瞳を開けるとそこには見慣れた天井が広がっていた。
いつしか眠ってしまっていたのであろう。
頭部にはめられたギアを外し一息つくと先生が駆け寄ってきた。
「桜は無事力を取り戻せたのか?」
何のことかと思い出そうとするが靄のかかったように思考がはっきりしない。
うむむ、なんのことじゃ...
何とも言えない表情になっていると髪を左右にくくった活発そうな少女が身を乗り出してきた。
「桜ちゃんならよゆーだよね」
「...おぬしだれじゃ...?」
そう言った瞬間とてつもなく悲しそうな表情になったその少女は震える声で何言ってるのと問いかけてきた。
周りの先生たちも口をぽかんと開けて驚いている。
もしや度忘れをしてしまったのでは...
そう思い何とか思いだそうとするもやはり靄のかかった頭では思い出せない。
「おぬしは...一体誰なんじゃ?」
再び問いかけた瞬間少女は涙を瞳にこらえながら走ってどこかへ行ってしまった。
一体どういうことなんじゃ...?
病院へ連れられて何やら機械の中へ入れられて検査をしたが話を聞いたところ異常はないとのこと。
皆のことはもちろん覚えているがどうもあの少女のことだけが思い出せない...
どうやらなにか大切なものを忘れてしまったらしいの...
少しの間検査入院とのことで今は病室のベッドの上から空を見上げているが特に異常を感じているわけでもないので暇じゃ...ただただ暇なのじゃ...
「ここは日向ぼっこにはちとあわんの...」
そう呟いた瞬間入り口で物音がした。
そこには例の少女がこちらを覗いている。
「なんじゃ、なにかようかの?」
少女は首を勢いく左右に振ると何も言わずにどこかへ走って行ってしまった。
一体何なんじゃ...
それからというもののことあるごとに物陰からこちらを窺う彼女を見つけた。
退院した後もずっと...
数日たったある日罠を仕掛けることに、内容は簡単なもので曲がり角の先で待ち伏せというもの。
意外といってもいいものかはわからんがあっさりと捕まえた。
「何の用じゃ、ずっとついてきおって...」
悲しそうな表情のまま彼女はゆっくりと口を開いた。
「桜ちゃんは...ひなたのこと忘れちゃったの...?」
そう告げられ再度思考したがやはり思い出せない...
「すまんの、わしは何も思い出せない...」
唇をぎゅっと噛み締めた彼女は涙をこらえそっか...と呟き後ろを向く。
「ごめんね、思い出せないなら仕方ないや...ごめんね...」
そう言い彼女は瞳を袖でこすり走って行ってしまった。
その後ろ姿に胸の痛みが走ったが何も言うことは出来なかった。