天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

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Episode:03

「なんで?」

「さぁ?」

「さぁ? じゃないよ!」

 

 

 束は取り乱したように叫んでいた。髪をくしゃくしゃに掻き乱しながら頭を抱えて叫ぶ。どこからどうみても混乱していた。

 束が混乱するなんて珍しいな、と暢気にハルは束の様子を見て思う。暢気なハルとは対照的に束は頭を抱えながらまた大きな声で叫ぶ。

 

 

「何でハルがISを動かせるのさ!?」

 

 

 事の発端は束がハルにISの研究を手伝ってみる? と持ちかけた事から始まる。勿論、束が生み出したISに興味があったハルはこれを了承。束から手ほどきを受けてISの勉強をするようになった。

 ハルがISの知識を身につければ助手として働いて貰える、そんな打算があって束は熱心にハルにISの知識を授けた。こうしてハルは束の教えを受ける事によってISの知識を身につけていた。

 元より記憶転写の実験によってISの知識を転写されていたハルは束の教育と合わせて比較的、早くISへの理解を深める事が出来たのだ。

 ここまでは特に何か異常が見受けられる訳でもなく順調だった。だが事件は起きた。束が実際にISを見せようと設計中の試験機であるISを披露した時だ。ハルがISに触れると、何故かISが起動してしまったのだ。

 呆然とする束を前にしてISを装着したハルはつい感嘆の声を上げた。ISは女性にしか動かす事が出来ない。それは世界にとって常識であり、束にとっても未だ解明出来ないISの謎なのだ。

 束は確かにISを作り上げた。世界で最も知識がある事を自負もしている。それでもISの全てを理解・解明は出来ていない。

 故に束はISの開発に生涯を捧げている。ISの謎に関しては束が生涯をかけても解明出来ないのではないかと本人も思っている。何故なら彼等は少しずつ進化しているのだから。

 ISは確実に生みの親である束の手を離れている。そして今もまた束の予想外の事態が発生している。

 

 

「なんで? まさかちーちゃんの遺伝子を持ってるからちーちゃんと誤認された? 可能性はあるけど……。いや、でも確実じゃない。何かもっと別に要因が……」

 

 

 ぶつぶつと束は自身の考えを纏めようと呟く。その間にもハルはISのハイパーセンサーによって広がる世界を体感していた。

 理解出来る。束から授けられた知識が感覚と一致する。動かせる、とハルは確信した。動かせる事がわかればハルの内に欲求が生まれた。未だ何事か呟き続けている束の名を呼び、ハルは自分に意識を向けさせる。

 

 

「束。この機体のテスト、僕にさせてよ」

「え!? な、何が起きるかわからないからダメだよ!」

「僕は動かせるよ、このIS。それにデータも取れるし」

「でも!」

「お願い」

 

 

 ハルは束の目を真っ直ぐに見てお願いをする。ISを纏った事によって広がった世界に飛び出したくて仕方がなかった。もどかしい思いを感じながらもハルは束に懇願する。

 最初は束は首を縦には振らなかった。だが根気よくハルが説得した事によって渋々折れる事となる。束も初めて男で起動したデータを取れる、という魅力には勝てなかった。

 ハルはISで空を飛べるという事が嬉しくて、楽しみで仕方がなかった。ISを動かす際に束が出した条件を守る事に一切の苦は無かった。こうしてハルは、非公式ではあるものの初の男性としてISの起動実験に挑むのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 起動テストは人目のつかない僻地で行う事になった。移動式ラボを目的地まで移動させる最中、束は真剣な表情でハルに説明を行っていた。

 

 

「良い? ハル。何か危険だ、とか、おかしい、と思ったら絶対すぐに戻ってくる事。無理はしちゃダメだよ? 束さんもすぐフォロー出来るようにはしておくけど約束だよ?」

「もう何回も聞いたよ。大丈夫だって」

「何回でも聞いて。じゃあ機体の確認をするよ? ハルが起動させたISは今、私が研究している“展開装甲”の検証実験機なの」

「うん。世界ではまだ机上の理論である攻撃・防御・機動、ありとあらゆる状況に応じて対応する万能装甲、で合ってるよね?」

「そう。でもまだ検証段階だからどんな不具合が出るかまではわからないからね? 良い? 何度も言うけど不調とか異常を感じたらすぐに戻るんだよ!?」

 

