The Armed Detective & Three Strikes   作:zwart

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Bookmark2020 Ignorance Days

「んで、一体これはどういうことなんだ」

風呂から上がってきた俺が部屋着に着替えているとキンジが目をそらしながら脱衣所の扉を指して言う。

「どうとは?」

「レキのことだ。まああれだけ雨に濡れてたから見かねて部屋に上げたっていうのは、百歩譲って問題ないとしてだ。なんであんなにお前を監視しようとする?」

「監視?」

「気付いてなかったのか?お前最近アイツにスコープで覗かれてたみたいだぞ」

あのドラグノフで、と。レキは風呂場にもあのライフルを持ち込んでいた。

「それはシらなかった」

「鈍感なやつだな。いや、そうじゃないか。レキがうわさ通りの能力を持っているならアオが全く気が付かなくてもおかしくはない」

「うわさ?一年トップのスナイパーというあれか?」

「もう少し踏み込んだ情報だ。彼女は2000m以内の標的ならどんな位置どんな状況だろうと絶対に外すことはない、らしい」

なるほど。それが本当なら確かに尋常ではない腕前だ。流石にドラグノフを使用した記録ではないだろうが、たとえ12.7mmの対物ライフルでも2キロ先の標的を狙撃するならば射撃から着弾まで2秒から2.5秒くらいはかかる。普通は移動標的どころか棒立ちの人間の頭に中てることすら至難だ。レキにはそれができると、少なくともキンジが真面目に懸念するほどまことしやかに噂されるだけの実力があるということか。

「キンジはSniping Detentionを心配してる?」

「日本語で頼む」

「ソゲキコウキン」

「そうそう、狙撃拘禁な。その通りだ。理由は何にせよお前から聞いた話と状況から考えて一番可能性が高いのはそれだ」

狙撃拘禁とはスナイパーが標的を常に監視し狙い続けることで、対象の恐怖を煽り移動の阻害をしたり意のままに行動させることを言うらしい。この間強襲科の座学で習った。だが、この状況を狙撃拘禁と断定するにはひとつ問題がある。

ガチャリと脱衣所のドアが開いてレキが姿を表した。服はとりあえず俺のやつを貸したが・・・。

「でかイかな」

「当たり前だろ。身長差考えろよ」

まあ、ざっくり見てもレキの身長は145cmくらいだ。俺の身長は166cmだから、つまり20cm以上は違うことになる。あと彼女は同世代に比べてもかなり体の線が細いから男子の俺の服では無理がありすぎる。一応、袖などの裾はかなり捲って着てはいるが・・・。その効果のほどは微妙だ。

「小学生が父親の服借りてるみたいだ」

「あー、それっぽい」

一応、肩にドラグノフを引っ掛けてはいるがどうにも迫力がない。それにいくら彼女がSランクの狙撃能力を持っていても俺の隣にいるキンジは強襲科Sランクのエースだ。俺だってBランクの中ではかなり上の方だし、仮に狙撃拘禁ならばこの距離に近づいてしまっている時点で破綻している。レキが何をしようとしても普通に制圧されて終わりだろう。

「さっきの話はやっぱないんじゃないカ?」

「・・・だな。俺の考えすぎだった、忘れてくれ」

「ところでテレビのボリューム大きくない?」

なんかかなりつまらなそうなバラエティーの音が聞こえてくる。リビングの扉が閉まってるのに聞こえるのはちょっと近所迷惑すぎないだろうか。

「うるさい黙れこの天然野郎」

なんか罵倒された。

 

レキはなんと自分の部屋に帰らず俺たちの部屋に泊まってしまった。女性が苦手らしいキンジはかなり迷惑そうにしていたが結果的には俺の寝室に雑魚寝することでとりあえず解決した。床に寝せるのは気が引けたのだがさっさとドラグノフを抱えたまま座り込んで寝てしまったのでどうしようもなかった。

 

 

