The Armed Detective & Three Strikes   作:zwart

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サイドストーリーに誤投稿をしました。ご迷惑をおかけし申し訳ありません。


Distant Eyes

救護科の学生に預けると、稲垣はさっさと診療室に連れられていった。聞いたところやはり重大なケガを負った様子はないらしくちょっと安心する。

(さて)

問題は銃の方だった。

シリンダー破損、撃鉄の固定はできず、銃口にも燃焼不良を起こした火薬が多量に焼き付いている。使用不可。フレームにも影響が出ているだろうから、普通なら廃棄が順当だろう。

だけど、道具への思い入れというものは意外と捨てきれないものだ。まして古い銃を態々使っていた彼女ならば、きっとあのSAAには特別な意味がある。そんな気がした。

「あ、平賀さん?ちょっとこれからそっちに行ってもいいかな――OK?助かる。じゃあ拳銃をリボルバーとオートマで用意しといてくれないかな。え?いやジガナもトーラスも壊してないよ――ありがとう。じゃあ後で」

さて、大した怪我じゃないというならすぐに出てくるだろう。ぼんやり空を眺めているうちに後ろから声がかかった。

「待ってたんだ」

「SAAも返してないしな」

二挺とも彼女に返す。無事な方はホルスターに戻されたが、破損した方は両手で抱えてしまった。どうやらよほど思い入れのある銃だったようだ。小さく、ごめんという声が漏れ聞こえる。

「装備科に行こう」

「そうね。新しい銃を買わないと」

弾が抜かれているのを確認して壊れたSAAもホルスターに戻される。

俺たちはその足で平賀さんのところに向かった。

 

「ここは・・・?」

装備科には足を運んだことはあるようだが、平賀さんの事務室は入ったことがないようだ。まあ確かによほど優秀でも1年が2年のエースに銃を見てもらう機会などそうはない。

「俺が銃を見てもらってる人のところ。体は小さいけど技術は信頼できる人だから――」

もはや常連と自負できる程度には通っている身だ。気兼ねなくいつもの鉄扉に手をかける。

扉を開けると視界いっぱいのでっかい鉄の塊があった。

「」

「」

扉を閉める。開ける

扉を開けると視界いっぱいのでっかい鉄の塊があった。

「・・・なに、これ」

「知らん。・・・いや、多分あれだ。ガンランスとかいうのを作るとかなんとか言ってたような。完成してたのか」

「いえでもこれ、どっちかっていうと神機とかBRSの方が近くないかしら」

「どっちも知らん。おーい平賀さん!」

いらっしゃいなのだーという声が鉄塊の向こう側からする。ややあってひょこっと顔を出した彼女の頬にはオイルを拭った跡があった。作業中だったらしいが、まさかこのデカブルの親戚を作ってたわけじゃないと願おう

「またでかいのを作ったね」

「これでクアドリガ素材を集めまくるのだ!」

誰が使うんだって。蘭豹くらいじゃないと使えないだろうこれ。まあ展示としてのインパクトはあるが流石に扉開けた目の前は邪魔だ。

「がんばれよー。ところでさっき言ったものは準備してくれた?」

「もちろんなのだ。こちらへどうぞーなのだ!」

ガンランスだか神機だかを回り込んで進むといつも通りの空間が現れる。やはりこの鉄塊邪魔だ。

ともあれ、通された先には洋の東西を問わずの最新の拳銃たちがズラリと並んでいた。ポリマーフレームオートマチック、機関拳銃、リボルバー。

「これは・・・」

「お前の新しい銃を選ぼうって話」

「あおくんの依頼だからけっこう種類出したけど、この人はあおくんの彼女さんなのだ?」

「いや、戦妹。半分俺のせいみたいなもので銃壊しちゃったから」

「おー、何を使ってたのだ?」。

「あ、えっと。これです」

ぐいと身を乗り出した平賀さんにたじろぎつつも稲垣が二挺のSAAを取り出す。

「ウエスタンスタイルなのだ!・・・でも、これは無理してハンドロードを撃ったみたい。怪我はしなかったのだ?」

「ええ、速度特化の強装弾を。ちょっと火傷しましたがもう治療済です」

「直せる?」

「SAAを?お金をもらえれば直すけど・・・新しいのを買った方が早いよ?」

「やってくれ。強化入れて強装弾の使用可能にするのと、ギャップから出るガスで火傷しないように専用のグローブもあるといいかも・・・で、いいか?」

一応、俺の銃じゃないから聞いておかないと。治すことに異論はないだろうが改造は別だ。これから同じことをするなら必要になるが、メインアームをもう一度1から揃えてSAAを第一線から引かせるのであればその必要もない。

