WORLD TRIGGER Beyond The Border 【完結】 作:抱き猫
その日、聖都の空にはどんよりと厚い雲が立ち込めていた。気温は朝から奇妙なほどに高く、昼を過ぎるころには息苦しいほどの蒸し暑さとなっている。
ノマス接近によって厳戒態勢が敷かれた聖都には行き交う人の姿も疎らで、平時の活気が嘘のように静まり返っていた。
聖都の丘の中腹に建つイリニ騎士団の砦。その中に設けられた「
「…………」
白髪金瞳の少女は、格納庫に据え付けられた長椅子に立て膝で座り、手にした鶏肉のサンドイッチを無言で口に運んでいる。
少女は此度のノマスとの邂逅に於いて、イリニ騎士団総長アルモニアから聖都守護の任を与えられていた。後方待機も同然の命令であったが、彼女は一言の意義も唱えることはなかった。
それは今回の戦が、フィリアの意向に沿うものではなかったからである。
今のフィリアにとっての唯一の望みは、母の代わりとなる神の候補を見つけだし、家族の安寧を得ることである。
その願いからすれば、今回エクリシアがノマスに対して打ち立てた戦略、すなわち徹底的な防衛策は、甚だ都合が悪いものであった。
敵が遠征に送り込んでくる人員は、確かに腕が立ちトリオン能力に優れた者ばかりだろう。しかし、神の候補になるほどのトリオン能力の持ち主ともなれば、危険な遠征に投入されることは考えにくい。
優れたトリオン能力を持つからといって、その者が必ずしも戦士として優秀な訳はない。それは彼女の友人であったオルヒデア・アゾトンの例でも明らかだ。
ずば抜けたトリオン能力の持ち主なら、本国で厳重に管理するのが当たり前である。
ノマスが送り込んだ兵たちを捕らえたとしても、母の代わりとすることは難しいだろう。
また防衛計画そのものも、ケチを付けることができない完璧な出来であった。
隔離戦場へと敵を誘導し、圧倒的な火力で殲滅するというプランは、単純だがそれ故に対抗手段が見当たらない。
敵を我が国に寄せ付けないという意味では、まず間違いのない計画だ。
そして火力戦となれば、途端にフィリアの出番はなくなってしまう。主力を担うのはニネミアとメリジャーナの砲撃トリガーで、隙を埋めるためにはテロスの幻惑トリガーが用いられるだろう。また難敵が出てきたとしても、オリュザの狙撃トリガーで遠間から一方的に排除することができる。
一騎駆けの剣士など、砲弾雨あられと降り注ぐ戦場では何の役にも立たない。
ならば、母のいる聖都の護りについた方が、まだしも有意義だといえた。
「…………」
機械的な反復運動でサンドイッチを食べ終えたフィリアは、包み紙を丁寧に畳んで脇に置く。その内、部下の従士が様子を見に来るだろう。その時に捨てさせればいい。
ノマスが接触軌道に入って早一か月。
少女は警戒態勢に入ってから、殆どすべての時間をこの格納庫で過ごしていた。
フィリアの目の前には、彼女専用に調整された「
エクリシアの勇名を知らしめた精強無比な鎧はしかし、それ相応の欠点も有している。着装にやや時間がかかる事と、燃費が非常に悪い事だ。
特に燃費の問題は深刻で、動き回るだけでも途轍もないトリオンを喰う。平時の警備に用いるのはまず無理で、下手をすれば、敵が襲い掛かってきたときにはトリオンが空になっていることもあり得るのだ。
トリオンバッテリー「
前線基地は勿論、聖都を囲む防壁で指揮を執っている騎士たちも、基本は通常のトリオン体のままで活動している。
それぞれに調整された「
スコトノ邸での一件か未だ尾を引くフィリアは、騎士であるにも関わらず城壁の警備シフトに組み込まれていなかった。
アルモニアは彼女をあくまで補助人員として扱い、戦闘には極力出さないつもりでいるのだろう。
それでも彼女が格納庫に居続けるのは、万が一の事態に備えての事だ。
ノマスは強力な国家だが、エクリシアはそれに勝る国力を持つ。味方の布陣は盤石で、おそらく防衛戦は優勢の内に終わるだろう。
