WORLD TRIGGER Beyond The Border 【完結】   作:抱き猫

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其の十四 総力戦 巨竜咆哮

 異変が起きたのは、防御陣地の外縁部に位置する都市「スタブルム号」だ。

 

 トリオン不足を解消する為、還元予定であった「スタブルム号」には、住民はおろか防衛隊員さえ搭乗していない。

 しかし、都市の砲台は正常に稼働し、「光彩の影(カタフニア)」の霧によってレーダーを封じられるまでは、的確な射撃で防衛部隊を援護していた。これは量産型自律トリオン兵デクーが、防衛部隊に代わって都市を運行していたからだ。

 

 そして現在、砲撃を止めた「スタブルム号」には、奇妙な変化が起きていた。

 都市を支える三対の巨大な脚部が、力なく頽れる。

 大地に腹を付けた巨大都市。堅牢無比な外殻が、ぐずぐずに溶けていく。

 

 突如機能停止した都市に、エクリシアのトリオン兵がえたりやおうと襲い掛かる。だが、都市に取りついたトリオン兵は、粘着質に変性した外殻に絡め取られ、身動きが取れなくなる。

 のみならず、それらのトリオン兵が次々に活動を停止する。

 外殻の編成に巻き込まれ、流体トリオンに還元されていくのだ。

 

 数多くのトリオン兵を取り込み、見る間に巨大都市が一塊のトリオン球となる。

 そして卵を思わせる巨大なトリオン球に、罅が入った。

 

 卵殻を突き破って現れたのは、楕円球の巨大な頭部。

 後頭部からは一対の角の如き感覚器官(センサー)が生え、亀裂のように巨大な口には単眼が収まっている。

 頭部に続いて現われたのは、純白の装甲に覆われた長大な蛇体だ。

 

 都市のトリオンを余すところなく吸収し、巨大な身体を構築しながら、ソレは天を目指して伸び続ける。

 そして「パトリア号」をも見下ろす高みに至ったトリオン兵カーラビーバが、鎌首を擡げて戦場を睥睨する。

 戦闘の騒音を圧して響くのは、奇怪な鳴き声にも聞こえるカーラビーバの駆動音だ。

 

 最強無敵のトリオン兵は無事に孵った。ノマス決死の反攻が始まる。

 

「何という大きさだ……ノマスはあんなものを開発していたというのか」

 

 超兵器の威容を目の当たりにして、そう呟いたのはアルモニアだ。

 イリニ騎士団の長たる彼は、敵の目を引き付ける為(ブラック)トリガー「懲罰の杖(ポルフィルン)」を振るってノマスのトリガー使いたちを次々に撃破していた。

 都市外殻の破壊、並びにトリオン兵の侵攻による敵防衛部隊の誘引はこの上なく順調に進んでいた。しかし作戦を後段階に進めようとした矢先に、防陣の外縁に位置する都市の一つから、規格外の巨大トリオン兵が現れたのだ。

 

「どちらにせよ、捨て置く訳にはいかんな」

 

 アルモニアはスラスターを噴かせて高空へと飛び上がる。

 カーラビーバまでの距離はさほど遠くはない。天を突くように聳え立つ様は、まるで巨大な塔のようだ。あれの戦闘力がサイズに見合ったモノならば、間違いなく今後の作戦の障害になる。

 巨大トリオン兵を排除するべく、アルモニアが移動を始める。とその時、

 

「――全隊、回避行動をとって下さいっ! 今すぐに!」

 

 通信機越しに、逼迫したフィリアの声が響く。 

 

「なに! フィリア、一体どうした!」

 

 と同時に、彼方に聳えるカーラビーバの背面が眩く発光する。

 長大な背中から放たれたのは、何百発ものトリオン弾だ。

 弾丸は輝線を引きながら天まで上昇すると、軌道を変えて放射状に散開する。

 転瞬、凄まじい速度のトリオン弾が、宙を飛ぶアルモニアへと襲い掛かる。

 

「――ッ!」

 

 アルモニアは即座に身体を翻転させると、手にした長剣形態の「懲罰の杖(ポルフィルン)」を振るい、直上から迫り来る弾丸を薙ぎ払った。

 あらゆるトリオンを吸収する「懲罰の杖(ポルフィルン)」が、カーラビーバの放った巨大なトリオン弾を一瞬で消し去る。

 死角から飛来する高速弾を切り払う一刀。まさに剣聖の名に恥じない絶技である。

 