「んでよ。こいつにはクイックシフターってのがついててだな――」

「ナルホド・・・」

学科が違うとしても会うことはよくある。最近は昼食を武藤や不知火、キンジと共にすることが多い。武藤も不知火もいい奴で俺にはもったいない友人たちだ。

「ところで天羽くん。あれには気が付いているのかい?」

「ああ。放っといてル」

不知火が言うのはレキのことだ。彼女は大分遠い場所でカロリーメイトを齧りながらこちらを見ている。相変わらず銃は担いだままで。

「妙なやつに目を付けられちまったなあ。ありゃお前に気でもあんのか?」

「だとしたらコウエイだけどね」

「・・・オイ、いくらなんでもツルペタが過ぎないか?」

女として見れば確かに体が子供すぎるが、単純に好かれたことに関しては良いことだと思うべきだ。好意をいだかれているとは全く思っていないけれど。

「あれ、ずっとなのかい?」

「ここ1週間はずっとだ」

食い気味に答えたのはキンジだ。なし崩し的にずっと自分の生活圏の女性がいるのだから女嫌いの彼の機嫌が悪くなるのは仕方ない。授業中など武偵高にいる間は今のように距離をとって監視していたりドラグノフのスコープで覗いていたりしてるが、部屋では入り込んで俺とキンジを観察している。もっとも食事などはほぼ常にエネルギーバーなので生活費的な負担は殆どないのが救いだ。だが流石にキンジのストレスが無視できないところまで来ている。

「武藤、車輌科の倉庫に空きとかない?」

「あん?そりゃ使ってないのはいくらでもあるけどよ・・・どうする気だ?」

「キンジが限界近いから、オレが外に出れば解決だろ?」

「うんちょっと待った。レキさんって今二人の寮室で生活してるの?」

「ああ、なし崩し的にな」

「一応言っとくけど、それ寮の規定違反だからね?」

「「知ってる」」

「流石の朴念仁と天然でも今のはナメすぎか」

「おい武藤、天然はともかく朴念仁はないだろう」

「武藤、オレは天然じゃないぞ」

「「ハッハッハ。寝言は寝て言え」」

ちくしょうハモりやがって、芸人かお前らは。

「まあそれはさておき、アオ。倉庫が借りたいっていうなら俺が話をつけといてやってもいい。多分賃貸扱いになるだろうから幾らか金はかかるぞ。大丈夫か?」

「普通のアパートくらいなら」

これでもけっこう積極的に依頼を受けているので金はかなりある。今のところ手に入れた現金の使い道も弾代と食費くらいだったから一ヶ月かそこらでもそれなりに貯まっているハズだ。それにレキの気が済めば部屋に戻れるので、そう長く借りることはないだろう。

「オーケー。じゃあ上手くいったらスマホに諸費用とか色々送るわ」

「Thanks」

「一回奢りな」

「明日の食券をもつよ」

武藤も車輌科ではかなり有望視されている人物だ。きっとすぐに良い連絡が来るだろう。

「・・・スマン、アオ。気を使わせた」

「日頃世話になってるかラな。これ以上迷惑はかけたくなイ」

さて、喋りながらでも食事は進む。俺の親子丼定食も実はとっくに空になっていた。

「次の授業時間なんだっけ」

「一般教科ノ――

ザブン。

熱い。そしてなんて馬鹿な連中だろう。

「煮沸消毒だ!」

「おい、君たち!」

不知火が怒りの視線を向けるのは蒼たちが座る席の前までやってきて熱いお茶を盛大にぶちまけた男子生徒だ。キンジや武藤も険しい表情で腰を浮かせている。そのにやけ顔には見覚えがあった。あの雨の日の頭の痛くなる会話を繰り広げていた一人だ。後ろには二人の取り巻きも一緒にいる。

「よう不知火。お情けの友達ごっこは楽しいか?」

「アオカビ野郎、その後ロボとはどうなんだ?ちゃんと汚いのをお掃除して(・・・・・)もらってるのか?」

(へえなるほど。そうくるのか)

「てめえ!」

我慢ならんとばかりに武藤がキレる。だめだ手をだすな、お前が怒ることじゃない。

―――やるなら俺だろう。

 

 

「うーぷす」

これ以上ないほど棒読みなセリフと共に蒼の手から湯飲みが飛んだ。というか、ブン投げた。

一直線に跳んでいったそれは一番手前にいた悪童の肩にあたって跳ね返る。

「いやア、申し訳ない。まだ取ってのないグラスは慣れなくて」

立ち上がってその男の肩を叩いて謝る蒼だが、その手はギリギリと相手を締め上げている。ボキンと悪童の肩から嫌な音がした。骨の組み合わせが外された音だ。

「グ、ぎ・・・!?」

「こんのクソガイジン野郎!?」

後ろの取り巻きが拳を振り上げるが、いつの間にか背後にいた不知火が腕を掴んで音もなくキメた。腕を取られた取り巻きの足が浮いて、海老反りになって暴れる。さらには

「お前たち、彼のお友達だろ?どうやら湯飲みにあたった肩が外れちゃったみたいだから、保健室にでも連れて行ってやったらどうだ?それとネクタイ緩んでたぞ。気を付けるんだな」

