楽しく読んでもらえるように試行錯誤の毎日。
今回はセリフ多めです。
モモ野郎が死んだ。いや、殺された方が正しいか?ミイラ曰く死にかけたからその報復を『善良』なワシにすると言ったから恐喝罪で『事故死』させたんだと。
あのメイドさん、やっぱり無痛症者だったか。しかも合気道かなんかの使い手、ブーツにはナイフ、部屋中に張り巡らされた罠。私は無痛症者と戦ったことがあるが、モモ野郎はなかったらしい。というかあの鉄扉ぶっ飛ばしたやつ喰らって平然としたやつを見ること自体が初めてだったようだ。
ナルホドね、と空虚な目でモモ野郎の残された腕を見ているとミイラが話しかけてきた。
「朱音さんはどうかね?君は善人のはずだが・・・」
「ハァ・・・。あんたには過失致死罪って罪がかかるんじゃないのか?」
「ほう、君は冤罪をかけてくるのか。目の前であんなことが起きればそんなこと言えんはずじゃがのう?」
骨だらけの指でモモ野郎の腕を指さす。このミイラ耄碌してやがる、自分がきれいな人間だと思い込みたいらしい。私を巻き込んでおいて気に食わない。殺そう。
腰の後ろにあるホルスターからマグナムを取り出して二発、頭と心臓に打ち込む。が、メイドさんが私が発砲するよりも早くミイラの前に立ちはだかると同時に何かのスイッチを押して指を指揮棒のように振るう。すると罠の一つが起動して弾を二発とも防いだ。・・・壁にもブレードにも盾にもなる罠が指先一つで起動するのか・・・厄介な。
「では後は頼んだよ。紫さん」
「一昔前なら敵前逃亡で裁判なしの銃殺刑だったのになァ」
「カカカ。紫さんを殺すことが出来たらしてもよいぞ」
そう言って後ろの本棚が開き、姿を消した。この屋敷の主は癪に障るけどギミックはカッコイイんだよなぁ。
「時に朱音さま。舞踊はお得意?」
「うーん、可愛い楽器を弾く方が得意かな?」
「そう・・・それは残念」
メイドさんが躍るように空間に指を滑らせる。足元から気配がするから両足の踵のスイッチを入れると同時に罠が起動し、私を切り裂きに来た。でも無駄だ。靴の裏から出た王水によってブレードの部分が溶け、その上に乗っかった形になる。残念だね、レーザーなら殺せたのに。
「不思議な道具をお持ちですのね」
「魔法使いだからね。君こそ、決められた動きをすると起動する罠とか持ってるじゃない」
「理解が速いのですね」
「まぁね。ところでさ、朝から具合悪くない?」
「・・・えぇ。落涙と嘔吐、軽い視覚障害と呼吸困難を」
「実はそれ、私の所為なんだァ」
「・・・どういう、事ですか?」
「VXガスってご存じ?」
VXガス、かつて狂った宗教団体が使用したアレだ。これを喰らうと縮瞳、頭痛、流涙、嘔吐、腹痛、下痢、視覚障害、呼吸困難、徐脈、失禁、意識障害、全身痙攣などの症状を呈し、死に至る。最ッ高にえぐいよね!私こういうの大好きなんだ。あまり症状が出ているように見えないのは無痛症とメイドのプロ根性によるものだろう。
「そんな、ものが」
「だからほっといても君は死ぬ。でも私、とある娘と君の命を懸けてゲームをしてるんだよね」
「ゲーム?」
「そう。だからさ、この舞踏会をもう少し楽しもうよ」
いつでも殺すことは出来るが、これはあくまでこのメイドとあの娘のゲームなんだよね。私はただのゲームマスターだからそれっぽく演出させてもらおう。
ブレードから飛び降りると同時に机に向かってワイヤーシューターから延ばしたワイヤーを射出して固定、部屋中を忍者のように駆け回る。因みにこのワイヤー、光の反射がないと見えないくらい細いんだ、しかも頑丈。驚異の謎技術である。友人曰く、いじってたら出来たのだから仕方ないらしい。
縦横無尽に駆け回る私を捉えようと、毒で震える手で踊るように罠を起動させるが私の『死』の気配を感知する能力と動体視力のせいで掠りもしない。というかすぐ引っ込むから維持するのが大変なんだよなぁ、指の動きがムツカシイ。逆に、私の仕掛けたワイヤートラップに気づくことなく徐々に絡めとられていく。・・・そろそろいいかな。
「音が鳴らなくなった楽器を持つ演奏家ってさ、その楽器をどうすると思う?」
「修理するのでは?」
「・・・私はねェ、コワすんだァ」
シューターの巻取りスイッチと同時にもう一つのスイッチも入れる。
ワイヤーに強力な酸が流し込まれ、それがにじみ出ると同時に巻取りの力で腐食したブレードを両断、メイドさんの左足と右腕も切断する。
酸の名はフルオロアンチモン酸。地上で確認できる最強の酸である。というかこんなものに耐えられるワイヤーを作る友人の科学力にびっくりだわ。
「安心しなよ。酸で断面が溶けてるから出血はない」
「でも、動くことが出来ませんわ。・・・それと、音のならない楽器とは私のことだったのですか?」
入り口に置いていたトランクに座って足を組み、ゴミのように這いつくばったメイドさんを見下す。メイドさんを見下すときって不思議な高揚感があるよネ。
「そうだよ。ヤっても喘ぎそうにない女の人って面白くないしね」
「つまり演奏家と言うのは?」
「そゆこと♡」
「・・・私は後、どれぐらい生きることが出来るのですか?」
