原作の事件とオリジナルの事件の同時進行。
会社からの帰り道に同僚と居酒屋によって上司の愚痴や、社内のマドンナが近々結婚すると分かってそのことに嘆いたりと散々飲み明かして千鳥足のまま歩いていた俺、戸田正則は普段は近寄らないであろう裏路地へと歩を進めていった。
酒で火照った体に夏とはいえ、涼しい夜風が体を冷やす。たぶん、裏路地だからというのもあるのだろうな。いい気分のまま歩いていくと袋小路に行きついてしまった、ンだよ、人がいい気分で歩いてるってのに・・・。「・・・」何やら不思議なにおいと水の滴るような音、女の小さな声が聞こえてきた。普段の俺なら絶対に引き返すだろうこの状況で、酔って判断力の鈍っていた俺は吸い込まれるように奥へ、奥へと入っていってしまった。この選択を俺はもう後悔することすら出来ない。
「おーい!こんな所で何やってんだよーう・・・ッ!!!!!!」
目の前で起きていることを現実だととらえたくなかった。高校生ぐらいだろうか?女性と言うよりも、まだ少女と形容した方が正しいような年齢の女が血で真っ赤に染まった黄色のレインコートを着て、俺よりも少し年下の男をロープで器用に江戸時代の死刑囚のように縛り上げられていた。月明かりが男を照らすと、どのようになっていたのかが鮮明に理解できてしまった。首を真っ二つに切断されて、それを後ろを向いた状態で乱雑に鎹で固定させられていたのだ。こんなの『猟奇物のフィクション』でしか見たことが無かった。
歌が聞こえてきた。小さいころに聞いたことのあるわらべ歌だ。こんな状況でなければ聞きほれるほどの清らかな美しい歌声だった。
「か~ご~め~ か~ご~め~ か~ごのな~かのと~り~は~ い~つ~い~つ~でぇやぁる~・・・あら?」
「?!」
気付かれた!すぐにでも逃げ出したかったが足がすくんで走ることが出来ない、せいぜいすり足が限界だった。女がこっちを向いた。赤く染まった黄色いレインコートから少しだけ覗いた顔が俺の目をくぎ付けにした、されてしまった。声に違わず清純そうで美しい顔だった。今はそれが俺の恐怖を助長させ、動悸が速くなり呼吸も荒くなる。
「よ~あ~け~の~ば~ん~に~ つぅ~るとかぁ~めがす~べった~」
また歌が聞こえ始めた。酔いが丈夫によって急速に冷めていく。額から伝ってきた大量の汗が目に入ってしまう。手は恐怖によって動かず、目は瞳に女の姿を焼きつけようと瞼を閉じようとしない。どうしようもないので顔を振ることで対処し、再び正面を見たが女の姿はない。首が後ろを向いた状態で固定された男の死体だけがそこにあった。如何やら俺は助かったらしい。
「うしろのしょうめんだぁ~ぁれぇ~ぇ」
「へ?」
俺は振り向くことすらできずに意識を失った。最後に聞いたのは、自分の気の抜けたような声とあの女が歌っていたわらべ歌だった。
○○○
私の電話にメールが入ってきた。上司のミツルギサンからじゃなく、捜査一課のカサギサンってやつから仕事のメールをもらったことが初めてだったから少し戸惑ってしまったけど問題はない。フムフム、最近起きている事件の犯人と思われる男からその娘を保護することと、その男に誘拐事件の捜査と見せかけた身辺捜査をしろと・・・。その娘は可愛いですか?!・・・よかった、下に写真がある・・・。ほう、文学少女のような清楚系ですか、最高ですね!どうやらはるちゃんの先輩にあたるらしい。
「ねぇ、はるちゃん。雨宮唄乃(アメミヤウタノ)って娘、知ってる?」
「・・・知ってますよ、有名人ですから」
「へぇぇ。どんな?」
「・・・文系のテストでは満点以外取ったことないとか、透き通るような歌声を持つとか、清楚で優しく下級生のなりたい理想の先輩の一人・・・とかです。・・・どうしていきなりそんなことを?」
「それがね、今度の仕事にその娘の保護があるんだよね。父親が怪しいとかで」
「・・・分かりました。・・・だいたいどこにいるか予想がつくので話してきます」
