ダンジョンな話   作:あじぽんぽん

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一話

 神さま、神さま、おはようございます。

 

【Keep going!】(立ち止まるな!)

【Don't look back!】(振り向くな!)

【keep moving forward!】(歩き続けろ!)

 

 イエス!

 今朝の神託もロックですね!

 本日もありがとうございます神さま。

 

【いえいえ、こちらこそどういたしまして】

 

 一日の始まりは邪神……いいえ、我が神に捧げる祈りから。

 呼びかけると返されるありがたいお言葉。

 会話のキャッチアンドリリース。

 ナニか違うけどそんな感じのいい加減な信仰心。

 

 天井に赤黒いシミが人の形のようについた安アパートの一室。

 鉄格子のはまった窓に向かって跪き、朝の日課を終えて立ちあがる。

 隙間風の入るぼろい部屋に不釣り合いな豪華な姿見の鏡は、ちょろい同業者に貢いでもらったオレの私物。

 着ていた寝間着をすべて脱ぎ捨て、全裸になった自分の体を映しだす。

 これも毎朝の日課。

 以前はあった割れた腹筋は影も形もなく消えている。

 確認のたびに毎回落胆し、苦痛であるが中々止めることもできない。

 

 鏡に映った豊かな胸の美少女がため息をつく。 

 

 ほんと、この少女が他人ならばデートに誘うのにといつも思う。

 着替えたシャツとズボンの上に蝙蝠マークの付いたローブをまとい、メイス二本を腰ベルトにさして背負いバックを片手にもつ。

 そして、ある事情から被るのが日常とかした角つき鉄兜のフルフェイスマスクは悪魔〇官っぽいデザイン。

 邪神……いいえ、我が神から頂いたありがたい加護つき神器です。

 

【あい、いつもだいじにつかってくれて、ありがとね】

 

 いえいえ、こちらこそ助かってます!

 

 とりあえず準備はできた。

 職業、邪神プリーストなオレ、本日も仕事の開始である。

 

 

 爽やかな朝の空気の中、空を見あげて息を吸い、寂れた風な建物の多い場所から街の中心に向かって歩き始める。

 石造りの街並み。

 しばらくすると喧噪が聞こえ始め、すれ違う人の通りが徐々に多くなり、様々な迷宮施設やお店が立ち並ぶにぎやかな場所が現れる。

 寺院、道具屋、宿屋、飲み屋、八百屋、エトセトラ……。

 その中でも一際異彩を放つのが一面コンクリート作りの大きなお店。

 高級衣服店シ・マムーラ。

 店主はオレと同じ異邦人で、たまに高額な仕事を依頼してくれるお得意様。

 彼はファッションデザインの仕事をしていたらしく、この世界に合わせた衣服デザインで大成功を収め、現在も数々のヒット作を生みだしているようだ。

 足を止めた。

 店の長い壁には魔法によって描かれた巨大ポスターが、警備兵が見守る中で複数枚展示してある。

 そこに写っているのは全部同じ人物。

 その中の一枚。

 最新作の迷宮蜘蛛の糸素材で作られた、どーていを殺す類の白いセーターを身にまとって、男心をくすぐるような蠱惑的な表情を浮かべ、胸を強調する挑発的な悩殺ポーズをとった黒髪の美少女が写っていた。

 背中なんて丸裸状態でお尻が半分ほど見えてるし、これは服といえるのかな?

 マネーのためとはいえ気持ちが少し消沈する。

 

【びじん】

 

 慰めてくれてありがとうございます邪神……いいえ、我が神さま。

 

【ほんと、びじんさんよ?】

 

 見たことないけど、神さまも中々いけてますよ?

 

【//////////】

 

 再び眺める。

 ポスターに映る少女は以前のオレならば、Gネタにしそうなほどエロイ。

 くせ毛一つない濡れ艶の長い黒髪に絹のような白い肌。

 ほっそりとした体と、それに見合わぬ形の良いむちむちな胸とお尻という、世の女性たちが詐欺だと叫びそうなアニメキャラみたいな体形。

 実際詐欺だと思う、何の手入れもしてないのに肌質も髪質も体形すらも一年前とまったくかわらないのだから。

 うっすらと施された化粧が、少女と大人の魅力を併せもつ清楚なのに妖艶な乙女を演出していた。

 何よりも特徴的なのは高級なシャムネコを思わせる黄金色の瞳……魔性といえるほどに整った黄金律の美貌だ。

 