とはいえ、戦争に絶対は存在しない。敵が何らかの方法で包囲を打ち破り、この聖都へ進軍してくる可能性も考えられるのだ。
分厚く高い城壁、一分の隙もなく並べられた砲門、そして騎士と従士に守られた聖都であっても、何ら油断はできない。
「――ッ!」
とその時、塑像のように座り込んでいた少女が豁然と目を見開き、弾かれたかのように立ち上がった。
そしてフィリアは何の躊躇もなく「
「騎士フィリア・イリニのトリオン反応を確認。トリオン体伝達系接続、開始」
鎧の起動シークエンスを聞き流しながら、少女は全チャンネルに通信回線を開く。
「こちら騎士フィリア・イリニ。聖都に敵が来ます!」
襲来を察知できたのは、少女が有する「直観智」のサイドエフェクトの効果である。
しかし、その警告は果たしてどの程度役に立ったか。
フィリアが鎧の着装に成功したその瞬間、聖都に激震が奔った。
堅固な砦の奥深くにある格納庫にまで響く、凄まじい空間の振動である。
「――騎士フィリア、出ます!」
少女は命令を待たずして格納庫から飛び出すと、スラスターを猛然と噴かせ、直通通路から砦の上空へと飛び上がった。
目に映るは曇天の下に広がる聖都。
果て無く広がるその景色には、墨を落としたかのような漆黒の点が穿たれている。
聖都の城壁を取り囲むように現れた何百もの
その地獄のように暗い穴から、トリオン兵が雲霞の如く湧き出した。
× × ×
「各自持ち場を離れるな! 粛々と敵を討て!」
聖都を取り囲む巨大な城壁、その歩廊にて、ネロミロス・スコトノは声を枯らして従士たちを督励していた。
「痴れ者どもが。誘導装置を破壊されるなど、一体何をしていた」
ネロミロスはせわしなく歩きながら、部下には聞こえぬほどの声でそう吐き捨てる。
隔離戦場にて侵入者騒ぎがあったことは聖都の防衛部隊にも通達があった。しかし、それから殆ど間を置かぬうちに敵が聖都へと侵攻してきたのだ。
空や大地に穿たれる異常な数の
勇猛随一として知られるネロミロスも、流石に怖気を振るう光景である。しかし、
「狼狽えるな者ども!
金髪の大男は大声で吼える。
万が一に備えて、聖都には強力な
トリオン障壁をはることで敵の
「トリオンが尽きるまで撃て! 何処へ撃っても当たる、狙いなど付けるな!」
「
「ふん、この俺にもようやく武運が巡ってきたか」
と、大男は鎧の中で獰猛な笑みを浮かべた。
勤務体制の都合から、ネロミロスは数日前より聖都防衛の指揮を執っていた。
前線である隔離戦場から離れざるを得なかったことに歯噛みした彼だが、それが却って幸いした。
当初の防衛計画は、まったく機能しなくなったと言っていい。
この難局を見事乗り切れば、ネロミロスの名望は
「い、イルガーです。イルガーが出ました」
「火力を集中して撃ち落とせ! 陸の敵は城壁を越えられん!」
曇天の空に穿たれた
飛行能力を持つトリオン兵が最優先の排除対象である。聖都を囲む頑強な城壁は少々の攻撃では小揺るぎもしないため、陸上型トリオン兵は後回しでも構わない。
堅牢な城壁を頼り、砲台の火力を敵に浴びせ続ければ、勝算は十分に立つ。よしんば城壁が破られたとしても、そのころには敵の戦力は大幅に減じていることだろう。とても市内で暴れられるほどではない。
楽観視はできないが、決して勝てぬ戦ではない。ネロミロスはそう予見した。
その展望は間違いではなかっただろう。
「じょ、城壁が、――と、溶けて、崩れますっ!」
「何だとっ!? ば、馬鹿なっ!」
敵勢が最も集結した一画。
敵の激しい攻撃を支えていた堅牢無比な城壁が、突如として崩壊した。
分厚く高い城壁が、数十メートルにもわたって忽然と姿を消したのである。
城壁は物理的に破壊された訳ではない。城壁を構成する膨大なトリオンが、まるで氷が水へと変じるように、液体となって地に流れ出したのである。
「て、敵が市街地に入りますっ! うわ、城壁に登ってきました!」
通信越しに、従士たちの狂乱した声が響き渡る。
