The Armed Detective & Three Strikes   作:zwart

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武偵高に入学するような人間というのは大抵みなロクでもない連中だが、大別すると3種類だと思う。

ひとつは自分と他人の命の重さに疎いか、もしくは過敏であるかで人生を棒に振る決断をしてしまった哀れな中学生たち。

ひとつは人生のもっと以前から銃と生活を共にしてきて、武偵高への入学など全く記憶に残ることのない既定路線のひとつに数える者たち。

そして最後が、武偵高に辿り着くまでの間に既に社会の闇にどっぷり浸かって抜け出せなくなって、表向きの生活を取り繕うため仕方なく入学する連中だ。

ルームメイトのキンジなどに言わせれば二つ目と三つ目は一緒で、纏めて『前からさん』なんて呼んで警戒なり利用なりするのだろうが、俺に言わせれば両者は全く違うものだ。

そんな実感を持つのも俺が運よく入試に潜り込めた不法入国者で、今の名前と身分証明は入学の際に纏めて用意したものだったりするからだ。

武偵になろうと思ってここに来たわけじゃないのだが。丁度素人がバカスカ弾を撃っている現場に出くわしたので9mmをこっそり調達しようと思ったらヘマをして、それから色々あってここに通うことになっただけだ。武偵なんてアマチュアの集団だと思って油断したのが間違いだった。少なくともこの東京武偵高には俺より強いやつなんていくらでもいるし、師匠に迫りそうな実力者も数えられるほどいる。

まあ、暫くは地上での生活だ。この期間に自分の土の上での戦闘能力を見直すいい機会だと思っておくことにした。マリアさんやミノさんに日本語を教えてもらっといてよかった。あとは鉢合わせにだけ注意すればいい。

ここ武偵高では帯銃、帯剣が義務とされている。義務というのはなかなか新鮮だ。444はもちろん基地内部だって銃は普段から持ち歩くものじゃなかった。緊急脱出した時のために戦闘機の中にはサバイバルキットと一緒に入れておいたが、それだって結局使う機会は最後までなかった。

面白いものだ。かの女王陛下はその足で戦場を歩いていたし、あのミハイの孫娘は拳銃を撃ったと聞いたが俺の方はパラベラムの一発だって撃つ機会はなかった。代わりにもっと大きく値の張る弾を使って山ほど人を殺してきた自覚はある。だが身体のすぐ横を弾丸が飛び交う感覚をあの戦争では感じることはなかった。

―――あ、あった。マッキンゼイの野郎が癇癪を起して拳銃を乱射したことがあった。無論中ってやることはありえなかったが。

(物理的に一番俺の命に近いところを通った弾は、よりによってあのジャガイモの鉛弾か)

「どうした」

「いや」

クスリと笑ったのを見とがめたキンジが振り返る。コイツも俺より強い。入学していきなり強襲科Sランクの判定を受けた。俺はまだBランク。まだまだ上がいることを目の前で教えてくれるいい教材だ。ちょっと義理に固すぎるフシがあるから余計なものを背負い込みすぎないかと心配になることもあるが、きっといい友人関係を築くことができそうだ。日本語を思い出している最中でまだ口数の少ない俺を奇異に思わず会話に付き合ってくれる得難い人間だ。ルームメイトということを抜きにしても大事に関係を築いていくべきだろう。

「銃持った?」

「おう」

キンジはベレッタ92Fと素材不明の紅いバタフライナイフ。俺はジガナ63SLBを防弾制服の懐に忍ばせて登校だ。

学校生活か。今更になって普通の教育を受けることになるとは思わなかった。それも世界でも稀に見る平和な国の首都で高校生。

師匠も驚くだろうが、カウントやフーシェンあたりに見られたら大爆笑ものだろうな。

武偵高の寮から本校舎へはバスで通う。この国の公共交通機関は人間をダンボール箱か何かだと思っているかのようにつめて乗せる。けれど皆文句も言わずに行儀よく乗っているので車内は意外と静かだ。

