The Armed Detective & Three Strikes   作:zwart

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Touch Down

俺が意識を取り戻したのは、東京武偵校に併設された武偵病院の個室だった。ベッドに寝かされ、頭と肩、に包帯、左足には添え木と包帯。サイドボードには花瓶に白百合が刺さっている。カードの代わりに画面の割れた俺のスマホが隣に置かれていた。花はレキが置いてくれたのか。

スマホを取り、日付を確認すると丸一日寝ていたようだった。時間を確認しキンジに掛ける。

『アオか!?』

「おはよう。状況は?事件はどうなった」

答えが返ってくる前に電話が切られ、1分もしないうちに部屋の外からドタドタという足音が聞こえてきた。バタンと扉が開かれる。顔を出したのはキンジだ。

「は、早かったな」

「ああ、アリアの見舞いに来てたんだ」

「なんだ、アイツもここにいるのか」

上のVIPルームだよ、今会ってきたとキンジは言う。

「チッ」

負けたか。あんな小娘より遅く起きるとは。

「今何で舌打ちした!?」

「なんでもない。それで、状況は?」

「・・・ナイケンは全て自爆。ルノーとUZI、ついでに俺の時のセグウェイも盗品。犯人の使っていたホテルは見つけたが、宿泊記録が外部から改竄されていて痕跡は何もない」

「ピンク頭・・・神崎が「武偵殺し」との関連を予想してたよな。それは?というかアイツの怪我の具合は?」

「そっちも何もナシだ。あと怪我に関してはお前よりは全然軽いから安心しろ。ただ・・・痕は残るらしいが」

「・・・顔か?」

「ああ、額に」

なるほど、どおりでキンジのテンションが低いわけだ。これでキンジは仁義に熱いというか、任侠臭いところがあるから自分のいる現場で女子に一生ものの負傷を負わせてしまったことに責任を感じているのだろう。

「お前の責任じゃないだろう、キンジ」

「いや、アイツは俺をUZIの弾から庇って被弾した。俺の落ち度だ」

「なるほど?だが庇ったのは神崎の意志だろうし、9mmを撃った責任は犯人のものだ」

「ンな屁理屈――!」

「そうだ。けどお前は一度冷静になった方がいい」

「・・・いや、どの道終わりだ。俺とアリアの契約は終わった」

「・・・そうか」

他愛もない話が後に続くが、理子とレキが連れ立って病室に入ってきたところでキンジは沈んだ顔のまま出てて行ってしまった。

 

「で、レキはともかくお前も来るとは」

「失礼しちゃうゾ☆せっかくりこりんがお見舞いに来てあげたのにぃ」

まあ丁度よかった。コイツなら色々知ってるだろう。

「理子、30万出す」

「ええー?りこりんそんなに安い女じゃないよー。それにまだ安静にしてたほうが――」

「ほしいのは情報だ。武偵殺しについてと神崎について」

「・・・ふーん?レキュからアリアに乗り換えるの?」

ほんっとうにこの女と話すのは疲れる。

「誤解があるようだが、神崎・H・アリアのミドルネームはもしかして――」

「へー?わかったんだ。――うん。多分あおあおの想像どおりだと思うよ。すごいね?キーくんはまだ気が付いてないのに」

「そりゃアイツが鈍いだけだ」

「まー確かにねーっと。そろそろおいとました方がいいかな?お二人のお邪魔みたいだし?」

だからそうではないと・・・。

「理子さん、また明日」

否定する前にレキが理子を追い出していた。「ケータイに送るから送金よろしく~」という捨て台詞を後目にピシャリと扉は閉められ、彼女はベッドサイドに戻ってきてパイプイスにちょこんと腰かける。