がら空きとなった城壁の裂け目から、凄まじい勢いでトリオン兵がなだれ込んだ。
ネロミロスには誤算があった。
ノマスがこの戦につぎ込んだ戦力の総数、彼らが研ぎ澄ましてきた刃の鋭さ、滾る殺意の熱量を、完全に量り違えていたのだ。
× × ×
状況把握の為に上空にまで飛び上がったフィリアは、輝かしき聖都が地獄へと変貌したことを一瞬で悟った。
空を埋め尽くさんばかりに展開するイルガー、バドら飛行トリオン兵が、聖都を囲む城壁を乗り越えんと迫っている。
防衛部隊は飛行トリオン兵の侵入を阻むため、猛烈な射撃を加えている最中だ。
それで幾らかのトリオン兵は落ちたが、その穴を埋めるように後から後からトリオン兵が湧いて出てくる。
そのうちに、百を超すイルガーの群れが、一斉に爆撃用トリオン兵オルガを射出した。
数百を数えるオルガは城壁の上層部、防衛隊と砲台に狙い澄まして突撃すると、轟音と共に爆発する。
この爆撃で砲台の稼働率が一気に下がった。
飛行型トリオン兵は砲撃を避け、悠々と市街地へ侵入を果たす。さらに、
「なっ――」
さしものフィリアでさえ、言葉を失う出来事が起こった。
聖都を囲む堅牢な城壁の一角が、まるで飴のように溶けて消えてしまったのである。
見渡せば、規模こそ遥かに小さいものの、城壁のそこかしこで同じように城壁が崩落している。
そして虫食いのようになった城壁からは、凄まじい数のトリオン兵が侵入を始めている。
「騎士フィリア・イリニが報告! ノマスの狙いは
敵の動向を一目見たフィリアは、サイドエフェクトの導きによって即座に敵の狙いを見抜いた。
ノマスは電撃戦でエクリシアの母
少女のサイドエフェクトを知る者はイリニ騎士団でも一部の者に限られるが、それでも問題ない。この状況下では誰しもが教会の防衛に回る筈である。少女の通信はその後押しをしたに過ぎない。
だが、少女にとって
「――よし!」
とその時、鎧の内側でフィリアが快哉を上げた。
今しがた飛び出した騎士団の砦の周囲に、次々に
中から出てくるのは、イルガーやバドといった飛行トリオン兵、またモールモッドやボーズといった戦闘用トリオン兵である。
これらはエクリシア側のトリオン兵だ。隔離戦場にトリガー使いたちを送ったため、聖都を護る兵はそう多くない。数の不利を補うためにも、トリオン兵は出し惜しみなく投入すべきだ。
別けても航空戦力は有難い。敵に制空権を握られた状況では、おちおち地上部隊を撃退することもできないからだ。
トリオン兵の性能に関して言えばノマス側に多少の分があるだろうが、遠征側の弱みは投入できる戦力量にある。
いくら大量にトリオン兵を持ち込んだとしても、いずれは限界が来る。本国で防衛を行うエクリシア側を、総数で上回ることはできないはずだ。
ノマスの軍勢に押し込まれたとしても、最悪の場合、教会までの道をトリオン兵で塞いでしまえば、人的被害はともかく教会の防衛は可能だ。だが、
「――っ!」
フィリアの目が驚愕に見開かれた。
城壁を超えた敵のイルガーが、突如として速度を上げたのだ。
従来のイルガーにはあり得ない凄まじいまでの加速。飛行速度を向上させた改良型イルガーは、損傷が無いにも関わらず自爆モードに移行し、まっしぐらに騎士団の砦目がけて突っ込んでくる。
「はっ!」
「
しかし、百に届こうかというイルガーの群れには、フィリア一人ではとても対処することなどできない。
ましてや距離の問題もある。一方のイルガーを切り捨てているうちに、他の個体はどんどん砦へ近づいていく。
敵の狙いに気付いた騎士たちも、城壁から飛び立ってイルガーを追いかけてはいるが、小型の飛行トリオン兵バドの執拗な妨害を受け、なかなかイルガーを落とすことができない。そして、
「――っ!」
イルガーの群れが、騎士団の砦へと激突した。
天地を揺るがす大爆発が立て続けに起こる。
いくら堅牢な砦とはいえ、数十体のイルガーに突撃されてはどうしようもない。