「いいわけないわよ。わたしそんなにお金もってないし、新しい銃を買うだけで予算はギリギリだわ」

「それは俺が出すから。カスタマイズは稲垣が決めて。残しておいてほしいパーツとかも指定しとかないと。・・・ああ、.45LC高速弾もついでに頼むか?」

「まいどーなのだー」

「ちょっと勝手に!」

「大事な銃なんだろ」

「それは・・・。でもいいのよ、片方は無事だし、もう1挺は適当に――」

これ以上何か文句を言われる前に頭を押さえることにした。そう物理的に、がしっと片手でアイアンクローをかましてやる。

「俺もお前も特に何の超能力も持ってないし、戦闘に有利になるような体質を持っているわけでもない。そうだろう?」

「いたいいたいいたい!?」

知らん。

「じゃあどうやって敵方の万国びっくり人間ショー常連スターみたいな連中と渡り合うかというと、簡単だ。道具に頼れ」

「例えばリボルバー。SAAにも色々あるけど.45LC弾の初速は一番速いものでも300m/s。音速には届いていない。目がいいやつは見て避けられる」

「そんな、人は、ふつう、いない――っ!」

「俺は避けたぞっと。で、一般的な9mmパラベラムFMJならM1.0を超えてる。オートマながら小口径高速弾のFN5-7(ファイブセブン)ならM1.8――このくらいになると見えても距離が近いと避けようがなくなってくる」

「ちなみにラプアマグナムならM2.6くらいだぞー」

平賀さんが話に乗っかってきた。流石、とっさによく出てくるものだ。

「いたいっての、はーなーせーっ!」

おっと、抜けられた。威嚇してるし。涙目でやってもかわいいだけだぞ。そしてホルスターが空でよかった。彼女が普段から撃ちまくるような性格はまだわからないが。

「だいたい、あなた銃を変えたら警戒するでしょう!?」

「おう。でもお前はクイックドロウが出来るんだから俺が見てないスキに銃を入れ替えておけば、抜くまでは手で隠しとけば何を撃ってくるかわからなかった。そして撃った弾の弾速が速ければ中る。空中では防壁になるものもないし、ファニングなら命中は更に確実になるだろう」

「ナイフとかはどうなの!?どうせ弾いたりするでしょう!」

「刃こぼれするだろ。それに逸らした弾がどこに行くか分からん」

理不尽だ、みたいな顔をするな。そんなにやってほしかったなら今度やろうか?自信ないけど。

「道具に妥協するな。SAAを普通に直したいというのなら別にいいけど、代わりの新しい二挺拳銃を用意するんだ」

「直さないという選択肢は?」

「新しい銃の代金を俺が出す」

稲垣が銃を壊した責任の半分以上は俺の責任だ。それに無理をさせて怪我させてしまった。

「・・・わかったわ。平賀さん、修理と改造をお願いします」

「あとやっぱりオートマも持っといた方がいい」

まだ口を出すのか、みたいな顔をされるがここは堪えるところだ。俺は彼女の戦兄となった。人を教え導くなんてことが俺に出来るとは思っていないが、やれることはやる義務がある。

「それは装弾数の問題?」

確かにそれもあるだろう。だけどリボルバーだって7連発の実用的なタイプがないわけじゃない。そして7連発といえば、あのピンクツインテール疫病娘の使ってるガバメントと同じだ。

「性能水準の問題だ。リボルバーは古い。単に骨董品ということじゃなくて、その設計思想、汎用性・・・効率化されてない」

銃はもちろん、あまねく兵器は進化する。SAAからガバメント、グロックと。より効率的に簡便に人を殺せるようにと。

「ある傭兵曰く、オートマチックは兵士の戦闘能力を平均化する。個人の性能を忠実に出し切るんだそうだ。そして現在の水準に達していない銃を選んだものから真っ先に死んでいく、と」