そしてこの時間は俺にとってけっこう貴重だったりする。車窓に流れる景色にはこの国の人々の生活があり、車内で聞こえる話し声や人の仕草には武偵高の生徒の日常がつまっている。それらを吸収し、ほどよく自分に取り込んでいくことで俺は元オーシア空軍パイロットのアルマ・クレイマンから日本の少しばかり命知らずな高校生の天羽蒼に切り替えていく。そのためのスイッチというか、儀式というか。とにかく昼間の日常に溶け込むために重要だった。

時間をかけて自分の意識を天羽蒼に切り替え終わったころにバスは武偵高に到着する。息の詰まるすし詰め状態から解放されると、広大なメガフロートを贅沢に利用した校舎群が目に入る。

強襲学部、諜報学部、通信学部、兵站学部、衛生学部・・・。他にもいくつかの学部があるが、それら全て学生が実戦レベルの教師に技術を教わる。

俺は強襲学部の強襲学科だ。兵站学部の車両科に航空機を扱うカリキュラムがあったので悩みどころだったが、見学したところあまり面白みを感じなかった。飛行に関して学ぶべきことなどなかったと言ってもいい。

強襲科は卒業時の生存率97.1%。『明日なき学科』だ。戦場から離れて尚技術と戦術眼を維持し鍛えていこうと思うなら他に選択肢はなかった。

「よーし1年ども、薬莢拾え!」

「「「了解」」」

「声が小さいぞタマついてんのかぁ!?」

「「「了解!!」」」

「よーうし、かかれ!」

蘭豹の号令一下、強襲科一年生はシューティングレンジやガンカタ練習用のスパーリングルームに入り雑多な弾の薬莢を拾い集める。9mmから.44マグナムまで様々で、しかも弾薬の購入は兵站学部の学生がそれぞれやっているのでメーカーも異なる。これらの集めたものは大体は口径別に分けられて装備科に戻され、リロード弾として格安で売り出されるらしい。危なくて実戦に出せるとは思えないが練習用には安くて丁度いいだろう。熱心な生徒だとシューティングレンジで日に200発以上撃つこともあるらしい。

(―――あ、こりゃダメだな)

たまに変な薬莢を見つけることもある。鉄製の薬莢だ。無駄に重いしエキストラクターに引っかかるしでいいことのない弾だが、どうやら上の学年に好き好んでこんなものを撃つやつがいるらしい。

1年はとりあえず基礎を学んでからは、強襲科の各種施設を使うことができる。まあ出来るといっても上の学年が使い終わってからなのだが、これはこれで有用だ。特に3年間も強襲科で生き残っている生徒たちはなかなか見ていて面白いし、勉強になる。練習を見ながら、どうやったら彼等を無力化できるかを頭の中でイメージしたりするのだ。

(お、この三年生けっこう強い)

「よう一年、参考になったか?」

「はい!勉強させていただきました!」

「そうか。結構なことだけど、お前靴鳴らそうとするクセは直した方がいいぞ。敬礼してなくても元軍属だったのが丸わかりだから」

「ご指導ありがとうございます!」

(やっべえ、マジかよ。この人後ろ向いたままだぞ)

たまにこんな隠れた猛者もいる。

戦争の戦場しか知らなかった俺はまさに井の中の蛙だった。

 

 

俺の生活に異変が発生したのは入学から一ヶ月と少しが経ったころだった。

昔に師匠と日本に来たことがあったおかげでかなりスムーズに日本語を覚えることができた俺は、そろそろキンジ以外にも会話の輪を広げていた。武藤という同学年で車輌科の男子とは最近特によく話す。それは各国軍の採用している車輌の話だったり民間で売られていながらに武偵の活動に大いに役に立つ乗り物の話だったり、彼の知識は豊富で話題には事欠かなかった。最近ではこのノースポイントの界隈で新しく発売されたSSバイク(スーパースポーツといって加速性、旋回性、最高速度を追求したレーシングマシンクラスのポテンシャルを誇る大型バイクを指す)が世界記録になりそうだ、なんて話を聞いた。

やはり性能の極限を結晶化したモノは何であれ心を動かしてやまない。

だが異変というのは新しい友人のことではない。

この国に特徴的な大雨の降る、梅雨というらしい季節に入った頃。

一般教科の授業を終え頭がクタクタになって、もう今日は依頼を受けずに帰ろうと思って下駄箱に下りたときだった。

(靴は下で内履きは上、と。―――ん?)

