天才兎に捧ぐファレノプシス   作:駄文書きの道化

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「……どうしよう? アレ」

「どうしよう、って言われても」

 

 

 困ったように会話を交わすのは1年1組の生徒達だ。彼女たちが何故困ったように話をしているかといえば、彼女たちの目の前で屍を晒している生徒がいるからだ。

 その生徒の名はシャルロット・デュノア。1年1組のクラス代表を務める未来有望な生徒。フランス代表候補生であり、デュノア社の次期社長候補。輝かしいばかりの称号を得ている彼女は光のない瞳で虚空を眺め、机に突っ伏していた。

 

 

「クラス対抗戦、優勝してくれたのは嬉しかったけど……」

「えぇ、あれは悪夢だったわね」

 

 

 うんうん、と腕を組んで頷く女子生徒は思い出す。先日、IS学園で行われたクラス対抗戦、又の名をシャルロット・デュノア苦難の1日の事を。

 クラス対抗戦は1回戦目から生徒達の興奮を集めていた。何しろ新型パッケージである『黄金』の圧倒的なインパクトは驚愕と共に受け入れられつつあった。

 敗退してしまったものの、あのラファール・アンフィニィを駆ったシャルロットを追い詰めたのだから。負けた事を悔しがりつつも、『黄金』の性能を示す事が出来た2組のクラス代表は終始笑顔だったと言う。

 しかしこれで終わらないのがクラス対抗戦。何しろ1回戦目なのだから、シャルロットからしてみれば性質が悪い。

 

 

「あれは酷かったよね。3組のラファール・リヴァイブ。一見、ただのクアッド・ファランクスかと思ったらさ……」

「えぇ。まるで曲芸師みたいに空中で三回転捻りをするとか、凄い高機動だったわよね」

 

 

 ラファール・リヴァイブには『クアッド・ファランクス』と呼ばれる高火力装備パッケージが存在する。重量と反動制御の為に移動を制限される代わりに、固定砲台として無類の制圧力を誇るパッケージだ。

 当初、シャルロットは自社の製品である事からか、その欠点を良く知っていたのだが、なんとこれが軽やかに動くのだ。移動する砲撃要塞、それはどんな悪夢だと言うのか。

 とはいえ通常機に比べれば充分に遅かったのだが、その即応性と反応速度は皮肉にもアンフィニィから得られたデータによって実現されたというのだから皮肉な話だ。

 

 

『クアッド・ファランクスなら動けない……なんてそんな事はないよね! でも、動きは鈍い筈!!』

『回避行動に移る。……ターゲット、ロック。目標を排除する』

『ちょ、え!? クアッド・ファランクスで何で空中で捻って3回転とか、そんな機動が出来る筈ないって、イヤャァアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

 

 他にもアンロックユニットの追加で装備したミサイルポッドによる爆撃など、高火力に晒され続けるシャルロットの悲鳴は今も耳に残っている。下手に外見が変わらなかった事がシャルロットのショックを煽ったのだろう、と推測が出来る。

 尚、機体制御や反動制御のOSは簪が担当し、クロエが提供したのは各部パーツの補強や改良。これにより機動力を獲得したクアッド・ファランクスが注目を浴びる事となった。

 他にも武装が換装出来る事から、新たに重武装換装型パッケージ『ルールド・ブラス』と名前が付けられる事となったいう。

 今回シャルロットが相手にした3組クラス代表の装備は、両腕にガトリングガンを合わせて4門装備。更にはミサイルポッドを装備し、爆撃もしてくる機動砲台と化していた。しかし、善戦虚しくもシャルロットに敗れている。3組のクラス代表はやはり満足げに微笑んでいたが。

 

 

「あれからだったね。シャルロットさんがヤケクソになり始めたのって」

「えぇ……。他のクラスも酷かったからね」

 

 

 各々、特徴的なパッケージを装備した打鉄、ラファール・リヴァイブを操ってシャルロットを苦戦させた。中には真面目に性能を底上げし、純粋な強化仕様となったパッケージを纏った者もいれば、一風変わった特殊装備を用いて戦場の雰囲気を一変したりなど、存分に見せてくれる試合の数々だった。

 ……当事者のシャルロットは例外として。彼女は言うなれば、試作装備の披露会の相手をさせられる事になったのだから堪ったものではない。故に疲労困憊。こうして屍を晒しているという訳である。

 

 