 

 不安げに束がハルに言う。ハルは苦笑を浮かべながら頷いた。何回目の注意となるかハルが数えているとラボの移動が止まった。目的地に着いたようだ。

 ハルは束に視線を送る。束は未だ渋っていたようだったが、諦めたように頷いてハルと一緒にラボの外へと出る。ラボの外に出れば一面に海が広がっていて、波の音が耳に届いた。

 外に飛び出せば砂浜で、踏みしめた砂浜の感触を確かめるようにハルは何度か踏みならす。束は空間ディスプレイを展開し、データを取る為の準備を整えている。

 少し間を置けば束の準備が終わったのか、ラボから件のISを搬出される。

 

 

「準備良いよ。ハル」

「うん」

 

 

 ハルは搬出されたISを身に纏う。ハルが装着したISの特徴的な部分は背部に展開された大型のウィングユニットだ。言ってしまえばそれ以外の特筆がない。それ程にウィングユニットの存在感は圧倒的だった。

 第4世代検証実験機。これがこのISの今の名称だ。未だ正式な名前は付けられてはいない。この機体は束が開発した展開装甲を用いて飛行実験を行い、データを集める事を目的とした機体であるとハルは説明を受けている。

 ISが束によって公表されて世界が開発に着手してから時間が経った訳だが、現在、世界で最も普及しているのは第2世代型のISである。

 世界各国では第3世代型のISの開発に躍起になっている中、既に束は一世代先を見てISの開発に着手している事から、彼女の非凡さが遺憾なく発揮されているのがわかる。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 どこまで広がる青い海と空。ハイパーセンサーで感じる世界は、人の目では見えず、肌だけでは感じきれない世界を押し広げていく。武者震いをするようにハルは身体を震わせた。

 行くよ、と自分に言い聞かせるように呟いてハルは意識した。飛ぶ、と。ハルの意思を受けて背のウィングユニットが稼働する。ハルの意思に応じて開かれた装甲より溢れ出るのは淡い光。

 浮力を得てハルの身体が砂浜から浮かぶ。行ける、と確信を得たハルは翼を羽ばたかせるイメージで空に舞い上がった。

 

 

「―――」

 

 

 解き放たれた。まさにそう言うべきだった。重力に囚われず、空に向かって飛ぶ瞬間、言葉に表しきれない感動と興奮がハルを襲う。これが空を飛ぶという事。これが重力から逃れられた者達の爽快感。

 上昇だけでなく、滑空、降下など。ウィングユニットがハルの意のままに開き、空を舞わせる。ウィングユニットから漏れる残光を残して上下左右に思うままにハルは空を舞い踊る。

 

 

「はは……あははっ! あははははっ!!」

 

 

 ハルは笑った。無邪気な子供のように。楽しい、という思いが胸一杯に広がって笑みを零す。今、ハルを縛るものなどない。このままきっとどこまで行ける。そんな万能感がハルの胸を満たしていく。

 これがIS<インフィニット・ストラトス>。これが束の開発した空への翼。背部のウィングユニットは正に自分の翼だ。四肢同然に扱う事が出来る翼は元から自分に翼が着いていたのではないかと錯覚させる程、自分の意思を受けてスムーズに動く。

 心の底から笑い声を上げてハルは加速する。全ての装甲を展開し、最大加速で空を舞う。雲を突き破って、雲を引き裂くように突き抜ける。

 降下し、海面に近づくのと同時に身を捻って回転。海面すれすれに背を向けて飛び、再び身を回して手を伸ばす。海面に触れた手が水飛沫を巻き起こし、ハルの飛翔の軌跡を追って海面が割れる。