校舎の外からこちらを見ている視線を見つけた。苗字名前共に日本語の名前なのに、微妙に外人ぽい見た目で喋るのに時折苦労する俺を奇異な目で見る連中は一定数いたが、それとは違うものを感じた。まず最初に考えたのは敵。追っ手。殺し屋か情報部エージェント。とにかく色のない冷たい視線だった。

周りに自分が警戒状態に入ったことを気付かれないように、できるだけ自然に意識を切り替えた。銃の位置を確認して体の状態を整える。俺は今、闘える。必要ならば殺せる。

(誰だ・・・)

視線の主を見つけるのは簡単だった。なんと大雨のなか傘も差さず、棒立ちで視線だけをこちらに投げていたのだ。通り過ぎるほかの生徒も当然気が付いていて、何か陰口を言いながら避けて通っていく。その有名人は俺も知っていた。一年生ながら学内トップクラスの実力をかわれて狙撃科に推薦入学したスナイパー、レキ。小柄で顔立ちも整った少女だが常に無表情で口数も少なく、ただ隔絶した実力だけを発揮し続ける彼女はやっかまれ、爪弾きにされるのは必然だった。そして、ほんの数日で周囲から人が完全に遠ざかってなお一切の変調を示さないことから渾名が付けられ、口さがない連中が所かまわずふれ回るようになった。

「おい見ろロボレキだ」

「なんだあいつ棒立ちで、とうとう故障したか?」

「バカ聞こえてるって。お前明日頭吹き飛んでるかもよ?」

「そりゃねえわ。あのポンコツ俺らが何言おうがキレやしねーし」

「じゃあオマエ明日靴に画鋲入れとけ」

「はあ!?なんで俺が」

「実験だよ実験。それでお前が無事かどうかってな」

「俺、お前が死ぬのに賭けるわ」

「チッ、負けたら学食のメニュー奢れよ」

「やんのかよ、勇者だなオマエ!」

「俺様スペサルだからなっ」

「ていうか何見てんだアイツ」

「うわマジか、アイツだ。アオカビだぜ」

「あー、なるほど。完全に理解したわオレ」

「なになに、どゆこと?」

「ロボットレキ様はこれからカビ太郎の掃除をしてくれるんだぜ」

「ばっかおめーそれじゃアレじゃねえか。あれなんだっけルン・・・ルン・・・?」

「キモいからルンルン言うな」

「なあ、掃除ってどうやるんだよ」

「そりゃおめー、口じゃね?」

げらげら、げらげら。

通行人の頭の痛くなる会話はさておき、レキが俺を観察しているのは確かなようだった。靴を履き替え、傘入れから自分のものを探している間も視線が外される様子はない。瞬きする様子もない。そして彼女が用いることで有名なドラグノフを肩にかけているそのスリングには右手が常時触れていた。彼女に俺を掃除する意思があるのかどうかは知らないが、即座に射撃姿勢に移行できるようにしているのは確かなようだ。傘をさしていないのもライフルを素早く構えるのに邪魔だからだろう。

(しかしポンチョはなかったのか?)

あまり同僚とは認めたくない一団がだらだらとしながらも移動してようやく校門の向こうに消える。このあたりには俺とレキしかいなくなった。

「レキ・・・だったよね。何のつもりかナ」

「英語で構いません」

あっそう。ならお言葉に甘えて。

What's up with?(俺に何か?)

I came to recomend you surrender.(あなたに降伏を推奨しに来ました)

Surrender?(降伏?)

Yes. Surrender without useless resistance.(はい。無駄な抵抗をせず降伏してください。)

Hmm... To whom?(それは・・・誰に?)