「・・・あれ?」

「天羽蒼」

「あ、はい」

「怪我は大丈夫ですか?」

「あ、うん。このレベルの怪我は久しぶりだけどまあ問題ないよ」

「右肩右側頭部裂傷と脳震盪。左脚骨折、被弾――弾は摘出済み。他バイク横転時に体の右側全体に打撲――」

「な、なるほど。まあ大体は体感でわかってたけど」

無表情で怪我の状態をそらんじられるのは怖いということをたった今学んだ。何故だろう、レキの顔がいつもとは違い本気で表情が抜けていて目を合わせられな――、

「こっちを見てください」

「コピー」

「全治二ヶ月だそうです」

「いや、そんなに掛からないと思う。それより、何かあった?」

「?」

「レキが怒るのは珍しい」

「怒ってないです。―――いえ、怒ってるのでしょうか?」

いや俺に聞くな。コテンと首をかしげるな。かわいいかよ。

「話があります。蒼はあの無人バイクに心当たりがありますか?」

なるほど、それを聞きにきたのか。そしてやはり彼女は知っている。俺に接近した目的、彼女に依頼した人間をある程度察し自分の中で冷めた感情が芽生えるのを感じた。

「ああ、大いにあるね」

「そうですか」

「で、他に質問は?」

「・・・いえ」

――ああクソ。キンジのことを笑えん。

「なら・・・そうだ。ひとつ頼んでもいい?」

「はい」

「今日は病室にいるの確定なんだと思うけど、お腹すいちゃって」

ちなみに今時間は19時過ぎだ。病院も俺の食事など用意してないだろう。財布を取り出してレキに渡す。

「学園島の端に牛丼チェーンがあっただろ?あそこでメガ盛りセット二つ買ってきてくれない?レキも夕飯まだだったら一緒に食べよう」

「わかりました。買ってきます」

サイフを受け取ったレキは部屋の出口へ向かう。

「レキ」

「はい?」

「花ありがとう」

「・・・」

彼女は足早に廊下へ消えていった。

 

あとで自分の分含め3つもメガ盛りセットを買って戻ってきた彼女の絵面を見て仰天し、しっかりメガ盛りセットを完食したレキの体に人体の神秘を感じたのは完全な余談だ。

「あ、バイクは全損だそうです」

 

 

 

 

月曜、羽田空港発ANA600便。ロンドンヒースロー空港行き。

キンジは滑り込みでこの飛行機に乗り込んでいた。いや、乗り込むつもりはなかった。本当なら離陸前に飛行機を止める筈だったのだが残念ながら飛行機は離陸してしまっている。

日本でのパートナー探しを諦めたアリアはこの便でロンドンへ帰る気でいる。そしてキンジはつい先ほど理子に呼び出され齎された情報によりこの飛行機が「武偵殺し」を狙うことを推理したのだ。そしてキンジの兄、遠山金一を斃したという「武偵殺し」にアリアは勝てないだろうことも。

ボーイング製の巨体は雷雲に突っ込み、機内では銃撃音が響く。そして武偵殺しは機内の一階バーを決着の場としてキンジ、アリアを誘った――。

 

「武偵殺し」たるフライトアテンダントは東京武偵高の改造制服を身に纏い、キンジとアリアを前にフェイスマスクを剥いだ。

「まーた、キレイに引っかかってくれたねえ。キンジ、オルメス」

「理子!?」

「そうだよ。あたしの本当の名前は理子・峰・リュパン四世」

「――まさか!?」

アリアにはその名前と因縁に覚えがあった。

「そうだよアリア。いいやオルメス4世。あたしの目的はオマエとの決着だったというわけだ」

アリア、キンジ共に銃を抜くことができない。理子の手にあからさまなリモコンがあり、そのボタンに指が掛けられているからだ。

「あたしたちの曾おじい様達は決着をつけられなかった。あたしがオマエに勝てばあたしは四世じゃなくなる。峰・理子になれる」

「待て、理子。お前は、お前が「武偵殺し」か?」

「ああ?そうだよ。何を今さら。あれは前座だよ。アリアとオマエをくっつけるためのね」

「くっつける・・・?」

理子はリモコンを弄びつつアリアの方へ視線を投げる。

「あたしやそこのオルメスの一族にはな、戦うための才能が遺伝するのさ。アタマで計画し、暴きにカラダで闘争する。だけどアリアの一族は代々一人では全力を発揮できないのさ。パートナーが欠かせない。だからアリアとキンジをくっつけてオルメスの血の全力を引き出せるように促したんだ」