「シャルロットさんには悪いけど、ウチのクラスは優勝したし……」

「新しい装備も見れて良かったわよね! あーん! 私も遠隔操作型武装で空間制圧とかしてみたーい!」

「あぁ、6組のクラス代表の使ってたアレね。有線型遠隔誘導兵装……だっけ?」

「“いやー、やっぱ不可能を可能には出来なかったかー!”って言ってたわね。でも善戦してたし、セシリアさんも褒めてたわよね?」

 

 

 きゃいきゃい、と試合で見せられた新型武装に話題を花咲かせる様は、内容こそあれであったが女子の華やかなガールズトークであった。

 そんな中、件の騒ぎの原因であるクロエが高天原の面々を伴って教室に入った瞬間だった。不意にシャルロットを見た生徒は目を見開かせる事となる。

 

 

「――――」

 

 

 その場から跳躍し、クロエの前へと降り立つシャルロット。クロエが呆気取られる中、シャルロットはクロエの膝に手を入れるようにして転がし、自らの腕の中に抱え込む。

 そのまま再び跳躍。自らの席に着地したシャルロットは自らの腕の中に収めたクロエは満面の笑みで迎え入れる。だが目がまるで笑っていない上に、ハイライトが消えている。思わずクロエは悲鳴を上げそうになった。

 

 

「シャ、シャルロット……?」

「……クロエ……?」

 

 

 ぞわり、と産毛が立つような猫撫で声で喋るシャルロットにクロエは恐怖を抱く。かくん、と糸が切れたように傾げ、揺れるシャルロットの頭。だが視線は一切クロエを外す事無く見つめている。

 

 

「私……凄い……疲れちゃったのォ……」

「え、えと……ゆ、優勝おめでとうございます」

「そう、そうだよォ……優勝だよォ……? 私、頑張ったよォ……」

 

 

 くすくす、と笑いながらシャルロットはクロエの頬を撫でるように触れ、顔を近づける。互いの吐息が感じられる程に距離を詰めたシャルロットにクロエは藻掻こうとするも、がっちりとシャルロットに身体を固定されている。

 その光景を見た女生徒の一部から黄色い歓声が上がる。その歓声でようやく意識を取り戻したのか、ラウラがシャルロットへと駆け出す。

 

 

「シャルロット! 姉上を離せぺぱっ!?」

「ラウラァッ!?」

「し、しっかりしろ!? ラウラッ!?」

「は、鼻血……わ、私が血を見ている……だと……?」

「はい、ラウラ、ティッシュ」

 

 

 裏拳一発。ラウラすら見切れぬ速さで繰り出された裏拳にラウラは一撃で倒れ伏す。慌てて一夏と箒が駆け寄るも、ラウラはどこか呆然としたままだ。そんなラウラの鼻を苦笑しながらティッシュで拭うハル。

 一瞬で起きた惨事にクロエは顔色を青くさせる。これは、途轍もなく不味い状況だと、本能が理解した。ぞわり、と身体が怖気を感じて跳ねる。シャルロットの手がクロエのふとももを撫でたからだ。妙に手つきが艶めかしい。

 

 

「クロエ……? 私、ご褒美が欲しいなァ……?」

「ご、ご褒美ですか……?」

「そうそう。だってェ、こォんなに疲れてるのはァ、クロエの所為だよねェ?」

「あ、あれは学園側に要請された計画で、私だけが悪い訳じゃ……!」

「ねぇェ?」

「ひぃっ!?」

 

 

 ぐりん、とシャルロットの頭が回って揺れる。だが視線だけはやはりクロエを外さない為に不気味でしかない。正直、クロエは泣く寸前だった。ホラー映画も真っ青である。

 

 

「大丈夫ゥ……ちょっと、私のお願いを聞いて貰うだけだからァ……ね?」

「あ……あ……」

 

 

 ただ、クロエに出来るのは上下に首を振る事だけであった。

 その光景を見ていたクラスメイトの心は1つになる。シャルロット・デュノアを怒らせてはいけない、と。中には怒らせてみたいかも、と思う生徒がいたかどうかは定かではないが。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……それで、なんで、こんな事に……」

 

 

 クロエはがっくりと項垂れていた。ここは高天原のドック。普段は小型船やISの整備を行う為のスペースなのだが、機材の一切が片付けられている。

 項垂れているクロエなのだが、彼女が纏っているのは黒いドレスだった。見るからに煌びやかなドレスは鮮やかにクロエの魅力を引き出している。髪型も普段は流しているが、今はバレッタでアップに纏められている。