「全隊、被害を報告せよ!」

 

 カーラビーバが放った弾丸は、おそらく都市に展開する全ての騎士を狙った攻撃だろう。あの不意打ちを、彼以外の騎士が凌げたかどうか。

 アルモニアの呼びかけに対し、即座に応答が帰ってくる。

 フィリアの注意喚起が功を奏したのか、ほぼすべての騎士が攻撃を回避乃至防御していた。ただ、教会所属の騎士の一人が弾丸を受け、「誓願の鎧(パノプリア)」を破損したとの報が入る。

 

「――そうか。付近の者は離脱を援護せよ。いや、戦闘の継続は認めない」

 

 騎士はトリオン体の無事を理由に戦場に残ると上申したが、アルモニアはそれを退けた。

 地上は敵味方のトリオン兵とノマスのトリガー使いが入り乱れ、地獄のような混戦模様となっている。

 飛行能力を失った徒の兵では、とてもではないが切り抜けられる状況ではない。仮にトリオン体まで破損してしまえば、回収は非常に困難になる。動けるうちに自分の脚で戦闘エリアから離脱してもらわねばならない。

 

 尚も渋る騎士には、フィロドクス騎士団のクレヴォが改めて撤退を命じた。遠征指揮官直々の命令には逆らえない。エクリシアは戦闘開始以来、初めて騎士を撤退させることとなった。

 

「第二射、来ますっ!」

 

 被害確認を終えた途端、またしてもフィリアが警告を発する。

 見れば、カーラビーバの背面が再び真白く発光している。

 次いで放たれるのは、先と同じ破壊の閃光だ。

 

「まだレーダーは回復していないはず。アレはどのように我々を捕捉しているんだ?」

 

 飛来する高速弾を苦も無く切り払いながら、アルモニアが訝しげに呟く。

 流石に手練れ揃いの騎士である。二射目となれば当然のように回避・防御し、手傷を負った者は誰もいない。

 

 けれども、カーラビーバの攻撃は騎士だけに向けられたわけではない。

 数百発ものトリオン弾は都市の隅々にまで降り注ぎ、的確にエクリシアのトリオン兵を射抜いていく。

 僅か二射で、都市に張り付いていたトリオン兵の多数が損壊してしまった。このままでは都市を攻撃し、ノマスの防衛部隊を誘引する策が水泡に帰してしまう。

 

「目視です。体表のあらゆる場所に視覚センサーが埋め込まれているものと思われます。レーダー阻害をものともしていません」

 

 アルモニアの呟きに応じるように、フィリアがそう通信を寄越してくる。

 又してもサイドエフェクトが報せたのだろう。つまり事実と考えていい。

 

「――っ、いけない!」

 

 その時、フィリアが小さく息を呑んだ。見れば、カーラビーバの頭部を巨大な火球が呑み込んでいる。(ブラック)トリガー「灼熱の華(ゼストス)」の砲撃が炸裂したのだ。

 

「私がアレを相手します。皆様は都市の攻略を進めてください」

 

 砲撃を行ったのはフィロドクス騎士団のエンバシアだ。最もカーラビーバに近い位置に居た彼は、この厄介極まるトリオン兵を早速排除に掛かった。だが――

 

「駄目っ、逃げてください!」

 

 フィリアが通信機越しに叫ぶ。

 果たして、火球が消え去った後には、カーラビーバの巨頭が変わりなく現れた。

 凄まじい熱波に曝され外殻はかなり焼け溶けているが、巨大トリオン兵は何の痛痒も感じなかったかのように、閉じていた口を開ける。

 空中で「灼熱の華(ゼストス)」を構えるエンバシアを、カーラビーバの巨大な単眼が凝然と睨みつけた。

 

「っ、何度でも撃ち込んでやる」

 

 怯むことなく砲撃を敢行しようとするエンバシア。しかし彼の追撃に先んじて、カーラビーバの口腔から光が迸った。

 

「な――」

 