「無論おまえは傭兵じゃない。特に武偵法9条で定められた不殺は他人の生き血をすすって生きる連中との差を確固たるものにしてる。けれど」

「わたしたちの相手はそうじゃない」

そのとおり。

「銃を選ぼう」

 

彼女の銃を選ぶのにはけっこう難航したが、最終的にはシングルアクション機構の搭載とグリップ角度の点からXD-E4.5とP30Lのふたつに絞られた。シングルアクションに拘った理由は稲垣のファニングショット技能を生かすためだ。

「XD-Eは装弾数9発、P30Lは15発装填できるのだ!」

「重量は?」

「700グラムと780グラム」

「使用弾薬はどっちも9mmなのよね?」

「P30Lなら.40S&Wのモデルもあるのだ!」

「そっちはマガジン容量は13発か」

弾速はそれほど変わらない。だが弾頭重量は.40S&Wの方が重いものが多い。つまり一発のファイヤパワーは.40S&Wが勝る。

「どちらも20mmレールは装備している・・・と。だが長さはどうみてもP30Lだよなあ」

「ついでに言えばコンバットプルーフも30Lの方が充実しているのだ!」

「じゃあ30Lか」

XDシリーズはもともと法執行機関向けじゃないし、シングルアクションストライカー方式の銃に後から露出ハンマーをくっつけたものだ。構造的な信頼性もP30Lの方が上だろう。HKだし。

「待って、P30Lは高いわよ。HK製だし」

「「知ってる」」

「・・・」

「足りない分は俺が出すから」

「話が違うわよ!?」

「戦兄妹になったお祝い」

稲垣バニラは商売屋の高いものを買えというプレッシャーと、戦兄のXDなんぞ認めんというオーラを感じた。だがここで折れる稲垣ではない。XD-Eならギリギリ自分の予算で買えるのだ。彼女のプライドを守るためにもこれ以上余計に戦兄に借金をするわけにはいかなかった。

「え、XDはシングルカラムだから細くて持ちやすいし―――」

「「P30Lのバックストラップつけ替えよう」」

「削れる?」

「誰にモノ言ってるのだ!限りなくSAAに近い握り心地に仕上げてやるのだ!」

宣う平賀の手は銭の形。逆の手にうす茶色の束が置かれる。

「き、強度が落ちたり」

「いや、フレームを弄らなければ特に問題ないだろ?」

「なのだ!」

「・・・うん」

「決まりだな」

武偵稲垣バニラ、あえなく敗北。

もう一つ、SAA使いなので一応リボルバーも持っておこうということで馬鹿二人の意見がMP-412REXクローンとマテバで割れたが、最終的には二挺のSAAが改造されるまで中古のコルトパイソンをしばらく借用することになった。・・・死守したともいえる。

「もういっそリボルバーは使うなってと言われるかと思ってた」

平賀の元で二挺の銃と弾を受け取った二人は帰路につく。

「俺も使ってるから利点があることは知ってる」

使用弾薬は強力なものを使うことができるし、熟達した射手の手による回転式シングルアクションは瞬間的な連射能力でオートマチックを超える。稲垣のファニングショットは既にかなりの域だ。きっと使いこなすのにものすごく努力したのだろう。そういうのはわりと好きだ。

