The Armed Detective & Three Strikes 作:zwart
「…ん」
「どうしたのだ?あおくん」
「いや、なんでもない。それで銃弾のことだけど」
キンジが射撃訓練をしそびれた後(蒼が知るところではないが)他にも幾つかの一年強襲科の班を指導し終えた蒼は装備科の平賀文のもとを訪れていた。彼女は装備科きっての銃砲改造の腕の持ち主で、蒼のトーラスも彼女の元で調達したものだ。それ以前は中古のパイソンを使っていたが…あれはすぐに壊れた。まあシリンダーの軸受けに45ACPを受けたのだ。銃に非はない。しかし失ったパイソンで黄昏れるより、視線のことだ。といっても蒼には犯人の見当がついていたが。
(レキが狙ってるかな。まあ射撃される感じはしないけど)
武偵高の中にいると時折こういうことがある。レキは優秀な狙撃手だからこちらが気づいているのが全てではないだろうが。理由は深く聞いたことがない。――誰の依頼であれ、監視される理由には心当たりがありすぎるからだ。
「何時もの改造カスール弾と、9パラあるかな?」
「9パラは勿論あるのだ!カスールの方は事前に連絡はしてもらってるから作ってはあるけど、何発欲しいのだ?」
「んー、120発くらいかな」
「流石にそんなに作ってないのだ…」
「今どのくらいある?」
「30発しか在庫はないのだ。あんな、態々弱くした弾なんてあおくんしか買わないのだ…」
「弾頭が軽いから初速は出るのに…まあ確かに総合の運動エネルギーは落ちるけど。とりあえず120発契約してくれ。半分は通常弾で、改造弾の方は残り半分は出来次第でいいから」
「通常弾ならすぐに出せるのだ!金額は…これくらいなのだ!」
「りょーかい、キャッシュで?」
「あおくんは支払い確実だから後で振り込んでくれればいいのだ!」
「ん、まあ支払っとくよ・・・ところであれは何?」
結構な額の支払いだが、先に用意しておいたので十分支払える。気になったのは部屋に入った時から平賀さんの後ろに見えている馬鹿でかい長物、というか銃座?だ。同じものが二つ無造作に置かれている。
「あれは退役した捕鯨船からもらってきた銛撃ち機なのだ!」
「えーと、そんなもんどうする気なんだ?」
「もちろんガンランスを作るに決まってるのだ!あややの手にかかればリオレウスどころか歴戦個体だって一撃で・・・と。全額確かに受け取ったのだ!弾は今出すけど、そういえば9パラはいらない?」
「2ケースで、金額はこれでいいか?」
追加でいくらか紙幣を渡すと、すぐに箱が二つ出てきた。一箱50発で、計100発となる。
「けっこう多いけど、出入りでもするのだ?」
「いや、ちょっと予定外に撃ったからその分の補充」
出てきたカスールのうち18発をその場でローダーにつめてポケット等に放り込む。残りは9パラの箱と一緒に鞄に入れる。ちなみに鞄といっても指定の防弾鞄ではなく私物のナップサックだ。
「じゃ、また弾が出来たらくるよ」
「まいどなのだ~」
流石にずっと車両科の車庫で寝泊まりするわけにもいかないので、蒼はキンジの救援と問題の解決のため寮の部屋に戻ることにした。
「ただいまー」
「アオ、テメエ昨日はよくも逃げやがったな!」
玄関口で扉を開けた瞬間に腹に響くキンジの怒声が聞こえてきた。予想していたことなので蒼は肩を竦めつつ、自分が悪いので適当に聞き流すことにするようだ。
「はいはい・・・で、例のピンク娘は?」
「居候は昨日で終わりだ。今日からは普通に女子寮のはずだ」
「そりゃ安心だ」
以上の会話はキンジの右ストレートを体を逸らして避けつつ繰り出した反撃のフックを左手で止められながら行われているがさして重要なことではない。
「で、どうなったんだ」
お互い拳を退いて蒼はさっさと室内に入る。
「どうせ気づいてただろうが、俺は暫く強襲科に戻ることになった。どんな事件だとしても次の一件だけは共同で仕事にあたる」