 彼女がシ・マムーラご自慢の謎の美少女モデル、ターナである。

 

 ターナが普段着として着用しているという設定の服(・・・・)は、迷宮街の若い女性の間で非常に人気が高く、シ・マムーラでは連日注文で大賑わいを見せているとか。

 彼女には、新作ポスターが貼られるとすぐに盗難されるほど熱狂的なファンが男女問わずついており、その影響も大きいらしい。

 ある意味で、この迷宮街のアイドル状態だ。

 まあ、なんだ……生きるためとはいえ羞恥心はあるんだよね。

 

 オレは悪魔フルフェイスの頭を振ると歩きだす。

 

 目的地である迷宮管理局の石造りの建物に辿り着く。

 到着して、年季の入った傷だらけの受付カウンターごしに、鉄製の身分証(タグ)を見せるお決まりの儀式をした。

 年配の係員に行ってよしと、なおざりに手を振られる。

 鎖で通してあるタグを、自分の胸の谷間に戻す前に何となく確認する。

 

 異邦人:カナタ・タナカ

 

 刻まれているのは、この世界でのオレの身分だ。

 異邦人……その名の通りこの世界の外から落ちてきた来訪者。

 珍しいが、驚くほどでもないという程度の存在だ。

 そのまま広い木造の建物内を歩き、地下迷宮に降りる入り口へ。

 門を守備する兵士たちに、これもいつも通りに挨拶をする。

 するとそこで、ここに来た当時からの顔見知りで親交のある犬耳の兵士さんに呼び止められる。

 

「おーうカナタ、相変わらずたまらん胸しているな? ははっ、いくらでなら揉ませてくれる?」

 

 悪魔マスクを着けた怪しげな女に対して笑いながら言う犬耳中年男。

 本気じゃないとわかるけど、そーいうことを言うのは止めてくださいよ。

 奥さんにあることないこと言いふらしますからね?

 というか、そんな冗談が銀髪の悪魔の耳に届いたら、今度こそ逃げ道を塞がれて監禁状態になってしまいます。

 

『カナタは老若男女問わずに、人を誘惑する魔性の美貌をもちながら実に無警戒すぎるから、この腕の中にずっと閉じ込めておいたほうがいいのかな?』

 

 そんな爆笑物のセリフを実に真顔で言われたことを思い出して震える。

 クール系堅物さんはタガが外れるとやんでれて本当に怖いんですぅ。

 

 ため息……この世界にやってきて一年。

 

 家で煎餅片手にくつろいでゲームしてたら、いつのまにか全裸で地下迷宮の入り口にいた。

 詳細は省くけど、色々なことがあった。

 やつとの出会いもそうだけど、この肉体の変化に慣れる暇もなく、生きるために必死になって迷宮に通い生活の基盤を手に入れるまで一年だ。

 おかげさまでここでの生き方にもだいぶ慣れたし、日本にいたころに比べると人としてずいぶんタフになったと思う。

 それでも元の世界にも、元の体にも戻れない事実をたまに思い出すと、弱音を吐きそうになるし、一人残してきた母ちゃんの飯がひどく恋しくなるんだ。

 

 母ちゃん……親孝行もろくにできなくてごめんよぅ。

 

【ないちゃだめ、がんばれ、あたしのげぼく】

 

 慰めてくれてありがとうございます、邪神……いいえ、我が神さま。

 

【いいってことよ、うふー】

 

 オレを下僕にしてくれた優しくて寂しがりやな邪神さまへ応えるように、鉄製悪魔フルフェイスをコンコンと叩いた。

 そうさ、こんなふざけた世界で、ふざけた女の体になっても、希望がなくても、生きていくには立ち止まらずに歩き続ける必要がある。

 手段を選ばず、なりふりも構わず、どんなに無様でみっともなくてもだ。

 そうしないと泳げなくなったサメのように酸欠で死んでしまう。

 

 サメで思い出したけど、おうどん食べたい。

 

【あひゃあ⁉】

 

 我が神さまの期待に満ちあふれた声がした。

 よし、今夜は自分と神さまにご褒美だ。

 夕飯とお供え物は奮発しておうどんにしよう……神さまが小躍りする気配を感じながら、階段を降りて地下迷宮へと独り入った。

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