「…おねーちゃん?」
目の前に妹がいる。
見捨てたはずの妹がいる。
もうどれだけ後悔したかわからない。
取り戻せるものなら取り戻したかった。
その妹が、
私の目の前にいる。
「…あ……、……ぁぁ…」
伸ばした手が日菜に触れる。
手の届くところに日菜がいる。
この際これが夢であってもいい。
日菜が側にいるという事実に感極まっていた。
「…ひ、日菜……」
「え、おねーちゃ…うわっ!」
私は日菜を思いっきり抱きしめた。
またいなくなるかもしれない。
馬鹿な私が、また遠ざけてしまうかもしれない。
そうなる前に、
そうなってしまう前に、自分のそばへ抱き寄せた。
「えぇ!?お、おねーちゃん?!」
日菜の体温を感じる。
本物だ。
幻覚だったらどうしようかと思ったが、本当に日菜がここにいる。
それがわかったと同時に、自然と涙が溢れてきた。
「おねーちゃん…?どうしたの?どうして泣いてるの?」
妹が、私を気にかけている。
とても嬉しいと思う反面、疑問にも思った。
何故怒らないの?
何故私に優しくするの?
私は、あなたを見捨てたというのに。
理由はわからない。
わからないけれど、
あなたが怒らないというのなら私は──
「………ごめん…なさい」
「…え?」
私は、ずっとあなたに謝りたかった。
ずっとそれができなかったことを後悔していた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
許されようなどとは思っていない。
謝って済む話でもない。
だけど、何もしていない自分が嫌だった。
縁を切られることになったとしても、
もう二度と会えなくなることになったとしても、
それでも私は、あなたに謝りたかった。
「一人にしてしまって…」
あなたにも出来ないことがあることくらい知っていたのに、
「離れていってしまって…」
平気な顔して実は寂しがり屋だというのも知っていたのに、
なのに、
それなのに私は、あなたを一人にして……
「…本当に、ごめん………な、さい」
その言葉を言い終えたと同時に、私は再び眠りについてしまった。
* * * * * * * * *
「おねーちゃん…?」
おねーちゃんはまた寝てしまったみたいだ。
部屋に入る前は、こんなことになるだなんて想像もしてなかった。
確かに、寝顔を見れたらラッキー、という考えはあったんだけど。そもそもあたしが起こしに行くというの自体珍しいことだった。
いつもなら寝坊なんて絶対しないのに。
最初は疲れているせいかな、なんて思ったけど、どうやら違ったみたい。
「というか、なんであんなに謝ってたんだろ…?」
あたしがおねーちゃんを怒らせることはいっぱいあるけど、あたしがおねーちゃんに怒ることなんて全然ない。
だからこそ、疑問に思っていた。
初めは何か勘違いしてるのかなって思ったけど、おねーちゃんの雰囲気を見ているとなんだかそういうわけでもないみたい。
だけど、心当たりはない。
「そもそも、一人だって感じたことなんてないんだけどなぁ…」
寝ているおねーちゃんの髪を撫でながらそう呟いた。
中学生になったあたりから距離を置かれている自覚はあったけど、それでも決して孤独になったと感じたことはなかった。
小さい頃、大半の人は、あたしの言っていることがわからない、と言って遠ざかっていった。それは今でも少しある。
だけど、姉だけは、おねーちゃんだけは絶対に傍にいてくれた。
あたしはそれがたまらなく嬉しかった。
おねーちゃんも、あたしの言うことが分かっていないときがあるというのは知っている。
だけど、私を一人にはしなかった。
おねーちゃんはいつでもそうだ。
だから、そんなおねーちゃんがあたしは大好きなんだ。
「なら、今度はあたしの番だよね。」
理由は今も全然わからないけど、今のおねーちゃんはあたしに近くにいて欲しいみたい。
あんなこと言ってたし、寝てるのにしっかりあたしのことを抱きしめてるんだもん。
だから今度は、あたしがおねーちゃんの傍にいてあげる番なんだ。
起きたらびっくりするかなぁ?まあ、今から
そうしてあたしは、
* * * * * * * * *
「…………あれ…?」
目が覚めると、私は再びベッドで横になっていた。
…ああそうか、私はあの後また寝てしまったのか。
急にあんなことがあっては、驚くのも仕方ないとは思う。
だって、もう会えないと思っていた人が目の前に、
そう、妹が───
「…!…ひ、日菜!!」
そうだ、日菜がさっき目の前にいたんだ。
寝ている間にもういなくなってしまったのだろうか?
でもまだ、まだ言いたいことがたくさん…!
そう思い、起き上がろうとすると、私はずっと何かを抱きしめていたことに今更気づいた。
何か、というのも──
「…すぅ……、…すぅ…」
隣で妹が寝ていたのだ。
そういえば、意識を失う前に私から抱きしめた気が……
「~~~っ!」
思い出すと急に恥ずかしくなってきた。
つ、次話すとき、どんな顔して話せばいいの…?!
おおお落ち着くのよ氷川紗夜…!
日菜はまだ目を覚ましてないから、今のうちに考えて──
「…そういえばこの子、なんで高校の制服なんて着てるのかしら…」
最初目にしたときは気が動転して気にしていなかったが、今改めて日菜を見ると色々とおかしい。
制服だけじゃない。
なんというか……、全体的に幼い?
それにこの部屋……。
「…もしかして、実家?!」
もう何年も帰省していなかったが、間違いない。
この部屋は、
それに気づいた私は勢いよく体を起こし、部屋中を見渡した。
どこを見ても記憶にあるものばかりだった。
すると、部屋の隅に一つのギターケースを見つけた。
「…っ!…こ、これ……!」
中身を確認した私は思わず驚いてしまった。
ありえない
ありえない
これが、
だってこれは…、
このブルーのギターは……
私が、Roseliaを
「…なんで、このギターが……」
ひとまずギターを置き、机や引き出しも調べる。
すると、そこには教材やファイルなどが整理されていた。
しかもその教材などは、全て“高校生”のものだった。
…まさか
いやそんなはずない。
そんな、非科学的なことが起こるわけが…!
そう考えながら、机の横にかけてあったカバンも調べる。
「…あった。」
見つけたのは私のスマホだ。
スマホも昔のものだったが、今はそんなことより今日の日付が気になっていた。
いや、日付というよりも、
「……『今は何年』」
私の疑問そのままの文を打ち込んで、検索してみる。
すると、ページの一番上に四桁の数字が表示された。
「………嘘でしょ…」
表示された現在の年は、私が高校二年の頃のものだった。
今回は短めです。