The Armed Detective & Three Strikes 作:zwart
いつまでもカタログばかり見ていてもキリがない。時間は無限ではないし、あまり長いことアシがないままだと仕事にも関わる。それに何を買おうと結局は武藤か平賀さんに頼んで改造してもらうのだから。
「とりあえず必要なのは馬力と・・・」
車輌科の貸倉庫の中に作った休憩スペース――簡単なテーブルセットと、給水機とポッドがある――の端っこの丸椅子に狙撃科のエースが座っていた。もちろんドラグノフを抱えて。その視線は倉庫の入り口を見張っている。例の一年を警戒しているのだ。一応俺と彼女の間で取り決めた課題なので手を出さないように言ってはあるのだがその辺は都合よく解釈されてしまった気がしないでもない。
「サイドカーかな」
この間のバスジャックの件で彼女にはかなり苦労をかけたと思う。サイドカーがあればバイクの挙動は幾らか安定するはずだし、窮屈な姿勢を強いることもないだろう。
ただまあ、そもそも武偵用のバイクに側車はあまり推奨されてないはずだ。機動性が落ちるとか耐久性に問題があるとか、そんな話を以前に車輌科の誰かに聞いた気がする。
「レキ、ちょっと」
自分だけではいまいち結論を出せなかったのでとりあえず一番乗ることの多そうな人に聞いてみることにした。キンジ?ないことはないだろうけど、アイツだって武偵免許持ってるんだから自分で買って乗ってればいいと思う。
呼びかけに応じてこちらまで来てくれた彼女に、カタログに載ってるサイドカーを見せてみる。
「バスジャックの時みたいなことがあったときに、コレあった方が便利かと思うんだが」
「―――?」
無言のまま。だが僅かに首が傾げられた。彼女の表情の読みづらさから「ロボットレキ」なんで蔑称が横行しているが俺から言わせれば十分に分かりやすい範疇だ。むしろ素直で表裏がない分付き合いが楽だ。
「以前は俺の前で体の向きを変えながら撃っただろ?サイドカーつければ俺の体も邪魔にならないし、車両自体の動きも安定して――」
「これだと」
お?
「全体での機動性が落ちると思います」
「なるほど」
「被弾面積も上がります」
「もっともだ」
「右に撃つ時にタイムラグが出ます」
「たし――いや、それはむしろ体の向きを変える方ががつらくないか?」
「大丈夫です」
そんなことはないと思うが。それに俺としてはサイドカーの方に防弾板をガン積みしてそこにレキを乗せた方が安心感がある・・・と思う。
「・・・よし」
分からないことは専門家に聞くに限るな。
「つーわけで武藤、カクカクシカジカなわけだが」
『てめえ出頭したいか馬鹿野郎』
「は?」
開口一番に罵倒かよどーなってんだ。ちなみにスピーカーにしてるのでレキも聞いてる。
『は?じゃねえ。いいかよく聞け。そもそも運転者の前に人乗せんのは日本じゃ違法だってーの』
「・・・マジか」
思いっきり違法だったよ。そういえばユージアの免許から書き換えた時もらった冊子にそんなこと書いてあったぞ馬鹿か俺今そう言われたなぁ!?
『道交法の55条だな。切符切られたいかコノヤロウ免許取るときに教わらなかったか?』
「忘れてた。というかよく覚えてたな」
『というか思い出したぞバスジャックの時だな!あれはお前非常時だからやったのかと思ってたが、あんな羨ましいことが平時でも出来るとか思ってたんじゃねーだろうな!?』
「いや、そんなことはないぞ?だからサイドカーを」
『言っとくがサイドカー付けると運転特性がまるっと変わるからな。そのまま前みたいな戦闘が出来るとか思うなよ?』
「オーケー戦闘機で例えてくれ」
『え?あー、F-18とC-1くらいか?』
「C-1は輸送機だが」
『そんくらい違うってことだよ。それにお前、どうせサイドカーに防弾板を乗せようとか思ってるんだろうがそれも止めといた方がいい』
「なぜ」
『サイドカーは無動力だから加速すると取り付け側にブレーキが掛かるんだが、これを更に重くしちまうとこの力が更に増すわけだな』
「もっと操作性が悪くなると?」
『逆側にバラストを付けるって手もあるが、無駄な重量が増えるだけだからいっそ4輪の方がマシになるな』
「なーるほど。」
「解決方法が思い浮かびました」
「ん?」
『は?レキさんそこにいんの?』
「私が前で運転すれば解決です」
「それは嫌だ」
「どうしてですか?」
「どうしても」
『まあ、うん。そうだろうな。重心的にも重いアオが後ろなのは良くねえし、レキさんの足がつくタイプの車両で2ケツはちょっとキツイと思う・・・というかよ』
「ん?」
『お前ら二人でバイク乗ること多いん?』
「ああ」
「いつも彼の後ろに乗っていますが」
『チックショォォォォォォォォォォ!!』
ブツン。
「彼は何を怒っていたのでしょう」
「さあ。でも後でお礼を言っとかないと。良い助言を得られた―――忠告も」
「そうですね。ではバイクはどうしますか?」
彼女に倣いカタログに視線を落とす。今開いているのは大型のページだ。
「ん・・・、普通にタンデムするとして」
問題は足の防弾だ。この間は俺が食らったから防弾制服越しにある程度防御が効いたけど、女子制服はスカートだから膝下はモロに食らってしまう。それは別の対策を立てるとして。
「・・・これなら丁度いいか?」
レキにソレを指さすと、彼女も頷いたので近くの販売店に電話で在庫を聞いた。
「・・・そうです。ある?よかった。色はなんでも・・・オーケー。後で伺います」
武藤にも後でもう一度連絡しておこう。改造もする必要があるから。
そして一週間と少し経った後に武藤の手で防弾仕様の改造が成されたZX-10R
がやってきた。
白い車体に風が斬るような蒼と緑のラインが走る。リアにはやはり防弾仕様で、タンデムする者の足を背後からの銃撃から守るためだけのパニアケースが増設されている。
「ぜってーお前には過ぎたバイクだぞ」
武藤に苦い顔をされたが、まあ乗りこなしてみせるさ。
「天羽蒼」
「おう」
まずはひとつ、試してみよう。