目が潰れるような閃光の後、イリニ、ゼーン、フィロドクス、三大騎士団すべての砦は瓦礫の山と化していた。
砦に残っていた兵、職員には夥しい死傷者が出ただろう。トリオン体を構築できた者は助かったかもしれないが、今は救出に裂いている時間など誰にもない。
砦が崩壊したということは、そこにあった兵とトリガー、トリオン兵が根こそぎ失われたことを意味する。
当然ながら、指揮系統も滅茶苦茶である。
これでは殺到するノマスの兵団に対処できるはずがない。
「っ……」
フィリアの顔面から血の気が引く。
現状、ノマスとの戦力差をひっくり返す手段はない。教会も幾らかの兵とトリオン兵を所有しているが、焼け石に水だ。
隔離戦場から主力部隊が戻ってくればノマスを殲滅できるだろうが、その時間を稼ぐことが困難になってしまった。
上空から聖都の状況を見遣る。
群衆が半狂乱になりながら道々を駆けている。聖都には市民を匿うためのシェルターが設けられているが、避難は殆ど完了しておらず、いたる所でパニックが発生しているのだ。
敵の侵攻が余りに突然で、しかも城壁が崩れるのが早すぎた。勿論、混乱を収拾する人員などいようはずがない。
見れば、侵入したトリオン兵の群れは分散し、市街地をくまなく舐め回すように動いている。逃げ遅れた市民がトリオン兵に襲われる様子が遠目でもはっきりと見える。
しかし、これらのトリオン兵を迂闊に追いかけることはできない。エクリシア側の兵力の分散を誘う陽動策に乗ることになるからだ。
敵の本命は、城壁の切れ目から弾丸のように突き進んでくるいくつかの集団だ。
「――落ち着け。冷静になるんだ」
眼下に広がる絶望的な光景を前にして、フィリアは感情を切り替える為、鎧の中で一つ息を付いた。すると途端に、少女の胸に鋼の冷たさが戻ってくる。
恐れても嘆いても、事態は何も変わらない。
少女に出来ることは、ただ一振りの刃となって襲い来る敵を斬るだけだ。
フィリアはブレードトリガー「
× × ×
「――危ねっ! くそ、トラップ生きてんじゃねえかっ!」
ボースの背に顔をうずめ、亀のように身を縮こまらせた不格好な騎乗姿で、ユウェネスは悲鳴にも似た声を上げる。
地面から現れた自動砲台からの砲撃が、彼のすぐそばを通り過ぎたのだ。
大量のイルガー投入により、首尾よく敵の本拠地である砦を破壊するまではよかったのだが、流石は強国エクリシア。聖都のいたる所に仕掛けられたトラップは健在で、進軍するノマスのトリオン兵を見事に足止めしている。
また、エクリシアの兵の練度もやはり相当の物だ。不意打ちで浴びせかけた爆撃にも関わらず、脱落者は思いのほかに少ない。
既に混乱を脱したエクリシアの兵たちは、市街地に侵入したノマス勢を狩り立てるように攻撃を始めている。
しかもノマス側の狙いは早くも看破されたようで、エクリシアの部隊は陽動のトリオン兵には目もくれず、襲撃の主力たる部隊を抑えようと動いている。
「いちいち潰してる暇なんてありませんよ。このまま突っ切りますっ!」
ボースを並走させていたレグルスが、戦場の喧騒に負けぬ大声でそう叫んだ。
ノマスの遠征艇すべてを用いた今回の作戦。参加したトリガー使いは二十余名にもおよぶ。かれらは四つの部隊に分かれ、聖都の四方から
その中でも、総指揮官レクスの率いるこの最精鋭の部隊は、まさに疾風迅雷の速度で聖都を縦断していた。
「勘弁してくれよ! 俺シールドも張れないんだぜっ」
「ヴルフが護りますから大丈夫です! 絶対教会まで脱落させませんから」
「お前肝座りすぎだ、ホントに初陣かよ!」
レクス、モナカ、ユウェネスにカルクス。強襲部隊は皆ボースに騎乗し、逃げ惑うエクリシアの民も降り注ぐ砲弾も気に留めずに、一心不乱に教会を目指している。
速度こそが勝機だ。実際の所、国力に関して言えば、ノマスは到底エクリシアには叶わない。敵地での戦闘となれば言わずもがなである。
隔離戦場に詰めているエクリシアの主力が聖都へと戻ってくれば、ノマスの兵たちは物量によって押し潰されてしまう。