 顔には化粧を施されていて、幼さが残るクロエを大人っぽく見せている。幼くも艶めかしい。妙なアンバランスさが何とも言えない魅力を放っている。アクセサリーも随所に付けられていて、クロエを飾り立てている。

 まるで、パーティーにでも赴くような格好をさせられたクロエ。彼女の前には満足げに微笑み、両手を握り合わせるシャルロットがいた。その頬が妙につやつやしているのはきっと気のせいではない。

 

 

「かーわーいーいー! とっても可愛くて綺麗だよ、クロエ!」

「うんうん。シャルロットの化粧の技術は流石だな」

「どんなに疲労してても、悟られないように化粧の練習は怠らなかったからね。でもその技能がこんな事で役に立つだなんて……! はぁー、お持ち帰りしたい!!」

「は? クーちゃんはウチの子だし。こんな可愛い子、余所になんてやらないし。調子乗んな金髪。このアイディアは素晴らしいけど、あんまり調子に乗ってると消すよ?」

「いやだなぁ、それだけ可愛いって事ですよ。流石、束さんの自慢の娘ですよね!」

「……ふぅん、そう。まぁ、少しぐらいなら調子に乗っても良いよ?」

 

 

 きゃいきゃいと。クロエを前にして楽しげに話すのはシャルロットとクリス、そして束の三人だ。シャルロットに至っては頬を朱に染め、恍惚とした表情を浮かべている事から、思わず一歩引いてしまう。

 そんなクロエの後ろには他の高天原の面々と、そして簪の姿があった。彼等もクロエと同じく着飾っている状態だ。

 

 

「一夏、ネクタイが曲がっているぞ。……まったく。どうして自分で結べないのだ、お前は」

「わ、悪い……」

「ラウラ、ズレてないかな?」

「あぁ。大丈夫だぞ、ハル」

 

 

 一夏とハルはスーツ姿だ。一夏が白のスーツで、ハルが黒のスーツ。二人が並ぶとホストみたいだと思ったのはクロエの密かな内緒だ。

 箒も真紅のドレスを身に纏い、クロエと同様に化粧を施され、アクセサリーなどで飾られている。真紅のドレスを身に包んだ箒の姿は気高く美しい。どこか鋭さを感じさせるも、一夏のネクタイを直す際に微笑ましそうに笑うものだから、また違った美しさを垣間見る事が出来た。

 ラウラもクロエと同じく黒のドレスを纏っているが、クロエのドレスに比べれば露出が多めで、シルバーアクセによってか雰囲気が鋭く感じる。窮屈なのか、首につけたチョーカーに指を入れて調整している。

 

 

「……なんで私まで」

 

 

 そして簪。淡い水色のドレスを着せられた彼女はクロエと同じように肩を落としていた。普段つけている眼鏡型の投影型ディスプレイを外している。

 淡く化粧を施された彼女はまるで儚げな一輪の華。装飾こそ少なく、派手なものも無いが、アクセントに添えられただけで魅力を醸し出すのは生来、彼女が持つ美しさなのだろう。

 さて、何故彼等がこうも着飾っているかと言えば理由がある。勿論、クラス代表戦で溜まったシャルロットのストレス解消の為だ。

 当初はクロエに衣装を着せて写真を撮りたい、という要望だったのだが、それを聞いた束とクリスが参加。クロエも撮るならいっそ全員で、という事で高天原の全員を巻き込んでの撮影会となった。

 思い出の為でもあるが、ロップイヤーズの広告にも使えるかもしれない、という打算からこの撮影会は開かれる事となったのだ。

 

 

「それはわかりますけど、なんで私まで……」

「ん? それはだな、代表候補生にはモデルの仕事もあるだろう? 衣装の用意や場所などはこちらで用意して、写真は全て提供すると言ったらOKを貰ったぞ?」

「……そうですか」

 

 

 最早希望などない、と簪は視線を遠くした。

 こうして参加者の思惑など知らぬままに、撮影会は進んでいく事となるのだった。その撮影風景を少し切り出して紹介しよう。

 

 

 ――例えば、クロエの場合。

 

 

「きゃぁああああああ!! クロエ、良いよ、なんかこう、良い! あぁ、語録が足りない自分が憎いぐらいに可愛い!!」

「落ち着けシャルロット。シャッターは押せば良いと言うものではない。じっくりとアングルを吟味してだな……」

「クーちゃん、笑って笑ってー」

「…………」

 

 