「銃に思い入れを持つなとは言わない。でも、それを理由に死ぬマヌケにはなるな」

「それも傭兵の言葉?」

「あーいや、俺の師匠の言葉だ」

「師匠・・・銃の?」

「銃と格闘、パルクール・・・のような何かを教わった。例の傭兵が師匠を兵士にして、師匠は俺を――」

人間にしてくれた。そう思っていたけど、俺は今人間だろうか。

「俺からも質問。戦兄妹の課題にはもっと簡単な回答があった。気が付いてたはずだ」

「何のことかしら」

「短機関銃。UZIとかは武偵にも所持が許されてる。蘭豹が俺を打ちのめしたとこ見てたんだろ?」

丁度、彼女に戦兄妹を要請された日のことだ。彼女は見ていたはずだ。銃弾を見て避けられるといっても限度がある。高速が過ぎれば体の反応が追い付かない。そして面で攻められれば体の移動先は著しく限定される。特に空中でやられれば運次第ではバイタルパートにいいものを貰うかもしれなかった。それを込みで言ったのだ、道具に頼れと。彼女の強装弾は紛れもなく俺を捉えたが、次に戦場で同じことをさせるわけにはいかない。メインアームを喪失、自分にもダメージが来るような無茶をやるのはあらゆる手を尽くしてからだ。だが、今回は答えが最初から分かっていた。

「今日は、ここで失礼します。ありがとうございました」

ちょうどそこに寮方面へのバスが来てしまった。俺はバイクを置いてきてしまったから乗るわけにはいかない。

「・・・はぐらかされたか」

 

 

 

アドシアード当日

パルクール競技は派手ではあるが鑑賞が非常に面倒な競技だ。なにせメガフロートの中を縦横無尽にかけるレースだ。だから観客はスタジアムのスクリーンでドローンからの中継を見ることになるらしい。例年はスタジアムがゴールになっていてそこに用意された様々な障害物を避けてゴールに両足を乗せる・・・という流れらしい。今年も観客はスタジアムに集められているが、ゴールは違う場所のようだった。

(ドローン・・・無人機、UAV)

直前のテストをしている機がカメラをこちらに向ける。不思議な気分だ、あいつらにはカメラジンバルなんか付いてなかったし今飛んでいるものは車両科と装備科の学生の完全マニュアル操作だというのに。ロックオンアラートの幻聴が聞こえてきそうだ。

今日はこいつらに見られてフロートの上を跳びまわるのか・・・落ち着かないだろうな。

「天羽蒼」

後ろから声がかかる。いつもどおりに。

「レキ」

ドラグノフを担いでいる。彼女も狙撃競技の選手だ。これから射撃レーンへの移動か。

「ドローンが気になりますか?」

「身が引き締まる」

「そうですか」

エントリーは済ませているのでやることがない。装備の確認でもしておくか。左右の手でそれぞれの銃を抜く。左手にはトーラス・レイジングブル。ラッチを操作してシリンダーに全弾装填されていることを確認。続いてTITASジガナ9mmオート、こちらも弾倉後部に追加した穴で全弾の装填を確認。安全装置を掛けてホルスターへ。

しかしジガナか。人には最新のモノを推薦しておいて俺は古臭い金属製フレームのオートを使っているというのもちょっと悪い気がしてくる。最もジガナ自体が古いわけじゃない。アルミ合金フレームとステンレススライドと露出ハンマーでアセンブルされているだけで製造は2000年代だ。それに、隣に異動してきたミント色の髪のスナイパーが持っているドラグノフは63年に開発されたものだったはずだ。まあ何度か改良はされているし、今彼女が背負っているソレは大分手が入れられていてセミオートマチックとは思えない精度を発揮している。本来のSVDはマークスマンライフルであり集弾率はボルトアクションライフルに一歩劣るはずなのだが、俺は彼女が外したところを見たことがない。

「白雪さんはどうなりましたか?」

「今はキンジが見てる」

「そうですか」

アドシアードの中でも戦術走破競技は珍しく銃を撃たない競技だ。装填状態で携行はするが射撃目標は現れないし、選手間での妨害行為も禁止されている。だから地味・・・というわけじゃないだろうけれどプログラムとしてはかなり早い方だ。だから出番はすぐに来るのだが。まだ少し暇だ。だから話相手というか、一緒にいる相手が向こうから来てくれたのはありがたい。

「戦兄妹、成立したみたいですね」

「ああ」

「危険では?」

「警戒はしてる」

「そうは見えません」

「はは」

彼女の指摘のとおり稲垣への警戒の度合いは高くなかった。ある程度情報は知られているみたいだし、戦闘能力的にもまだ脅威じゃない。そして今から俺について詮索されたとしてもう出て困る埃はないからだ。

レキの心配は自分に対して注意を払っている様子がないからこその現れだろうが、彼女に関しても今更と割り切っている自分がいる。稲垣とは丁度逆で、彼女が自分を監視しているからといってその目から逃れる術は無いし、それはSVDの弾丸にしても同様。そして1年と少しの間を色々な依頼と生活を近い距離で過ごしてきた経験がレキを敵として認識することを阻んでいた。この物静かな少女の技術を信頼し、行動を信用し、一緒にいる環境に理解を示してしまった。

稲垣という新しいエージェントはレキが俺を監視する上で邪魔で、俺にそれを排除させようとしている?

