The Armed Detective & Three Strikes 作:zwart
サミュエル氏を帝国ホテルへ送り届け、俺は武偵校への帰路についた。このあと、彼がどうするかは今の自分の知ったことではない。今帝国ホテルには国際停戦監視軍の元重鎮が宿泊中で、その人物が国際法廷に出席する人物であろうともだ。
自前のバイクに乗って下道を走っていると付けっぱなしにしていたインカムからコール音がした。これは…電話だ。
「受話する――」
『俺だ、アオ』
音声認識で受話すると、よく知った声が聞こえてきた。
「キンジか。授業はいいのか?」
『午前からいなかったお前に言われたくはない。それに今日は午前授業だぞ』
「そうだっけか…。それで何の用だ?」
『お前と話したいって奴がいる…悪いが話してやってくれないか』
「今か?運転中なんだけど」
『頼むアオ、俺が殺される』
「は?」
訳の分からんうちに電話が奪われたのだろう音がして、今度は甲高い声が聞こえてきた。おそらく子供か、女。
『アンタがアオイ・アモ?』
「そんな銃砲店みたいな名前ではないが、天羽蒼は俺だよ」
『名前なんでどうでもいいのよ。アンタがSランクの武偵だと聞いたわ。特別にアタシのドレイにしてあげるから感謝しなさい』
「…俺にそっち系の被虐趣味はないんだけど…まず君は誰だ」
『アンタもキンジと同じなのね。それくらい自分で考えなさい。あと、これは遊びじゃないわ。アンタは私のドレイになるの。これは決定事項よ』
「そうか、断る」
『ダメよ』
「そうか、断る」
通話終了、益体もない電話だったな。しかしキンジのやつも不甲斐ない、あんな子供にスマホを奪われるとは。仕事で疲れたし、気晴らし少し山を攻めてから帰ろう。近場のコースはどこだったかな…。
などと悠長なことを考えている場合ではなかったことを俺は寮の前で思い知るのだった。
「待ってたわよ、アモ」
「……」
キンジと俺は、寮で同室だ。当然ながら男子寮だが、そこに何故か女子がいた。しかも昼間の電話の甲高い声そのままの輩が。
「…キンジ、連れ込みか?」
「違う、勝手に上がり込んで馬鹿みたいな量の荷物まで運び込みやがった」
こめかみを抑えながらキンジは絞り出すように返してきた。ああ、そりゃあ頭痛もするだろうな。
「キンジが思った以上に聞き分けなくて困ってたのよ、アンタは違うと期待してるわ!」
玄関に仁王立ちするこの…中学生?小学生か?とりあえずやたら偉そうなピンク髪ツインテールは言いたいことだけ言うと当然のように部屋の中へと引っ込んでしまった。
「キンジ、あれ誰だよ」
「名前は神埼・H・アリア。あれで高校生らしい。今日から俺らのクラスに編入してきた。あと一応俺の命の恩人だ」
「は?」
「今朝俺の自転車に爆弾が仕掛けられてな。ついでにセグウェイにUZI載せた変なのも出てきた」
「それは災難だったな・・・俺らの部屋にいる理由は?」
「俺達を奴隷にしたいらしい。というか本人はもうそのつもりで扱き使ってくれてるよ、クソ」
「制圧しちまえよ」
「ムリだ。あいつもSランクらしいからな。しかも
「そうか…」
俺はこの時点で既に部屋に戻るのを諦めた。キンジは協力して対処してほしそうだったが女王様気取りの馬鹿の相手などしてられん。
「じゃ、また明日」
「え?あ、おい!」
俺の裏切りに気付いたキンジが引き留めようと手を伸ばすか、その手が俺の制服に触れるより早く俺は通路の柵を飛び越えて寮より離脱していた。
「悪いな、明日は付き合うから…多分」
無事アスファルトに着地したところでキンジらの追撃を撒くためバイクに飛び乗り、さっさと寮の敷地を出ることにした。
「さーて、どうするかな」
と、口に出したものの今日の寝床は既に決めていた。
片隅に放り出してあったテントを組み立て、寝袋二つとランタンとCDプレイヤーを用意する。
そして寝袋の中に半身を潜り込ませ入れっぱなしのCDをかけた。
ランタンのぼんやりした灯りの下、ロックがながれる。曲はアイアンバックのStarだ。夜らしい静かな、だが寂しくはない曲。読みかけだったペーパーバックはどこにあったかな。
「この環境は読書には適しません」
「そんでお前はいつの間にかいるのな」
レキ。武偵校の同級生で
「お邪魔ですか」
「いや、そういう契約だ。…鍵締めた?」
こくりと頷きが返される。それに満足すると俺はぼんやりとランタンの灯りを眺める。こいつがこう言うからにはあの本は今日はもう見つからないだろう。まあ、流石に棄てられちゃないだろうし今は大人しく諦めよう。
二つ目の寝袋にはいつの間にか小柄な人影が入っていた。ミント色の髪。明らかに日本人ではない新雪のような肌。そういえばキンジと俺のとこに押し掛けてきたピンク色のもこいつくらい背が小さかったな。だが2025メートル先の相手を殺す彼女なのだ。