「どういう――」

「キンジの自転車からわかりやっすい電波を出してアリアに傍受させ関係を持たせ、バスジャックではキンジが被害者じゃなくちゃんとアリアと一緒に前線に出るように時計に細工してバスに間に合わないように仕向けた。まだ気づいてなかったのか?」

「・・・待ちなさい。どうしてキンジだけなの?アンタの言い方だとアモは最初から標的じゃなかったみたいだけど、最初はアイツも候補だったわ」

アリアの指摘に、だがキンジはなんとなく答えの見当がついた。あいつには既にパートナーがいるからだ。だが理子の答えは予想の斜め上を行った。

「アイツは理子とアリアの戦いの不純物になる。ネームバリューが大きすぎだ。だからバスジャックの時に無力化した。キンジ、お前本当に鈍いよ。アイツの正体に気が付かなかったのか?」

「なんだと、ネームバリュー?正体?」

理子は露骨に顔を顰め吐き捨てるように言う。

「あいつはハーリング殺し。環太平洋戦争の英雄を殺した、灯台戦争の犯罪者だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒステリアモードになったキンジとアリアのコンビの手で理子は追い詰められ、737-350から脱出した。その直後にどこからともなく飛来したミサイル二発がエンジンを吹き飛ばす。燃料喪失どころではない。二発しかないエンジンは全て失われ、もはや600便は推力を発生させていない。機長副機長共に昏倒しており、コックピットには理子がやった細工の残骸。オートパイロットは機能を喪失していた。管制塔との連絡はついたが、もはや彼等と会話したところで根本的な解決には至らない。

「武藤、どうすればいい」

武藤剛気。車輛科に在籍するキンジの悪友だ。乗り物で困ったらとりあえず彼に聞けば大抵のことはどうにかなる。だが、流石にこれは彼としても手に余る状況のようだ。電話越しの武藤は教室にクラスメイトを集めていた。どうやらこのハイジャックは地上では既に一大ニュースとして報道されているらしい。

『とりあえずコックピット以外の電源を落とそう。737にはラムエアタービンが搭載されているけど念のためだ。コクピットの電源が落ちたら終わりだからな。操作するパネルを教える・・・!』

「助かる。あとは・・・そこにアオはいるか?」

『アオか?あいつなら・・・』

『電話変わったぞキンジ』

「頼みがある。手伝ってくれ」

『了解した』

「ちょっと、キンジ。アモは・・・!」

キンジは指をアリアの唇に当てて言葉を遮る。

「アリア、大丈夫だ。俺はアイツを信じてる。だからアリアは俺を信じてくれ。できるだろう?」

『オイお前テンションおかしくないか?』

「天使のためなら俺はいくらでも頑張れるのさ。俺はこの飛行機を安全に着陸させたい。アリアをここで死なせるわけにはいかないからな。どうすればいい?」

『まずは分かる範囲で機体の状態を教えてくれ』

「エンジン二基をミサイルで喪失。「武偵殺し」が脱出のために一度機体に穴を開けたけど、今はよく分からないジェルで塞がってる。武藤の指示でコックピット以外の電力は供給を止めた」

『コピー。キンジとアリア、どちらか航空機の飛行経験は?』

「アリアよ。あたしはセスナの経験があるわ。でもこんな大型のジェット機は・・・しかも推力ゼロだなんて・・・!」

『大丈夫、動力ゼロで737クラスの機体が安全に着陸した例はいくつかある・・・だろう武藤』

『そりゃそうだが・・・アオ、お前飛行機の操縦分かるのか?』

「武藤、アオはプロフェッショナルだよ」

『・・・キンジ、お前がどうしてそんなこと知ってるのかは地上に降りてから聞かせてもらうがとにかくソイツを降ろそう。今回は主脚に異常はなさそうだしスコールの中でもない。余裕で降ろしてやる、アリアがメインで操縦を。キンジ、おまえがアリアの目だ。そこにいて機外の異常を見逃すな。アリアは俺の指示通りに機体を操縦してくれ。対地高度計と大気速度計は読めるな?』

