

「……」

「お前、大丈夫か?」

「……」

「……ハルさーん?」

 

 

 一方、一夏とハルの部屋。束と別れて、部屋に戻ってから放心状態のハルに一夏は心配で仕方がなかった。明らかに魂がここにない。

 焦点が合っていない瞳はどこを見ているのかまったくわからない。肩を揺さぶっても、目の前で手を振っても、一夏が目の前で盆踊りをしても反応をしない。

 

 

「……雛菊、ハルはどうしたんだ?」

「……言えない」

 

 

 気になって白式を通じて出てきて貰った雛菊に聞いても、雛菊は顔を真っ赤にして首をぶんぶんと左右に振るだけで答えない。

 しかも、それだけ答えればさっさと待機形態に戻ってしまった。だから余計に不思議に思う。

 

 

「……何があったんだ?」

「雛菊が情報を封鎖してるので私にはわかりません」

 

 

 首を傾げて白式に問いかけて見ても、白式もわからない、と言う様子で肩を竦めるだけだった。

 ハルと束。二人が復帰するのには、一晩という長い時間が必要だった事をここに記しておく。

 

 

 




「…………ノ、ノーコメント……!」 by雛菊

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