To me.(私にです。)

俺、この娘になんかしたっけ。陰口のネタに巻き込まれて怒っているのか?それにしては殺気がちょっと本気というか。そんな理由だったら俺以上に日本の環境に馴染めてないが。

What’s you want by my surrending?(降伏して、俺にどうしろっていうんだ)

Follow me. To my room.(私の部屋についてきてもらいます)

「WHAT?」

意味わかんないんだけどこの子。俺は逆ナンでもされてるっていうのか?殺気向けながら告白するのが最近の日本人のトレンドなのかってコイツどう見ても日本人じゃないわ。地毛っぽいけど緑の髪ってどうなってるんだ?

(あ、やばい。こいつ背中のドラグノフ使う気だ)

意味は分からないがこのままだと血を見そうだ。いくら学年一位のスナイパーだろうとこの距離なら撃たれる前にいくらでも対処できるだろうが、こんな往来でこの華奢な娘を伸したら流石にやばいだろう。頭の悪い暴言を言われるのはどうでもいいけど、それに反論する余地のない本物のクズになるのはいただけない。そして女子寮に入ったりしてわざわざ新しい悪口のネタを提供したくもない。

Oh…well. How about my room?(あー、俺の部屋じゃだめ?)

…That’s fine.(・・・それで構いません)

(あ、いいんだ)

ぜんぜん意味が分からんけど、とりあえず。今ここでの殺し合いは回避できたらしい。

「じゃあ、行きますカ」

「はい」

というか、この娘いくらなんでもびしょ濡れだ。とりあえず傘をさして彼女の上にやるがこのままだと風邪をひくぞコイツ。

「着替えは持ってますカ?」

There is no need.(必要ありません)

そう言うのなら仕方ない。キンジは怒るかもしれないが、俺たちの部屋でシャワーでも貸してやるか。服は・・・もう洗って乾燥機に掛けるのが無難そうだ。その間は俺のを貸すしかない。

とりあえず、わかったことが一つある。このレキという同級生がロボットかどうかはさておいて、ドのつく天然電波で常識と生活能力をどこかに忘れ去ってしまっている欠陥人間だということだ。

 

 

「おい勘弁しろよアオ。連れ込みか?」

なんか今日は帰ってくるのが遅かった同居人が同級生の少女、それもずぶ濡れの小柄な子を部屋に上げようとしていたとき、俺はいったいどうすればいいんだ。教えてくれ兄さん。

≪同居人のロリコンを疑えばいいんじゃないか?≫

それはあんまり考えたくないよ俺の中の兄さん。

「チがう。いやちがわないのカ?」

「・・・確か狙撃科のレキだったよな。アオとはどういう関係だ?」

「彼は私に降伏しました」

「それでなんで俺らの部屋に上がろうとしている?」

「私の部屋の代わりです」

だめだ口下手が二人そろって日本語が交通渋滞を起こしてやがる。兄さん助けてくれ。いややっぱいいや。優秀な兄ではあるが今回は役に立たない気がする。

とりあえず二枚ほどタオルを用意した後頭を抱えて対応に困っていると、アオがちっこい濡れネズミを指さしてとりあえずシャワーだけでも貸してやれないかと言ってきたので仕方なく奥へ通すことにした。風邪ひかれたら目覚め悪いし。それにさっさと視界からレキを外してしまわないと透けた下着とかでヒスってしまいそうだった。万が一この同居人が連れてきた恋人候補とかだった場合気分が悪すぎるし、俺はまだロリコンにはなりたくない。

「彼から目を離すわけにはいきません」

「だってよ。もう一緒に入ったらいいんじゃないか?」

よく見ればレキほどじゃないがアオもそれなりに濡れていた。なんか本人は気付いてなさそうだが。この同居人悪い奴じゃないんだが日本語に苦労してる点を度外視してもなお隠し切れない天然バカな気がするし。

「シかたない」

全く顔色を変えずに決断してしまえるコイツは果たしてものすごいプレイボーイなのか、それともやはり天然なのか。

「レキ、シャンプーハットは必要ないカ?」

「必要ありません」

「そっか。エらいな」

恐らくは後者だ。




ところでカナンの知名度ってどんなもんなんでしょう。
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