「ええ」

「ああ」

『武藤、600便の高度速度から滑空の曲線割り出してくれ。あと地図と可能な限りの737-350のスペック表ある?中空知、600便のトランスポンダシグナルを傍受できるか?それと俺のインカムを一度国際救難チャンネルに繋いでくれ』

『わかった!』

『アリア、そいつは今グライダーだ。高度もそうだが速度を失っちゃいけない。姿勢維持、機首上げにだけはするなよ。なるなら僅かな機首下げのがいい。』

「わ、わかったわ」

『中空知、インカムの接続完了です。600便のトランスポンダ受信できません。恐らく機体側からの送信がされていないかと』

『コピー、なら厚木か羽田のレーダーで探してもらって座標をリクエストしてくれ。回線助かる、――PANPANPAN!THIS IS ANA600 DECLARE MAYDAY.I LOST ALL ENGINE.I REQUEST DEGIGANETED AREA FROM・・・』

「中空知さん、こっちの通信を周囲の機体と繋げてくれないか?全員に分担で着陸操作を説明させてくれ、この場で習得する」

『キンジ、無茶だ!』

「武藤だ大丈夫、今の俺ならできる。そういう状態なんだ」

『ッ!クソ、中空知さん、やってあげてくれ』

『了解、彼等への説明に30秒待ってください。東京武偵高通信科から通信圏内の全航空機へ。緊急事態につき600便への助力を――』

『アオ、ちょっといいか』

『武藤?――すまん二人とも、ちょっと外す』

「ちょっとアモ!?」

「大丈夫だアリア、落ち着いて。アオの指示を全うするんだ。まっすぐ飛ぶだけでいい」

キンジは怯えるアリアを宥めつつ、必死に通信越しの説明に食らいつく。グライドスコープ、高度計、ビーカー、燃料、油圧、フラップ操作、降下率――ヒステリアの脳はスポンジのごとく知識を蓄えプロのパイロットの見る世界を頭の中で構築していく。いつも以上に強力なヒステリアモードに入っているキンジにとってこの超促成教育は十分可能なものだった。

『スマン、今戻った』

「この馬鹿アモ、遅い!」

「アオ、こっちも終わった、大体のことは分かるようになったよ」

『本当にやったのか・・・まあいい。結論を言うと』

「ここからだとどこの空港にもたどり着かないんだろ?中空知さんのくれた座標とそっちから聞こえてきた降下率でだいたいの計算をしたよ」

「うそ・・・」

『キンジの推測どおりだ。だがまだまだ希望はある』

「ああ、空き地島だな」

『そうだ。夜間の着水なぞプロでも死ねるが空き地島なら、あれは元々滑走路のなりそこないだ』

「減速はどうするの?」

『ループして限界まで減速するしこっちでも手は用意する。もしもし平賀さん、至急で仕事を頼みたいんだけど。そう、超特急で

「アオ、空き地島は対角線で2061mだ、そちらの風速は?」

『現在南南東の風41.07mです』

「レキか」

『レキには外で観測やってもらってる。アイツの目ならすぐにでもそっちの機体を捉えられるさ』

『コースを教える。キンジ、アリアをナビするんだ』

空き地島に安全な速度で進入するため武藤やアオが必死に計算してくれたであろうコースを、キンジは外の景色と照らし合わせてアリアに伝える。アリアも大型機の操作に慣れてきたようでしっかりこちらの言ったとうりのコースに旋回してくれる。だが順調なのは途中までだった。

「っ・・・」

「アリア?」

「キンジ、油圧を見てちょうだい。舵が重いわ」

はっとして数値を確認する。大型の航空機はパイロットの操作を操縦翼面に反映するために機体全体に血管のように油圧パイプが張り巡らされている。その圧力の数値が僅かだが、先ほど確認した数値より下がっていた。そして今、俺の目で数値が一つ下がった。

