王様はお城の廊下を駆けまわっていました。
怪我をするからあまり騒ぐなと言われましたが落ち着いてなんかいられません。
見つけた軍隊長に飛びかかるようにして叫びます。
「軍隊長! 魔女の討伐命令はもう出したのか!?」
「は、今朝の時点で」
「そうかならいい!」
「よいので?」
「いやよくない! それならばなぜまだ孫娘が戻ってきておらんのだ!」
言われた軍隊長は困った顔になりました。
「それが……少々問題が起きておりまして」
「問題? 申してみよ!」
「こちらをお取りくださいませ」
差し出したのは鞘に収まった剣でした。
王様の兵隊たちが使っているものです。
「どうぞ抜いてみてください」
軍隊長に言われて王様は剣を抜こうとします。
けれども全然びくともしません。
「な、なんだこれは!」
「は。このようなことが軍全体で起こっているのです」
軍隊長は自分の剣にも手をやりました。
ですがやっぱり抜けないようでした。
「我が軍の剣は一本たりとも抜くことができません。それどころか今調べさせておりますが、この国すべてで探しても、抜き放つことのできる剣がないかもしれません」
「何ぃ!?」
衝撃の事実です。
王様は唾を飲みこみます。
「つまり……」
「そう、我々に使える武器はないんです」
「そ、そんな」
「しかしとりあえず分かったことが一つ。これは明らかに魔法を扱う者の仕業ということ」
「そんなことは分かっておるわ馬鹿者が!」
「いえ、ですが、魔女と呼ばれる者のうち真に魔法に通ずるのはほんのわずか」
王様には軍隊長が何を言いたいのかわかりません。
首をかしげていると、軍隊長はゆっくりとその名を言いました。
「この辺りで本物の魔法を使えるものはただ一人、沼地の魔女にちがいありません」
沼地の魔女。
魔法を悪用して人をさらう恐ろしい魔女。
それは王様にとって最も憎むべき相手でした。
「沼地の魔女……あやつめ、このワシからまたも大事なものを奪い去ろうというのか」
王様は怒りに肩を震わせます。
「おとなしくしておるからと見逃してきてやったがもう限界じゃ! さっさと行って滅ぼしてこい!」
勇ましく叫ぶ王様でしたが軍隊長は冷静でした。
「ですから武器がないのです」
「知ったことか! 素手であの首をもいでやれ! 八つ裂きにせよ!」
「しかし……」
「うるさいうるさい、さっさとせぬと首をはねるぞノロマ!」
軍隊長はため息をつきました。
「御意……手配いたします」
王様はイライラと広間を歩き回ります。
孫娘のことが心配で心配でなりません。
お腹を空かせてはいないかな。
怖がって震えてはいないかな。
そんなことを考えていると、王様のお腹の方が鳴りました。
「料理長! 料理長!」
小太りの料理長が呼び声に答えて現れます。
「はい王様、なんでしょう?」
「ワシは腹が減ったぞ何か作れ!」
「はい王様! ……と言いたいところなんですが。少々問題が起きておりまして……」
「なんだお前もか」
王様はイライラと腕を組みます。
頭はストレスでいっぱいです。
「じ、実はですね、鍋がどいつもこいつも大食らいになっちゃって。材料を入れてもなくなっちゃうんですよー!」
王様は仰天しました。
もしかしてこれも魔女の仕業?
「ええいなんと小狡い奴なんじゃ!」
これはのんびりもしていられなくなったようです。
王様は料理長を大鍋に突き落とすと階段を駆け下ります。
向かう先はお城の前の広場。
急いで大空の下に駆け出ました。
「軍隊長! 軍隊長! ……軍隊長?」
「はいなんでしょう王様」
「お前なにゆえそんなところに転がっておる?」
軍隊長だけではありません。
そこにいた軍の兵士の誰もかれもが地面に倒れてじたばたしてます。
軍隊長はもの悲しげに言いました。
「鎧が急に重たくなりました」
「なに、重たく?」
「動けません」
「脱げばよいではないか」
「脱げません。魔法です。他の兵士もみな同じ状態で」
「何ぃ! では……」
「わが軍は今、完全無欠に無力です」
王様はたえられずに絶叫しました。
「ええい魔女め! 何たることだ!」
王様は今度は階段を駆け上がりました。
孫娘の部屋に飛び込んで、声を大きく張り上げます。
「侍女共よ! 侍女共はおらんか! この際お前らでも仕方ない、孫娘を取り戻しに行ってこい!」
すると奥のドアが開きまして、よぼよぼの召使いが顔をのぞかせました。
「あの方々なら昨日実家に帰られましたよ」
「なに!?」
「何もこんな大変な時に帰らなくたっていいのにねえ」
ぱたん。
召使いはドアの向こうに消えました。
王様はしばらく呆然と立ち尽くします。
「ええいあのクソアマ共! ぶっ殺してやる!」
頭に湯気立て叫んだ王様は、それからしばらく考え込みました。
これからどうするべきなのか。
どうすれば孫娘を助けられるのか。
でも本当は答えは分かり切っていて、あとは覚悟を決めるだけでした。
「ふん、役に立たないバカどもめ。こうなったらワシが一人で何とかしてやるわい」
王様は城壁にあいた穴の前に立ちました。
目立たないところにある抜け道で、王様以外は知りません。
「ちゃんと昔のままじゃのう。これなら問題なく外に出られそうじゃ」
王様の手には抜けない剣と底なし鍋。
本当はもっとまともな武器が欲しかったのですが急いでいたのでこれだけです。
後ろの方では誰かの慌てた声が聞こえました。
「王様!? 王様がいらっしゃらないぞ! どこにもいない!」
わめけわめけ愚民ども、と王様はにやりと笑います。
お前たちが惑っているうちに全て終わらせてやるから見ておれよ。
「ではいざ行かん魔女退治! 覚悟せよ邪悪な化け物女め!」
雄叫びと共に王様は城壁の穴から飛び出します。
向かう先は森の沼地の魔女のところ。
王様は一目散に町を抜け、森の中へと飛び込みました。