 再び身を回すように回転し、海面を叩き付けるようにウィングユニットを稼働させ、再び空へと舞い上がって急転換。自由自在に動く翼にハルは完全に興奮仕切っていた。

 もっと早く、もっと鋭く、もっと遠く、もっと、もっと、もっと! ハルは己を急かすようにISを操る。どう動かせばもっと早く飛ばせるのか模索するように飛行に没頭していく。

 

 

「……なに、これ」

 

 

 一方で、砂浜に留まりデータ取りを行っていた束は目を見開いて唇を震わせていた。

 展開装甲稼働率82%。モニターに表示された数値に目を奪われていたのだ。まだ試験段階である展開装甲はその稼働の為のルーチンワークが未成熟・未完成だ。

 故に操縦者の段階によってリミッターを取り付ける事によって安全を図っていた。だが、現実は束の予想外の事態へと進んでいた。

 束が顔を上げれば自由自在に空を舞っているハルの姿が見える。データを集積し、コアが学習する事によって解放されるリミッターが恐ろしい速度で解除されていく。

 初めての飛翔だ。なのにこの結果は一体何なのだろうか、と束は原因を追求する。そして何かに気付いたように束はコンソールを叩いて別のデータを呼び出す。

 

 

「――ハル、ダメ!! 戻って!!」

 

 

 データを確認し終えた束は顔色を変えた。そして勢いよく顔を上げてハルを見上げて叫ぶ。束の叫びは通信越しにハルへと届いた。だが、ハルは束の声をどこか遠くで聞いていた。何だろう。まだ飛べるのになんで戻らなきゃいけないんだろう、と。

 

 

(――束、心配ないよ。“私”はもっと飛べるだろう?)

 

 

 まったく心配性な奴だ。“私”がこの程度で落ちるなどあり得ないだろう。しかしこの機体は調子が良いな。流石試験機とはいえ、第4世代型と束が言う程はある。まったく今までのISと比べものにはならない。

 あれ? “僕”は知らない。他のISになんて乗った事はない。いいや“私”が乗っていた。知らない筈がない。いや、知らないよ。いいや、知っている。知らない。知っている。知らない。知っている。知らない。知っている。知らない。知っている。知らない知ってる知らない知ってる知らない知ってる―――。

 

 

(あ、れ、意識、が――?)

 

 

 通信で束が叫ぶ中、ハルの意識は唐突に途切れた。意識を失ったハルがISごと海中に没したのはこの後すぐだった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ――ここはどこだろう?

 

 

 気付けばそこにいた。何故かはわからない。ここはとにかく不思議な場所だった。

 まず自分がどこにいるのかわからない。自分の身体があるのかさえもわからない。ただ意識だけがここにある。

 あぁ、随分と懐かしい気がする。全ての殻を脱ぎ去った後に自分の意識だけが残っている。いつか居た場所にまたいる、と。

 ふと、気配を感じた。誰かが傍にいるような、誰かに見られているような、まるで掴みきれない感覚。

 

 

『―――』

 

 

 声なのか、音なのか、それともテレパシーなのか。よくわからないけれど、確かにその声を聞いた。

 違う。違うよ。誰かもわからぬ君。そこにいるとも知れぬ君。違うよ。違うんだ。君が呼ぶその名は僕の名前じゃない。僕のものじゃないんだ、その名前は。

 

 

『―――?』

 

 

 そうだね。僕の名前を名乗ろうか。僕の名前は……―――。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 気が付いたらベッドの上に寝ていた。自分はISのテストをしていた筈なのにどうしてベッドの上に寝ているのだろう、とハルは頭を掻きながら考える。記憶を引っ張り出そうとしてもぼやけたように記憶が思い出せない。

 ISで飛び回って楽しかったのは覚えてる。もっと飛びたい、と思ってISを操作しようと没頭した。そこで記憶は途切れていた。首を傾げてみるも、記憶は出てきそうにもない。ハルが首を傾げていると、扉が荒々しく開かれて束が入ってきた。