「・・・確かに漏れてる」

「こちら600便、アモ。油圧が少しづつ下がってるわ」

『・・・被弾したときにどこかの管を損傷してたか。幸いレキが今600便の翼端灯を捉えた。細かい指示もこっちで出す。キンジも操縦桿を握って操作に加わってくれ。呼吸を合わせて、慎重に十分量の舵を切ればいい』

「わかった」

『油圧を完全に失う前に降ろすぞ、左旋回だ。最短、最低限の操作でここまで誘導する。不知火、平賀さんに作業を急ぐように伝えてくれ!』

向こうから見えるようになったなら、こっちからでももう空き地島が見える筈・・・。あれが学園島か。空き地島は・・・夜間の今、空からでは灯り一つない空き地島は探せない?

『――そんな凡ミスすると思うか?』

ああ、お前なら平気だろうさ。

『キンジィ、俺達全員で装備科のマグライトと車両科の一番でかいタグボートをかっぱらっちまったからなあ!テメエ絶対無事に降りてこいよ!』

いいぜ武藤、並べ終わったぞ!発電機とも接続完了だ!

『よーぅし、コンタクトォ!』

瞬間、空き地島に滑走路が出来上がった。狂いなく直線に引かれた、今夜最高のランウェイだ。

『600便捉えています。』

『あとちょっとだ、頑張れ!』

『テメエ降りてきたらなんか奢れよ!』

『アリア、キンジ。降りてこい。俺達が受け止めてやる』

空き地島の北西側の淵に二隻の船が横づけされているのを見てキンジはアオの言葉の意味をなんとなく察した。そして名言しない理由も。アリアの操縦に支障をきたさないためだ。

『・・・旋回終了まであと3、2、1、終了。よし、最終アプローチ入るぞ。アリア、ラダー右少し踏んでくれ・・・よし、戻して。キンジ、フラップ最大展開』

「フラップ最大」

「アモ、少し左に煽られてる気がするわ」

『大丈夫。レキが風を読んでくれてる。今の修正で進路は適正になった。』

「了解、まっすぐ降ろすわよ」

『完全に着地したらラダーペダル両方、めいっぱい踏み込め。ブレーキ操作だ』

「わかってる――アリア」

「ええ、降りるわ」

皆が集めてくれた空き地島のマグライトの光が近づく、あと少し、あと少し・・・着地した!

『ゆっくり機首下げだ・・・・よし前輪がついた!レキ、不知火!』

ダダンとほぼ同時の衝撃が二つ、それが合図になったかのように機体の速度が急激に落ちる。

「「止まれ、止まれ!」」

エンジンと燃料の分軽くなった機体、濡れた路面、2061m、着陸と同時に起きた謎の減速。結果は今、出た。目の前に風力発電装置のタービンが回転している。だがもうこれ以上こちらに迫ってくることはなかった。

羽田発ヒースロー行きのANA600便は、今、無事に着陸停止したのだ。

隣の席で奇跡でも目の当たりにしたような顔で茫然としているアリアに、俺はちょっとかっこつけて声をかけることにした。

「東京武偵高へようこそ、アリア」

 

 

飛行機から降りてようやくわかったのだが、最後の最後で発生した謎の減速は、両翼のエンジンポットがあった部分に打ち込まれた即席ドラッグシュートによるものだった。平賀さんが捕鯨用の銛撃ち機を即席で改造して装備科の在庫のパラシュートと接続して作ったらしい。翼に突き刺さった極太の銛には確かに空挺降下などで使った覚えのあるパラシュートが鈴なりになって垂れさがっていた。さっさと燃料を全部失ってしまっていたのが僥倖だったと武藤などは笑っていたが、そもそもエンジンを丸ごと失ったりしなければこんなに苦労することもなかったと思うとこちらとしては笑いごとじゃない。

「で、真っ先に俺のところに来たわけか」

「ああ、まずはありがとう。お前のおかげで無事降りて来られたよ」

「よく俺を信じて飛べたな。飛行経験があるとは教えてないはずだが」

「「仲間を信じ、仲間を助けよ」武偵憲章第一条だ。俺はお前を、仲間を信じただけだ」

「そうか」

武帝病院から来た救急隊が600便の乗客を降ろして介抱している、その少し離れたところにアオは松葉杖をつきながら立っていた。他の武偵高のメンバーも救急隊のサポートや現場の安全確保などで近くにはいない。