 どこから調達してきたのか、白の大布で囲った即席スタジオを用意して始まった撮影会。

 白の空間に椅子を置き、そこにクロエが座っただけで発狂するシャルロットや、カメラを構え最適なアングルを探しているクリス。その目がやたらと真剣だ。三脚を持ち出し、手が空いているハルや一夏にレフ板を持たせて、箒や簪にはライトアップの調節まで行わせている。

 束はまるで母親が娘の写真を撮るような気軽さでニコニコとしていた。そんな3人を前にして椅子に座るクロエは少し緊張した表情を浮かべていたが、次第に諦めたのか、社交辞令用のスマイルを浮かべて撮影に応じた。

 

 

 ――例えば、クロエとラウラの場合。

 

 

「そうそう、二人で両手を合わせてみて」

「こうか?」

「そうそう、鏡合わせみたいにして……きゃうーん!!」

「落ち着け! シャルロット、さっきから私にぶつかっている! あと人語を話せ!!」

「ふぅん、こうして見るとやっぱりそっくりだねぇ」

「あの、その、ラウラ、距離が……」

「仕方ないだろう、離せばシャルロットに殺される……」

 

 

 クロエとラウラは向かい合うように床に乙女座りをさせられていた。そして両手を合わせて顔を近づける。シャルロットに要求されるままにポーズを取る二人なのだが、クロエはラウラの距離が近くてあたふたとしている。

 一方でラウラは涼しげに、だが接客用の笑みを浮かべている。そして先ほどからシャルロットの挙動がおかしく、隣にいるクリスに何度かぶつかってクリスに怒られている。

 束はマイペースに二人の取った写真を眺めながら、改めて二人の顔を見比べたりしている。

 

 

「よし。ラウラ、今度はクロエをそのまま押し倒して?」

「はぁ!? な、何言ってるんですかシャルロット!?」

「いい絵が取れそうなんだって! ハル! 脚立とか無いの!? 無いならIS展開して飛んでも良いよね!?」

「あぁ、もう好きにすれば良いと思うよ……」

 

 

 ハルは苦笑しながら手をひらひらと振る。結局、シャルロットの熱い要望に断れず、二人で重なり合うように寝そべり、その格好のままで撮影が始まる事となる。

 尚、その二人の図を見た簪は思わず頬を朱に染めて、背徳的、という感想を漏らしていた事を、箒は確かに聞き取っていた。

 

 

 ――例えば、クロエとハルの場合。

 

 

「ハ、ハル……近すぎです……!」

「いや、まぁわかるけどさ……」

「ハル? 動かないでね? そのまま、あ、実際、頬にキスしちゃっても良いよ?」

「シャルロットッ!?」

「うーん、まぁクーちゃんだしいっか」

「流石にクロエが嫌がるって……ほら、クロエ、暴れないで?」

「そうだ。折角整えた衣装が崩れてしまうじゃないか」

 

 

 今度は椅子に座ったハルの膝の上に乗せられた状態でクロエが藻掻く。落とす訳にもいかないので、シャルロットの指示通りにクロエの頬に顔を寄せるハル。

 ハルの息遣いを感じて撮影の間、ずっと目を閉じてぷるぷると震えていたクロエだったが、その様にシャルロットが鼻息を荒くして、ギラギラとした目線を向けていた事に気付かなかったのはきっと幸福だったのだろう。

 

 

 

 ――例えば、クロエと簪の場合。

 

 

「うーん。うん、やっぱり背中合わせに座って貰ってさ……」

「うむ。手は握るよりも重ねる程度で……まずはクロエからの視点で取ってから、次に簪からの視点。後は煽り気味に二人を撮って……」

「ねぇ? クリス、ドレスはこんな感じに広げれば良い?」

「あぁ、問題ないぞ、束」

「……良かった。結構まともだった」

「怨みますよ、簪……」

「むしろ私が怨むよ……」

 

 

 背中合わせに座りながらクロエと簪は疲れたように言う。座高は簪の方が少し高く、簪がクロエに頭を預けるような体勢で落ち着く。

 先ほどよりも健全な撮影だった事に簪はほっ、と胸を撫で下ろすのであった。

 

 

 

 ――例えば、ハルと一夏の場合。

 

 

「ホストだ」

「ホストだな」

「ホストだね」

「皆揃って言うなよ!」

「いや、わからなくはないけどさ……」

「冗談冗談、じゃあほら、二人とも立ち位置なんだけどさ……」

 

 