最後の一人にはキンジがあたっていた。座ったままその男子生徒のネクタイ裏側の帯(小剣)を上半身ごと引っこ抜くように引き寄せて、もう片方の手で首元を押さえている。結果その男子は自分のネクタイで首を絞められる状態になった。

やいのやいの。

わーわーぎゃーぎゃー、

おぼえてやがれー。

「ふう、食器片づけようか」

「せめて覚えてやらんくらいは言ってやれよ」

何事もなかったかのように食器のトレーと運ぼうとする不知火に、武藤が苦笑いで答える。武藤は蒼の隣に座っていて自分にあてないために蒼が湯を避けなかったのをわかっていたため余計にチンピラ三人の言動に憤っていたが、強襲科の三人の対応が早すぎて何もできなかったのだ。

「しかし流石は武偵高だな。今時あんなに頭の悪い罵倒は中学生でも恥ずかしいだろ」

「・・・手を出さなくてもヨかったんだが」

「それは、なあ」

武藤がキンジと不知火の方を見れば、案の定微妙な笑みを浮かべていた。蒼がひどい悪口を言われていたのは知っていたが現場に出くわすのは実は初めてだった。恐らくレキというもう一つの攻撃対象と同時に現れたのがよほど嬉しくて(・・・・)場所を選ぶことを忘れてしまったのが今日の結果だったのだろうが。

(ちゃんと蒼も怒れるんだな)

やり方はまあ、いかにも武偵高らしかったが。

今まで彼が反撃したとか、相手を返り討ちにしたという話を聞いたことがなかったので少し心配していた部分があったのだ。やられるままに自分の中に負の感情を貯め込んではいないかと。彼の口から愚痴でも出ればまだ良かったのだがいっこうに話題に上らないので三人ともどうやって聞き出そうか悩んでいたところがあった。だが、しっかり反攻できるならもう心配はない。なんて、親父か俺はと武藤はこっそり頭をかいた。

仕方ない側面もある。武藤にとって――おそらく不知火も同じ感覚を得ているだろうが――蒼は手のかかる弟のような距離感の存在だ。

それは単に言語に苦労しているからではなく、精神性のあり方として。蒼の人との付き合い方は酷く歪で幼い。

自分にとって関係のないもの、あるいは悪意を持って対するものは徹底して無視。最初から眼中にないか、意識に上ろうとするとすぐに廃絶を試みる。そしてそれが故に相手との関係は発展も修復もされることがなく放置されていく。

逆に、キンジや武藤、不知火を始めとした自分に良くしてくれた、あるいは気に入った相手にはとことん執着し仲間意識を持つ。そのことが悪いとは言わないが、彼の感情は殆ど1か0でしかない。マイナスに振れることも、0.5の距離感を探り当てて維持することもない。元来口が少ないのでいきなり1の感情を向けても煩がられることはあまりないのが蒼にとっての救いではあるが、人とのコミュニケーションは蒼にとって限りなくシンプルに済ませてしまえるもののようだった。

そのくせ、仲間うちでの揉め事や他人の問題、困りごとに関する嗅覚は敏感の一言に尽きる。そして自分の中で1に分類した相手には無限に親切になれる彼は気が付けば色々な事柄に首を突っ込み頼られるのだ。

いつか本人のキャパシティーを大きく超えた事件の渦中で己の無力に絶望する姿がありありと目に浮かんだ。

だから、今回の結果は武藤らからすれば大きな前進だった。自分に向いた矛先を無視するではなく積極的に排除し、しかも相手への配慮を覚えたのだから。

(でもまあ、自分のために怒ったって感じじゃないよなあ多分)

蒼が反応したのは自分をこき下ろすのにレキをダシにされた時だ。いきなり銃に手が伸びていたのには驚いたが結果的に武器を使わなかったのは助かった。車輌科の武藤ではいざという時に蒼を止められる自身がない。そうでなくても蒼は筋力を始め諸々の戦闘能力が異様に高いから絶対に羽交い絞めとか無理だし。

レキと蒼も以外と仲は険悪ではないのかもしれない。少なくとも蒼の方に悪感情はないようだ。ただ、お姫様は相変わらずの無表情で何を考えているのかわからないが。蒼の0.5の相手は実は蒼以上に難物なのかもしれない。まったくこの高校には欠陥人間が多すぎる。そういう環境なのだから仕方のない部分はあるが。自分とてガサツが過ぎてこんな場所に辿り着いた身の上だから、先の三バカを含め彼等を軽蔑することはできなかった。

(でもロボットはねえよやっぱり。あんなにかわいいんだぜ?)