 まるで霧吹きで水を撒くように、数百を数えるトリオンキューブが空間一帯に噴霧される。それらはエンバシアを完全に包み込み、寸毫の間をおいて一斉に爆発した。

 こちらを狙う弾丸ならば、まだ避けようもある。しかし空間一帯を焼き払う爆撃など、どう足掻いたところで躱しようがない。

 

「ぐっ……不覚を取りました」

 

 (ブラック)トリガーは桁外れの性能を有するが、防御機能を持たぬ物も多い。

灼熱の華(ゼストス)」も正にその一つであり、大爆発をまともに受けたエンバシアは、黒煙を突っ切りながら後方へと下がる。

 

「……損傷甚大。ですが、幸いにして飛行機能は無事です」

 

 カーラビーバの推測射程から逃れたエンバシアが、そう通信を送る。

 直撃は免れたため、彼の「誓願の鎧(パノプリア)」は機能停止せずに済んだらしい。しかし、鎧の防御力が著しく削がれたことには変わりない。

 

「エンバシア。下がって地上の敵を殲滅せよ。くれぐれもあのトリオン兵の攻撃には気をつけるように」

 

 そう指示するのは、直接の上司に当たるクレヴォだ。エンバシアは命令を従容と受け入れ、即座に後退を始める。

 砲撃型は致命傷を受けない限り戦闘に貢献できる。エクリシアとしては、まだ戦力を失ったわけではない。だが――

 

「さて、騎士フィリア。君の知恵を貸してもらいたい。アレを倒す方策はあるかね」

 

 と、深刻そうな声でクレヴォが問うてきた。

 カーラビーバを仕留め損ねた「灼熱の華(ゼストス)」だが、決してこのトリガーの火力が劣っていると言う訳ではない。

 広範囲への攻撃に特化しているため貫通力には欠けるが、本来「灼熱の華(ゼストス)」の砲撃は城壁さえ容易く融解させるほどの威力を持つ。

 それが通じなかったという事実が、この超巨大トリオン兵の度外れた頑強さを如実に物語っている。

 

 エクリシアの所持するトリガーの内、「灼熱の華(ゼストス)」を火力で上回るのは「劫火の鼓(ヴェンジニ)」だけだ。しかし、ニネミアは作戦の後段階に備え、トリオンを温存する必要がある。

 また、アルモニアの「懲罰の杖(ポルフィルン)」も吸収したトリオンを放出することで疑似的な砲撃を行うことができるのだが、それにはまだ吸収量が足りていない。

 

「……「潜伏の縄(ヘスペラー)」で供給機関を内部から破壊するのが最善かと。私と騎士アルモニアでジンゴ卿が取りつく隙を造ります。ノマスのトリガー使いは必ずやこの機に乗じて我々を狙うでしょう。皆様には援護をお願いします」

 

 フィリアはすぐさま明瞭な声でカーラビーバへの対処策を提示する。

 反論はない。誰が検討しても妥当な策戦と結論付けるだろう。

 

「採用する。ではすぐさまかかろうぞ。あまりゼーン閣下を待たせても悪いのでな」

 

 クレヴォが裁可するや、都市の各方面に散った騎士たちが一斉に大蛇へと向かう。

 そしてノマスの戦士の中でも機を見るに敏な者たちは、騎士を落とす絶好の機会とばかりにカーラビーバを目指す。

 

 混沌渦巻く戦場に、一つの明確な流れができた。

 誰もかれもが、未来を変えようと必死に足掻く。

 しかし、戦闘の終結はまだ遠い。戦場はさらに多くの血を求めている。

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 エンバシアの次にカーラビーバの下にたどり着いたのは、イリニ騎士団のアルモニアであった。

 カーラビーバの巨体は機動都市の合間を縫うように伸びており、全長は数キロメートルにも達するだろう。長大な背面からは絶え間なくレーザーが放たれ、エクリシアの将兵を狙い撃ちにしている。

 

 アルモニアは四方八方から襲い来る弾丸を苦も無く躱し、また切り払いながら一陣の風となって戦場を飛び進む。

 迷路のようなノマスの防御陣地を凄まじい機動で潜り抜けたアルモニアは、一転してスラスターを猛然と吹かして急上昇を始める。カーラビーバを一撃で無力化する為、コアの収まる頭部を叩く腹積もりだ。

 