「なるほど」
「お前もだぞアオ」
「即席パーティーの面子は俺キンジピンクの三人で全部か?」
「その通りだ」
蒼はガリガリと頭をかき、盛大な溜息をつく。彼にしてみればまったく知らないところで面倒くさい女に仕事一回分付き合わされることが決定したのだから。
「バックレてもいいか?」
「間違いなく面倒くさいことになるぞ。あいつ・・・アリアの戦闘能力は多分ピカイチだ」
「根拠は」
「理子に調べてもらった」
「なるほど?・・・後で資料くれ」
そろそろ空腹の我慢の限界が近づいてきた蒼は話の続きを先延ばしにしつつキッチンに移動する。大型の業務用冷蔵庫――蒼が運び込んだもの――を開け、白雪が作って置いて行った和食のおかずを何品か出し、さらに自分で作った豚肉の角煮のタッパー、冷凍白米2合を出す。
「一日しかおいてないが相変わらず馬鹿みたいに食うな・・・」
「サラダも今から作る」
やはり大型の電子レンジに様々なものが放り込まれ解凍や温めが開始される。その間に千切りキャベツを取り出しざっくり皿に盛ってトマトを二つ切って並べた。
ちなみにこれら全て蒼の一人分だ。
「そーいやお前飯は?」
「・・・ああ、食うわ。米は1合でいいから」
サラダと角煮が追加され白雪の作り置きの幾何かがキンジの分にまわされた。正直、げんなりしていたが流石に食わないわけにもいかない。
「テレビつけてくれ」
「おう」
キッチンから蒼が声をかけ、テレビがつけられる。国際ニュースのチャンネルが丁度選択されていて、他所の戦争のせいで最近よく開かれている国際法廷についてのニュースや昨日のハイジャックについてOBCなどが報道しているのが抜粋されていた。
「チャンネルはこのままでいいか」
「ああ、たすかる」
キンジたちの部屋に置かれたダイニングテーブルは相応以上に大きい。白雪が持ち込んだもので彼女が折々に持ってくる大量の高級料理のような手作り料理が余裕で並べられる。そこに男子高校生二人分の夕食が並べられていく。余談だがが最初蒼がザックリ作った夕食をキンジと食べているところを目撃した白雪が一方的に抜刀し蒼に宣戦布告しかけたことがあったのだが、蒼が
「あ、そういえばアリアが寝室にブービートラップ仕掛けてたから気を付けろよ」
「・・・今日もガレージで寝るかな」
「―――お、天羽蒼。起きてください」
「・・・ああ、おはようレキ」
結局、あの後再びガレージに戻った蒼は、当然のようにいたレキと寝袋を並べて寝ていた。
「緊急事態です。C装備で女子寮屋上に集合と」
レキが見せて寄越した俺のスマホには知らない電話番号・・・スピーカーモードでもないのに普通に聞こえてくる甲高い声はアリアのものだ。そういえば事件を一度共同で調査しなければならないのだったか。
「レキも呼ばれているのか?」
「はい。バイクを出してください」
「了解だ。5秒待ってくれ」
既にガレージの扉は開かれ、バイクは出せる状態だ。俺も制服のまま寝ていたのでそのまま武装を確認したら防弾ベストや強化プラスチックヘルメット、インカムを装備すれば準備は完了する。
通話状態のスマホを制服の下に仕舞い、インカムで受ける。モードを切り替え、レキのインカムにも接続させる。これでこの通信でアリア、俺、レキの三人での会話が可能になった。
「車両科のガレージからバイクで移動する。状況説明を」
『レキも一緒ね』
『はい』
『バスジャックが発生したわ。7時58分に男子寮前に止まったやつ』
「敵の武装は」
『不明。確実なのはバス内に爆弾が仕掛けられているということ。あと多分バス内には犯人はいないわ』
「根拠は」
『経験則よ。相手は間違いなく「武偵殺し」だわ』
「あの事件はたしか・・・いやいい。こちらは足を持ってる。直接現場へ向かうから
『いいわ。コードは・・・』
インカムの設定を調整している間に後部に座ろうとするレキを呼び止める。
「レキ、移動中に撃ってもらうかもしれないから前に座れるか。あとこれをつけて」