左腕の時計を確認する。確かあれからだいたい三時間ぐらいだから・・・毒の濃度と症状からして30分程かな。指を動かそうとしたから肘をマグナムで打ち抜いてやった。
「だいたい30分。それまでに解毒剤をもった娘が現れないと君は死ぬ」
「そうですか・・・」
「最後までいてやるよ」
このメイドさんがどんな顔で死ぬのかがすごい気になるしね。
○○○
足音が聞こえてきた、そろそろかな。チラリと時計を確認すると残り5分、ギリギリかな。
「よう。コウモリ、ミユキちゃん、コバルトさん。待ってたよ」
「朱音さん!」
「サソリちゃーん♡待っててくれたのねん」
「朱音サン!御老体ハ!」
「あっち」
「ありがトウございマス!」
指で通路を指し示すとコバルトさんは大慌てで駆け出していった。
「ところでミユキちゃん、彼女死にかかってるけど飲ませなくていいの?」
「あ!!そうでした!!」
大急ぎでポケットから渡した試験管を取り出して飲ませようとする。
「なんですかこれは?」
「これですか?!延命剤らしいです!朱音さんが言ってました!」
「なるほど、これがゲームですか・・・」
「?」
「いえ、わかりました」
ゲームはメイドさんの『毒』よりもミユキちゃんの『薬』の勝ちみたいだ。イヤァ、ザンネンザンネン。どうやら瀕死のメイドさんをミユキちゃんが背負っていくらしい、ガンバれ~。
○○○
流石に重かったらしい。今はコウモリがメイドさんを背負っている。私はミユキちゃんより少し背が高いぐらいなのとすでに重いトランクを持ってるからアウト。触っても感じてくれないおっぱいなんぞただのラードよ。コウモリの電話から着信が鳴った。どうやらジャミングが焼け落ちたみたいだ。
「あっ黒湖さん、朱音さん!外に出られそうですよ!!」
「入り江に出たはいいが・・・」
「紫さん、船はぁ?」
「ここに停泊しているはずなのですが・・・」
「もしかして間に合わなかったんですか・・・?」
『ドドド』・・・なんか聞こえる。とりあえず行ってみ『ズガァァン!!』よう・・・。なんか船が全速力でミイラを引きつぶし、コバルトさんが全力で逃げてた。・・・そりゃ逃げるわ。・・・ミイラまだ生きてやがるな。流石ミイラ、しぶとい。
メイドさんは可愛さに免じてゲームにしたけどこいつは一度殺すと宣言したからな、私は殺した相手を消す主義なのだ。てなわけでトランクから友人の作った薬品を取り出してミイラにぶちまける、するとみるみるうちにミイラが溶けていき最終的にただの液体になった。友人曰く君の主義のためだけに作った薬品だ、君以外が触るとあっという間に溶けてしまう・・・らしい。いったい何なんだこれは、聞いても教えてくんないしなァ。
「サソリちゃ~ん、はやく~」
「ハイハイ」
○○○
ひな子ちゃんは車の他にクルーザーも運転できるらしい、スゲェ。ん?着信音?・・・はるちゃんか。何々?「晩御飯は和風、洋風、中華のどれがいいですか」・・・タイミングばっちり過ぎない?こういうところが好きなんだよなァー。「和風がいい」っと、今日は刺激の強い日だったからな。あっさりとした和風にしよう。
「あの朱音さん、朽葉さんは・・・」
「怜子さん?」
「あーくちばっち?」
「ええ、スナイパーの・・・」
「確かに誰とも合流していまセンね、桃山サンは残念でシタが・・・」
「多分大丈夫だよ、怜子さんなら」
「で、でも戻って探した方が・・・」
「あの火の海に戻って探せるのならどうぞ」
「・・・・・・」
「大丈夫大丈夫、きっとね。生きていればまた会えるよ。あたしの女の子センサーに間違いはないんだぁ♡」
私だけ途中で降りてはるちゃんから借りたバイクを回収して帰宅した。可能な限り急がなくては。エレベーターが上がるのを待つ時間すらもどかしい
「・・・おかえりなさい、朱音さん」
「・・・Beautiful」
玄関を開けると今日巴ちゃんに選んでもらったという服を着てお出迎えしてくれた。巴ちゃん、よくやってくれた!今度家に来たまえ!最高のおもてなしをしよう!
「・・・?・・・ご飯、もうすぐ出来上がりますけど、お風呂にしますか?」
「うーん。そうさせてもらおうかな」
私からコートとトランクを回収するといったん私の部屋に行ってからキッチンへ戻っていった。先に風呂を済ませてさっぱりしたら、今度ははるちゃんの夕食を頂く。最っ高。
「やっぱりはるちゃんの手料理が一番だよ!なんてったって愛情を感じるからね」
「・・・そうですか。・・・ありがとうございます」
表情はそのままだけど声色がうれしさを隠しきれてない・・・可愛い。
○○○
差出人『朽葉怜子』件名『任務』
『ターゲット悟 兵衛の『消失』により任務未完了』
はるかのあいてむのーと
・・・朱音さんは右の手首にワイヤーシューターをつけて、電車に乗り込むのに使ったのもこれだよ。・・・ダメージを与えたり、物を壊す用途に使う王水ブーツよりも強力な酸、フルオロアンチモン酸が使われていてなんでも簡単に溶かしきちゃうんだって。
・・・カートリッジ制らしく一発につき一回しか使えないみたいです。
・・・こんな酸でも溶けないワイヤーって何でできてるんだろう?