「?」
ランタン越しにむこうと目が合う。だからどうしたという話だが、なんとなく彼女の視線がむず痒く感じてきたので寝返りをうって誤魔化した。曲が終わる。次のトラックに入る前に再生を停止して、ランタンも吹き消す。
「寝るぞ」
この物静かな同級生は返事をしない。だが勝手に寝るのはわかっているので俺はそのまま寝ることにした。
翌朝。
バイクを走らせ武偵校の校舎に向かう。どうやら昨日が始業だったらしく、フケたので
「レキ」
「狙撃科までお願いします」
「りょーかい」
お互いカロリーメイトの朝食を済ませると、ドラグノフを背負ったレキをバイクに乗せた。早朝なので人目はない。多少飛ばしても文句を言う奴はいない――が、流石に2ケツで無茶はやめとくか。キンジや武藤ならともかくレキの細い体は万一の事があると粉々になってしまいそうだ。
「出すぞ」
朝日の下、メガフロートの縁にある道で風を感じるのは悪くない。
先に狙撃科でレキを下ろし、教務科のある本館へ向かう。短いシーサイドツーリングで上向きだった気分もどん底へ降下していく。これから例の雌ゴリラ――強襲科の主任、蘭豹に会わなければならないのだ。
「よーう蒼、オマエ昨日はよくもサボりよったな」
教務科の扉を開けたとたん、これだ。殺気立った視線が向けられる。
「おはようございます、蘭豹先生」
ヤニ臭い空気を我慢し蘭豹のデスク前まで向かうと、その手には最初からM500が握られていた。下手なことを言ったら腕の一本くらいはなくなるか―?
「オマエ、昨日はなんでサボった?」
やっぱりそれを聞くよな。でもあれは昨日の事後に依頼者から口止めされてるから俺がやったと言うわけにはいかない。が、教務科が知らん筈もないよなあ。
「SATの仕事を見学に行ってました」
「ほー。――昨日のハイジャックが羽田に降りたのは正午やなかったか?」
「航路を見てヤマを張ってたんです」
「ほーう。そういやオマエは車輌科からの転向やったな…。まあええ、帰り際に送迎バイトしとったのは見逃しちゃるわ」
「ご厚意痛み入ります」
「ハン、無断欠席まで目を瞑るとは言っとらん。オマエ今日1日、一年の面倒見ぃ」
「拝命しました」
この時期、入学したての一年か、面倒なものを押し付けられたがそれで昨日の色々を無視してもらえるなら良いことだ。
「ほな、さっさと行けい」
かくして、俺は強襲科に迷いこんでしまった哀れな子羊達をなんとか牧羊犬くらいまでに育てる、その教育1日目を任されたのだ。
「注目、静かに…」
道中に二年の仲間達に玩具にされながら俺は一年どもの前に立った。教師ではなく同じ制服を着た奴が自分等の前に立ったことで動揺が広がる。
「あー、今日の1日だけは俺がお前らを教育することになった。まあ、よろしく」
「おいおい、マジかよ」「学生じゃん」「初日だべ?大事なもんじゃねーのかよ」「教師どこだ!」
まあ、そうだろうさ。至極普通の反応だ。けれど後々のためにも彼等には教育が必要そうだ。
アイツ、なにやってんだ?
キンジとアリアは蒼が逃走した後も大喧嘩を繰り広げ、最終的に事件1つだけを共同で解決する、ということで落ち着いた。その一件でキンジは自分がいかにアリアにとって無意味か、かつての強襲Sランクが間違いだったかを証明する。アリアはキンジの全力を見極める、そういう約束で。
それで、どのみち一件は事件に関わるので探偵科で鈍った拳銃の腕くらいはいくらか戻さなければならないと思って強襲科を訪れていたのだが―
「ああ、なんか今日は蒼のやつが一年坊どもの面倒を見るんだとよ」
「おいおい」
遠巻きにして見ていた二年がキンジを見つけ教えてくれた。
これは、やばい。地獄絵図になるぞ。
耳打ちしてきた二年も分かっているようで、ニヤついた顔で観賞準備は万端といった様子だ。
「何よキンジ、蒼がどうかした?」
「アリア…なんでアオが一年の面倒を見てるのか知らないが、ヤバいぞ」
「ハァ?」
言っている間にパン、と乾いた破裂音がした。銃声だ。
「ぐぁああ!?」
アオの手に握られた拳銃から白煙が上がっている。あれはアイツのいつものジガナ、口径は9パラ。
「さっそく実技だが、これが拳銃。中ると痛いが幸いなことに武偵高の制服はTNK繊維なので死にはしない。まあ、殴られたくらいのダメージだ。お前らも持っているはずだが、これは―」
ああ、駄目だアイツ真面目モードだ。もう誰にも止められん。
「何よ、強襲科じゃなくても武偵なら普通のことじゃない。何もヤバいことなんてないわ」
違う、アリア。確かにちょっとしたことで撃たれるのが武偵高だが、アオがあの男子を撃ったのは騒いでいた一年を鎮めるためじゃないんだ、そして問題はここから―
「ちょっと、彼が何をしたってい―」
バン!