ベルトを差し出した。お互いの腰につけて使う所謂命綱だが、ワンタッチで解除できるようになっている。
「私は後ろでも撃てますが」
「相手が「武偵殺し」かどうかはともかく一昨日のキンジを襲った相手と同じなら自立移動砲座が出てくるかもしれない。そいつら躱しつつだと運転が荒くなる」
レキの狙撃能力については疑問を差し込む余地はないが、時速300キロ近くでふり飛ばしてしまっては引金を引く前にミンチにしてしまいかねない。彼女の腕力ではしがみつくことも危ういだろう。前に座ってくれればこっちでホールドできる。・・・股の間に座らせることになるが、どうせこの娘は羞恥心で支障をきたすことはないだろうし、身長も低いのでこちらの視界も問題なく確保できる。
案の定彼女はすばやく前に座り、ベルトをとりつけた。俺の顎下あたりに彼女のヘルメットがくる。
「支障ありませんか?」
「問題ない。いくぞ」
エンジン温度、回転数。クラッチ接続。鉄の馬は僅かに前輪を浮かせつつ急発進した。
『そこを右折してください――。間もなく対象のバスが視認圏に入ります』
「視認した」
通信科のナビに従ってバイクを走らせると5分弱でバスが高速で走っているのが遠くに見えた。上り坂にもかかわらず加速しているように見える。周りに他の車両はない。関係各所が交通を規制したようだ。上空に武偵校のヘリ。バスの天井にはアンカーで体を固定したらしいアリア。キンジはおそらく車内に突入している。
『爆弾はまだ未確認です』
『確認しました』
レキの肯定がインカム越しに聞こえた。
「どこだ?」
『バス底部。カジンスキーβ型のプラスチック爆弾。推定3500立方センチ』
普通は見えない。だがカーブを曲がったときに車体を傾けたときに見えたのだろう。やや遅れて上り坂の終盤で俺車体底部が視界に入った一瞬で俺にも見えた。
『馬鹿な、過剰すぎる!』
『「武偵殺し」の十八番よ』
キンジとアリアの声。
バスが緩いカーブに差し掛かる。だが速度は落ちない。
「バスの速度は落とせないのか?横転するぞ」
『速度を落とすと爆発する!それと横転は多分大丈夫だ』
『アオ!武藤だ。今俺が運転手の代わりにハンドル握ってる。横転の心配はしなくていいぜ!だけどエンジンの回転数限界が来たらどうにもならねえ!』
『解体を試みるわ!』
「無茶だ!カーブが終わってからにしろ!」
『私が狙撃します』
レキがドラグノフを構えようとする。
『暴発したらどうする!?』
『取付方法を確認しました。二発で問題なく分離できます』
「先行して射点を確保する。ポイントを指示して――」
『回避!』
キンジの警告とほぼ同時にこちらでも新しい脅威を確認した。横道から出現した無人のオープンカーがバスに幅寄せをしたのだ。天井にアンカーを刺してバス後部から底部の爆弾にアクセスしようとしていたアリアが派手に振られる。一拍遅れて通信に至近距離の破砕音が乗る。
『アリア!大丈夫か!』
『今の衝突で彼女のインカムとヘルメットが飛んだのが見えました。彼女は無事です。それより――』
「スポーツカーの車上にUZI!」
UZI。最も普及する拳銃用の銃弾9mmパラベラムを1分間に600発吐き出すイスラエル製の凶悪なSMG――。
『!?皆伏せろ!』
再び破砕音。横凪にUZIが撃ち込まれバスの窓ガラスが砕け散る。
『タイヤを狙撃し――』
サイドミラーに背後に迫る新しい影が見えた。バイクだ。武偵の増援?何か違う。車上で何か瞬いた。
「レキ捕まれ!」
車体を素早く右に寄せ、レキをバイクに押し付けるようにして身を低くさせる。瞬間、頭の左を弾丸の一連射が駆け抜けた。
「新たに敵!」
バックミラー越しにもう一度視線を向ける。見えるのは四輪バイク。ただしドライバーはいない。代わりに座席にはバスケットボールくらいの鉄の玉と、さらに旋回機構に乗せられたUZIが固定されている。それが・・・。