「「武偵殺し」は理子だったよ」

「なんとなくそんな気はしてた。確信はなかったけど」

「どうしてわかった?」

「あいつに収集を依頼した事件資料を他のソースと比べた。俺を事件から引かせたかったんだろ?」

「ああ。お前の肩書き・・・。ネームバリューが理子の目的の障害になったらしい」

「理子は俺を何と?」

「・・・ハーリング殺し」

それは2年前の戦争の始めに、自国の元大統領を救出作戦中にミサイルで焼き殺したパイロットの綽名だ。ハーリング元大統領は11年前の環太平洋戦争を終結に導き、軌道エレベーター建設を推進した人物として世界的な著名人だった。

「だけどそれだけじゃないんだろうアオ。お前はそのあと、多分だけど軌道エレベーターでの戦いにもいたんじゃないのか?」

アオはそこで初めて本気で驚いた顔をした。コイツのこれは珍しい。してやった気分だ。

「理子はそんなことも知ってたのか?」

「いいや。ハーリング殺しとしか言っていない。だけど今さっきお前はオーシアの軍人として持っていた人脈で俺達を助けてくれただろ。横田空域を通ったのに無線には警告一つ入ってこなかった」

「他には?」

「・・・実は前にお前の机から9mmを拝借したことがあってな。そのときに引き出しの中の勲章を見つけた。あれはエルジア王国が発行するものだろ。後は連想ゲームさ」

その時は見つけたときは何かのメダルくらいにしか思ってなかったが、さっきヒステリアモードになったときにメダルに刻まれていたのがエルジア王女の名前とあの戦いがあった10月30日の日付だったことに気が付いた。理子がアオがハーリング殺しだなどと言うまでは元軍属かもとは思っても空軍だなどとは考えもつかなかったわけだが・・・。ちなみにどうでもいいことだが俺がアオの机を覗く羽目になった本当の理由は理子が俺とアオをネタにして腐った女子向けの本を描いて俺らの部屋に隠したとか抜かしやがったからだ。

「あれか・・・。キンジ、お前の推理は正解だ。あまり言いふらさないでくれ」

「わかってるさ。アリアにも後で言っとく。それで例の、横田空域を開けてくれた人は誰なんだ?」

アオが、いやクラスの皆が命の恩人だが、横田空域への侵入を許してくれた人も恩人だ。名前くらいは知っておきたい。

「前いた部隊の指揮官だよ。彼には俺から言っとく。それより、こっちも聞きたいことがある。理子の後ろには誰が・・・いや、何がいた?」

「なに?」

「バスジャックのときのナイケンとルノー。そして恐らく600便を途中まで操縦していたプログラムも。俺はあの無人戦闘資材に心当たりがある」

「おまえ、本気で言ってるのか?」

無人戦闘する機械、そしてアオは前のオーシアとエルジアの戦争で戦っていた。あの戦争で無人機はキーワードだ。エルジアが大量に飛ばしたそれはオーシアに多大な被害を与えたという。

「何か言ってなかったか?俺はアレのデータが犯罪組織に使われてると思ってる」

「・・・理子はイ・ウーと言っていた。それ以上は知らん」

「そうか、ありがとう・・・さて」

「どうした?」

「実は俺武偵病院での退院前精密検査抜け出してきててさ・・・」

「ちょっと待て!?」

抜け出してきたってことは、あの暴力団も裸足で逃げ出す医者たちに追われてるってことか!?というか全治二ヶ月はどうなった!?

「どうせお前も怪我人だし、一緒に連行されようか」

気が付けば俺とアオは筋骨隆々の白衣の天使(漢)に取り囲まれ、力なくホールドアップするのだった。

 




ストック放出完了です。航空機の云々はあまり深く突っ込まないでもらえると助かります。

11/31/19 誤字等の修正をしました。
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