 男性組二人の撮影は明らかにホストの撮影としか思えなかったのか、口々に皆がホストと言うと一夏は解せない、と言うように抗議した。一方でハルは苦笑を浮かべていたのだが。

 背中合わせで撮ったり、やや遠近感を利用して写真を撮ったりとクロエよりもシャルロットもアングル事態に拘って撮影が続けられた。

 

 

「……所で一夏、あのさ、ポーズをさ、こういう風に取ってさ」

「? おう。こうか?」

「で、ラウラのカンペを格好良く読んでみて?」

「何々……? “どうも、IS学園の白き流星 ICHICAです!” ……って、おい!? 何やらせんだ!?」

 

 

 片手で顔半分を隠し、腕を交差させるようなポーズでカンペを読まされた一夏。すぐさまハルに掴みかかるも、ハルは素早く逃げ出す。ちなみにばっちり写真に撮られていて、皆に笑われていたりする。あの簪ですら口元を抑えて背を曲げる程だ。

 

 

 ――例えば、一夏と箒の場合。

 

 

「おぉう……なんか格好良いね」

「そうだねー。二人が並び立つとやっぱり凛々しいって印象が先立つよね」

「一夏、少し髪を掻き上げて……逆の手を腰を当ててだな。箒、一歩前に足を出してくれ。それで少し仰け反るように……うん、そのままで頼む」

「……これは、なかなか恥ずかしいな」

「だろ?」

 

 

 ポーズを色々と要求され、改めて自分が撮られる身となってわかったのか、箒は頬を少し朱に染めて一夏に呟いた。一夏も少し疲れたように箒へと返答する。わかったか、と言いたげに。

 密着というよりは、肩を預け合うような距離で撮られた写真が多いが、それでも互いに意識するのか動きが少しぎくしゃくとしていたりした。

 

 

 他にも個人や様々なペアで撮ったり、時には三人、四人と写真を撮る人数を変えながら撮影時間は流れていった。その度に撮影者には疲労が蓄積していく事になるのだが、撮影者の皆は知らんと言わんばかりに撮影を続けるのであった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「ふへ……うぇへへ……うぇひひ……」

 

 

 次の日、机に突っ伏して奇妙な笑い声を上げているシャルロットの姿にクラスメイト達は戦慄した。明らかにイッてしまわれている。ひそひそと、まるで腫れ物を扱うように皆がシャルロットへと視線を送る中、呆れたようにセシリアがシャルロットの頭をぺしり、と叩いた。

 

 

「シャルロットさん、なんて様ですの? シャキッ、となさい。シャキッ、と」

「今の私は何を言われようとも気にしない。……はぁぁ……至福の時だった。撮影ってあんなに楽しいものなんだなぁ」

「あら。モデルの仕事でもありましたの?」

「うぅん。私が撮ってたの。ロップイヤーズの人たちと、簪さんの」

『何ですって!?』

 

 

 シャルロットの呟きにクラス中の生徒が反応し、シャルロットへと詰め寄った。

 

 

「それはつまり一夏くんの写真があるって事ね!?」

「見せて! 凄い気になる!」

「あ、あの、ハルくんのもあるかな……?」

「え、クロエさんとラウラさんって着飾ったら凄く可愛くなりそうなんだけど、ねぇ、どんなのどんなの!?」

「お、落ち着いて、わぁあああああ!?」

 

 

 一気に人の波に呑まれて攫われていくシャルロット。ちなみに人の波に押し潰されたセシリアはそのまま床に倒れ伏して屍を晒している。

 この噂が一気に生徒間に広まり、休み時間中、シャルロットから写真を頂こうと、学園中でシャルロットを追いかけ回す図が生まれる事となる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「……はぁ……綺麗ね」

 

 

 IS学園の生徒会室。そこで楯無は端末に表示された妹の、簪の写真を眺めていた。ハルを通じて楯無に贈られた写真だが、楯無は満足げに簪の写真を見て微笑む。

 その微笑みは楽しげで、しかしどこか寂しげだった。楯無は端末を操作して簪の写真を消して、座り慣れた生徒会長専用の席に背を預けて溜息を吐く。

 

 

「……これで良いのよ。簪ちゃんが笑ってくれるなら、それで」

 

 

 呟きを聞き取る者はいない。ただ、楯無の背を預かる椅子の軋む音だけがその場に残されるのみだった。

 

 




「着飾る。綺麗になる。褒められる? 装甲、綺麗にする? 衣装、変える? ハルは喜ぶ? 母は喜ぶ?」 by雛菊

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