 あくまで本命はジンゴの「潜伏の縄(ヘスペラー)」による攻撃だが、どちらにせよカーラビーバの注意は引きつけておかねばならない。急所を攻めるのはそのためだ。

 切り立った崖のようなカーラビーバの巨体を横目に、アルモニアは放たれた矢のように突き進む。

 流星雨のように降り注ぐトリオン弾も、剣聖の突撃を防ぐ事はできない。

 

 急接近する敵影に危機感を覚えたのか、カーラビーバは頭部を動かしてアルモニアの存在を直接確認しようとする。

 そして迫り来る騎士を確実に爆殺すべく、トリオン弾を噴霧しようと口を大きく開くが――アルモニアの速さには敵わない。

 

 長剣形態の「懲罰の杖(ポルフィルン)」を構え、騎士が吶喊する。

 迎撃が間に合わないと悟ったカーラビーバは、急ぎコアを護ろうと口を閉じるが、光り輝く長剣には如何なる防御も通用しない。

 

「――っ!」

 

 鋭い呼気と共に放たれた神速の斬撃が、カーラビーバの頭部を唐竹割りに断ち切った。

 如何に強力なトリオン兵といえど、駆動系を統括するコアを破壊されては一溜まりも無い。ノマスが繰り出した切り札は確かに強力だったが、戦局を覆される前に処理できたことは幸いだった。と、その時、

 

「即応してください伯父様、それはまだ生きていますっ!」

 

 少女の叫びが兜に響く。

 見れば、顔を半分に割られたカーラビーバが再び口を開いている。そして放たれるのは、(ブラック)トリガーのフルパワーにも匹敵するレーザーだ。

 

「――」

 

 極光が、ノマスの蒼天を真一文字に切り裂く。

 破滅の光線の破壊力は「誓願の鎧(パノプリア)」の防御力を以てしても耐えることなど不可能だ。鎧は消し飛び、内部のトリオン体も一瞬で破壊されるだろう。

 そして高度数百メートルから生身で投げ出されれば、待ち受けているのは確実な死だ。

 衝撃の光景を目の当たりにした騎士たちが、揃って息を呑む。

 ――しかし次の瞬間、数条の輝線が空間を断ち割ってカーラビーバへと奔った。

 

「――伯父様!」

「私は大丈夫だ。フィリア」

 

 安堵に染まる少女の声を耳にしながら、アルモニアは油断なく巨大トリオン兵を見遣る。

 歴戦の騎士は少女の警告を受けるまでも無くカーラビーバの特異さを感じ取っていた。「懲罰の杖(ポルフィルン)」を薄膜状に形態変化させることで反撃の砲撃を凌いでいたのだ。

 

「――諸君。新型は再生機能を有している。コアへの攻撃は効果が薄い。トリオンの供給元か供給機関の破壊を願いたい。私はここで新型の攻撃を引き付ける」

 

 果物のように切り裂かれたカーラビーバの頭部が、燐光を発しながら見る間に癒着していく。見れば、「灼熱の華(ゼストス)」によって焼け溶けた外殻も、いつの間にか元通りになっている。

 

「新型に拘泥することはできない。諸君らが頼みだ」

 

 カーラビーバがトリオン弾を噴霧し、凄まじい爆発を引き起こす。

 しかしアルモニアは「懲罰の杖(ポルフィルン)」の防御膜で全身を包み込んでこれを防ぐ。

 巨大トリオン兵の熾烈な攻撃は止まることを知らない。

 

 いくら再生能力を持つとはいえ、供給されるトリオンは無尽蔵ではないはずだ。防御を無効化する「懲罰の杖(ポルフィルン)」を難敵と認め、アルモニアを優先排除目標に定めたのだろう。

 そして、目の前の騎士に攻撃を集中させているためか、カーラビーバの背中から放たれる広域誘導弾の頻度が明らかに低くなっている。

 この機を逃さず、敵の急所を探し出さねばならない。カーラビーバの下へと集結しつつあった騎士たちが一斉に散開する。だが、

 

「っ――」

 

 突如として、戦闘エリアのいたる所に翠緑のドームが現れる。ノマスの結界トリガー「牧柵(サエペス)」だ。

 

「追いつかれたか……」

 