奇襲のアドバンテージを消化するまでが、ノマスに残された手持ちの時間だ。
強襲部隊には速度が求められた。
彼らに付き従うのは、三種類のヴルフとクリズリからなるトリオン兵団である。
大型トリオン兵は足が遅く、この強行軍にはとても付いていくことができない。代わりにそれらのトリオン兵は、市街地の惑乱と追っ手の阻止に当てられている。
小型とはいえヴルフとクリズリは侮りがたい戦力を持つ。別けてもクリズリの性能は別格だ。エクリシアの騎士にさえ太刀打ちできるこのトリオン兵を大量に用いれば、敵陣を突き崩すに十分な戦力となるだろう。
「馬鹿な事言ってないで集中なさい! あなたがこの作戦の要よ!」
鋭い声でユウェネスを叱咤するのは、彼のすぐ前でボースを駆るモナカだ。年上の女性から叱りつけられ、青年は砲弾が掠めた時よりも深く首をひっこめる。
ユウェネスの持つ
しかし、その強力無比な機能は、運用次第では戦局を一変させることが可能だ。
「
この
これを用いれば、スクラップとなったトリオン兵を素材にして、新たなトリオン兵やトリガーを作ることができる。
勿論、創出には使い手の器物に対する詳細なイメージが必要となり、また複雑な物を作り出すにはそれなりの時間がかかる。
しかし、例えばトリオンの結合を解くだけなら、個体のトリオンを液体に変化させるだけならば、対象に触れた瞬間に操作することが可能だ。
エクリシアが誇る堅牢な城壁を溶かしたのは、他ならぬこの「
そしてこのトリガーを用いれば、マザートリガーに到るまでに設けられた十重二十重の障壁を簡単に突破することができるだろう。
ユウェネスが戦闘能力を持たないにも関わらず強襲部隊に組み込まれたのは、彼こそがエクリシアの急所を刺し貫く切り札であるからだ。
「っとに鬱陶しいな!」
エクリシア側のトリオン兵が、襲撃部隊の前を塞ぐように立ちはだかった。バンダーから放たれた砲撃を、一同は見事な馬術で避ける。
とその時、エクリシアのトリオン兵に、ノマスのトリオン兵団が猛然と突っ込んだ。
尾部に長大なトリオン鞭を仕込んだ黒色のヴルフ・ホニンが近接戦闘を仕掛け、追尾弾を発射可能な白色のヴルフ・レイグがそれを援護する。
粘着弾の発射機能を持つヴルフ・ベシリアは、シールドを張ってトリガー使いたちの安全を確保する。
優秀な人工知能を持つノマスのトリオン兵は、作戦への影響を最小限に抑える動作を選択した。すなわち、敵のトリオン兵の脚部を狙うことで、機動力のみを削いだのだ。
しかし、比較的小さいモールモッドはともかく、バンダーやバムスターといった大型トリオン兵の脚部は容易に切断することはできない。
勿論そのことは承知の上だ。ヴルフが敵トリオン兵の陣形を乱したところに、凄まじい速度でクリズリが突撃を仕掛けた。
背中のスラスターを噴かせて飛び込んだクリズリが、規格外の腕力を用いてエクリシアのトリオン兵を殴り飛ばす。
質量差で数十倍はあろうかという大型トリオン兵が、まるで木の葉のように吹き飛び、家屋をなぎ倒していく。
大道が開けると、ノマスの強襲部隊はボースを駆って再び走り出した。
ことトリオン兵同士の戦いならば、ノマスがエクリシアに後れを取る道理はない。
レクス率いる強襲部隊は早くも道程の半ばを踏破している。エクリシアの兵の多くは、ノマスの放ったトリオン兵に足止めされ、追いついてくる気配さえない。
このまま兵が集結する前に教会を攻撃できれば、勝機は十分にあるだろう。だが、
「――直上!」
レクスが轟然と叫んだ。と同時に、ノマスの戦士たちを乗せたボースは四方八方に散開する。
上空から降り注いだトリオンの奔流が、彼らが直前までいた場所を焼き払った。
この凄まじい砲撃は、エクリシアの砲盾トリガー「
放たれた矢のような速度で行軍するノマスの部隊も、流石に空を飛ぶ者には敵わない。
レクスたちの頭上を悠々と飛び越え、「
長剣と大盾を携えた騎士、ネロミロス・スコトノが強襲部隊の前に立ちはだかった。