 

 

「ハル! 目が覚めた!? 私の事、わかる!?」

「わ、わ、わ!? な、なに!? ど、どうしたの、束?」

「意識ははっきりしてる? 記憶はしっかりしてる!?」

「わ、ちょ、束……! 束ッ!!」

 

 

 肩を揺さぶり、不安げに問いかけてくる束は明らかに錯乱していた。なんとか落ち着けようと束の名を強く呼ぶ。すると束は一瞬、驚いたように身を竦ませてハルの顔を覗き込む。

 

 

「ハル……?」

「何があったの? 僕も何が何だか……」

「何かあったよ! もう、心配したんだから……!」

 

 

 束は涙を目尻に浮かべてハルを抱きしめた。震えている束の身体を抱きしめてハルは背中を優しく叩く。束を落ち着かせながらハルは自分の身に何が起きたのかを思いだそうとする。

 そう、ISをもっと操ろうとしたんだ。そこから先、束が咎める声が聞こえたんだ。“私”の心配なんていらないのに。

 

 

「……“私”?」

 

 

 何を言っているんだ、と思わずハルは呟く。頭がぼんやりとする。とても奇妙な筈なのに、しっくりと来てしまう。その感覚はただ果てしなく気持ち悪い。眉を寄せて違和感を探っていると、束が顔色を変えていた。

 

 

「ハル!? ハル、しっかり!!」

「うぼァッ!?」

 

 

 束は勢いよく身を離してハルの頬に手で張った。脳を揺らすような一撃にハルは一瞬、意識が飛びかける。束に叩かれた頬をさすり、涙目になりながらハルは悲鳴を上げた。

 

 

「痛いよ束!」

「あ……。ご、ごめん」

「ん……。大丈夫。……えと、ごめん。心配かけたね。僕はほら、大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないよ!」

 

 

 目を釣り上げて束はハルに怒鳴りつける。束の怒声に身を竦ませながらハルは罰悪そうに表情を歪めた。

 自分の身に何が起きたのかを何となく察し、それは心配するよな、と納得しながら頬をさする。ハルは申し訳なさそうに束の様子を窺うように見上げる。

 

 

「えーと、束は見る限り、何が起きたのかわかってるみたいだね」

「……うん」

「やっぱりISが動いたのって誤認されてたみたいだね」

「自覚があるの? 自分がちーちゃんの、“織斑 千冬”の思考をトレースさせられそうになったのを」

 

 

 束が眉を寄せながらハルに問う。ハルは束の問いに頷いて肯定してみせる。

 そう。束から警告が飛んだ頃から自分の思考が“自分以外の誰かの思考”をトレースしていた事をハルは思い出した。それが誰なのかだって、ハルはよく理解している。

 織斑 千冬。ハルにとってのオリジナルであり、IS搭乗者においては最強の搭乗者。ISによる世界大会“モンド・グロッソ”において遺憾なくその力を発揮し、世界の頂点に立った束の親友。

 

 

「ねぇ、束。僕に施された実験の中に、織斑 千冬の戦闘記録の転写とか無かった?」

「あったよ。私もさっき確認した」

「だからかな? 僕は織斑 千冬と同じ遺伝子を持ってるし、記憶転写の実験で織斑 千冬の戦闘記憶の転写だってされてる。“限りなく織斑 千冬に近い存在”だ。それがコアに誤認されちゃったのかな?」

 

 

 そう、間違いなくあの時、ハルの意識は織斑 千冬の思考をトレースしようとしていた。が、それはあくまでトレースしたもので自分の意識ではない。なのに織斑 千冬として思考しようとした為、拒絶反応が起きた。

 しかしそんな事があるのだろうか? とハルは首を傾げる。確かにISには自意識がある、という話を束からは聞いていたが、搭乗者の思考を誘導するような事が起きてしまうのだろうか、と。

 

 

「それだけじゃない。……あのね? ハルのIS適正なんだけど」

「うん」

「理論値の限界値なの。つまり、ハルは世界で一番ISに適合出来る人間になる」

「……え、なにそれ」

 

