かび臭い地下一階に降りてすぐに見えるのは、二体の聖女像と噴水のある大広場。
わずかに苔むした石の壁が冒険の雰囲気をかもしだす場所である。
この円形状の広場はいつの頃からか、冒険者たちが立ち寄って冒険の仲間を探す集いの場になった。
それ故についた名前が冒険者広場。
安易だけど場所を示す名称というならば実に分かりやすい。
しかし実情は、パーティ募集をぼそぼそと聞き取りにくい小さな声で呟く、友達はいないけどプライドだけは高そうな陰キャなボッチどもがたむろしているダークサイドスポットともいう。
だって、社交性のあるライトサイドの人間ならば普通に上の街でパーティを組んで、待ち合わせとかイベント以外は利用しない場所だし。
命のかかった
【おおっと】
はい、分かっております、
そんな感じで陰キャどもの無様なさまを生暖かい目で応援しながら、一人広場を抜けて地下一階の片隅で金策の薬草採取をするのがオレの日常である。
お前もボッチ野郎だろうって……うん、自虐するほどマゾじゃないよ?
普段どおり円形の広場を通り過ぎて、地下一階の通路に入ろうとしたところで普段とは違う人の多さと喧噪に気がつく。
「今月のユニークモンスターがそろそろでます! 一階でやる予定です! 職指定しませんのでパーティに参加したい人は遠慮なく声をかけてください‼」
「地下六階のユニーク討伐予定! 後衛を熱烈募集! 重装備ヒーラーと範囲攻撃魔法の使える魔法使いを募集中‼」
「盾もち重戦士はいりませんか~? 盾役できますよ~! 地下三階へ行く予定のパーティありましたら誘ってくださ~い‼」
「そ、双剣士……パ、パーティ、募集……あ、あったら、入れてほしい……」
おぉ、なんということでしょう。
ダークサイドの聖地だったはずの広場がリア充な光に満ち溢れています。
仲間募集に大きなはっきりとした明瞭な声をあげる者たちは、いつもの薄汚れたボッチ野郎どもではなく、お洒落な装備を着けた人生が充実していそうなリア充な連中だった。
あ……今日はユニークモンスターが出現する日?
「ま、まずいぞ、パーティ入らなきゃ⁉」
動揺して思わず独り言がでた。
ユニークモンスターとは、月に一度ほどの周期で迷宮に現れる通常種とは色違いの亜種モンスターである。
強さ自体は通常種と同じだけど、落とす素材などのドロップアイテムが少々特殊で、通常種の五倍~十倍ほどの値段で取引される。
要はいつもと同じ狩りで、いつもより数倍の稼ぎがだせるのだ。
それ故に、本来ソロ向けではないひ弱なプリーストさまにとって、絶対逃すことのできない金策イベントなのである。
というか、ユニークモンスター討伐の稼ぎで、現在のオレと神さまの生活がぎりぎり成り立ってると言っても過言ではない。
【がんばれ、げぼく、まじがんばれ‼】
おうどん程度のお供え物でも熱狂的な喜びを見せる、安上がりな神さまの熱烈な応援である。
ありがとうございます邪神……いいえ、我が神さま。
しかしですね聡明な神さまも知っての通り、ダークプリースト・カナタの名前は以前やらかした件で悪名が轟きすぎて……中々パーティに入れないのですよ。
【あうち;;】
それに最近のパーティの主流は殺られるまえに殺れの攻撃陣形で、ヒーラーも前衛として前にでて殴りなどができる重装備型が好まれる。
こんな体で非力なオレには甲冑等の重装備などは当然着けられず、後ろからみんなを応援する昔ながらの回復支援のスタイルでしかヒーラーができないので、残念ながらパーティ需要はひどく薄いのだ。
しょぼんとする神さまの気配を感じながら、オレは人の居ないほうへと、物陰を探して移動した。
ボッチなカナタ君はこのままパーティはあきらめてソロをする?
いやいやまさか、前回、前々回も使った奥の手を使うまでさ。
迷宮管理局の手配らしい、緊急時の治療室や簡易道具屋といった各種設備がそれぞれ入っている大型テントの後ろに隠れて着替えをする。
冒険者必須スキルの異次元倉庫インベントリー……ドラえもんの四次元ポケットみたいなものから変装用の装備をとりだす。
一枚ずつ脱ぐ面倒な着替えではなく、今ある装備と全部交換の早着替えだ。
この世界、妙なところでゲーム的なのである。
我が神さまの神器である悪魔フルフェイスもインベントリーに収納されたので、直で吸う迷宮の魔力に少しだけ咽た。
この手を使うには顔全体を隠す悪魔マスクは邪魔になるのだ、不本意ながら。
変身完了し、おかしいところがないか、自分の姿を迷宮探索必須アイテムの手鏡で確認する。
なんということでしょう、二本メイスをもった邪悪ローブ姿な悪魔神官の代わりに現れたのは、清楚な雰囲気をもつ美少女プリーストではありませんか⁉
長い黒髪をツインテで綺麗にまとめ、白の神官服はロングスカートに深いスリットが入って、生足ニーソは見えるけどパンツは見えないあざとい仕様。
手に持つ武器は、叩くなんてまったく出来なそうな細い十字杖のみ。
黒ぶちフレームの野暮ったい眼鏡をかけ、首と腰回りの生地には分厚い布を入れて、ぽっちゃり体形の今一つ垢ぬけない新米冒険者を演出しています。
最近の流行に逆行する、あなたに守ってほしい系プリースト、癒しの
そう、オレの奥の手とは、この普段は使い道のない無駄にありあまっている美貌を前面に押しだしたネカマ姫プレイ作戦である。
え、元男の子としてのプライド?
そんな一銭にもならないものなんて、ぎりぎりの生活の前では犬の餌にもなりゃしませんぜ。
【あひゃあ‼】
それにオレの見事な変装に対して、我が神さまから拍手喝采の喜びの波動が伝わってくるので悪くない気分である。
【でも、じつは、びっちそう】
そのカーナちゃんの裏設定は言わない約束ですよ神さま?
【ごめん】
いえいえ、お気になされず。
素直すぎる神さまに返答して、これまたあざとい感じにリボンのついた大きな神官帽子を頭に乗せた。
しかしまあ、女になって凄いと思ったことは、髪形を変えて眼鏡を一個かけ、化粧をちょっとするだけでも全く別人に変装ができるってことだ。
少なくとも今のオレを見て、悪魔神官はもとより、某有名ファッションモデルと同一視する者はいないはず。
それだけ顔……人の目というものは個人を認識する重要なファクターなのかもしれない。
目は口ほどにものを言うなんて言葉もあるし。
【げぼく、いうこと、ふかいね】
あなたさまの下僕は世界の真理を追究する学徒にございます故。
【すごいよ、げぼく、すごい】
うそぶいたら我が神さまに深く感動された。
うちの神さま、邪神にしては少々
オレが色々と教えてあげなければと決意しながら、