あの妙な渾名を付けたやつはセンスがないなと思いながら、武藤も不知火らの後を追って食器を回収用の棚に戻しに向かった。

 

 

 

レキにとって天羽蒼という少年は邪魔でしかなかった。

ウルスの一族がレキを武偵高に送り込んだ目的は彼女に武偵としての資格を付与するためもあるが、もう一つ重要な任務があった。それはレキのつがいの探索。より強い戦闘能力を持つ男子を見繕い、一族の血と掛け合わせることでより強力な子孫を残すことが一族と一族を導く存在、璃々神の思惑だった。

そしてレキにとって璃々神とウルスの一族が全てであり、信頼を置いている存在であるため、彼女にとってつがいを見つける旅に何の忌避も疑念もありはしなかった。

だが、彼が現れた。天羽蒼。

入学してしばらくすると彼女のもとにウルスの一族を通して依頼があった。曰く天羽蒼を監視し動向を逐一報告せよ、と。その目的は不明、依頼者と報告相手の素性も一切不明。ただ知らされているのは天羽蒼という名が偽名でありこの日本に違法に入国していることと、彼が何等かの凶悪犯罪の実行犯であること。そして依頼の報酬が莫大かつ継続的であり、ウルスの一族にとって貴重な収入になりえるということ。

お金のことは正直、ウルスの一部の人間が把握していればいいとレキは思っていたのでどの程度の利益となるのかは想像するしかなかったが、彼女にも一つ分かることがあった。

天羽蒼を四六時中監視する任務についていると本来の使命に費やす時間が限りなく削られるということだ。レキが男漁りをしたいということではなく(そもそもそんな発想はない)お金と後継者、レキの目線から見た景色ではより重要に思えるのは圧倒的に後者であった。お金など後から幾らでも自分が稼ぐ。だが自分がこの島国にいられるのは3年という僅かな時間しかない。レキも自分のコミュニケーション能力に自信があるわけでは決してなかったので、どうでもいい依頼に時間を取られるのは苛立ちをつのらせる種としか思えなかった。

だから取った行動が、あの雨の日のあれだ。つまり監視対象を最初から自分の生活圏に置いてしまえば余計な時間かけることなく本来の使命を同時にこなすことができるのではないかと、そういう考えだった。

だが、他者と生活を共にすることなどレキは知らない。ウルスの中では周りから勝手に構ってきたので自分からどうこうしようという考えはなかったし術も知らなかった。故にレキは当初の予定に立ち返った。つまり、自分のつがいを傍にとどめておくために用意された作戦のうち狙撃拘禁という手段を適用したのだ。

少なくとも今は彼女の目線でそれは成功している。

少なくとも今は自分の行動が何を意味しているのか、彼女は分かっていない。

少なくとも今は、レキは教わった最も優位と思われるつがい候補の遠山キンジに間接的ながらも接触できたことに安堵を感じていた。

まだ心の幼いこの少女に恋愛観はなく、人と信頼関係を結ぶ術も持ちえず、ただ生まれ持った家族のために全力を注ぐだけの無知で盲目な幼年期から抜け出す兆しはとても遠いところにあった。

レキという少女の境遇は、ただ客観的に見れば悲劇そのものであり、今はそれを覆す存在は現れない。

 

 

 

転換点というものがある。

人やものごとの行く末を左右する事件のことだ。それが吉兆であれ凶兆であれ、人間が生きている以上は必ずどこかでぶち当たり大きな選択を迫られる。

彼と彼女の関係においても、それはあった。

オーシア連邦、エルジア暫定王国、ノースポイント及び日本国、その両者の傘下にある企業や人々。全てを巻き込んだ歯車はとうの昔から廻っていた。

『一年生強襲科天羽蒼、同狙撃科レキの両名は至急教務課の綴のところまで来るように。繰り返す、一年強襲科の――』

その最初の事件が今、幕を開ける。

 




どんどん武藤がいいやつになっていく…
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