『三台。無人のヤマハ・ナイケンです。車上にはUZI』
ばらまかれる弾をバックミラー越しに避ける俺の代わりにレキが通信上に情報を乗せる。そしてスポーツカーはバスの前に出たようだ。つまり、挟まれた。加えバイクは無人のくせに随分機敏に追随してくる。
「不味いな、張り付かれた」
『天羽蒼――』
「撃てるか?」
背中越しにドラグノフが発砲される。どうやら真ん中の一大を狙ったようだ。だが他の二台が射線に入り替わりに弾丸を受け止める。結果一台が撃破され、二台が加速してこちらの両脇に付けようとしてくる。・・・この動きは。いや十字砲火を狙ってくるか。ならば。
「レキ、もういい。二台は担当する」
彼女のドラグノフがバスの爆弾を解除するカギだ。残り9発。彼女が外すとは思えないが追加戦力がくることを考えると温存したい。
『ん――』
レキは頷き、姿勢を戻しす。ナイケンの速度、ベクトル。UZIの射線から彼女をカバーするように意識しつつ。
今だ。
減速。ハンドルを調整。ナイケンとの距離がみるみる縮まる。9mm弾が肩を掠めるが気にせず攻撃行動を続行する。これはカウンターだ。十字砲火の包囲網のさらに外、左側をなぞるように機動。車道のギリギリをハンドリング。間もなく包囲網を敷いてきたナイケン右の一台の左につけた。UZIの銃座が旋回する。だがさっきまで右前を向いていたので到底間に合わない。余裕で左手にレイジングブルを抜きバスケットボール大の金属の球体につきつけ射撃。大穴が空き、ナイケンはふらふらと蛇行しながら減速して後ろに消えていった。恐らく横転はしないだろうが、もうあれはただの人の乗ってない
『次がきます』
「―――」
残った一台はこちらが減速したので前から回り込んで正面から突っ込んできた。逆走。法定速度超過。街中での発砲。そんなことを考えつつ確信をもって対応を決めた。乗ってやろう。どの道時間的猶予もない。かなり距離を離されたがこのバイクとバスは間もなく同一の長い直線に差し掛かる。チャンスだ。
「レキ、バス左側」
『了解』
三度身を低く構え、正面から撃ち込まれる9mmの乱射からレキを守る。ヘルメット側頭部被弾、インカム破損。右ミラーが吹き飛ぶ。レキの左足に中る―――これは代わりに俺の足で受けた。ナイケンは0時方向距離10・・・5・・・0!
瞬間的に車体を傾けナイケンの右側を駆け抜ける。その瞬間に左足を僅かに伸ばし、そっと左側を500キロ近い速度差で駆け抜ける鉄の塊を押した。そう、お前は蹴られたことはないだろう?
背後で派手にクラッシュする音。そして――直線だ。バスは遠いが、同軸線上。
「レキ、やるぞ」
ブレーキ。いやドリフトだ。左側をバスに向けほぼ横転同然に車体を右に傾け横滑りさせる。レキは体を左側に乗り出し、ドラグノフを構える。姿勢の極端に低くなったこの状態なら上り坂でない今でも爆弾への射線が通るはずだ。
「私は一発の銃弾」
バイクが派手に火花を散らし減速する中、二発の7.62×54mmロシアン弾が発射され、バスに爆弾を固定していた二つのベルトが引きちぎられ、路面に落下した。
爆発。速度0を計測したであろう起爆装置が3.5L余りのプラスチック爆弾を起爆させ盛大な火柱を空に打ち上げた。
インカムが壊れたのでスマホを取り出し、武藤に掛ける。
『アオ、生きてるか!?』
「あちこち痛いが生きてる。爆弾は解体したぞ。バスを止めていい」
『助かった!だがこっちは例の転入生が被弾して昏倒してる!』
「了解、レキ――」
「既に通信科を介して武偵病院に連絡済みです」
「thanks・・・」
バイクは火柱の少し手前で横転停止していた。少し離れたほうがいいか。レキと体を固定していたベルトを外し、バイクから体を起こそうとしたところで体から力が抜けた。脳震盪か――。
爆炎の熱を感じつつ俺は意識が薄れるのを感じた。仰向けに倒れたため見えた空に、飛行する小さな影が見えたような気がした。