俺は上手いように騙され、絆されているのか?

知ったことではなかった。

 

 

 

そんな蒼を、レキの凪いだ目は捉え続けている。そして彼が自分や周囲の観察する目を気にしていないことも理解していた。自分の生活圏に武装した敵が侵入して至る所に付きまとい、時に銃口を向けられ時に偽りを吐かれることに慣れて疲れ果てていることも。

レキが蒼について知っていることは多くはない。

強襲科としては平均以上の戦闘能力を有し、だが奇妙な戦術を駆使していること。

代わりに航空機の操縦には尋常ではない腕を魅せ、しかし今は殆どコクピットに座ることがないこと。

慣れないバイクに乗り、ちょっと目を離すと命などいらないと思っているとしか考えられない走行をしようとすること。

日本語に苦労している様子はないがたまに油断したりした時には英語が漏れること。

レキ本人を含め複数の、恐らくは3から4つの組織が彼を監視していること。そのことを許容し、だけど苦悩していること。

――1年以上の間を共に過ごし、睡眠の場所すら共有することがある彼女だがそのプロフィール等について多くを知ることはなかった。あくまで受けた仕事は監視と報告であり、それ以上の詮索はしていない。事前に受け取っていた情報は今の天羽蒼という名前と、顔写真と、所有している武装の情報のみ。

調べたいとは思う。プロフィールを詳らかにするのではなく、本当は何が好きで何が嫌いなのか。どうしてこれほど綱渡りの状況に彼が置かれなければならないのか。無人機やドローンといったモノに対する反応から以前にそれに関する何かがあったのだろうとは思っていたが、だがバスジャックの一件で彼にそのことを聞く勇気は彼女にはもうなくなってしまった。

代わりに推論を立てた。

蒼はドローンに過剰な反応を示すが本人にその操作や製造の能力があるようには見えない。UAV攻撃の被害にあったのだろうか。彼の入学した2020年の前年はずっとエルジアとオーシアで戦争をしていて、エルジアは広範囲にUAVを用いた戦術を展開していた。ありえそうな話だ。彼がユージア地域やオーシアからの難民だとすれば。だが彼はUAVについて知り尽くしている。製造設計ではなく実戦レベルの対応戦術について。それをただの難民や歩兵が知っているとは思えない。ならばどういう形であの戦争に関わっていたかの答えは一つしかなかった。

本人に問うて確認を取るのは簡単だ。きっと蒼は隠すことなく答えるだろう。だがきっとあの冷たい目がレキを見る。僅かな時間でもそれは嫌だった。これ以上彼の負担になることも。

レキが彼の傍にいる理由はウルスの一族が受けた依頼のためだ。彼女が彼を見張るだけで一族は毎月どこからか少なくない活動資金を得る。その利益がレキの本来の目的、より強い血を引き入れるという一族存続にかかわる使命に一時だけ優先されるほどの額だから。その金は自分や、他の一族が各地で戦うための活動資金とより良い装備を得るために使用されている。だから一族全体の戦果はここ最近でかなり上昇していた。喜ばしいことだ。そのはずなのにレキは自分の取り分を使えずにいる。増え続ける口座の数字を憎んですらいた。なぜだかは分からない。

あおがもっと強ければいいのに、と。最近はそればかり考える。他の誰よりも。遠山キンジより強く。

そして次にはこう思うのだ。これ以上何を彼に望むというのか。もう奪うものは奪いつくされ、自分こそが中庭を荒らした盗賊たちの手先であるというのに。

 

「そろそろ時間だ。行ってくる」

「はい」

「レキもがんばって」

「はい・・・あなたも。天羽蒼」

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