ダンジョンな話   作:あじぽんぽん

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三話

「三階行き殴り重装ヒーラーさん募集!! すぐに出発できます!!」

「七階、殴りヒーラー募集!! 殴れなくても前線で回復維持できる硬いヒーラー募集してます!!」

「ヒーラー! 支援系ヒーラーをパーティに入れて~!!」

「さ、三十才、ま、魔法使い……です……死体とか、爆破で、範囲できます……パーティ誘って……」

 

 大型テントの陰から広場の中央の噴水周りに戻ると、相変わらずキラキラした連中のパーティ募集の声が大きく響いていた。

 そして案の定、なり手の少ないヒーラーの需要は多いが、殴れて頑丈(ワイルドでタフ)な人がいいようだ。

 これがゲームならば妥協して、重装備以外のヒーラーいれて出発したほうが待つより稼ぎがでそうなものだが、命を預ける現実的な野良募集だとそうはいかないらしい。

 日本人特有の試行錯誤(HENTAI)的な努力により、重装備ヒーラーに近い効率をだしているんじゃないかと、そこはかとなく思ってるオレとしてはなんとも言えない気分だ。

 ヒーラー同士が同じパーティに入ることは殆どないので、ほかの同職がどんだけ仕事をしているのかが分からんから、はっきりとは言えないけど……もやもやするなぁ。

 

【げぼく、かおこわい、えがお】

 

 はっ、ご指摘ありがとうございます邪神……ではなく神さま!

 

 そう、今のオレは嫌われ者のダークプリースト・カナタではなく、人気者な癒し系プリースト・カーナなのだ。

 当社比にしたら1,2倍増量って感じだ。

 怖い顔をしていたら良い(カモ)は釣れない。

 女は笑顔、スマイル、なにはともあれスマイルだ!!

 オレはゼロ円ゼロ円と念じながら宙を見あげ、胸のまえで指を組んで、鏡で何度も練習した清楚(カーナ)な微笑みを浮かべた。

 

『おおぉぉぉぉぉぉ!?』

 

 途端にまわりでどよめきがあがった……なんだ?

 なにか起こったのかと気になって見渡したら、男女問わず一斉に視線を逸らされた。

 みんな頬が赤いし……本当に、なによ?

 

【かーなちゃん、やっぱり、てんねんびっち?】

 

 はい……?

 

 広場には人間は元より、エルフ、オーガ、獣人などの様々な種族がいる。

 人口密度の増したこの場所で即席のお店を出しているのは、ドワーフ、ホビットをはじめとした商魂たくましい種族。

 ちょっとした市のような騒ぎである。

 何度かカーナ(・・・)で一緒に迷宮の探索をした人たちは見当たらない。

 また次も参加してくれと大抵のパーティで言われるが、社交辞令だろうから期待はしていないけどね……。

 

 あるいはそう言ってくれるのは野良ヒーラーに対しての同情か、ギスギスした男だらけの職場(かりば)の癒し目的なんだろうか?

 

 まあいいと、オレは心の中で気合いを入れ、寄生先を探すことにした。

 横にした十字杖を両手で握って下腹部の前でもち、やや前かがみで歩きだす。

 その際に、腕の間に挟んだオッパイをむにゅとエロく変形させることも忘れない。

 歩くたびにしぼった駄肉がタプンタプンと無駄に揺れた。

 

【げぼく、えろいぞ、がんばれ!】

 

 はい、我らの生活のために、がんばりますよ神さま‼

 

 そうやってしばらく歩いていると、熱のこもった視線が集まっていくのを感じた。

 主に、顔、乳、ケツとかに……。

 ごくりと喉を鳴らす人がいるくらいには、この体はエロいようだ。

 元男として気持ちはわかるし、現女としても理解している。

 なんか気弱そうで、エロそうな美人がいたら遠慮なく体を見てしまうよな?

 軽蔑のきつい視線や、文句言われなさそうと分かれば容赦なく見ちゃうもんだよね?

 んでもってジックリと下品な品定めするよね?

 正直に言うと鼻の下を伸ばした連中の視線は怖いし、いい気分ではないんだけど、稼ぎのよさそうなパーティに入るためだと思えばなんてこともない。

 

 いざというときは奥の手である、我が神の加護(ギフト)もあるし。

 

 オレは試しに、たまたま目が合った陰キャなネクロマンサー(死体愛好家)らしき男に、にっこりと微笑んでみた。

 すると骨のような顔を一瞬で真っ赤に染めて、彼は慌てて視線を逸らした。

 ふふ、眼鏡越しでも、この笑顔には男を釣る効果はあるようだ。

 

【いいぞ、ねこそぎ、のうさつだ!!】

 

 お任せあれ我が神さま、無駄すぎる美貌で、男どもを根こそぎジェノサイドしてみせます‼

 

【げぼく、おとこまえ、だぞ‼】

 

 お褒め頂きありがとうございます、我が神さま。

 

 そう、決意も新たにしたとき、獲物が(ちち)に食いついてきた。

 

「おーい、そこのお嬢ちゃん」

「あ……?」

 

 と思いきや、声をかけてきたのは何度かパーティしたことがある顔見知りの女性だった。

 おお……これは幸先がいいかも?