「うるさい黙れ」
「…え?」
アオのやり方を勘違いした女子がたまらず抗議を挟もうとした時、2発目が響く。ただし、今度のは9パラより数段重い銃声、.454カスールだ。抗議しようとした女子は被弾の衝撃で吹っ飛び、隣にいた別の生徒が何が起きたか解らず呆然としている。
恐らく殆どの一年はアオが大柄なリボルバー…タウルス・レイジングブルをいつの間にか持っていて、どうやら撃ったらしい、程度にしか把握していないだろう。
「……ぅぁ」
ああ、撃たれた一年は気絶している。最もTNKの層が厚い部分を狙ったみたいだが、衝撃は殆ど人体に届いたはずだ。―いや、体が軽い分衝撃力はそのまま彼女の体を吹き飛ばすのに大分使われたはずだ。気絶は頭を床に強く打ったことによる脳震盪だろう。
「さて、丁度いいから教えとくが、このようにTNK繊維も衝撃までは防げないし、そもそも生身の部分に中れば普通に死ぬ。TNKの性能を上回る威力、貫徹力でも死ぬ」
「………ひぃ!?」
「ヤバい、殺される!」
「せ、正当防衛だろ。撃ち返せ!」
男子のうち何人かが銃を抜こうと懐や腰に手を伸ばす。入学したばかりでその気概があるのは貴重だが今は悪手だ。素人がアオの前で拳銃を抜けるわけもない。
パン、パンパンパン!
9パラが4発。きっちり4つの銃が一年の手から弾き飛ばされた。
「ただ抜くだけじゃいけない。特に後手で射撃体制を取るならば迅速かつ巧妙に相手の隙を伺って反撃しろ」
「嘘だろ…」
銃を弾かれた連中は棒立ちだ。アオはそれに一瞥をくれると、最初に撃たれた一年に向き直り、また撃った。今度はタウルスを。
「ガッ…!?」
「いつまで寝てるつもりだ童貞野郎、憲章にあるように武偵は諦めるな。ちょっと痛い程度で他人の助けを待つな」
「キンジ、あいつまさか」
アリアも気がついたか。そう、アオは気に入らないことがあると一年に射撃しているんじゃない。
「アイツが怒ってる、というより注意する時に撃ってるのはカスールの方だけだ…」
アオはなまじ真面目だから、今本気で一年を指導してる。そして撃っても大きな怪我をしないTNKの上から積極的に撃ってあげているのだ。恐らく銃の恐怖と撃たれる経験をさせるために。…少なくとも、悪意や敵意は微塵もないのだ。。
「…ちょっと待ちなさい。あのトーラス44じゃないの!?」
「ああ、カスールだ。けど撃たれた二人は無事だから安心しろ」
「…そうね、無事に見えるわ。女子の方は吹き飛んだからともかく、男子は床に転がっていたから衝撃の逃げ道がないから臓器がどれか破裂していてもおかしくないのに」
吐血もしていないし、そういうヤバい痛がり方はしていない。
「流石に訓練用の特殊弾らしい…それでもあれだが」
「ん…?」
カスールに見悶えている一年を扱き下ろしている――ようにしか見えないが多分渇を入れていた蒼は不意に低く落とすような後ろ回し蹴りを繰り出した。
「っ…!」
気づかなかった。その女子は気配を消してアオの背後に回り込もうとしていた。そしてほぼ成功していたぞ!あの蒼相手に!
その生徒は這いつくばるようにして蒼の蹴りを避け、その場でごろりと仰向けになり――手の中にはSAAが握られていた!
ダン!
「惜しい」
そう言ったのは蒼だった。蒼はSAAの銃口が自分を捉える前に左手を伸ばし、押さえられる前にと驚いて射撃してしまったせいで手の中で暴れたSAAを奪い取り銃を相手の腹に押し付けるようにして仰向けのままに押さえつけた。
生徒が息を呑む気配。ジガナがその女子の左目に突きつけられていた。
「…うまく行くと思ったのですが。しかし、これでは引き金を引いたら武偵法違反になりませんか?」
「SAAは取り回しが悪いからな。それとこれは課題にしておくが、この態勢ならを蹴りをいれられる前に射撃し、武偵法を守った上で対象を無力化できる」
「それを考えておけと?」
「ああ」
アオはその女子の上からどいて、SAAを返す。女子の方もやはり手慣れた様子でクルクルと銃を手元で廻すと、ストンと腰のホルスターに納めた。あれはやはり、武偵高に来る前から銃を取り扱っていた類いの、所謂経験者だろう。
「…さて、時間だ。今日はここまで。明日からは蘭豹という先生が来るが、殺されないように。以上、解散」
…ああ、しまった!アオのスパルタ授業に目を奪われて結局拳銃の訓練できてねえじゃねえか!