 兜の中で、アルモニアが苦々しく呟く。

 次いで通信機から流れてくるのは、切迫した騎士たちの報告だ。

 カーラビーバを仕留めるべく散った騎士たちが、ノマスのトリガー使いたちに捕捉されたのだ。

 

 そして焦燥の念を抱く間もなく、狂猛な殺意が襲い来る。

 カーラビーバは首を後方へ反らすと、巨大な頭部を横薙ぎに振り抜いた。

 無論、狙いは宙を舞うアルモニアだ。

 

「く……」

 

 再三にわたる射撃が通じなかったことから、カーラビーバは物理的な攻撃手段に訴えることにしたらしい。

 膨大な質量を有する頭部が、信じがたいほどの速度と正確さでアルモニアを襲う。トリオン兵の巨大さも相まって、鎧の機動力を以てしても避けきれない一撃だ。

 

 しかし、超絶の性能を有する「懲罰の杖(ポルフィルン)」にとっては、怯むほどの攻撃ではない。

 カーラビーバの頭部がぶち当たる直前、アルモニアは長剣を再び薄膜状に変形させた。

 するとまるで熱湯を注がれた雪像のように、通過したトリオン兵の頭部がごっそりと削り取られる。

 

 接触さえすれば、「懲罰の杖(ポルフィルン)」はどれ程のトリオンだろうと一瞬で吸収することができる。体当たりは自殺行為に他ならない。

 しかし、カーラビーバの抉り取られた頭部は、すぐさま燐光を放つトリオンによって修復されていく。

 

 やはり、再生機能は頭部のコアを破壊しても止まらない。供給元を絶つか、全身にトリオンを送り込む供給機関を破壊するしかないだろう。だが――

 

「こちらジンゴ・フィロドクス。ノマスの戦士と交戦中! 「牧柵(サエペス)」を張られた!」

 

 おそらくカーラビーバにとって天敵となるだろう「潜伏の縄(ヘスペラー)」が足止めを喰らっている。

 しかもノマスに捕らえられたのは彼だけではない。イリニ騎士団のドクサは「巨人の腱(メギストス)」のレクスに、フィリアは「凱歌の旗(インシグネ)」のカルクスと共に「牧柵(サエペス)」に閉じ込められている。

 およそ戦闘向きの(ブラック)トリガーが全て封じ込められてしまったのだ。そして、

 

「新型は陣地中に供給索を張り巡らせ、都市からトリオン補給を受けている模様! ――くそ、供給索そのものも新たに作ってやがる。切断が追い付かないぞ!」

 

 と、「光彩の影(カタフニア)」で戦況をモニターしているカスタノから通信が入る。

 カーラビーバはその長大な腹部から供給索を何百本と伸ばし、都市からトリオンを吸い上げているというのだ。

 

 トリオン兵やフリーの騎士たちが躍起になって攻撃を仕掛けているが、供給索は蜘蛛の巣状に分岐しており、切断は困難を極める。また破壊されても直ぐに新たな供給索が都市に向けて伸ばされるため、一向に数が減らない。

 

「なんという馬鹿げた兵器だ……」

 

 幾度目とも分からぬ砲撃を切り払い、返す刀で敵の頭部を寸断しながら、アルモニアがそう呟く。

 確かにカーラビーバの戦力は凄まじく、(ブラック)トリガーをも上回るだろう。だが、貴重な資源であるトリオンを無尽蔵に吸い上げ、浪費にも近い形でばら撒き続けるその姿は、明らかに尋常の兵器ではない。

 我が身を裂いてでも怨敵を葬らんという、ノマスの怨念が形となったかのような巨獣を前にして、然しものアルモニアにも戦慄が走る。とその時、

 

「私が新型の供給機関を破壊します。総長閣下は止めをお願いします」

 

 凛呼とした少女の声が、耳朶を打つ。

 

「な――フィリア。君は……」

 

 言いさしたところで、アルモニアはレーダーの変化に気付いた。

 ノマスの「牧柵(サエペス)」を表す光円の一つが、忽然と消え失せている。少女はどのような手を使ったのか、敵の足止めを早々に破ったらしい。

 

「分かった。頼むぞ」

 

 死中に活を見出したアルモニアは、光の剣を振りかざして巨竜へと挑みかかった。

 

 

 

 

 

 

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