 オレことカーナは期待を心の中に隠し、彼女をぼんやりという感じの上目使いでじっと見つめ、それから一拍おいて微笑んで挨拶をした。

 少しだけ、おつむが足りなさそうな雰囲気を出すのがポイントである。

 ほら、男って、本能的に女のマウント取りたがる生き物だから。

 

「ジャニスさんでしたか、その節は大変お世話になりました」

「ははっ、カーナ、あんたは相変わらず、探索中以外はボーっとしているね」

 

 ジャニスの姉御、鋭い突っ込みあざっす‼

 もちろん、男受け狙ってあざとくやっています‼

 でも、女受けは悪くなるはずなのに、どういうわけかそちらの受けも凄くいいんです!?

 

 ほんまなんでだろう……?

 

 むっちりとした長身で腹筋がきれいに割れた筋肉をもつ褐色長耳な彼女は、ダークエルフのジャニス。

 ちょい蛮族風のエロ鎧と竜とか切れそうな大剣がエロかっこよい、この迷宮街でもトップランカーに入る女戦士である。

 

「ジャニスさんもこれからユニーク討伐ですか?」

 

 聞いておいてなんだけど、金なんて腐るほど稼いでそうなジャニスの姉御がそんなせせこましいことをやるのかな?

 

「ん、私はうちの子たちの付き添いさね」

 

 ジャニスが指さす先、広場の端のほうには十代前半くらいの少女たちがいた。

 彼女たちは例外なく田舎から出てきたばかりのような垢ぬけない容姿で、装備はくたびれたお古であった。

 きょろきょろと緊張した様子であたりを見渡して、持っている使い込んだ傷の見える武器をぎゅっと握りしめて、落ち着きがなさそうに体を揺すっている。

 オレのような偽装とは違う、誰がどう見ても本物の新米冒険者のようだ。

 ジャニスは女だけの組織(ギルド)、シルバーテイルを運営する代表者(ギルドマスター)である。

 

「あ、そうなんですかぁ……あの、大変不躾なのですが、ジャニスさんのところでパーティの枠はあまっていませんか?」

「ああ、すまないねぇ、今回は野良の子たちもいるからいっぱいなんだよ……」

 

【げぼく、ざんねん、だったね】

 

 仕方ありませんよ神さま。

 ジャニスの姉御は慈善事業家というか、恵まれない女の子たちに手を差し伸べる正義の人なのですから。

 

「というかカーナ、あんたまだパーティに入ってなかったのかい?」

「ええ、今回は少々、出遅れたんですよ」

「ふ~む、あんたほど腕がいいなら、野良でヒーラーなんてやってないで、どっかのギルドに入れば固定でパーティ組めて楽できるだろうに」

 

 わお、褒められた!?

 いやしかし、カーナ的には喜ぶな、うぬぼれるな、謙遜するんだ!!

 

「腕がいいなんてそんな……それに私にも色々と事情がありまして」

「ああ、普段は別の仕事をしてるんだっけ? たしか、孤児院でシスターだったか?」

 

 はい、我が神さまを信仰する狂信者(やしなうシスター)をしております。

 

【/////////】

 

「……なんだったら掛け持ちでいいんで、うちのギルドに来てくれないかい?」

「えっ!?」

 

 ジャニスのあっさりとした、それでいてさりげない誘いの言葉に演技ではなく素で驚いた。

 

「うちは新人が多いから、たまにでもカーナみたいな凄腕ヒーラーが面倒見てくれると本当に助かるんだよね。それに特攻大好きなランや、あんたを目標にしているカリナも大喜びするさね」

 

 …………。

 

 ああ、本当に良い人だなと思った。

 オレのような野良専門のヒーラーが気後れしないように、ここまで回りくどい褒めかたをして、手を差し伸べようとしてくれている。

 こんな生き馬の目を抜くような忙しない街でも、ジャニスのように人を気遣う優しい人がいることに感動を覚えた。

 もう少し早く出会えていればと……。

 

【げぼく……】

 

 ふふ、そんなことはまったく思いませんよ、我が神さま。

 

【あひゃあ!!】

 

 うひひ、うちの神さまは、本当に独占欲が強いんだから。

 

「私のような新米ヒーラーを褒めすぎですって。でも、お世辞でも本当に嬉しいです。ありがとうございますジャニスさん」

「はっ? あのさカーナ……新米って……あと、アンタを褒めたのは別にお世辞ってわけじゃないんだけどね」

「ええっと、はい?」

 

 なんだ……今日の姉御はやたらとカーナをヨイショするな?

 

「……まあいい、自分の価値ってのは自分では分からないものだからね。気が向いたらいつでも声をかけてな、待っているから」

 

 そう言ってジャニスはオレに背中を見せ、肩ごしに手を振りながら、新米冒険者な女の子たちのもとへ歩いていく。

 彼女の揺れる腰のくびれと、Tバックな褐色のデカ尻は素晴らしくエロかっこよかった。

 男の子のときならお願いしますと土下座したくらいには。

 オレは今のやり取りで心の水位が増すのを感じながらも、それだけではお腹は満たない現実に気づいて、参加できそうなパーティを再び探すことにした。

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