そう言って家から出ていくとすぐに唄乃ちゃんを連れてきてくれた、予想通りのところにいたらしい。さっすがぁ!写真で見た通りの清楚系の美人ちゃんだった。第一印象は大事、きりっとした顔でネ。
「あの、私の父が殺人犯ってうそですよね?」
「それを調べるため念のため保護させていただきました。お父さんの無実が確認されるまで自分の家だと思ってもらっても構いませんので。あと、無実が証明できるまで親族への電話やメールを控えてもらえると助かります」
「そうですか・・・。わかりました」
「本をよく読むそうですが、私の部屋の本を自由に読んでください」
「本当ですか?!ありがとうございます!」
はるちゃん曰く彼女は本が好きらしく、放課後は基本的に本屋か古本屋に通っているらしい。だからすぐに連れてくることが出来たとのこと本がいっぱいあると聞いて目をキラキラさせていた。気に入る本があると良いんだけどなァ。あと、コウモリも似た仕事を頼まれたようなので、保護した子たちとはるちゃんとひな子ちゃん、巴ちゃんとひな子ちゃんの友人とでテケリリランドに行ってもらうことになった。・・・というか相手が小学生だからってコウモリはガチでさらうのはどうかと思う。
「こんなことして頼みごと出来る立場だとは思ってないんだけど、いいかな?」
「はい。出来ることであれば」
「ケイサツとしては唄乃ちゃんには人が多いところにいてほしいの。だから今日、はるちゃんとお隣の娘達と一緒にテケリリランドに行ってほしいんだけど問題ないかな?」
「保護者役ですね。大丈夫です」
「よかった。お隣の娘、まだ小学生だから一緒にいてあげてね」
頷いてくれた。これで準備完了。お互いに保護した娘が近くにいるように配置する、こんなナリだけど事件の犯人は彼女たちだ。お互いに牽制してくれるとありがたい。サテ、私は、もう一つの仕事をこなすとしますか。
巴ちゃんはどうやら途中で合流するみたいなので、コウモリのとこの娘達と一緒にマンションから出ていくのを確認すると、いつもの装備に婦警の服装をしまって唄乃ちゃんの家にレンタルしたバイクで向かった。
○○○
この童謡に見立てた殺人は現在でこの2件を除いて7件にも上っていた。2件が雨の日に未婚の女性の絞殺死体が白無垢のような恰好をして自身の実家の前で発見された『雨降りお月』をモチーフにした殺人、4件が小学低学年の子供が排水溝の中に一列に並んだまま溺死した状態で発見された『めだかの学校』をモチーフにした殺人、残り1件が『猫』と書かれた袋に入れられた状態で男性の撲殺死体が発見された『山寺の和尚さん』をモチーフにしたとされる殺人、そして今回の首が後ろ向きに固定された『かごめかごめ』をモチーフにしたとされる殺人がこのところ発生していた。
30年ほど前にも同じような事件が発生したが、その犯人が出所してからもう17年にもなる。犯人の名は雨宮春彦(アメミヤハルヒコ)。今は小説家をしているらしく彼の書く『猟奇サスペンス』はまるで『見てきた』かのようなリアリティを持つと言われている。上層部は自らの殺人衝動を文章で書き起こすことで抑えていると判断していた。
どうやら捜査一課、殺人犯捜査係の笠木三郎太は文章だけでは耐えきれずに再び犯行に及んだと考えているようだ。雨宮には16になる高2の娘がいるようで、彼女の保護に彼が自らコウモリよりも『従順』なサソリに対して命令を下していた。だが、この『童謡歌い』(ナーサリーライムシンガー)の事件の他に、5件の失踪事件と8件の『仮面蒐集家』の事件もある。
零課は紅守と屠桜(ひ)に『仮面蒐集家』を、鎖曽利と屠桜(は)には『童謡歌い』を担当させ、両方の娘の保護と誘拐事件の捜査に見せかけた身辺捜査を開始させた。当然、あいつらの嗅覚が犯人だと嗅ぎつけた場合の殺傷許可も出してある。
だがオレ、御剣橙悟は『もっとも前の事件を身近で見ていた』2人の娘のほうにこの事件の犯人である可能性を覚えてしまっていた。
はるかのつぶやき
・・・仕事とはいえ、唄乃先輩が来てくれてうれしい。・・・仲良くできると良いな。