 IS適正というのはその人の肉体的素質がISを動かすのにどれだけ適正があるかを示すパラメーター。これは訓練次第で変動し、IS適正がより高ければISとの適合率が高くなり、ISの稼働率を引き上げる事が出来る一種の目安だ。

 その理論限界値となれば、ステータスだけを見ればハルは世界で最もISを効率よく扱う事が出来る可能性を秘めた人間という事になる。

 

 

「それだけじゃない。ハルはISコアとの親和性が高すぎるの」

「どういう事?」

「ISとの親和性が高すぎるからISに乗るとISコアがすぐにハルに合わせて最適解を求めようとするの。その熟成までの段階を踏むのがハルの場合、早すぎる」

「……それって例えばの話、経験値を禄に溜めてないのに形態移行が起きるって事?」

 

 

 ISは在る程度、経験を蓄積すると搭乗者に合わせて進化しようとする機能がある。それが形態移行と呼ばれる現象だ。

 だが、形態移行は確実に発生するものではなく、搭乗者とISの適合率が高くないと起きない。だからこそのハルの異常性である。

 

 

「そう。だからハルがちーちゃんの思考をトレースしたのもきっとコア側から促したからだよ。それがハルにとっての最適解だったから」

「あー……。つまりISコアとの親和性が高いからISコアからの干渉をモロに受けやすい。で、僕の操縦技術そのものは織斑 千冬に劣るから、効率化を求めて織斑 千冬の思考、操縦技術をトレースさせようと干渉してくるって事?」

「そうだよ。……まさかこんな事が起きるなんて。本当にハルには吃驚させられるよ。乗せたのが第4世代型の検証機で良かったよ。下手に既存のISに乗せてたら暴走してたんじゃないかな?」

「……マジ?」

「マジマジ」

 

 

 束が真剣な表情でハルに言う。よほど綱渡りな状況だったんだろうな、とハルは冷や汗が浮いてくるのを感じた。

 はぁ、と束は溜息を吐いて眉間を揉みほぐす。疲れた様子の束には本当に心労をかけたんだろうな、と申し訳ない気持ちが沸き上がる。

 

 

「とにかく! ハルはもうISに乗っちゃダメ」

「えぇーっ!?」

「えぇーっ!? じゃない! ISに乗ったら自分が自分じゃなくなっちゃうかもしれないんだよ?」

 

 

 だからダメ、と。念押しするように束はハルに告げる。束の様子から、束は意見を曲げないだろうな、と察してハルは頬を膨らませた。案の定、そんな顔したってダメ、と束のデコピンがハルに放たれる。

 

 

「折角、束の手伝いが出来ると思ったのに」

「ISに乗らなくたって手伝える事なんていっぱいあるよ。それに今回のデータだけでかなり前に進めるよ。……だからもう充分だよ。言ったでしょ? 死ぬような真似はしちゃダメだ、って。危ない事だって認めないからね」

 

 

 ここまで念押ししてくるという事は束はこれから先、自分がISに乗せる事は許可しないだろうなと察して面白くなさそうにハルは口を尖らせる。

 確かに束に死なない、と約束はしたけれども、あのISの万能感はそれでも魅力だった。出来ればまた乗りたいと思っている。あの飛翔する感覚を際限なく感じたい。思い出せば身体が疼いて我慢出来そうにない。

 それに、なんとなく大丈夫な気がしているのだ。根拠はないけれども。だからどこか気持ちが楽観的になっているのが自分でもわかる。

 自分が意識を取り戻す前の感覚。あのどこか懐かしい感覚。あの時、自分に触れていた意識。自分の推測が正しければアレは害あるものじゃない。だから大丈夫、とハルは思うのだが。

 

 

「……ダメだからね」

「わかってるよ!」

 

 

 でも暫くはダメそうかなぁ、とハルはふて腐れるのだった。そしてしっかり束に見つかって頬を抓り挙げられるのであった。

 


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